上 下
19 / 159

(18)

しおりを挟む
 四日ほど移動している中で、やはり魔物が襲い掛かって来る事が有った。

 一瞬馬が嘶いたかと思うと、急停止したのだ。

 その後、前後にいるはずの護衛の冒険者が馬と共に急いで移動する気配を感じ、幌を少しだけ空けて周囲を確認する湯原。

 本人のレベルは水野と共に永遠の1である為、気配察知と言われる便利な能力は持っていない。

 馬と共に冒険者が移動した気配と言うのも、大きな音を立てていたので誰にでも気が付けるものだ。

 そう時間がかからずに戻ってきた冒険者は、小さ目の水晶の様な物を手にしていた。

 少し遠目で見えただけだが、恐らく魔核だろうと言う事だけは理解できる。
 
 流石に四日も共に移動していると、互いに少しくらいは会話をする事も有った。

 どうしても移動距離が稼げずに夜が更け、町に到着できる可能性が低いと判断されて野営を行った日が有ったのだが、この日は特に冒険者から情報を得る事が出来ていた。

……パチパチ……

 焚火を囲んで、御者、水野、湯原、冒険者二人が食事をしている。

「お二人さん、新婚ホヤホヤの旅行ってとこかな?この馬車に乗っていると言う事は、縁結びのあのダンジョン跡地かな?」

 大剣を地面に乱雑に突きさして話しかけてくるのは、女性の冒険者。

 真っ赤な髪をポニーテールにして、その引き締まった肉体は正に美の一言しか出てこない程に均整の取れた鍛えられ方をしている。

「そうに決まってんだろ?わかりきってる事を聞くんじゃねーよ。なぁ?お二人さん」

 この男性は、湯原や水野と同じくフード付きの外套を羽織ってはいるが、フードは外しているので、女性と同じく真っ赤な髪が良く見える。

 魔法を攻撃の主体としているようで、短い杖を大切そうに懐にしまい込んでいる。

 会話が進む中で、湯原と水野は非常に面白い情報を得る事が出来たと共に、やはり常に互いの呼び方まで気を付けていて正解だったと安堵する。

 それは…‥‥

「実はよ、知っているかもしれないが、少し前に王都のギルドで召喚者が出たんだよ。で、そいつらが冒険者の登録をしたんだが、歴史上、同時にダンジョンマスターが召喚されているのは間違いない。辺鄙な所に移動する連中程その疑いがあるから、正直に言うと、俺はお前達がダンジョンマスターじゃないかと疑っていた」

「疑っていた・・……と言う事は、疑いは晴れたと言う事で良いですか?」

「あぁ。申し訳ないが、レベル鑑定をさせて貰ったからな」

 いつの間にか鑑定を掛けられていた事に驚くが、永遠のレベル1では阻害する事は出来ないので、今後対策が必要だと心に留めて置く湯原。

 今この時でも冒険者の二人は攻撃のそぶりを一切見せないので、鑑定によって自分達が不利になる情報は見えていないのだろうと取り敢えずは判断するが、視線は厳しく二人の冒険者を見つめ、何をおいても水野を守れる姿勢を取る。

「おいおい、悪かったって。もうこれっぽっちも疑ってはいねーから、そう緊張しないでくれ」

「アンタが余計な鑑定をするからでしょ?って、相棒がごめんね。召喚は一度に行われるので、マスターも既に召喚されてから三週間程度たっているはず。マスターはレベル1不変である為に必ず身を守る護衛を付けているから、召喚直後であればそのような事は無いらしいけど、流石に三週間も経っていれば、護衛を付けていない事は今まであり得ないと言うのが通説なのよ」

「そうそう。それで、俺はそこの奥さんがマスターで、旦那が護衛と踏んだわけだが、両人共にレベル1。仮にあんたらがダンジョンマスターだとしたら、とんだ世間知らずの突然変異、護衛すら呼べない出来損ない以外には考えられねーからな」

「それに、召喚者はこっちでは聞いた事の無い様な不思議な名前で呼び合っているから、お二人さんとは完全に違うわ。私は最初からそう言っていたけど、万が一マスターであれば一攫千金だからと言って鑑定まで行っていたってわけなのよ。本当にごめんね」

「はぁ、まぁ、済んだ事は良いですよ。疑いも晴れているようですから。カーリ湯原も良いだろ?」

「え?はい。大丈夫です。ところで、お二方はこう言った護衛を常にされているのですか?」

 ここぞとばかりに、少しでも情報を集めようとする水野。

 突然核心を突かれた時には焦りもしたが、横にいる湯原が動じる事無く自分を守ろうとしている動きを見て惚れ直していた事もあり、余計な動揺が表に出る事は無かった。

 逆に、目がハートマークになって赤い顔で湯原を見ている所を冒険者二人にはしっかりと見られているのだが、その姿を見た冒険者二人は、完全に新婚で浮かれている普通の人であると改めて確信していた。

「俺達は、このコースの依頼は初めてだな。思っていた以上に魔物が出ねーから、鍛錬を兼ねた依頼のつもりだったが、正直当てが外れたと言う思いはあるぜ」

「そうそう。今回は召喚者の噂を聞いて王都に急いできたので、辺鄙な場所に移動するマスターを始末すると言う一縷の望みにかけてこの依頼を受けたのよ。結果大外れだったけどね。あ、安心して。依頼はきちんとこなすから」

 二人が想定した以上に召喚者の情報は知れ渡っており、更には完全にダンジョンマスター側の人間は冒険者達の糧として見られている事実を突きつけられた。

 ただ、この数日だけ行動を共にしたこの二人のように、気の良い冒険者もいるのだな……とわかっただけでも収穫なのだろうか。

 こうして周辺に出て来ていた魔物のレベルが2から3程度であると言う情報も得て、この日の夕食は終了した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記

山下敬雄
ファンタジー
年齢不詳の美人校長に捨て石にされたはずの男子生徒がダンジョンでレアドロップを掘り当て、愛しき我が学びの校舎へと戻るそんなダークでちょっとエッチな毎日がはじまる。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...