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ナンバーズVS悪魔(1)

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「良いぞ。魔力レベル一桁の分際で、我らに立ち向かおうとする虫けら。何の糧にもならんが、踏みつぶしてやろう」

 悪魔は一歩踏み出す。

 冒険者は自らの命が無くなる事を悟りつつも、引く事はしないが、頭の中では、自分達の家族、恋人、恩人、友人、そしてなぜか以前ギルドに勤務していたジトロ副ギルドマスター補佐心得の顔が浮かんでいた。

 ギルドの上級職員らしくない、現場第一主義のジトロ。

 身分を一切気にせずに、いや、むしろ下の者程気にかけてくれていたジトロ。

 ドストラ・アーデの冒険者に対する無茶振りに対して、身を挺して庇ってくれたジトロ。

 辛くも、嬉しかったその瞬間を、走馬灯のように思い出していた。

 そんな冒険者達の目の前には、拳を振りかぶった悪魔が見える。

 この拳……避ける事も、受け流す事も出来ないと理解している冒険者は、せめて傷を付けられればと言う思いで、全力で身体強化に魔力を移行して攻撃する。

……キィーン……

 その音と共に、全力の斬撃が悪魔を襲ったのだが、悪魔に傷をつける事は無く、ただ冒険者の武器である剣が折れただけだった。

「無駄なあがきだな。しょせんその程度の魔力レベルで悪魔に対峙しようとする事が間違いだ」

 振りかぶった拳を、その冒険者に振り下ろそうとした所、

「早く逃げろ!!」

 なんと、形振り構わずにギルドマスターであるイルスタが、その右腕を全身で抑えにかかっていたのだ。

「人族が必死になる様、これほど滑稽だとは思わなかったぞ。面倒くさくなってきた。一人一人潰してやろうと思ったが、一気に全員潰すとしよう」

 抑えられている右腕を軽く振ると、イルスタはいとも簡単に吹き飛ばされる。

 悪魔は、その魔力を身体強化から魔力強化に移行し始める。

 つまり、魔術で一気にこの周辺を焦土にする作戦に出たのだ。

 本来、この隙に全力で攻撃をすれば、悪魔は魔力による身体強化を解除しているので多少の傷を負わせる事は可能なはずなのだが、基本魔力レベルに差がありすぎる事、残りの冒険者達が恐怖で動けない事から、誰も悪魔に攻撃する事が出来なかった。

「や……止めやがれ……」

 吹き飛ばされたイルスタは、必死で這いずりながら悪魔に向かう。

 その姿をゴミでも見るような目で見た悪魔は、頭上に巨大な炎を出現させて、その腕を振り下ろした。

 この場にいた意識の有る冒険者、そしてイルスタも、最早助からないと思い目を瞑る。

 この大きさの魔術であればこの周辺だけではなく、スミルカの町全体に被害が及ぶ力があると理解したからだ。

「ぐ、なんだ貴様らは!」

 だが、何時まで経っても何も起こらないばかりか、悪魔の苦痛の声まで聞こえてくる。

 恐る恐る目を開けると、振り下ろそうとしていた悪魔の腕は切り落とされ、炎の魔術は消滅していた。

 その後に視界に入ったのは、不思議な覆面を付けた二人組の女性。

「あの悪魔は、私達アンノウンが片付けます。よろしいですね?」

 いつのも間延びした話し方を変えているNo.10ツェーンが、イルスタにそう告げる。

 突然話しかけられたイルスタだが、この町を守ってくれると言っているので頷いている。

「くっ、突然現れて何を言い出すのかと思えば。不意打ちで腕を切ったくらいで偉そうな口をきくな!」

 その叫びと共に、悪魔の腕は根元から急激に生えて完全に元に戻った。

「フフ、これで腕は元通りだ。今度は、不意打ちは通じんぞ。俺の腕を切り落とした罪、その命で償え。だがな、そう簡単には殺してやらん。甚振りつくしてやるから、楽しみにするんだな」

 と言いつつ、魔力レベル89の魔力を身体強化に全力で移動する悪魔。

 実はスミルカの町の冒険者と対峙していた時は、魔力をほとんど使っていなかった悪魔。

 だが、今は魔力レベル89の魔力を全力で行使している。

 その姿を見て意識の有った冒険者は泡を吹いて気絶し、ギルドマスターのイルスタもガタガタ震えているが、必死で正気を保とうとしている。

 しかし、違った意味で正気を保つ事が難しくなってきた。

 その原因は、この場に現れたアンノウンの二人の会話だ。

 あれほどの魔力を見せられて一切動じないアンノウンの二人に驚いたのだが、その会話に更に驚き、正気を保つのが難しくなったのだ。

「あら、なかなかの魔力ではないですか。でも、私達二人で相手にする程ではありませんね。そうだ、良い事を思いつきました。貴方にどちらに相手をして欲しいか選ばせてあげましょう。大サービスです。良いですか、私を選べば、“炸裂玉”で一気に死ねますよ。ですが、こちら、No.3ドライを選んでしまうと、長い地獄が待っているでしょう。さぁ、どちらが良いですか?」
「おい、No.10ツェーン、やり口が汚いぞ、お前。それじゃあ、お前を選べと言っているようなものだろうが。おい、悪魔!私もサービスしてやる。そうだな……五分程度は生かしておいてやる」

 どちらを選んでも、結局死亡する未来は変わらないと言う不思議な提案を受けた悪魔も、この隙に一旦身体強化を解除して、鑑定を行った。

 体を覆っている力が一気になくなるので、鑑定を行っているであろう事は丸わかりの荒い術の行使ではあったが、アンノウンの二人は一切気にしない。

 その結果、悪魔はこの二人が言っているふざけた提案は、本心からのものだと理解できてしまった。

 そう、アンノウンの二人の魔力レベルが高いので、鑑定できなかったからだ。

 魔王以外で鑑定できないような状況に陥ったのは初めての悪魔だが、聖剣がある以上必ず復活し、今までも復活し続けていた事から逃走と言う選択肢はない。

 むしろ魔力レベルの高い者と戦闘をする事で、自らの魔力レベルが上昇する期待感すらあったのだ。

「む、早くしてくださいよ。私は、お待ちかねしているんですから!!」

 普段とは異なる話し方のせいか、意味は分かるが色々おかしくなってきたNo.10ツェーン

 悪魔はその間に熟考する。

 その結果、初戦はNo.10ツェーンを選択する事にした。

 今までの話しぶりから、No.10ツェーンは“炸裂玉”と言う魔道具を使って戦闘するタイプと判断した。

 その魔道具起動時に、転移で距離を保てば被害に遭わない。

 当然魔道具を起動している術者であるNo.10ツェーンは、魔道具による被害を受けないようにするために身体強化か、魔力強化による防御を行っているはず。

 No.10ツェーンが身体強化を行っている場合は、悪魔自身は転移を行うために、魔力を魔力強化に移行しているので、連続して魔術が行使できる状態にある。

 つまり、No.10ツェーンに防御する術がない。

 逆に魔力強化を行っている場合には、あれほど自信満々の魔道具であるが故、術者に近い位置で起動させる事ができれば、魔力を防御に全振りする他ないと考えた。

 その場合は、周囲への警戒が疎かになるので、自らは再度転移して物理的な毒を使用した攻撃を食らわせようと考えていたのだ。

 そこでNo.10ツェーンを倒す事によって魔力レベルが上がった後に、No.3ドライと戦闘する作戦としたのだ。
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