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バリッジの企み
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無事に大会は終了して、残すは褒賞を受け渡すだけとなった。
表向きはバイチ帝国とラグロ王国の親交も深まり、冒険者達の戦闘を行う事によって、互いの力量も上がったと言える。
更に、ラグロ王国からこの大会を見に来た人達の交流も行われていた。
闘いを見ながら酒を飲み、互いに感想を述べながら親睦を深めていたのだ。
つまりは、大会は大成功に終わるかに見えた。
しかし、ラグロ王国、いや、バリッジとしてはここからが本番だ。
優勝者として、ピンファイに褒賞が与えられる事になるが、バイチ帝国の宰相であるアゾナは当初の予定を急遽変更して、来賓席で渡すのではなく、自らが騎士隊長のナバロンを伴って闘技場に出向き手渡す事にした。
これはアゾナとナバロンの覚悟の表れであり、二人はラグロ王国が仕掛けてくるとすればここだと確信している。
この大会を開催するにあたり警戒はしていたのだが、まさか命を脅かすほどの危険な状態になるとは思っておらず、自らの油断を恥じていた。
そしておそらく、いや、間違いなく攻撃を仕掛けて来るであろうその相手は、異常な強さを持つ魔獣を従えている者。
その魔獣がむやみに暴れてしまうと民に被害が出る可能性が高いので、ラグロ王国の排除目的であるはずのバイチ帝国の重鎮、つまり、自分達の命を引き換えにしようとしているのだ。
最終目的は皇帝ヨハネスだろうが、こちらはあの魔獣に襲い掛かられても問題なく対処できると確信しているアンノウンが護衛についているので心配はしていなかったのだ。
突然闘技場に降り立った二人。
その姿をみて、若干顔を顰めるピンファイ。
今まで戦闘しながら仕入れた情報を元に、必死で最適な配置を考えていたのが無駄になったのだから、表情に出てしまうのも仕方がない。
その表情を見たバイチ帝国の二人は、これから褒賞を受け取る人間の表情ではない事を理解し、やはり敵の本丸は目の前のこの男である事を確信した。
そもそもこの男の登録はラグロ王国側の冒険者でもある事から、闘技場から来賓席にいるラグロ王国のカードナーを睨みつけてしまうバイチ帝国の二人。
カードナーはいやらしい笑みを浮かべたまま二人を見つめ、微動だにしない。
審判をしていた男が、急に闘技場まで降りてきたバイチ帝国の二人に対して、ピンファイに授与する褒賞を渡す為、慌てて闘技場から下りて取りに行く。
その瞬間に、その時は来た。
最大限の警戒態勢を取っていたアゾナとナバロン。
特に騎士隊長であるナバロンは、突然攻撃してきた魔獣一体の一撃を何とか受け流す事に成功していた。
本来の魔獣の魔力レベルは30であり、いくら人族最強の魔力レベル10を持つ騎士隊長ナバロンでも、その攻撃を受け流せるわけはない。
攻撃を受けた瞬間に吹き飛ばされるか、体が爆散するかの二択しかないのだ。
そうならなかったのには当然理由がある。
実は、弓術を最も得意とするNo.9が、魔力で作った極小の矢で魔獣の力を大きく削いでいたのだ。
魔獣自身やピンファイですらその攻撃を認識する事は出来ていない。
理解できているのは、この場にいるアンノウンのメンバーだけだ。
こうして攻撃を受け流したナバロンは、アゾナを庇う様にして魔獣とピンファイから距離を取る。
こうなってしまうと、会場は阿鼻叫喚の様相を呈している。
国家の重鎮が攻撃されたのだから当然と言えば当然だ。
「ピンファイとやら、何をするか!」
ナバロンの叫びに、当初の予定通りに事が運ばずに苛つきが抑えられないピンファイは面倒くさそうな態度で、しかし、この会場の全員に伝わるように説明する。
もちろん、魔力レベル42と言う高いレベルを使用した魔術により拡声しているのだ。
だが、アンノウンのメンバーが普通にできるような、魔力を分配し、異なる術の並列軌道は一切できていない。
そのような発想がないから、鍛錬すら積んでいないのだ。
「もう面倒臭くなったから計画通りに行かなくても良いや。お前らがここまで下りてきたせいで、せっかく考えていた作戦がパーだぞ!」
このピンファイ、全てを細かく計画して実行する事で、バリッジ特殊部隊の一員と言う地位を得ている。
その特殊部隊の名前は……暗部。
しかし、一旦緻密に計画された行動から外れてしまうと全てがどうでも良くなり、手段を選ばずに目的を達成するという残虐な面も持ち合わせていた。
「本当はあの来賓席でお前らを潰す予定だったのにな~。本当面倒くさい。なんで余計な行動をとるかな~」
ピンファイの言葉が聞こえている会場、そして会場外の民衆も含めて静まり返り、事の成り行きを見守っている。
「ま、バリッジとしてはお前らがいなくなればそれで良いから、とりあえずお前らが死ぬ事は確定だ」
