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騎士隊長ナバロン(1)

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 組織バリッジの首領がアンノウンを明確な敵と認識する少し前になるが、バイチ帝国騎士隊長のナバロンは、度重なるバリッジの襲撃に対して何の盾にもなれていない自分の力を恥じており、アンノウンの助力で魔力レベルを上げる修行を行う事になっていた。

 ゴタゴタを終え、ようやく修行に入れる日となったので、帝都のギルドにアンノウンとの連絡用に決めていた、“キングゴブリン3匹討伐の緊急クエスト”を出す。

 依頼書を出したその日、いつの間にかその依頼書は剥ぎ取られており、当日の昼には騎士隊長の部屋に覆面をした女性が音もなく表れた。

「お待たせしました、ナバロン騎士隊長。今回の件、担当させて頂きますNo.7ジーベンと申します。目標魔力レベル40まで、よろしくお願いいたします」
「いや、こちらこそ助かる。これでバリッジの魔の手からバイチ帝国が守れる可能性が高くなる。では、早速修行に?」

 この時点で、今までバリッジに辛酸を舐めさせられていたナバロンは、溢れんばかりの気合で満たされていた。

 ここ数日、一刻も早く修行がしたくてウズウズしていたものある。

 人族最強の魔力レベル10となって久しいが、その時以上の興奮に包まれているのだ。

「そうですね、その前に一つだけ確認をよろしいでしょうか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」

 早く修行をしたい気持ちを何とか抑えて、平静を装う。

「あなたの最も得意とする攻撃は何でしょうか?」
「む、そうだな。身体強化を使ってこの剣で叩き切る事だ」

「では、身体強化を使われている時、感知系統に魔力を使用していますか?」
「え?いや、していない。そんな事は出来ないだろう?複数の術に魔力を分配するなどは不可能なはずだ。そこを補強するために、いかに早く魔力を移行できるかが強さのポイントだ」

 自信満々に、今までの概念にとらわれた回答をするナバロン騎士隊長。

「失礼ですが、それでは魔力レベル40となっても、大した強さにはならないでしょう。ナバロン騎士隊長は今、魔力レベル10が人族の上限ではないと気が付いています。ならば、複数同時に魔力制御ができないと言う事に疑問を持っても良いのではないですか?」
「確かにそうだが、まさかできるのか?」

 今までの常識に凝り固まってしまっているナバロンにとっては、まさに目から鱗が落ちる状態だ。

「もちろんです。これができなくては、如何に魔力レベルが高くとも、使っている術一辺倒の力技になりかねません。当然戦略の幅も大きく限定されるので、ナバロン騎士隊長には、先ず魔力レベル上昇の修行の前に、並列起動の技術を取得して頂きます」

 この世界の常識を完全に覆す力に驚き、そして興奮するナバロン騎士隊長。

 アンノウンのメンバーは、全員無制限の並列起動ができる程練度を上げている。

 だが、現時点では、魔力レベルをかなり上昇させているバリッジですら、並列起動の概念がないために、力押しになっているのだ。

 ナバロン騎士隊長が魔力レベル40となった場合、少々レベルが拮抗している敵や、複数の敵に襲われた場合に対処ができない可能性がある。
 しかし、並列起動ができれば、魔力レベル以上の強さを発揮できるのだ。

