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鍛冶士バルジーニ
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拠点で寛いでいた四人は、ジトロ帰還の気配を察知してすかさず風呂から上がり、ジトロの元に向かう。
もちろん普段はこのような事はしないが、一刻も早く状況を説明したいので、ジトロが通常帰還している時間帯に気配を探っていたのだ。
探られていたジトロは、拠点内部で気配を察知されるような事はないだろうと思っており、ほぼすべての探知系統の能力は使っていなかったので、帰宅後、即四人が部屋になだれ込んできたのを見て驚いていた。
口火を切ったのは、交渉役として同行していたイズン。
「ジトロ様、ラグロ王国の工房通りの店、手に入れる事ができそうなのですが、少々問題がありまして」
「うん?あの、初老の鍛冶士が引退しそうだからと言っていた場所?」
ジトロが、購入するために目をつけていた場所を理解している事を確認した四人。
引き続き、イズンが話す。
「そうです。交渉の末、あの場所を我らアンノウンに無償で譲ると言質を頂いたのですが、その条件が、あの工房の所有者である鍛冶士本人が、ナップルさんと共に鍛冶士として働くと言うものだったのです。無償はありがたいのですが、この条件を呑むと、今後の展開によっては鍛冶士本人、バルジーニ氏の安全が脅かされる可能性があります。その為、即答はせずに、一旦持ち帰ってきました」
突然そう言われたジトロも悩む。
バルジーニに対して魔獣を護衛に付けてしまうのは簡単だが、そうすると自分達の目的である、奴隷制度の撤廃と言う目的に向かって行動してもらう事が必須となる。
この組織、アンノウンの全てを理解した上で、秘匿情報を守り続ける必要もあるのだ。
それに、工房での作業は日中のみ。
それ以外は、安全のために全員一旦拠点に帰還する予定だった。
このままの条件で行くと、夜の工房には戦闘能力がほぼ皆無のバルジーニだけが残る事になってしまう。
「う~ん、悩むな。イズンとしては、バルジーニさんをどう見た?」
「はい、あの方は鍛冶にしか興味がなく、極論を申し上げると、鍛冶に全てをかけている方です。その他の事には一切興味がないようで、実際、同じ工房通りにいながら、ナップルさんの事を知っている様子は有りませんでした」
ナップルが最初の工房に努めていた時のすぐれた作品の数々は、その工房と、奴隷として売られた工房の鍛冶士達によって、ナップルの作品とはされていなかった。
更に、その作品を購入した冒険者は、頑固オヤジで有名なバルジーニの店には近づかなかったので、バルジーニがナップルに気が付くきっかけすらなかったのだ。
「どう考えても、バルジーニさんだけを工房に残しておく事はできない。ある程度事情を話して、夕方以降はナップル達と共に、こちらに帰還する事が条件だな。但し、彼には魔獣は付けない。今の感じだと、俺達のために諜報活動を行ったりはしてくれそうにないだろ?」
「ええ、その通りです。恐らく、最低限の食事以外は、全て鍛冶を行っていそうな感じです」
ジトロは悩んだ。
「だが、一番の安全策は、彼に俺達の事を話すのは当然リスクがあるので、少々高めでも、お金を支払う選択だが?」
「それはおそらく無理ですね。既にナップルさんの実力を目の当たりにして、虜になっています。頑としてナップルさんと共に働くという線を譲る事はないでしょう」
イズンの発言に対して残りの三人が深く頷いたのを見たジトロは、あの場所を購入する事は諦めて、当初の案である、夕刻には帰還させる事、そして、拠点で知り得た情報については完全秘匿とする事を最低条件とした。
もちろん、このような話をしつつも、他のナンバーズによってバルジーニの身辺調査は行われ、イズンの予想通り、バルジーニは問題なしと判断された。
