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冒険者達の決断

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 工房ナップルの顧客第一号の冒険者は、この店での購入に二の足を踏んでいる仲間であろう冒険者に冷たく一言だけ言い放った。

「別に、貴方達がワポロに義理立てするのは止めないわよ。あんな扱いをもう一度受ける可能性があるのだから。その気持ちはわかるわ」

 長らく冒険者として活動していると、自分に合った工房に集中的に発注するケースが多い。

 しかし、工房も商売として冒険者を相手にしている以上、自分の店よりも良い物が売られている品を購入しようとする冒険者を止める権利は無いのだ。
 
 更にこの冒険者達の話し方から、他の要因もありそうだ。

「わかったわ。先ずは、その扇子が私達の思い通りの攻撃ができるのか、試させて頂けるかしら?」
「「それじゃあ、私もお願いします」」

「私のパーティー、丁度案内してもらった時の魔法系統で必要な物が見事に分かれているのです。私が炎、あの子が風、そっちの二人が水、土です。宜しくお願いします」
「わかりました。それではこちらにお越しください」

 同じように裏庭に向かうナップル、No.10ツェーン、そして冒険者の四人。

 裏庭に到着すると、一人一人に、必要だと言っていた魔法系統の力を付与してある扇子を手渡す。

「では、一人ずつ試していただきます。こちらの方から、魔力を扇子に流して頂いた上であの的に向かって扇子を振って下さい」
「じゃあ、先ずは私からね」

 この冒険者に渡されているのは、土の魔法が付与されている。

 冒険者が的に向かって扇子を振ると、槍のような形をした土の塊が的を破壊した。

「きゃー、凄いじゃないこれ??えっ??えっ???」

 騒がしい冒険者を放っておき、ナップルは次の冒険者に同様の指示を出す。

 次の冒険者の扇子に付与されているのは水。

 同様に大量の水が的を襲い、的は流されてしまった。

 風は、真空波を生み出して的を切り刻む。

「「「凄すぎじゃない!!」」」

 一部の冒険者は、工房通りにある他の店であるワポロに義理立てしようとしていた事をすっかり忘れて、既に手にしている扇子を手放すつもりは一切なかった。

「これ、買います。買わせてください」
「私もです。なんですかコレ?本当にレベル3の魔道具なのですか?こんなにすごい物、初めて手にしました」
「これで私達の冒険の幅がかなり広がります。いえ、次元が違う冒険ができます。ありがとうございます!!」

 各々が大興奮のまま、金貨四枚(400万円)を支払う。

 そして、そのままの流れで店を出て行こうとするので、慌ててナップルが止める。

「あの、申し訳ありません!!既にお聞きかと思いますが、その魔道具の購入は、所有者制限をかけさせて頂く事が条件なのです」
「あっ、そう言えばそんな事を言っていたわね」
「その機能も素敵よね、万が一敵にこの扇子を奪われても、攻撃される心配がないものね」
「確かに、私が炎の扇子を使おうとしても、普通の扇子の風しか起きなかったものね」

 一応、顧客第一号の冒険者から所有者制限についての話は聞いているようで、特に文句もなく一旦扇子を返却してくれた。

 同じように魔道具の玉を使用して所有者登録をして、後日全ての扇子を冒険者達に返却すると伝えた。

 実は、販売した四つの魔道具で、今回作成した物は全て売れてしまったのだ。

 自分が作った魔道具が、どの程度の金額であればこの工房通りの牙城を崩せるかわからなかったので、差し当たり数種類の魔法系統を付与した魔道具を少量作り、様子を見る事にしていたのだ。

 その思惑は良い方にはずれ、即魔道具が全て完売してしまったので、急遽その日は店を閉める事にした。

 その数日後、ナップルの店から魔道具を購入した冒険者パーティーは、いつもは薬草採取を主に行っているのだが、魔獣討伐の依頼も追加で受けた上で、遥かに良い成果を上げて、他の冒険者からその理由を聞かれ続けた。

 そのおかげか、工房ナップルの噂は瞬く間に冒険者の間に広がると共に、工房通りにある全ての工房にも情報が流れた。

 その日の夜、拠点に戻ったナップル一行は、明日からの販売品についての打ち合わせをしていた。

「ナップル、お前の魔道具は性能が良すぎる。あれはレベル3の中でも最上級、いや、ワシを含めたこの辺りの鍛冶士が作るレベル5、下手をすれば6に近い性能がある。明日からはレベルを落として、レベル2の魔道具を作成した方が良い……とワシは思うぞ」
「確かにその通りだ。あのレベルの魔道具が出回ると、自分の力を勘違いした冒険者達が暴走する可能性もあるかもしれない」
「そうなのですね~。ナップルさん、皆さんがそう言っているので、そうしましょうか?」

「わかりました。効果や基本的な形状は同じでも良いのでしょうか?それとも、毎日変えますか?」

 とこんなやり取りをしつつ、方針を決めて行った。

 いや、一名だけ自分の意見を言っていないようなナンバーズがいるが……

 そして翌日、再びラグロ王国の工房に転移した四人。

 転移前に工房とその周辺の気配を察知しているので、バルジーニ以外の三人は、既に店の前に行列ができている事を知っていた。

「バルジーニさん、店の前に既に冒険者が列を作って待っています。あの時ははテストの意味も込めて魔道具を四つしか作りませんでしたが、今日は最低でも並んでいる冒険者皆さんの分を作りたいと思います。値段はどうしましょうか?」
「なんで外に行ってもいないのに冒険者達が並んでいるって…いや、お前らだからわかるんだな。で、そうだな。売値で金貨三枚(300万円)で良いだろう。坊主、表の看板、書き直しておけよ、魔道具のレベルは2だぞ」

 こうして再び同じように作業を始めたナップルと、その動きを凝視しつつ同じ動きをしようと必死のバルジーニ。

 開店予定時間前には、すでに各属性が付与された扇子の魔道具が合計20個完成していた。
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