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ギルドの混乱

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 俺は一旦受付業務を止めて休憩し、一応与えられている個室で寛いでいる。

 そう、個室だ。

 何と言っても役職付き、副ギルドマスター補佐心得だからな。

 ただし、俺一人がようやく座れるほどの個室。

 天井も低いし、日の光は当たらない、年中ジメッとしている素晴らしい環境。

 物置とも言うかもしれない。

 畜生が!!あのクソギルドマスター!!

 だが今は休憩をしている時間で、もちろん他人が入るスペースはないので、魔力レベルにものを言わせて遠方の監視を行おうとしたのだが、受付が騒がしくなった。

「ジトロ副ギルドマスター補佐心得!すぐに受付に来てください」

 焦ったような受付が、廊下からこちらを覗くようにして叫んでいる。

 彼女から見れば、今の俺は何か罰を与えられて閉じ込められているように見えるのだろうな。

 そんな悲しい事を思いつつ、慌てている彼女について行くために腰を上げる。

「わかりました。直ぐに行きます」

 のっそりと立ち上がり、受付に向かう俺。

 あ~、休憩時間、あと数分あったのにな~。

 いや、俺は魔力の関係で体は疲れはしないのだけれど、心は疲れるんだよ。

 受付に近づく程に、ざわつきが大きくなる。

 やだな~、また面倒事かよ!行きたくないな~。このまま帰るか?

 いや、副ギルドマスター補佐心得としての責務からは逃げる訳には行かない。

 心の中での葛藤を抱えつつ、受付に到着すると……わかりましたよ、騒動の原因。

 あっ、俺、普段は何処から情報が洩れるかわからないので、探索とか、余計な事は一切していない。

 で、その原因だけど……偽装によって覆面をしているように見えるNo.10ツェーンが、気絶しているドストラ・アーデの髪の毛を鷲掴みにして、立っているのだ。

 うぉ~い。

 確かに俺は、捕縛後の具体的な指示を忘れたよ?

 でも、これってあんまりじゃない??

 一応、覆面状態になっているのは、しっかり者と思っていた・・・・・No.7ジーベンの指示だろうか。

 だが、何故ここに!!

 マズイぞ。

 No.10ツェーン、俺との関係を疑われるような、余計な事を言うなよ!

 輝かしい副ギルドマスター補佐心得の立場が危うくなるからな。

 いや、そうでなくとも、ゆっくり、じっくり、私怨も含めてクソギルドマスターから情報を聞き出す予定だったのに、これだけ公になってしまえば、きっと王都への連行命令が来てしまう。

「ジトロ副ギルドマスター補佐心得、このドストラ・アーデはバイチ帝国の一行を襲おうとした逆賊ですので、捕縛の上でお連れしました。煮るなり焼くなり刻むなり、好きになさって下さい。実はこの男、何やら組織からの命を受けたと言っておりました。残念ながら、その組織の真の目的や、組織自体の詳細はわかりません。ですが組織名はバリッジと言うそうです」

 こんなクソを刻んでも何にもならねーよ、恐ろしい事を言うな!!

 だが、ここまで人目を引いているのだ。

 逆に、俺とは初対面の体で処理すれば、今後も関係性を疑われる事は無いだろう。

 よし、そうしよう。

 唯一の不安はNo.10ツェーンがこちらの意図を汲んでくれるかだが、ここはNo.7ジーベンの指示に期待しよう。

 頼むぞ、No.7ジーベン!!

「ありがとうございます。突拍子もない事ですので、少々驚いていますが……まさか他国の来賓を襲うとは、にわかには信じられません。何か証明する手段は有りますか?」
「もちろんです、ジトロ副ギルドマスター補佐心得」

 突然、新種の魔獣を出現させたNo.10ツェーン

 だ、ダメだ。何とかしてくれ。

 こんな場所で新種の魔獣を出現させたらパニックになるだろう?

 冒険にこんな魔獣に襲われたら!!と思われたら、依頼を受けてくれる冒険者がいなくなるでしょ~~が!

