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“工房ナップル”顧客一号

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 工房ナップルにて。

「素晴らしい。何と充実した時間だ。これほどまでに素晴らしい時を過ごしたのは、十年以上前だったか?しかし流石はナップル。ここまでの逸品をあの速さ…いやスマン、ワシの為に作業速度を遅くしてもらったんだな。だが、それでも信じられない速さで完成させるとは、ワシも改めてまだまだだと感じたぞ」
「ありがとうございます。でも、バルジーニさんもとてもすごい集中力だったじゃないですか?」

 互いに褒め合っている二人をよそに、ディスポとNo.10ツェーンは通りに面した店の正面に、大々的に看板を作成していた。

 そこには、“工房ナップル!レベル3の魔道具、販売中!!!”と書かれており、嫌でも道行く冒険者達の目を引いていた。

「こんにちは~」
「おう、いらっしゃい」
「いや、バルジーニさんは少し奥に引っ込んでいて!!」

 工房ナップルとして、初めて冒険者が扉を開けた時に強面の爺さんが強制的な笑顔を振りまきつつ出迎えたものだから、慌ててディスポがバルジーニを奥に引っ込める。

 工房の奥の方から、フガフガ言っている声が聞こえるが、この場で誰も指摘はしない。

 残されたのは、冒険者とNo.10ツェーン、そしてナップルだ。

「えっと~、いらっしゃいませ?」

 初めての接客が良く分からず、何故か疑問形になるNo.10ツェーン

 すかさずフォローに入るナップル。

 彼女は接客の経験もあるため、問題なく対応する事が出来ている。

「どのような物をお探しでしょうか?今はこの工房の開店記念で、レベル3の魔道具を金貨四枚(400万円)で販売しております」
「表の看板にもそう書いてありましたけど、本当にレベル3の魔道具が金貨四枚(400万円)なのですか?」

 冒険者にとってみれば、やはり格安と言うイメージがあるので俄に信じられない様子だ。

「もちろんですよ。試しに使う事も出来ますが、貴方の魔法系統は風、炎、水、土のどれが一番必要ですか?」
「えっと、私はできれば炎が良いのですが、いくら練習しても魔力を上手く炎に変換できないのです」

 この時点で、この冒険者は魔力レベルがゼロではない事は確定した。

 だが、魔力移行が上手く行かないのか、魔力の操作が上手く行かないのか、炎の魔法を思い通りに発動できないらしい。

「では、こちらに来て頂けますか?」

 ナップルは、大きめの庭がある裏庭に冒険者を連れて行く。

「この扇子をもって、軽く魔力を流しつつ、あの的に向かって扇子を振ってください」

 少し疑うような表情で扇子を受け取る冒険者。

 しかし、その美しい意匠を見て感動し、この時点でこの扇子がレベル3でなくとも、仮にただの扇子であったとしても欲しくなってしまっていた。

 実際は、ただの扇子に金貨四枚(400万円)は出せないのだが、それほど気に入ったと言う事だ。

 少々扇子に見惚れた状態で、ナップルの指示通り魔力を扇子に流して視線の先にある的に向かって扇子を振った。

 すると、扇子の先から炎が渦を巻いて発生して、一瞬で的を丸焦げにしてしまった。

「えっ?何この威力??本当にレベル3なの??凄い!凄すぎます!!!」

 興奮状態の冒険者。

 いくら力を抑え作業したとはいえ、自分が作った魔道具に対してこれ程喜んでくれている冒険者を見て、嬉しそうな表情のナップル。

「買います。私、コレ買います。買わせてください。今すぐお支払いしますから!!」

 もうこれは私の物だと言わんばかりに、大切に扇子を抱え込んだ冒険者。

「ありがとうございます。ですが、一つだけ追加の機能をつけさせていただく必要がありまして、所有者制限をかけさせていただきます。申し訳ありませんが、これが販売の条件です」
「それって何ですか?」

 より扇子を握る手に力が入ってしまう冒険者。

 今更この扇子を販売できませんと言われても、納得できるわけがないからだ。

「その扇子の所有者があなたであると言う登録を、その扇子自体に刻み込むのです。そうすると、あなた以外がその扇子をもって、同じように魔力を流したとしても何も起こりません。つまり、あなた以外にはその扇子の本来の力を引き出せないと言う事です」
「あ、そんな事ですか?大丈夫です。直ぐにでもお願いします!!」

 レベル3の魔道具である扇子が手に入ると分かり、安心する冒険者。

 懐から金貨四枚(400万円)を取り出すと共に、一旦扇子をナップルに返す。

 これ程の金額を即金で出せるのであれば、ある程度経験のある冒険者なのだろう。

 この冒険者からの口コミで、販売を伸ばす事ができそうだとナップルは考えていた。

「はい、では、どちらの手でも良いので、魔力を集めて頂けますか?少しで大丈夫です」

 ナップルの指示通りに、手に魔力を集める冒険者。

 その手に集められた魔力を小さな玉の魔道具で吸収すると、そのまま扇子の持ち手にある穴にその玉を嵌め込んだ。

「これで終わりです。この所有者制限をかけた玉ですが、余程の事でなければ壊れる事はありません。ですが、壊れてしまうと、貴方も扇子の力を使う事が出来なくなりますので、その場合は、工房迄持ってきていただけますか?」
「はい!ありがとうございました!!」

 スキップするように工房を出て行く冒険者。

「やりましたね?ナップルさん。あっという間に一つ目の魔道具、販売できましたね。おめでとうございます!」
「ありがとうございます、No.10ツェーンさん。緊張しましたけど、気に入って頂けたようで、嬉しかったです。やっぱり、自分が作った道具を気に入って頂けると、とっても嬉しいですね」

 男二人が店舗の奥で相変わらずフガフガしているのをよそに、No.10ツェーンとナップルは初めての販売が上手く言った事に満足していた。

 だが、彼女達は肝心な身元調査を忘れている事を後になって指摘され、慌ててナンバーズが調査をする事になった。

 もちろん白ではあったのだが……

 そして、ナップルが想像していた通り、あの冒険者は経験豊富な冒険者であったようで、三人の仲間を引き連れて再び店に現われたのだ。

「ここですか?あなたのその魔道具を買ったお店と言うのは?看板にもあったけど、本当にレベル3の魔道具が金貨四枚(400万円)なの?ちょっと信じられないけど?」
「本当よ。あなた達もこの魔道具の力をその目で見たでしょう?」
「確かにそうね。貴方は炎の魔法がド下手だったのに、その扇子を使った瞬間、あの威力ですものね。あれを見させられて信じない訳には行かないわ」

 しかし、仲間の中には工房ナップルでの魔道具の購入に二の足を踏む者もいた。

「でも良いのですか?私達は、一応工房ワポロで全ての道具の購入やメンテナンスをしていたじゃないですか」
「そうね、別の店で魔道具を購入したとバレたら、二度とワポロで買い物はできないかもしれないわ。その後の私達の扱いも……」

 と、こんな感じだ。
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