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ブサ村(7)
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クロイツは異能の情報漏洩を心配したのだが、そんな事はないだろうと思いなおす。
村長の感覚としては、いつの間にか目の前が真っ暗になったり明るくなったりしているだけなので、誰も使えないとされている収納魔法によって出し入れされていたと説明できるはずがないのだ。
村長をズルズルと雑に引きずりながらも相変わらず緩い入門を済ませると、ギルドに向かう。
「これで依頼達成だな。他は全て始末した」
以前食事に誘おうかと思っていた受付であるミューテルにグルグル巻きにされている村長を渡して、報酬すら受け取らずにさっさとギルドを後にするクロイツとリサ。
クロイツとしては、これ以上リサの心をざわつかせる可能性のある存在を視界に入れたくなかったのだ。
「これで今日の依頼は達成だ!どうだリサ?まだかなり早え~から、川辺に行ってグロナスの肉でも食いながらゆっくりするか?」
「はい!ありがとうございます、師匠!!」
以前倒したグロナスだが、比喩でもなんでもなく本当に頬が落ちるほど美味だったのを覚えている二人。
リサは、相変わらず言葉は少々荒いながらも、実際はとても優しいクロイツに陶酔していた。
散々飲んで、食べて、二人で楽しい一時を過ごすつもりが、楽しすぎて野営までしてしまった二人は、翌日朝に再び入門してギルドに到着する。
「師匠、随分と慌ただしいですね?」
「そうだな。多分、闇の奴隷商の詳細が分かったから、討伐に向かうとかなんとかじゃねーの?もう関わりたくねーけどな」
とかなんとか言って、人助けであれば受けるのですよね……とリサは心の中だけで思って微笑んでいる。
「あっ、クロイツ様、リサ様。昨日は報酬も受け取らずに帰ってしまうので、大変だったのですよ!」
「おっと、そうだった。すまないな。で、今日はなんだか慌ただしいが、どうした?」
受付のミューテルが呆れる様に報酬を出しながらも、クロイツの問いかけに応える。
「昨日、お二人が闇の奴隷商支部のトップを捕縛して連れてきて下さいましたよね?喋れない状態になっていましたけど……」
少々ジト目で見ているミューテルの視線を、何も不都合はないとばかりに見つめ返しているクロイツ。
「あの男は本部の情報は持っていないと判断されて処罰されたのですが、私達が掴んでいた資産を回収に言った所、変わり果てた村が有ったのです。まぁ、そこは事情があるので何も問題はないのですが。で、事前情報通りに地下に財宝があったのですが、想定よりも遥かに少なく、既に本部に資金が動いたのではないかと言われているのです」
「……そうか。で、俺達も疑われている……と?」
もちろん疑われるも何も、実際にクロイツが転移で直接地下に赴いて強奪しているのだが……
ギルドに対する不信感、そして闇の奴隷商に直接的にダメージを与えるためにこうしており、その資金は赤い奴隷紋を持つ人々…つまりは意図せず強制的に奴隷となっている人々を救うために使うと決めていた。
「いいえ。地下の侵入経路には罠が全て起動していない状態で残っていたそうです。それに、侵入時には経路に足跡が必ず残るような仕掛けがあったそうで、一人だけの足跡……各家の住民であろう足跡しか残っていなかったと報告を受けています。そもそも足の大きさからお二人ではあり得ませんので、一切疑われてはおりませんよ」
想定以上に疑いがかかっていない事に安堵した二人は、報酬を受け取ると数日はゆっくり過ごす事にした。
特に、ここ暫くはリサの精神的・肉体的負担が多かったと反省したクロイツによって、半強制的に休暇を取って、二人で遊んだり、只々ボーっとしたり、緩やかに過ごしていた。
時間が出来れば、色々な事を考えるのも必然。
『う~ん、リサを独り立ちさせるまで面倒見るのは当然だが、俺の野望も並行して進めて行かねーとな。良く分からねーが、前世と同じく寂しい独り身が確定しそうだ』
と、クロイツは“彼女欲しい病”が再発していた。
ギルドの受付は色々あって最早対象外。
最初の出会いのチャンスであった謎の貴族と思われる人物はもっと対象外。
中々次のチャンスが訪れない事に不安を感じつつも、何故かリサと共にいるだけで心が満たされている自分に気が付いた。
とは言えまだ幼いリサの自由を縛るつもりもなく、一人で安全に過ごせるだけの力をつけるまで面倒は見るが、その後はリサ本人の意思で自由にさせるつもりだ。
「いつの間にか、リサに俺自身も救われていたのかもしれねーな。血の繋がらない妹と弟子……か。大切な存在でもいつかは巣立ってもらわないとな」
