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悪魔と聖剣

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 恐らくハンネル王国最強の冒険者に聖剣を渡しても、多少切れ味のよい剣程度の物に成り下がっているので、どう考えても悪魔に対抗できるとは思えない。

 ここをクリアしなくてはならないのだ。

 もちろんジトロにも解決策など出て来るわけもない。

 二人は食堂に移動して、ナンバーズを招集する。

 当然そこには、この件の諸悪の根源であるNo.8アハトがチョコンと座っている。

 とりあえず打開案が欲しいので、ジトロは状況を改めて説明する。

「既にノエルからの念話で知っている通り、ハンネル王国があの・・聖剣を使って悪魔を討伐するように動いたらしい」
「わ~、素晴らしいですね。聖剣を使えるなんて剣士として最高の誉れではないですか!」

 聖剣をへし折り、ただの剣と変化させたNo.8アハトが本当に羨ましそうに声を出す。

 彼女の最も得意とするのは剣術であり、言っている事に嘘や偽りは一切ない。

 ないのだが、なぜか釈然とする事ができないジトロとイズン。

「それでな、No.8アハトは忘れているかもしれないが、あの聖剣、今はただの剣に成り下がっているんだ。お前、あの時へし折っただろ?」
「えっ?そうでしたっけ?そうかもしれませんね。フフフ、どうしましょうか?」

 何かNo.10ツェーンと同じ匂いがすると考えながらも、ジトロは話を続ける。

「おそらくこのままでは、悪魔の討伐は失敗する。最悪は、バリッジが悪魔を制御していた場合、ハンネル王国にまで被害が及んでしまう可能性が高い」
「では、我らが出向きますか?ジトロ様」

 常に冷静で、いつもジトロに付き従っているナンバーズ最強のNo.1アインス

「最終的にはそうなるだろうな。だが、悪魔の力が何もわかっていない。あまりにも危険な任務になるので、ここは俺が行こうかと思っている」
「「「「「「「「「「「ダメです(だぞ)!!」」」」」」」」」」」

 この場にいる全員から秒で否決されたジトロ。

「ジトロ様、あなたはこのアンノウンの柱です。私の様な者の替えはいくらでもいますが、あなたの替えは誰もいない。そこをお忘れなきようにお願いしますよ!」
「イズンの言う通りです~。ここは私とナップルさんの最高傑作である“炸裂玉”で一網打尽にしますよ~」

 イズンとNo.10ツェーンの話に、この場にいるナンバーズ全員が同意する。

「ジトロ様、この場にいないアンノウンゼロやコシナ、ピアロ、そしてあの冒険者の方々もあなたが必要です。ナンバーズ筆頭として、あなたの出撃を許容する事は出来ません。ご容赦ください」

 止めはNo.1アインスが深く頭を下げてジトロに懇願した。

 こうなってしまうと、ジトロは力任せに行動するわけにはいかなくなる。

「ではどうする?万が一の場合に備えて、逃走手段を確実にした上でなければ、俺も出撃を許可する事は出来ない。お前達はああ言ってくれたが、俺にはお前達の誰一人として欠けて貰っては困る」

 喜びか、感動か、その両方か、この場にいる全員が少し震えて尊敬の念を持ってジトロに深く頭を下げた。

「ジトロ様、このイズン、全力を持って悪魔どもを始末してご覧に入れます。そして、ご指示通り、万が一の場合には、確実に出撃部隊を安全に避難させる事、ここに誓います」

 少し悩んだジトロだが、最早ナンバーズの出撃がない限り、ハンネル王国に危険が及ぶ可能性が高い以上、作戦を否定するわけにはいかなくなった。

「わかった。イズン、そしてナンバーズ。必ず生きると誓え!」

 更に全員が深く頭を下げる。

「よしわかった。では誰が行く?そもそも目撃されたと言われている悪魔は二体。そしてタイシュレン王国の悪魔も別物だと考えると、三体はいると考えて行動しろ」
「承知しましたジトロ様。そうなると、こちらはナンバーズ六人を派遣します。その上で、少々離れた位置から逃走経路の確保も含めてこの私イズン、更には私の護衛と言う意味でアンノウンゼロのヴァンガロを同行させます」