「やはりバリッジか。あのドストラ・アーデがいた組織だな」
新種の魔獣、そしてハンネル王国での子爵、ドストラ・アーデの暴走、王城内部での殺害事件があってから、各国ではバリッジに対する脅威を認識し、その情報を集める行動を取っていた。
即にバイチ帝国のこの二人は、直接ドストラ・アーデに襲われているから尚更だ。
「ご明察。と言っても、隠すような事はしていないので、その程度はわかってもらわないと困る。でもこの警備体制を考えると、俺がバリッジの一員である事、気が付いていなかったようだけどな」
笑いながら、魔獣をバイチ帝国の二人に向かわせるピンファイ。
「大衆の前での暴挙。お前の所属しているラグロ王国の冒険者ギルド、そしてラグロ王国にも問題が起こるぞ」
ナバロンに対して、ピンファイは拡声の魔術を中止して小声でナバロンとアゾナに向かって笑いながら伝える。
「そんな事はどうでも良い。俺はそもそもラグロ王国で冒険者登録などしていないし、冒険者を引退しても良い。ラグロ王国自体はあいつが何とかしてくれるだろ」
そう言いつつ、来賓席にいるカードナーを顎で指し示す。
カードナー達にはこの部分の会話は聞こえていないが、何を伝えているか理解しているカードナーは、この緊迫した状況の中でにこやかな表情をしている。
「じゃ、もう面倒くさいから死んでくれ!」
ピンファイの軽い掛け声とともに、キメラを始めとした魔力レベルの高い魔獣が、アゾナとナバロンに襲い掛かった……のだが、彼らにその牙が届く前に、全ての魔獣がその場に座ってしまった。
挙句の果てには、服従のポーズとして知れ渡っている腹部を曝け出したのだ。
「何をしている、早くこいつらを始末しろ!」
なぜこのような状況になっているのか理解できないピンファイは、ひたすらテイムの力によって指令を送りつつ騒ぐ。
状況を理解できていないのはバイチ帝国の二人も同じだが、次の瞬間に全てを理解した。
彼ら二人の前に突然現れたのは、覆面を付けた一人。
そう、アンノウンの一人だったからだ。
「私はアンノウンのNo.2。我が主No.0の命により、あなた方を保護します。アゾナ様、ナバロン様」
「誰だ、お前は?どんな手を使ったかわからんが、俺の力を見くびるなよ!魔獣共が使えなくとも、お前らを纏めて始末する事など造作もない。まさかこの大会の俺の動きが全力などとは思っていないだろうな?」
会話して時間を稼ぎながら、魔力レベル42の魔力を身体強化に移行しているピンファイだ。
表向きはバイチ帝国とラグロ王国の親交も深まり、冒険者達の戦闘を行う事によって、互いの力量も上がったと言える。
更に、ラグロ王国からこの大会を見に来た人達の交流も行われていた。
闘いを見ながら酒を飲み、互いに感想を述べながら親睦を深めていたのだ。
つまりは、大会は大成功に終わるかに見えた。
しかし、ラグロ王国、いや、バリッジとしてはここからが本番だ。
優勝者として、ピンファイに褒賞が与えられる事になるが、バイチ帝国の宰相であるアゾナは当初の予定を急遽変更して、来賓席で渡すのではなく、自らが騎士隊長のナバロンを伴って闘技場に出向き手渡す事にした。
これはアゾナとナバロンの覚悟の表れであり、二人はラグロ王国が仕掛けてくるとすればここだと確信している。
この大会を開催するにあたり警戒はしていたのだが、まさか命を脅かすほどの危険な状態になるとは思っておらず、自らの油断を恥じていた。
そしておそらく、いや、間違いなく攻撃を仕掛けて来るであろうその相手は、異常な強さを持つ魔獣を従えている者。
その魔獣がむやみに暴れてしまうと民に被害が出る可能性が高いので、ラグロ王国の排除目的であるはずのバイチ帝国の重鎮、つまり、自分達の命を引き換えにしようとしているのだ。
最終目的は皇帝ヨハネスだろうが、こちらはあの魔獣に襲い掛かられても問題なく対処できると確信しているアンノウンが護衛についているので心配はしていなかったのだ。
突然闘技場に降り立った二人。
その姿をみて、若干顔を顰めるピンファイ。
今まで戦闘しながら仕入れた情報を元に、必死で最適な配置を考えていたのが無駄になったのだから、表情に出てしまうのも仕方がない。
その表情を見たバイチ帝国の二人は、これから褒賞を受け取る人間の表情ではない事を理解し、やはり敵の本丸は目の前のこの男である事を確信した。
そもそもこの男の登録はラグロ王国側の冒険者でもある事から、闘技場から来賓席にいるラグロ王国のカードナーを睨みつけてしまうバイチ帝国の二人。
カードナーはいやらしい笑みを浮かべたまま二人を見つめ、微動だにしない。
審判をしていた男が、急に闘技場まで降りてきたバイチ帝国の二人に対して、ピンファイに授与する褒賞を渡す為、慌てて闘技場から下りて取りに行く。
その瞬間に、その時は来た。
