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戦闘終了後

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 一気に静まり返る会場。

 最初に我に返ったのは、来賓席にいるカードナーだ。

 想定しなかった最悪の事態に陥っている事を理解したカードナーは、その存在を悟られないようにこっそりと来賓席から退避しようと動き出した。

 しかし出口には、闘技場にいる覆面とは別の覆面が存在し、自分の辿る運命を悟った。

 次の瞬間、カードナーは目の前の覆面と共に闘技場に移動させられた。

 カードナーをこの場に連れてきた覆面のNo.9ノインは、有り得ない魔力レベルを持っていたピンファイを事も無げに退けた覆面に話しかける。

No.2ツヴァイ、お疲れ様。これで任務は完了なの?」
「ありがとうございますNo.9ノイン。でも、全く疲れていませんので大丈夫ですよ。任務は……おそらくは完了のようですね。とりあえずこの男は私が引き受けますので、No.9ノインは他の場所を警戒してください」
「わかった」

 その瞬間、No.9ノインはカードナーの視界から一瞬で消えた。

「では、アゾナ様、ナバロン様、この二人は引き渡します。但し、ピンファイという男は自らが言っていた通り、魔力レベル42です。このままでは危険ですので、魔力を使えないようにして引き渡しますのでご心配なく」
「陛下の護衛依頼だけではなく、我らまで護衛して頂けていたとは、ありがとうございます」

 お礼を口にし一息つく宰相アゾナだが、騎士隊長のナバロンは気になっていた事を口にする。

「一つ確認させてもらいたい。魔獣の最初の一撃、私程度では決して受け流せるような攻撃ではなかったはずだ。あれも貴殿達の助力だろうと思っているのだが?」
「その通りですね。先程ここにいたNo.9ノインが魔獣の力を一時的ではありますが削いでおきました」

 予想通りの回答を得て納得はできるし感謝もしているのだが、何をしたかを認識すらできず、魔獣の攻撃を受け流すことがやっとの自分の不甲斐なさに、悔しさを滲ませる騎士隊長ナバロン。

 バイチ帝国、そしてこの二人に対して良い感情を持っているアンノウン。

 自らの力不足を認めて、何とかしようと考えているナバロンの姿勢に更に好感度は上がる。

 その感情の根本は、ジトロが彼らに好感を持っているからに他ならない。

「ナバロン様、我らが主No.0ヌルに許可を取る必要がありますが、あなたの魔力レベルを40程度まで上げる修行を手助け致しましょう。今までのバリッジ側の魔獣は魔力レベル40近辺が最大の為、その程度の力をつけておけば安心なのではないですか?」
「本当か!是非頼む。どんな修行にも耐えて見せる」

 バイチ帝国も自らの国家が掲げている主張である、理不尽な奴隷制度完全撤廃に対して、他国が良く思っていない事は百も承知だ。

 自然と周辺国、いや、ほぼ全ての国家が敵になっている。

 そのような状態になっているバイチ帝国の皇帝や宰相を守るために、必死で修業して付けた強さが人族最強の魔力レベル10だったのだ。

 しかし度重なるバリッジの襲撃を受けて、人族最強と言う自信は脆くも崩れ去っている。

「ではナバロン様、我らが主No.0ヌルの許可も取れましたので、この件が落ち着きましたらいつもの通り緊急クエストを出して下さい。それと、念のためですが、魔力レベル40になった場合でも、その力について他言しないようにお願いします。それでは失礼いたします」

 No.9ノインと同じように、この場でナバロンと話をしていたNo.2ツヴァイも転移により一瞬でその場から姿を消す。

 No.10ツェーンの作った魔力レベルを0にする針状の魔道具は、既にピンファイの首深くに打ち込んでいる。

 いつ彼らの主であるNo.0ヌルと呼ばれる男に連絡を取ったか分からないが、自分が理解できる力ではない事だけはわかるので、深く考える事はしないナバロン。

 今は自らが強くなり、皇帝と宰相、そしてバイチ帝国を守る事に意識が向いていた。

「助かりましたね、ナバロン。今回は私の読みが甘かったのが原因です。まさかこれほどの公衆の面前で直接的な攻撃を仕掛けてくるとは思いませんでしたよ」
「仕方がないだろう。今回はラグロ王国としてではなく、バリッジとして攻めてきたのだからな。誰もそこまでは読めないさ」

