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閑話No10(2)

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「おい、このウスノロ、本当に使えね~な」
「こいつの話し方も、なんだか癪に障るんだよな」
「早く素材を集めて来い」
「わかりました~」

「その話し方が腹立つって言ってんだろうが!」

 バキ……

 容赦なく殴られる少女。

 魔力レベル2で身体強化を行っているのでダメージはなさそうに見えるが、この冒険者の魔力レベルは4。

 もちろん身体強化を行った上で殴っているので、かなりのダメージがある。

 飛ばされた場所で痛みに耐えながらも、何とか立ち上がり指示されたとおりに、冒険者パーティーが倒した魔獣の素材を必死で集める。

 これがこの少女の新しい日常。

 当然食事など有る訳はなく、碌に睡眠もとれない。

 食事は、魔獣の素材を収集する際にこっそりとその肉を拾っている。

 冒険者達もその程度は分かっているが、餓死されても困るので何も言わない。

 だが、少女が火を使える訳でもないので、生のまま食べる事になる。

 もちろん味は最悪で、食感もひどいものだが、少女は生きるために魔獣を拾う。

 そんな少女を見て、冒険者は大声で指示を出す。

「おい、グズ!俺達は宿に戻っているから、その素材を換金して宿まで持ってこい」
「わかりました~」

「チッ、むかつく話し方だ!」

 そう言い残して、安全とは言えないこの場所からさっさと撤収する冒険者達。

 これも少女の日常。

 こんな日が続けば、魔獣に襲われる時もある。

 その時に必死で戦闘した結果、体には少なくない傷がついている。

 唯一良かった事は、ホルダの所にいた時に魔獣の討伐経験があった事だ。

 そのため、初めて牙を剥く魔獣と対峙しても足が竦むような事は無かった。

 しかし、魔獣に襲われたと言う過酷な理由があったとしても、素材の換金が遅れると更に冒険者に痛めつけられるのだ。

 運良く今日は魔獣が来る事なく、ギルドで換金したお金を宿に持って行く。

 既に冒険者達は酒を手においしそうな食事を食べていた。

 無意識にゴクリと唾を飲むが、余計な事を口に出す事は無い。

 何かを言おうものなら、返ってくるのは暴力だと分かっているからだ。

「換金してきました~」
「さっさと渡せ、ウスノロ」

 ひったくるようにお金の入った袋を奪い、中身を確認する冒険者。

 一応彼らも熟練の域に達しているので、素材の金額は把握している。

 少女は人の物を取るような事は決してしないのだが、冒険者としては少女に対する扱いが悪いのは自覚している。

 反省も改善もするつもりはないが……

 その為に報酬を少し懐に入れ、食事でも買おうとしているのではないかと疑っていたのだ。

「大丈夫だ、問題ない。良し、お前の今日の仕事は終わりだ。帰って良いぞ」
「そうそう、お前がいると匂うんだよ」
「飯がまずくなるしな」

 暴言と共に部屋から追い出される少女はトボトボ宿の外に行き、裏にある納屋で横になる。

 ここが少女の寝床。

 水浴びすらできず、食事も勝手に必死で集めている生の魔獣の肉。

 極めつけは、素材集めの時の極限の緊張。

 冒険者がさっさといなくなるので、魔獣に対する警戒をしつつ素早く素材を集めなくてはならないのだ。

 どんどん心が冷えていく少女。

 そして運命の日は訪れた。

「よう、そろそろ移動しないか?」
「それも良いな。ここの飯も飽きたしな」
「じゃあ、前から言っていたハンネル王国にでも向かうか?」

 冒険者は町や村、そして地域に根を下ろすタイプと、移動を繰り返すタイプが存在するが、この冒険者パーティーは後者だった。

「最近あそこは冒険者の質が良いらしぞ」
「ブハハ、冒険者の質ってなんだよ?」
「俺も聞いた事がある。なんでも冒険者上がりのギルド職員、なんだっけ?副ギルドマスター補佐心得とか言う不思議な役職の奴が就任してから、依頼達成率が上がっているらしい」

 こうして一行は、一路ハンネル王国を目指す事にして行動する。

 道中は馬車が主な移動手段だが、もちろん少女は歩き。いや、走り。

 少女は必死で馬車を追う。

 主人である冒険者から離れてしまうと、奴隷の首輪によって苦しい思いをするからだ。

 日中は必死で走り、食事は夜に自分で食べられる草を探す。

 だが、行動範囲は冒険者からそう遠くへはいけないので、日に日に体力は削られて行く。

 水も同じだ。

 馬車に乗っている他の人、御者すら少女の事は一切気にしない。

 この辺りの奴隷の扱いなどこんなものだ。

 フラフラになりながらようやくハンネル王国の近くまで来た時、冒険者達は馬車から出てきた。歩く事にしたようだ。

「おい、ここからは歩いていく。どんな魔獣がいるのか調査しながら王国に向かう」
「大した距離じゃないから遅れんなよ!」
「遅れたら置いていくからな」

 今まで散々馬車に乗って寛いでいただけの冒険者が、少女に惨い言葉を投げつける。

「わかりました~」

 少女は何とか返事を返すが、もう立っているのも不思議なくらいだ。

 冒険者としては、王国内に入って拠点を決めてから更に戻って近辺の魔獣の調査を行うよりも、入国経路のこの森で調査を行う方が効率的だと考えたのだ。

 この部分だけ見れば流石は熟練の冒険者だ。
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