その結論をもって、夕刻ではあるが再度ラグロ王国の工房通りに向かった四人。
工房の扉を開けた途端、奥から転がるようにバルジーニが出てきた。
「おぉ、待っていたぞ。それで、どうだった?お前達の主に聞いたのだろう?結論は?もちろん共にナップルと鍛冶をできるよな??」
慌ただしいバルジーニに苦笑いをしつつ、イズンが答える。
「基本的には、共にここで作業を行う事になるのですが、私達には数多くの秘密と、そして敵がいます。まずは、私達の秘密を決して洩らさない事。さらには、敵から身の安全を確保するため、鍛冶の作業が終わった段階で、私達の拠点に共に帰還して頂きます。これが主から許可を得た際の最低条件です。これで良ければ話を進め……」
「それで頼む。なんでも言う事は聞くぞ。ナップルと鍛冶ができるのならばな。ハハハハ、よし、早速一仕事するか??」
イズンの言葉を最後まで聞かずに、あまりの嬉しさからか暴走気味のバルジーニ。
「いえ、今話した通り、既に夕刻を過ぎていますので、身の安全のために、一旦私達の拠点に来ていただきます。そうそう、そこには炎龍がいますので、驚かないでくださいね?」
イズンは、ナップルを見ながらそう言う。
ナップルは、初めて炎龍を見たときに、無様を晒した経験があるからだ。
「も~、イズンさん、いじめないでくださいよ!!」
プク~っと頬を膨らませて文句を言うナップル。
しかし、その話を聞いたバルジーニは気が気ではなかった。
伝説ともいえる炎龍が、これから向かう拠点と言う所にいると言うのだ。
普通は信じる事はできないが、ナップルの技術の高さ、そして、事もなげに持ち込んだ魔力レベル8相当の魔獣の素材。
それらを目の当たりにしているので、本物の炎龍が見られる事に喜びを隠しきれなくなっていた。
「よし、イズン、早く拠点とやらに連れて行ってくれ。早く炎龍を見たい。ホレ行くぞ。どっちに行けば良い?」
一人扉を開けて、工房通りの道をどちらに向かえば良いか聞いてくるバルジーニ。
「まったく、このおっさんは……バルジーニさん、こちらに来て扉を閉めてください。もう少しだけ、私達の秘密を説明する必要がありそうです」
このまま拠点に連れて行くと暴走する事は間違いなさそうなので、イズンはこの場で少しアンノウンの事を説明する事にした。
「……という事なのです。ですから、いちいち外に出て人目にさらされるよりも、直接ここから転移した方が、はるかに早く拠点に戻れます」
「それほどか。だが、ここまでの力があるメンバーの一人ならば、このワシの技術が足元にも及ばないのも頷けるの。いや、あの意匠から察するに、日々の弛まぬ努力もあったのだろうな」
ほぼ全ての秘密を明かしたイズン。
それを聞いたバルジーニは、あまり驚いた表情をしていなかった。
既に、ナップルによって有り得ない力を見せられているから、耐性がついているのもあるし、鍛冶以外にはあまり興味が無いからでもある。
「この秘密、万が一外に漏らしてしまった場合には、それなりの対応をさせて頂きますので、気を付け下さいね~」
イズンに代わり、同行しているナンバーズのNo.10が少々殺気を込めてバルジーニに念を押す。
「お、おう。わかっておるさ。ワシだって、こんなに素晴らしい鍛冶士と共に働ける環境を手放すような事はしたくないからの」
秘密を漏洩した時には共に仕事ができなくなる程度では済まないのだが、鍛冶にしか興味がないバルジーニは、少々ピントのずれた答えを返す。
「それでは、戻りましょうか?」
No.10の一言と共に、瞬間に拠点に移動した四人とバルジーニ。
そこに、拠点の番龍である二体が近づいてくる。
「「きゅ~」」
「うぉ~~、本当に炎龍じゃねーか~~!!!鱗に触らせろ~~!!」
大絶叫のバルジーニと、これを予測しており、あきらめ顔の四人。
