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ドワーフのナップル(3)

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「まったく、どこの国でも、いえ、バイチ帝国やジトロ様のいらっしゃったスミルカの町は除きますが、奴隷!奴隷!!」
「本当、嫌になっちゃいますね~。でも、驚きました。ナップルさん、なんでお店に大損害を与えちゃったのでしょうか?錬金作業中に、何かが爆発しちゃったのかしら~?」

 どこまでも天然で、あまり人を疑う事を知らないナナ(No.10ツェーン)は、自分の経験を含めて損害になり得そうな事象を考えていた。

 そう、彼女はジトロから与えられていた拠点の一部を、錬金作業中に派手に吹き飛ばした経験を持つ。

 もちろんその有り余る魔力レベルによって彼女自身に一切のダメージはなかったが、その後、イズンから目玉が飛び出るほど怒られて、罰として一時期お小遣い完全停止の刑に処されている。

「あなた、バカね。あの店員の態度。ナップルさんの名前を出した時の目を見た?明らかに妬みの感情が溢れていたわよ。仮に、本当に損害を与えたとして、あの店の商品レベルの損害ならばたかが知れているし、あなたの様に・・・・・・工房を吹き飛ばしたなら話は別だけど、あの店自体に建て替えた形跡や、修理の形跡はなかったわ」
「そうなのですか?それでは、私と悲しみを共有しては頂けなさそうですね~」

 少しずれた回答に、少々頭痛がするモモ(No.9ノイン)。

 しかし、毎度の事なので、こんな事でいちいち気にしていたら負けだと理解しているために、急ぎ店員に聞いた店に歩を進める。

 やがて店の前に辿り着くと、店の中から怒号と何かをひっくり返すような音が聞こえてきた。

「このウスノロが!いつになったらまともな作業ができるんだ!!お前、今日も給金差っ引くからな!」

 外に聞こえて来る剣幕に、不思議そうに顔を見合わせる二人。

 しかし、その程度の怒号は彼女達にとって恐怖でも何でもないので、普通に店に入る。

 彼女達が真に恐れるのは、今の所イズンの経済制裁だけだったりする。

「「こんにちは~」」
「おう、いらっしゃい。これは可愛らしいお嬢ちゃん達だ。どんな武器が欲しいんだ?」

 少し前の怒号などなかったかのように、にこやかに話しかけてくる、いかつい体をした鍛冶士らしき人物。

「えっと、ここにいる私の友人が、ナップルさんに貸している物があるので、その確認をさせて頂きに来たのですが、ナップルさんはいますか?」
「そうなのです~。私、ナップルさんを探していて、ラグロ王国西門の近くにある店で、こちらにいると聞いたのですが~」

 モモ(No.9ノイン)とナナ(No.10ツェーン)の二人は、単純にナップルを探しに来たと伝えてしまうと、さっきの店と同じように情報をはぐらかされる可能性があると判断し、あくまで、貸している物についての問合せという体でこの店に来る事にしていた。

「あ~、あんたにも金借りてんのか。だが、あいつは既に虹金貨八枚(8000万円)相当の借金があってな。利子の返済すらできていない状況だ。いくら貸しているかは知らないが、残念だが諦めてもらった方が良いな」

 貸している物が何かを一言も話していないのに、借金と決めつけてかかる鍛冶士らしき男。

「そうですか、残念です~。でも、この国の法律で、借金は魔法で縛った証文があると思うのですが、見せて頂くことはできますか?そうでないと、私もあきらめきれないのです~。でも、その証文を見て、本当に虹金貨と言う借金であれば、あきらめがつくと思うのです」
「おう、良いぜ。嬢ちゃんには悪いが、諦めも肝心だからな」

「でも、とんでもない金額ですね。普通、こんな金額を虹金貨で支払えないと思うのですが、ナップルさんの身内の方とかが、素材を販売して借金に充てようとかはしていないのですか?」
「ん?ああ、あいつには身内はいないぜ。それにな、虹金貨八枚(8000万円)以上の素材となると……そうだな、伝説の龍の牙、特に炎龍であれば、借金は一発でなくなるだろうな」

 一旦魔法の証文を取りに行こうとしていた鍛冶士が答える。

 実は炎龍の鱗を素材として得るには、偶然落ちている物を拾う他ないのだ。

 直接炎龍の鱗を取ろうとすると、危険度が高すぎて今まで誰一人として成功した者はいないからだ。

 実際、市場に出回った事のある龍の鱗は、とある冒険者が偶然拾って、大金を得たと言う実績しかない。

 以前、ドストラ・アーデが炎龍の鱗を手に入れたのは、本来は有得ない程貴重な物であり、そのため、ドストラ・アーデは、どこかで購入したと思っていたのだ。

 しかし、今回は牙を指定している。

 これは未だかつて一度しか発見された事が無い程貴重な物だ。

 それも、牙の欠片だけしか見つかっていないが、貴重な素材として鱗の数十倍の金額で取引された記録が残っている。

「そうですか~。では、私はどうしても彼女から借りを返してもらいたいので、もし私達が炎龍の牙を納品したら、彼女を私達に譲渡して頂けますか~?」

 普通に考えれば、絶対に不可能な炎龍の牙の納品。

 しかし、万が一その牙が手に入れば、この工房としても今までにない程の性能の武器やらアイテムを造れる可能性が高い。

 龍の牙を加工する事は、この国の鍛冶士にとっての夢であり、憧れでもある。

 その為に有得ないとは思いつつ、この鍛冶士は軽い気持ちで返事をする。

「ああ、良いぜ。牙の欠片だけでもそれ位の価値はあるからな。だが、今まで龍の牙が市場に出たのは、俺の知る限り一度だけだ。まっ、期待せずに待ってるぜ!」

 そう言って少し経つと、証文をもって返ってきた。

「ほら、嬢ちゃん。これが証文だ。ここに、しっかり虹金貨八枚(8000万円)と書いてあるだろ?それに、利息も膨らんできているから、もうあいつは借金奴隷から解放されることは無い。あきらめるんだな」

 証文を見たモモ(No.9ノイン)は、鍛冶士に対して二つ交渉をした。

「本当ですね、ありがとうございました。では、一応本人に貸した物は諦める事を直接伝えたいので、話をさせて頂いても良いですか?それと、さっきの龍の牙の件ですけど、こっちも私達との契約として証文を作っても良いですか?」
「おいおい、本気か?ま、俺としては証文作っても問題ないがな。期待せずに待ってるから、納期なんかは書かないでおいてやるよ。じゃあ、証文作っている間にナップルと話すと良い」

 通常、契約としては納期が書かれるのだが、その場合、納期未達時のペナルティーが発生する。

 今回はまるで御伽噺のような素材の入手である事、貸した物を諦めなくてはいけなくなっていると思われている事から、特に龍の牙の納期については記載されない事になった。

 つまり、納品できずとも何のペナルティーもないのだ。

 ただし、契約は牙とナップルの交換。

 コレを違えてしまうと、魔法による強制的な罰がある。

 内容は互いに決める事になるので、今回モモ(No.9ノイン)は、逆に虹金貨八枚(8000万円)を罰則に決めて了承を貰った。

 この契約が結ばれると、証文自体は契約が完了しない限り消滅する事は無い。

 とは言え、アンノウンのメンバーのレベルであれば、容赦なく消滅させる事はできるのだが・・・・・・
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