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荷物持ちイジス(1)

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 俺は今、ダンジョンを信頼できる屈強な仲間と攻略している途中だ。
 そう、ダンジョン。

 全ての冒険者が生活の糧を得るために、その命を危険に晒して攻略している謎の空間。

 その空間は不思議な空間で、閉鎖空間であるにもかかわらず空が存在したり、階層毎に天候が大きく変動したりしている。

 道中には襲い来る魔物や罠と共に、宝箱が存在する。
 もちろんその宝箱自体が魔物であったり、罠であったりする事もあるので、注意が必要だ。

 今俺がいるダンジョンはそこまで危険度は高くないが、これは既にある程度の罠や攻略手順が、先人によって記録・公開されているからだ。

 そうなると、当然ダンジョンに侵入する冒険者は激減する。
 宝箱の中身は更新されるのだが、余りにも更新頻度が高いと価値のある物が出なくなる。

 更には魔物のレベルも下がるので、良い素材を入手できる可能性も減るのが一般的だ。

 ではなぜそんな場所を進んでいるかと言うと……
 更なる下層を目指しているからだ。

 誰も攻略した事の無い未知の階層を。

 未踏の地であるが故に危険度は大幅に上昇するのだが、俺は、それほど心配していない。
 その理由はこのパーティーメンバーにある。

 俺、荷物持ち兼雑用のイジス……は悲しいが置いておこう。

 実はメインパーティーである四人の内の一人は、何と魔王と言うこの世界の覇者を駆逐したパーティーの内の一人だからだ。

 この世界において、素晴らしい力を持つ者達はその力によってこう呼ばれる。

 全てに秀でており、一撃必殺の力を使える者を<勇者>。
 あらゆる魔法に精通し、冷静に行動を行える者を<賢者>。
 防壁や回復魔法に精通し、アンテッド死人に対しても強力な攻撃を行える聖なる力を扱える者を<聖女>。
 あらゆる物理攻撃に精通し、逆境を跳ねのける者を<拳者>。
 存在を隠蔽し、情報収取や気配察知、暗殺などの特殊な能力を持つ者を<闇者>。

 今共に行動しているのは残念ながらそのどれにも当てはまらない、<拳者>の弟子であるロイエスがリーダーのパーティーだが、実力は本物だ。

 彼は、数あるパーティーの中でも魔王を撃破した勇者パーティーに所属していた<拳者>ホノカの弟子として、魔王討伐の旅に同行していた程の実力者だ。

 このロイエス、未踏の階層踏破を実績に<拳者>の称号を得られる予定だとは聞いているので、気合が違う。

 事実この未踏の階層に来てからは、彼は無双している。

 <拳者>を目指すだけあって立派な体格をしており、茶色の短髪も何となくその攻撃性を現しているように見えなくもない。

 敵の魔物が魔法で攻撃してこようが巧みに避けるか、時には拳の力で相殺して見せるのだ。

 そんな若干暴走気味のロイエスをたしなめているのは、同じパーティーメンバーである残りの三人。

 一人目は<賢者>を目指しているバウサー。
 魔法を使う雰囲気そのままに、話し方も冷静に聞こえる。

 その黒目は、物事を全て見透かしているかのように見えなくもない。

「おいおいロイエス、ちょっと飛ばし過ぎですよ?気合が入るのは分かりますが、少し落ち着きましょう」

 二人目は<闇者>を目指しているロペス。きれいな言葉や態度とは裏腹に、暗殺も得意としている恐ろしい女性だ。

 彼女もロペス同様、黒目と漆黒と言ってもよさそうな程の奇麗な黒髪を揺らしている。

「そうですよ。まだまだこの階層踏破には時間がかかりそうですから、最初から飛ばしていたら最後まで持ちませんよ」

 三人目は、<聖女>を目指しているのだが非常に寡黙なバミア。
 白い外套を羽織っている所は聖女らしく、非情に小柄な金目・金髪の女性。

「賛同する」

 そして、暴走気味のロイエス。
 
「わりーわりー、師匠に少しでも追い着けると思うと気合が入っちまってな」

 最後に荷物持ちの俺……一応ロイエスと同じく長身ではあるが、あれ程ゴツイ体格をしている訳でもなく、普通の男。

 何処にでもいる茶色の目に黒髪で、ぱっと見あまりに普通過ぎて埋もれてしまう、俺、イジスの合計五人のパーティーだ。

 今の所は未踏破階層の一層目を攻略中の為か、全員に余裕がある。

 今回の目標は最低でも未踏破階層五層の攻略を目指しており、同時にこれが<拳者>の称号を得るための条件なのだそうだ。

 どこのダンジョンの未踏破階層攻略でも良いのだが、未踏破階層に比較的楽に辿り着けるこのダンジョンをロイエスが選んだところなどは、強かさも持っていると判断できる。

 当然未踏破の階層、つまり、階層が深くなるにつれて空間も巨大になり、移動距離も長くなる。
 そして罠や魔物も桁違いに多くなるので、攻略難易度は高くなる。

 何の戦闘にも参加していない、いや、実力的に参加できない俺は、第三者視点である為か、徐々にこのパーティーが押し込まれている現実を把握できてしまうのだ。
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