こうして、アンノウンの正式メンバーではないが、協力者と言う位置付けとも言える鍛冶士が、拠点とラグロ王国の工房通りでの生活を始める事になった。
もちろん普段はこのような事はしないが、一刻も早く状況を説明したいので、ジトロが通常帰還している時間帯に気配を探っていたのだ。
探られていたジトロは、拠点内部で気配を察知されるような事はないだろうと思っており、ほぼすべての探知系統の能力は使っていなかったので、帰宅後、即四人が部屋になだれ込んできたのを見て驚いていた。
口火を切ったのは、交渉役として同行していたイズン。
「ジトロ様、ラグロ王国の工房通りの店、手に入れる事ができそうなのですが、少々問題がありまして」
「うん?あの、初老の鍛冶士が引退しそうだからと言っていた場所?」
ジトロが、購入するために目をつけていた場所を理解している事を確認した四人。
引き続き、イズンが話す。
「そうです。交渉の末、あの場所を我らアンノウンに無償で譲ると言質を頂いたのですが、その条件が、あの工房の所有者である鍛冶士本人が、ナップルさんと共に鍛冶士として働くと言うものだったのです。無償はありがたいのですが、この条件を呑むと、今後の展開によっては鍛冶士本人、バルジーニ氏の安全が脅かされる可能性があります。その為、即答はせずに、一旦持ち帰ってきました」
突然そう言われたジトロも悩む。
バルジーニに対して魔獣を護衛に付けてしまうのは簡単だが、そうすると自分達の目的である、奴隷制度の撤廃と言う目的に向かって行動してもらう事が必須となる。
この組織、アンノウンの全てを理解した上で、秘匿情報を守り続ける必要もあるのだ。
それに、工房での作業は日中のみ。
それ以外は、安全のために全員一旦拠点に帰還する予定だった。
このままの条件で行くと、夜の工房には戦闘能力がほぼ皆無のバルジーニだけが残る事になってしまう。
「う~ん、悩むな。イズンとしては、バルジーニさんをどう見た?」
「はい、あの方は鍛冶にしか興味がなく、極論を申し上げると、鍛冶に全てをかけている方です。その他の事には一切興味がないようで、実際、同じ工房通りにいながら、ナップルさんの事を知っている様子は有りませんでした」
ナップルが最初の工房に努めていた時のすぐれた作品の数々は、その工房と、奴隷として売られた工房の鍛冶士達によって、ナップルの作品とはされていなかった。
更に、その作品を購入した冒険者は、頑固オヤジで有名なバルジーニの店には近づかなかったので、バルジーニがナップルに気が付くきっかけすらなかったのだ。
「どう考えても、バルジーニさんだけを工房に残しておく事はできない。ある程度事情を話して、夕方以降はナップル達と共に、こちらに帰還する事が条件だな。但し、彼には魔獣は付けない。今の感じだと、俺達のために諜報活動を行ったりはしてくれそうにないだろ?」
「ええ、その通りです。恐らく、最低限の食事以外は、全て鍛冶を行っていそうな感じです」
ジトロは悩んだ。
「だが、一番の安全策は、彼に俺達の事を話すのは当然リスクがあるので、少々高めでも、お金を支払う選択だが?」
「それはおそらく無理ですね。既にナップルさんの実力を目の当たりにして、虜になっています。頑としてナップルさんと共に働くという線を譲る事はないでしょう」
イズンの発言に対して残りの三人が深く頷いたのを見たジトロは、あの場所を購入する事は諦めて、当初の案である、夕刻には帰還させる事、そして、拠点で知り得た情報については完全秘匿とする事を最低条件とした。
もちろん、このような話をしつつも、他のナンバーズによってバルジーニの身辺調査は行われ、イズンの予想通り、バルジーニは問題なしと判断された。
その結論をもって、夕刻ではあるが再度ラグロ王国の工房通りに向かった四人。
工房の扉を開けた途端、奥から転がるようにバルジーニが出てきた。
