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エピローグ
終章
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大川の川縁で、親子が凧揚げをしていた。
若い夫婦と、幼い少年。まだ四つか五つだろう。その様子を、堤防の上から甚蔵は紅子と肩を並べて眺めていた。
年が明けて、安永十年になっていた。新春である。その名の通り、今年の正月は暖かかった。
阿弥陀の乱と呼称される反乱は、残党狩りを含めて終了していた。智仙とその親族は、本山堂で自決し火を放った。幹部の僧侶は磔に処され、内通者だった阿部志摩守は斬首。そして、大奥で布教をしていた高岳は、棄教し今後は意次の政事に大奥は協力するという事を約して赦された。また大獄院仙右衛門を排除した益屋は、浅草に強い影響力を持ち更なる力を得たという。
たった一人の妄想から始まった事が、世を大きく変えた。そして、勝った者と敗れた者を、はっきりと分けた。しかし逸撰隊は、果たして勝利したのかどうかわからない状態だった。
二十三名だった隊士は、あの戦いで十二名にまで減っていた。今は勝と三笠が中心となって隊士を集めているが、思うようには進んでいない。いっその事、少数精鋭で行こうという意見もあったが、今回の功績で増員するように幕閣からの圧力があったそうだ。
「最後の一人が見つかったそうだぜ」
「なに?」
「智仙の息子さ」
智仙は、阿弥陀の子供を作るという名目で、美女を集めた後宮のようなものを作っていた。妾の数は十五、子供は二十を超える。そして後宮は、踏み込んだ館林藩兵が呆れるような豪華さだったという。
殆どの妾や子供は智仙と運命を共にしたが、僅かだが逃げ延びた者がいる。その最後の一人を、会津藩が捕縛したと甲賀に聞かされた。
紅子はそれに何の反応も示さなかった。もう彼女にとっては、終わった事なのだろう。
「子供は可愛いもんだな」
甚蔵が呟いたが、紅子は答えずに少年を見つめている。
少年は、紅子の息子である弁之助だった。傍にいるのは、弥十郎夫妻。川で凧揚げをするから会いに来いと、書き付けが屯所に届いたのだ。
「行けよ」
そう言っても、紅子は何も言わない。
「旦那の仇を討ったんだ。今しかないんだ」
「うるさいわね」
「ほら、行け」
と、甚蔵は逞しい紅子の背を押し、一歩ずつ踏み出していく姿をただ眺めていた。
〔了〕
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
安永8年12月18日――
伝馬町牢屋敷に、黒装束に能面で顔を隠した一団に襲撃された。
明楽紅子率いる逸撰隊が駆けつけた時には、牢は破られ、屋敷は血の海と化していた。
そして、辛うじて一命を取り留めた石出帯刀は、紅子たちにこう告げるのだった。
「平賀源内が逃亡した――」
田沼時代を代表する天才にして希代の大山師は、〔史実〕での死を乗り越えて、悪党として新たな一歩を踏み出したのである!
逸撰隊シリーズ 第二弾!!
「逸撰隊 血風録~諸悪党の変」
乞うご期待!!
若い夫婦と、幼い少年。まだ四つか五つだろう。その様子を、堤防の上から甚蔵は紅子と肩を並べて眺めていた。
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「最後の一人が見つかったそうだぜ」
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智仙は、阿弥陀の子供を作るという名目で、美女を集めた後宮のようなものを作っていた。妾の数は十五、子供は二十を超える。そして後宮は、踏み込んだ館林藩兵が呆れるような豪華さだったという。
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「子供は可愛いもんだな」
甚蔵が呟いたが、紅子は答えずに少年を見つめている。
少年は、紅子の息子である弁之助だった。傍にいるのは、弥十郎夫妻。川で凧揚げをするから会いに来いと、書き付けが屯所に届いたのだ。
「行けよ」
そう言っても、紅子は何も言わない。
「旦那の仇を討ったんだ。今しかないんだ」
「うるさいわね」
「ほら、行け」
と、甚蔵は逞しい紅子の背を押し、一歩ずつ踏み出していく姿をただ眺めていた。
〔了〕
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
安永8年12月18日――
伝馬町牢屋敷に、黒装束に能面で顔を隠した一団に襲撃された。
明楽紅子率いる逸撰隊が駆けつけた時には、牢は破られ、屋敷は血の海と化していた。
そして、辛うじて一命を取り留めた石出帯刀は、紅子たちにこう告げるのだった。
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