 イズンが全体の把握、逃走経路の確保に集中している間の護衛までつける事で、ジトロはこの作戦を了承した。

 選定された六人のナンバーズは、

No.3ドライNo.5フュンフNo.6ゼクスNo.8アハトNo.9ノインNo.10ツェーンだ。

 基本的には攻撃重視となっているが、回復魔法を得意とするNo.6ゼクスと、“炸裂玉”を試したいと駄々をこねたNo.10ツェーンが加わっている。

 No.10ツェーンは、“炸裂玉”使用のタイミングはイズンが行うので、決して独断で使用しないように、何度も何度も厳命されていた。

 普段の行動から、あまり信用されていないのが分かってしまう悲しい事態だ。

 ハンネル王国のギルドにいるノエルに念話で作戦が開始された事を伝えると共に、アンノウンは拠点から出撃した。

 もちろんアンノウンとして出撃しているので、覆面状態だ。

 自らが出撃するつもりでいたジトロは、落ち着きなく食堂をうろうろしている。

 普段であればこのような自由時間には温泉に浸かっているのだが、悪魔との戦闘の為に出撃したアンノウンが心配で仕方がないのだ。

 いつもの通り傍に控えているNo.1アインスは、ジトロがこっそり出撃しないように見張ってもいる。

「ジトロ様、大丈夫です。アンノウンの力を信じてください。それに、今回の部隊はイズンが直接指揮を執るのです。万が一もありません」
「そうだな、そうだよな。ありがとうNo.1アインス。後になって色々考えちゃうんだよ。例えば、常に冷静に判断できるNo.7ジーベンを同行させるべきだったとか……さ」

 家族の命がかかっているとなると、本当に万全を期したい気持ちになるのは当然だ。

「しかし、悪魔、そしてバリッジの二方面に対処するのです。ナンバーズには常に自由に動ける人員がある程度必要です。それに、指揮を執る事の出来る人員が二名も同時に出撃すると、指揮系統が乱れる可能性もありますし、別の事が起こってしまった時に対処が遅れます。それこそ致命的になる可能性もあるのです。ですから、今回のジトロ様は素晴らしい英断をなさったのです。どうか自信をお持ちになってください」

◆◆◆◆◆◆◆

 アンノウンが出撃する前、当然ハンネル王国では最強の冒険者に聖剣を与える事になっていた……のだが、残念な事に魔力レベル10の猛者は遠征している為、聖剣を与えるに適した冒険者がいなかったのだ。

 こうなると、騎士から選定する必要が出て来る。

 魔力レベルが高ければ何も問題はないのだが、数々の修羅場をくぐっている冒険者と、ある意味想定されている戦闘のみに特化した騎士では、臨機応変の対応能力に大きな開きがあるのは否定できない。

 しかし、そうは言っても適した冒険者がいないのであれば仕方がなく、国王のドストラム・ハンネルと、元ジトロの上司でもあった宰相のトロンプは、騎士の選定に入った。

 近衛騎士になれば魔力レベル10の人材が存在するので、そのうちの一人、赤髪の女性であるフォトリが選ばれた。

「お待たせいたしました」

 国王と宰相の前に跪いているフォトリ。

「楽にしろ。フォトリ、お前も聞いていると思うが、このハンネル王国で悪魔が二体確認されている。聖剣がある以上、悪魔の存在は確定していると言って良い。そこで、今回の聖剣による悪魔討伐。剣術が得意なお前に任せたい」
「あなたなら、問題なく任務を遂行できると判断したのです。よろしく頼みますよ」

 国王と宰相にこう言われては、断る事はできずに引き受けるフォトリ。

 こうして、宰相トロンプより不思議に光り輝く聖剣を貸与され、悪魔の目撃情報があった場所に移動する事になった。
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