 まずい。まずいぞ。

 No.10ツェーンは、俺の想定をはるかに超える天然なのかもしれない。

 いや、俺が慌ててどうする。

 この場を収められるのは俺しかいない!!

 奮い立て、ジトロ副ギルドマスター補佐心得!!

「これは、新種の魔獣ですね。ですが、これだけでは証拠としては弱いですよ。それと、新種の魔獣であれば、冒険者達の脅威と成る可能性が高いのですが、他には存在しているのでしょうか?」
「……あの場所にはその魔獣しかおりませんでした。万が一他の魔獣が出たとしても、その程度の魔獣であれば雑魚ですので、問題ありません。それに、この魔獣は証拠そのものではなくて、ですね……証拠は、王都に向っている一行、ハンネル王国の騎士やバイチ帝国の人々が事情を知っていますので、後ほどその証言を聞かれると良いと思います」

 だ、ダメだ。確かに君達にとってみれば、この程度の魔獣は雑魚でしょ。わかっていますよ!

 でも、俺が聞いた真の意味は、他の冒険者達への脅威になり得るか?だ。

 ここは、こんな新種の魔獣は他には一切存在しないと言い切って欲しかった。

 こうなったら、俺が少々大声で説明する事で、聞き耳をたてている冒険者達を安心させるしかない。

 多少の嘘も含まれるが、緊急事態故に仕方がない。

「なるほど。わかりました。騎士達も含めて後ほど調査します。それにしても、新種の魔獣ですか。たしかにあまり強くない魔獣ですね。この程度であれば、貴方の言う通り問題ないでしょう。これはこちらで預かっても良いですか?」

「はい、差し上げます~。ジトロ副ギルドマスター補佐心得」

 No.10ツェーンは任務が終わるのが嬉しいのか、話し方がいつもの話し方に戻ってきている。

 すかさず部下に目配せし、新種の魔獣を裏に運び込ませる。

 あまり長い時間観察されると、万が一鑑定の能力を持って本当の魔獣の力を判別されると困るからな。大丈夫だと思うが……

 だが、実際のあの魔獣の魔力レベルは21だった。

 既に死亡しているから誤差があるかもしれないが……普通の冒険者なら、いや、俺達以外なら、どれ程束になっても瞬殺されるのがオチだ。

「それでは、後はお任せしますね~。ジトロ副ギルドマスター補佐心得」

 語尾にハートが浮かんできそうな感じで、No.10ツェーンはギルドから去っていく。

 くっ、これ程俺の心にダメージを負わせておいて、あのド天然!!

 だが、俺の声が聞こえた冒険者達は、安心したような会話をしている。

「な~んだ。新種と言っても、必ずしも強いとは限らないんだな」
「本当ね、暫く休業しなくちゃいけなくなるかと思って、心配しちゃったわ」

 ふ~、良し。

 だがこの場に打ち捨てられた、新種の魔獣よりも悪い扱いを受けていたであろうクソギルドマスター。

 こいつは、早めに尋問して情報を得ないとならない。

 何故バイチ帝国を襲ったのか、新種の魔獣をどうやって生み出したのか。

 いや、こいつが生み出したと決定したわけではないが、少なくともバリッジが生み出した事は間違いない。

 おそらく来るであろう、王都からの招集命令がある前に済ませる必要があるのだが、どうするか。

 No.10ツェーンのせいで、このクソギルドマスターがこのギルドにいる事は周知の事実だ。

 噂好きの冒険者達の目の前で起こったこの事件、少なくとも一時間経たずにスミルカの町中に噂はまき散らされるだろう。

 はっ!成程、合点が言った。これは前世の漫画でもあったな。

 これだけ情報をまき散らせば、真の親玉が、口封じにこのクソギルドマスターを消しに来るんだ。

 そして、そこから芋づる式。

 やるな、No.10ツェーン

 まさかここまで考えているとは。

 そうと分かれば、これからこいつの監視をしつつ、誰もいない時に個人的に尋問するとしよう。

 フフフ、今の俺は、副ギルドマスター補佐心得ではあるが、暫定ギルドマスターになるはずだから、夜の職員の配置も思うがままだ。
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