そう考えると少しだけ寂しい気もしなくもないクロイツだが、横で幸せそうな顔で寝息を立てているリサを見ると、只々リサの幸せを願える気持ちになっていた。
村長の感覚としては、いつの間にか目の前が真っ暗になったり明るくなったりしているだけなので、誰も使えないとされている収納魔法によって出し入れされていたと説明できるはずがないのだ。
村長をズルズルと雑に引きずりながらも相変わらず緩い入門を済ませると、ギルドに向かう。
「これで依頼達成だな。他は全て始末した」
以前食事に誘おうかと思っていた受付であるミューテルにグルグル巻きにされている村長を渡して、報酬すら受け取らずにさっさとギルドを後にするクロイツとリサ。
クロイツとしては、これ以上リサの心をざわつかせる可能性のある存在を視界に入れたくなかったのだ。
「これで今日の依頼は達成だ!どうだリサ?まだかなり早え~から、川辺に行ってグロナスの肉でも食いながらゆっくりするか?」
「はい!ありがとうございます、師匠!!」
以前倒したグロナスだが、比喩でもなんでもなく本当に頬が落ちるほど美味だったのを覚えている二人。
リサは、相変わらず言葉は少々荒いながらも、実際はとても優しいクロイツに陶酔していた。
散々飲んで、食べて、二人で楽しい一時を過ごすつもりが、楽しすぎて野営までしてしまった二人は、翌日朝に再び入門してギルドに到着する。
「師匠、随分と慌ただしいですね?」
「そうだな。多分、闇の奴隷商の詳細が分かったから、討伐に向かうとかなんとかじゃねーの?もう関わりたくねーけどな」
とかなんとか言って、人助けであれば受けるのですよね……とリサは心の中だけで思って微笑んでいる。
「あっ、クロイツ様、リサ様。昨日は報酬も受け取らずに帰ってしまうので、大変だったのですよ!」
「おっと、そうだった。すまないな。で、今日はなんだか慌ただしいが、どうした?」
受付のミューテルが呆れる様に報酬を出しながらも、クロイツの問いかけに応える。
「昨日、お二人が闇の奴隷商支部のトップを捕縛して連れてきて下さいましたよね?喋れない状態になっていましたけど……」
少々ジト目で見ているミューテルの視線を、何も不都合はないとばかりに見つめ返しているクロイツ。
「あの男は本部の情報は持っていないと判断されて処罰されたのですが、私達が掴んでいた資産を回収に言った所、変わり果てた村が有ったのです。まぁ、そこは事情があるので何も問題はないのですが。で、事前情報通りに地下に財宝があったのですが、想定よりも遥かに少なく、既に本部に資金が動いたのではないかと言われているのです」
「……そうか。で、俺達も疑われている……と?」
もちろん疑われるも何も、実際にクロイツが転移で直接地下に赴いて強奪しているのだが……
ギルドに対する不信感、そして闇の奴隷商に直接的にダメージを与えるためにこうしており、その資金は赤い奴隷紋を持つ人々…つまりは意図せず強制的に奴隷となっている人々を救うために使うと決めていた。
「いいえ。地下の侵入経路には罠が全て起動していない状態で残っていたそうです。それに、侵入時には経路に足跡が必ず残るような仕掛けがあったそうで、一人だけの足跡……各家の住民であろう足跡しか残っていなかったと報告を受けています。そもそも足の大きさからお二人ではあり得ませんので、一切疑われてはおりませんよ」
想定以上に疑いがかかっていない事に安堵した二人は、報酬を受け取ると数日はゆっくり過ごす事にした。
特に、ここ暫くはリサの精神的・肉体的負担が多かったと反省したクロイツによって、半強制的に休暇を取って、二人で遊んだり、只々ボーっとしたり、緩やかに過ごしていた。
時間が出来れば、色々な事を考えるのも必然。
『う~ん、リサを独り立ちさせるまで面倒見るのは当然だが、俺の野望も並行して進めて行かねーとな。良く分からねーが、前世と同じく寂しい独り身が確定しそうだ』
と、クロイツは“彼女欲しい病”が再発していた。
ギルドの受付は色々あって最早対象外。
最初の出会いのチャンスであった謎の貴族と思われる人物はもっと対象外。
中々次のチャンスが訪れない事に不安を感じつつも、何故かリサと共にいるだけで心が満たされている自分に気が付いた。
とは言えまだ幼いリサの自由を縛るつもりもなく、一人で安全に過ごせるだけの力をつけるまで面倒は見るが、その後はリサ本人の意思で自由にさせるつもりだ。
「いつの間にか、リサに俺自身も救われていたのかもしれねーな。血の繋がらない妹と弟子……か。大切な存在でもいつかは巣立ってもらわないとな」
そう考えると少しだけ寂しい気もしなくもないクロイツだが、横で幸せそうな顔で寝息を立てているリサを見ると、只々リサの幸せを願える気持ちになっていた。
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