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VS悪魔(1)

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 この一帯にいる存在の中で、唯一実際の聖剣を見た事のある悪魔。

 もちろん魔王が創った時にも直にその姿を見ているし、その効果を聞かされて、聖剣所有者と戦った時にも間近にその姿を見ている。

 その為に今フォトリが持っている聖剣に対して、かなりの違和感があるのだ。

「なんだ、アレは?確かに見た目は魔王様が創られた聖剣だが……」
「むっ、その通りだな。何故あれほど無駄・・に輝いているのだ?」
「それに何の力も感じないが。あの所有者自体の魔力レベルも10のままだぞ」

 実際に聖剣所有者となってその力を開放すると、魔力レベルは跳ね上がる。

 その機能と共に、悪魔と刃を交えるたびに上昇するおまけつき。

 これは、悪魔の力と同レベルの魔力レベルまでの存在になれるように、工夫されているおかげだ。

 魔力レベルを一気に上げすぎると魔力回路の破壊がある可能性があるので、その辺りも考慮されて設計した、魔王渾身の力作なのだ。

 しかし、見かけだけは以前よりも無駄に立派になっているが、その力のかけらさえ感じる事ができなくなっている聖剣を見て、困惑する悪魔。

 その姿を、怯えていると勘違いしたフォトリと遠巻きに観察しているバリッジの暗部は、勝利を確信する。
 
「おい、あの状態のあの女を始末したとして、我らの魔力レベルは90になるのか?」
「やってみなくてはわからんが、恐らく厳しいのかもしれないな」
「だが、既に賽は投げられた。多少の誤差はあるかもしれないが、問題ないだろう。それに、不足分は遠巻きにこちらを伺っている魔力レベル40の五人で良いのではないか?レベルは変わらないかもしれないが、止むを得ないだろう」

 結局、この場での戦闘を避ける事はせずに衝突する事になった悪魔と聖剣所持者。

「私は悪魔を初めて見ましたね。ですが、伝承によればあなた達はこの聖剣に見覚えがあるはずです。今代聖剣所持者である近衛騎士フォトリ、あなた達を始末しに来ました。覚悟して頂きましょう」

 威勢よく聖剣を掲げて悪魔に突っかかるフォトリ。

「何があるかわからんからな、とりあえず俺があいつの相手をしよう。お前らはこちらを観察している連中に注意を向けれくれ」

 一体の悪魔が、フォトリに向かって数歩前進する。

「あなたが私の相手ですか?何なら全員を相手にしても良いのですよ?」
「いや、魔力レベル10程度の雑魚であれば、私一人で充分だ」

 ピクリとフォトリの眉が動く。

「成程、あなたは真実を知らないようですね。あなた方悪魔は、魔力レベル8の聖剣所有者にも敗北しているはず。そして私は人族最強魔力レベル10。貴方の敵ではありません」
「それは知っているぞ。だが、その時の所有者は聖剣との相性が格段に良くてな。あの所有者は、かなり心に闇・・・があったに違いない」

 フォトリは何を言われているかが分からなかった。

 もちろん、観察をしているバリッジ暗部も、だ。

「何を言っているのですか?何故聖剣との相性に闇の心が必要なのですか?普通であれば慈愛や正義の心でしょう!討伐される恐怖でおかしくなりましたか?」
「いや、事実を言っているだけだがな。ま、お前程度に説明しても仕方がない。雑魚は早く片付けて、少しでも骨のあるやつを相手にしたいのでな、早速始めるか」

 そう言いつつ、自らの魔力レベルを身体強化に振り分けていく悪魔。

 身体強化に魔力を振り分ける事で明らかに威圧感も増し、溢れんばかりの力を周囲にまき散らす。

 そのおかげか、かなりの遠方に位置しているアンノウンに感知されてしまっている。

 最も近くにいるフォトリは騎士としてのプライドか、何とか姿勢を持ち直して攻撃を仕掛ける。

「くっ、なんて凄まじい力。ですが、私は聖剣所有者。この程度で屈する事はありません。覚悟!!」

 聖剣を上段に構えて、全身全霊を持って悪魔を切り倒さんとする。

 その刃は悪魔の肩口に当たり、そのまま一気に始末しようと力を入れるのだが、刃は一切肉体に入り込む事は無かった。

 逆に、血の一滴すら出てきていないのだ。

「え?なんで?」

 無駄に輝いている聖剣を見ながら、フォトリは無意識に悪魔から距離を取る。

「やはりな。既にそれは聖剣ではなくなっている。いや、破壊されていると言うべきか」
「そんな事有る訳がないでしょう!国王陛下から直接頂いているのよ!それにこの輝き。どうしたの、聖剣!」

 悪魔の指摘は的確ではあるのだが、信じる事ができずに何とか聖剣の力を使おうと奮闘するフォトリ。

「無駄だ。今までの経験から教えてやるが、聖剣は戦闘中にはそのような無駄な光は出していなかった。その力の全てを所有者に与えていたからだ。だが、お前は魔力レベル10の雑魚のままだ。まあ、これ以上の説明は必要ないだろう。我らに牙を剥いた報い、その身で贖え」

 悪魔の言う事がある程度事実であると理解してしまったフォトリは、すかさずレンドレンの近くに移動して、強制的に自分と悪魔の間に立たせる。

「レンドレン、任せたわよ。少しで良いから時間を稼いで頂戴」

 その呟きと共に、背中からレンドレンを蹴り飛ばして悪魔にぶつける。

 悪魔としては、フォトリの聖剣を使った攻撃すら傷一つ負うことがなかったので、レンドレンを避けようともしない。

 その一瞬で、フォトリは一目散に逃げだした。

 その姿を既にとらえているアンノウン。

 どこの国でも、どこの場所でも、どのような役職でも、クズはクズ、善人は善人であると痛感していた。

 と同時に、やはりあの聖剣は完全に破壊されている事も理解したのだ。

『やはりNo.8アハトが完全に聖剣の息の根を止めたのですね』
『ひどいじゃないですかイズン。あんなに軟弱な聖剣は、聖剣ではありません!!』

 と、少々軽いやり取りの後に動き始める。

 バリッジ暗部についても完全に捕捉しているので、この場で救出が必要な人物はレンドレンだけと判断していた。

 バリッジ暗部を捕縛の上情報を吐かせたい所だが、以前の経験から自爆される可能性が高く、悪魔の対処も必要な事からキッパリと今回は断念していた。

 この作戦は、全てを把握した瞬間にイズンが決定したものだ。

 だが、司令塔であるイズンとアンノウンゼロのヴァンガロの魔力レベルは、付き従っている魔獣の力が上昇したとは言え70。

 悪魔にその存在を感知される可能性が高い。

 そのため、十分な距離を保ちつつ作戦の指示を出している。

 まずはナンバーズのNo.6ゼクスを、レンドレンの近くにいる悪魔の傍に配置した。

 魔力レベル差がある為、悪魔やバリッジ暗部ですらその存在を認識できない。

 残念ながらイズンも認識できないが、そこは頭脳でカバーしている。

No.6ゼクス、悪魔に怪しい動きがあり次第、直接その男を救出してください』
『わかった』

 これは、レンドレンが悪魔に致命傷を負わされたとしても、その命が尽きてさえいなければNo.6ゼクスの回復術で対応可能の為にこの配置としている。

 その他のナンバーズは、バリッジよりも更に遠巻きに悪魔を囲っている位置にいる。

 イズンは、この状態でバリッジ暗部を捕縛する事を考えなくもなかったが、欲をかいてしまってはジトロからの厳命である無事の帰還の妨げになる可能性があるので自重している。
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