「おぉ、待っていたぞ。それで、どうだった?お前達の主に聞いたのだろう?結論は?もちろん共にナップルと鍛冶をできるよな??」
慌ただしいバルジーニに苦笑いをしつつ、イズンが答える。
「基本的には、共にここで作業を行う事になるのですが、私達には数多くの秘密と、そして敵がいます。まずは、私達の秘密を決して洩らさない事。さらには、敵から身の安全を確保するため、鍛冶の作業が終わった段階で、私達の拠点に共に帰還して頂きます。これが主から許可を得た際の最低条件です。これで良ければ話を進め……」
「それで頼む。なんでも言う事は聞くぞ。ナップルと鍛冶ができるのならばな。ハハハハ、よし、早速一仕事するか??」
イズンの言葉を最後まで聞かずに、あまりの嬉しさからか暴走気味のバルジーニ。
「いえ、今話した通り、既に夕刻を過ぎていますので、身の安全のために、一旦私達の拠点に来ていただきます。そうそう、そこには炎龍がいますので、驚かないでくださいね?」
イズンは、ナップルを見ながらそう言う。
ナップルは、初めて炎龍を見たときに、無様を晒した経験があるからだ。
「も~、イズンさん、いじめないでくださいよ!!」
プク~っと頬を膨らませて文句を言うナップル。
しかし、その話を聞いたバルジーニは気が気ではなかった。
伝説ともいえる炎龍が、これから向かう拠点と言う所にいると言うのだ。
普通は信じる事はできないが、ナップルの技術の高さ、そして、事もなげに持ち込んだ魔力レベル8相当の魔獣の素材。
それらを目の当たりにしているので、本物の炎龍が見られる事に喜びを隠しきれなくなっていた。
「よし、イズン、早く拠点とやらに連れて行ってくれ。早く炎龍を見たい。ホレ行くぞ。どっちに行けば良い?」
一人扉を開けて、工房通りの道をどちらに向かえば良いか聞いてくるバルジーニ。
「まったく、このおっさんは……バルジーニさん、こちらに来て扉を閉めてください。もう少しだけ、私達の秘密を説明する必要がありそうです」
このまま拠点に連れて行くと暴走する事は間違いなさそうなので、イズンはこの場で少しアンノウンの事を説明する事にした。
「……という事なのです。ですから、いちいち外に出て人目にさらされるよりも、直接ここから転移した方が、はるかに早く拠点に戻れます」
「それほどか。だが、ここまでの力があるメンバーの一人ならば、このワシの技術が足元にも及ばないのも頷けるの。いや、あの意匠から察するに、日々の弛まぬ努力もあったのだろうな」
ほぼ全ての秘密を明かしたイズン。
それを聞いたバルジーニは、あまり驚いた表情をしていなかった。
既に、ナップルによって有り得ない力を見せられているから、耐性がついているのもあるし、鍛冶以外にはあまり興味が無いからでもある。
「この秘密、万が一外に漏らしてしまった場合には、それなりの対応をさせて頂きますので、気を付け下さいね~」
イズンに代わり、同行しているナンバーズのNo.10が少々殺気を込めてバルジーニに念を押す。
「お、おう。わかっておるさ。ワシだって、こんなに素晴らしい鍛冶士と共に働ける環境を手放すような事はしたくないからの」
秘密を漏洩した時には共に仕事ができなくなる程度では済まないのだが、鍛冶にしか興味がないバルジーニは、少々ピントのずれた答えを返す。
「それでは、戻りましょうか?」
No.10の一言と共に、瞬間に拠点に移動した四人とバルジーニ。
そこに、拠点の番龍である二体が近づいてくる。
「「きゅ~」」
「うぉ~~、本当に炎龍じゃねーか~~!!!鱗に触らせろ~~!!」
大絶叫のバルジーニと、これを予測しており、あきらめ顔の四人。
こうして、アンノウンの正式メンバーではないが、協力者と言う位置付けとも言える鍛冶士が、拠点とラグロ王国の工房通りでの生活を始める事になった。
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