「ですが、アンノウンが我らの護衛までしてくれているとは、九死に一生を得るとはこの事ですね」
「そうだな。それに俺に力を与えてくれるのだから、これ以上ない援軍だ。本当にアンノウンの力は凄まじい。あのバリッジのクソ共も大概バケモンだが、それすら歯牙にもかけないからな」

 改めて、ハンネル王国移動時にアンノウンとの縁を作れた事に感謝する二人。

「それで、このゴミ共どうするんだ?あのNo.2ツヴァイと呼ばれていたアンノウンの一人は、こいつの魔力を封じたと言っているから、そのまま牢にぶち込むか?」
「いいえ、ハンネル王国の王城の牢にいたドストラ・アーデですら殺害されたのです。なるべく早めに情報を抜いて、その後はコレですね」

 宰相のアゾナは、自らの首に手を当てる。

 組織バリッジからの口封じが行わる前に、情報を抜いて始末する。

 つまりは、そう言う事だ。

「私はそもそもラグロ王国が気に入りませんが、この宰相と同じく、国家中枢がバリッジの手に落ちているのか、今回の襲撃にラグロ王国が関与しているのかも調べる必要があるでしょうね」

 恐らく何の証拠も掴めないであろう事はわかっているが、呟かずにはいられないアゾナ。

 ラグロ王国の宰相カードナーは、バイチ帝国の重鎮二人に襲い掛かっているピンファイが不利になった時点で自らが連れてきている冒険者達を助勢に向かわせている所を、かなりの人に目撃されているので、バイチ帝国で断罪する予定だ。

 仮にラグロ王国からカードナーの身柄を要求された場合、ラグロ王国の国家ぐるみの計画と取られる可能性が高いので、国力が低下しているラグロ王国もそのような事は言ってこないと踏んでいる。

 アゾナは審判が使っていた拡声の魔道具を手に取り、この会場、会場周辺にいる人々にある程度の事情を説明した。

 但し、ラグロ王国の犯罪としてではなく、組織バリッジとしての犯罪と言う所は強く強調するのを忘れない。

 これがないと、確たる証拠がなく、恐らくこれからも証拠を手に入れる事ができない為に、逆にバイチ帝国がラグロ王国に対して無用な挑発を行っていると取られかねないからだ。

 周辺が敵国だらけのバイチ帝国としては、敵に余計な隙を見せるわけにはいかないので、慎重に慎重を期して対応している。

 この辺りが宰相アゾナの腕でもあるのだが、彼もかなりの負担を感じていたりする。

 アンノウンの存在も、バリッジの存在と共に公衆の面前で明らかになった。

 目の前で、バリッジを起因とした大惨事を、まるで片手間で押さえつけるかのように制圧し、更には一瞬で消える術まで見せていたアンノウン。

 悪と善を際立たせたかのような両組織の情報は、バイチ帝国とラグロ王国の交流を目的とした大会の場を中心として、あっという間に大陸中に広まる事になった。

 ラグロ王国側は、宰相アゾナの予想通り、ラグロ王国に対しての暴挙はカードナーの独断であり一切関知しないと言い切った上で、国家の宰相と言う立場で起こした騒動についてのみ、形だけの謝罪をしてきた。

 もちろん何の証拠も掴めなかったアゾナは、その謝罪を受け入れた。

 その数日後、バイチ帝国のギルドには緊急クエスト“キングゴブリン3匹討伐”が張り出されていた。

 その日、いつの間にか依頼書が無くなっており、同日、ナバロン騎士隊長も受注した冒険者と同行するとだけ職員に言い残してギルドを去った。

 その討伐には数週間必要だったようだが、ナバロンは無事に帰還した。

 その時のナバロンは、燃え尽きたような表情をしていたようだとか……
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