 だがその技術は並大抵の努力で身に着けられるものではない。

 アンノウンゼロは、魔力の扱いは魔獣任せであり、制限なしの並列起動に関しても魔力レベル60近辺の魔獣達が、まさに血反吐を吐きながら修行したのだ。

 一方のナンバーズ。こちらは最大レベルの99に達する程の実力を得ていたので、暴力的とも言える魔力を力任せに活用して、制限なしの並列起動を行えるようになっていた。

 現時点のナバロンの魔力レベルは10。

 人族最強とは言え、アンノウンから見ると雑魚もいい所なので、なるべく早く魔力レベルを上げたくなる。

 しかし、あまりにも短期間で魔力レベル40に上げてしまうと、後々障害が出る。

 例えば、魔力レベルに対応できない、つまりは魔力の制御ができなくなり、体内の魔力循環回路が破壊されてしまい、魔力自体が扱えなくなってしまう可能性がある。

 そう言った懸念を無くすためにも、魔力の扱いを精密に行う必要がある並列起動の技術を先行して得ておく必要があるのだ。

「では修行を始めますが、ここでは修行の内容を秘匿しきれない可能性がありますので、移動させて頂きます。突然ナバロン騎士隊長が不在になると問題があると思いますので、緊急依頼の受注者と同行すると言う事を受付にでもお伝えいただけますか?」
「わかった。その後ここに戻れば良いか?」
「いいえ、この場所から突然いなくなると不審に思われるかもしれません。東門の先で待ち合わせと致しましょう」

 これだけ言い残すと、No.7ジーベンはこの場から消えた。

「魔力の並列起動か、面白い。望むところだ!」

 魔力レベル上昇以外にも、劇的に強くなれる新しい技術の習得に燃えるナバロン騎士隊長。

 だが、あまりの修行の厳しさ、習得の難しさに、あっという間に燃え尽きる事をこの段階では知る由もない。

 No.7ジーベンの指示通り、ナバロンは騎士隊の事務方と冒険者ギルドの受付に緊急依頼の受注者と同行する旨を伝えた。

 魔力レベル10の騎士隊長が同行する事に対しては、魔獣側の戦力も大きい物になっているので、一切不審に思われる事も無く、意気揚々と東門を潜り、森に向かって進むナバロン。

 少々森が深くなり始めたころ、No.7ジーベンが現れた。

「それでは、修行の場所に移動させて頂きます。一瞬ですが、目を瞑って頂けますか?」

 ナバロンも、恐らく転移によって視界が揺れるのを防ぐためだろうと推測しているので、言われたとおりに目を瞑る。

「お待たせしました。では修行を始めましょう」

 本当に一瞬の後にNo.7ジーベンから声をかけられて目を開けると、見渡す限り草原に立っていたナバロン。

「ここであれば多少魔力暴走が起こっても何も被害が出ませんので。それに、実はこの場所、我らアンノウンの優秀な人材によって作られた魔道具の実験場でもあるのです。信じられないかもしれませんが、本当はここ、深い森だったのですよ。それを、“炸裂玉”と言う不穏な名前の付いた魔道具をテストして、こんなになってしまいました。フフフフ、本当、ウチの魔道具は危なくって使えませんよね?作った当事者は、管理者にそれはそれは厳しく怒られていましたね。フフフフ、すみません。思い出してしまって……」

 突然サラッと恐ろしい事を伝えてくるNo.7ジーベンに、何を返していいかわかる訳もないナバロン。

 聞くだけで最終兵器になりそうな魔道具を、さも簡単そうに作っていると言っている。

 そして、この平原が元は森であり、平原になる程の破壊力を持った魔道具を使用して、怒られる程度で済んでいるアンノウンと言う組織。

 改めて、化け物の巣窟だと思ったが、逆にそのメンバーに修行を付けて貰えるのだ。

 あっという間に燃え尽きるとも知らずに、気合の炎を滾らせていた。

「それは始めましょう。まずは身体強化に全魔力を使ってください」
「任せろ!!」

 身体強化は基本中の基本でもあるために、魔力の移動は慣れたもので、スムーズに術を発動する事ができる。

「ここまでは問題ありませんね。それでは、我らが準備させて頂きました魔力レベル5の魔獣を探知して、攻撃してください。彼らは地中を移動します。魔力レベル5以上の身体強化を行っていないと、いくら攻撃してもダメージを与える事が出来ませんので気を付けてください」
「ま、待ってくれ、つまり、魔力レベル5以上で身体強化をして、残りの魔力で探知しろという事か?」

 既に腰が引け始めたナバロンだが、修行が止まる事は無い。
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