最大限の警戒態勢を取っていたアゾナとナバロン。
特に騎士隊長であるナバロンは、突然攻撃してきた魔獣一体の一撃を何とか受け流す事に成功していた。
本来の魔獣の魔力レベルは30であり、いくら人族最強の魔力レベル10を持つ騎士隊長ナバロンでも、その攻撃を受け流せるわけはない。
攻撃を受けた瞬間に吹き飛ばされるか、体が爆散するかの二択しかないのだ。
そうならなかったのには当然理由がある。
実は、弓術を最も得意とするNo.9が、魔力で作った極小の矢で魔獣の力を大きく削いでいたのだ。
魔獣自身やピンファイですらその攻撃を認識する事は出来ていない。
理解できているのは、この場にいるアンノウンのメンバーだけだ。
こうして攻撃を受け流したナバロンは、アゾナを庇う様にして魔獣とピンファイから距離を取る。
こうなってしまうと、会場は阿鼻叫喚の様相を呈している。
国家の重鎮が攻撃されたのだから当然と言えば当然だ。
「ピンファイとやら、何をするか!」
ナバロンの叫びに、当初の予定通りに事が運ばずに苛つきが抑えられないピンファイは面倒くさそうな態度で、しかし、この会場の全員に伝わるように説明する。
もちろん、魔力レベル42と言う高いレベルを使用した魔術により拡声しているのだ。
だが、アンノウンのメンバーが普通にできるような、魔力を分配し、異なる術の並列軌道は一切できていない。
そのような発想がないから、鍛錬すら積んでいないのだ。
「もう面倒臭くなったから計画通りに行かなくても良いや。お前らがここまで下りてきたせいで、せっかく考えていた作戦がパーだぞ!」
このピンファイ、全てを細かく計画して実行する事で、バリッジ特殊部隊の一員と言う地位を得ている。
その特殊部隊の名前は……暗部。
しかし、一旦緻密に計画された行動から外れてしまうと全てがどうでも良くなり、手段を選ばずに目的を達成するという残虐な面も持ち合わせていた。
「本当はあの来賓席でお前らを潰す予定だったのにな~。本当面倒くさい。なんで余計な行動をとるかな~」
ピンファイの言葉が聞こえている会場、そして会場外の民衆も含めて静まり返り、事の成り行きを見守っている。
「ま、バリッジとしてはお前らがいなくなればそれで良いから、とりあえずお前らが死ぬ事は確定だ」
「やはりバリッジか。あのドストラ・アーデがいた組織だな」
新種の魔獣、そしてハンネル王国での子爵、ドストラ・アーデの暴走、王城内部での殺害事件があってから、各国ではバリッジに対する脅威を認識し、その情報を集める行動を取っていた。
即にバイチ帝国のこの二人は、直接ドストラ・アーデに襲われているから尚更だ。
「ご明察。と言っても、隠すような事はしていないので、その程度はわかってもらわないと困る。でもこの警備体制を考えると、俺がバリッジの一員である事、気が付いていなかったようだけどな」
笑いながら、魔獣をバイチ帝国の二人に向かわせるピンファイ。
「大衆の前での暴挙。お前の所属しているラグロ王国の冒険者ギルド、そしてラグロ王国にも問題が起こるぞ」
ナバロンに対して、ピンファイは拡声の魔術を中止して小声でナバロンとアゾナに向かって笑いながら伝える。
「そんな事はどうでも良い。俺はそもそもラグロ王国で冒険者登録などしていないし、冒険者を引退しても良い。ラグロ王国自体はあいつが何とかしてくれるだろ」
そう言いつつ、来賓席にいるカードナーを顎で指し示す。
カードナー達にはこの部分の会話は聞こえていないが、何を伝えているか理解しているカードナーは、この緊迫した状況の中でにこやかな表情をしている。
「じゃ、もう面倒くさいから死んでくれ!」
ピンファイの軽い掛け声とともに、キメラを始めとした魔力レベルの高い魔獣が、アゾナとナバロンに襲い掛かった……のだが、彼らにその牙が届く前に、全ての魔獣がその場に座ってしまった。
挙句の果てには、服従のポーズとして知れ渡っている腹部を曝け出したのだ。
「何をしている、早くこいつらを始末しろ!」
なぜこのような状況になっているのか理解できないピンファイは、ひたすらテイムの力によって指令を送りつつ騒ぐ。
状況を理解できていないのはバイチ帝国の二人も同じだが、次の瞬間に全てを理解した。
彼ら二人の前に突然現れたのは、覆面を付けた一人。
そう、アンノウンの一人だったからだ。
「私はアンノウンのNo.2。我が主No.0の命により、あなた方を保護します。アゾナ様、ナバロン様」
「誰だ、お前は?どんな手を使ったかわからんが、俺の力を見くびるなよ!魔獣共が使えなくとも、お前らを纏めて始末する事など造作もない。まさかこの大会の俺の動きが全力などとは思っていないだろうな?」
会話して時間を稼ぎながら、魔力レベル42の魔力を身体強化に移行しているピンファイだ。
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