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慈光宗
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「盛り上がっているところですが、失礼します」
一足遅れて、数名の男たちが入ってきた。小袖に野袴、そして打裂羽織。全身を暗い色でまとめた武士だ。紅子は顔を顰めた。御庭番衆だった。
その中には、紅子の義弟である明楽弥十郎、そして妹婿になった倉地助之丞の姿もあった。
「遅うございましたな」
鬼頭がすかさず言う。この男にしてみれば、逸撰隊も御庭番も目障りな存在なのだろう。
「申し訳ございません。何せ、敵方を探っておりまして」
そう言ったのは、御庭番筆頭の薮田愎馬だった。
四十そこそこのこの男は、三十代で筆頭に任じられた優秀な隠密である。紅子も何度か組んだ事があるが、この男は常に冷静で、判断に誤りはない。
その愎馬が、紅子を見て冷笑を浮かべた。その時、隣りの勝が紅子の袖を掴む。黙っていろという合図だろう。今思えば、御庭番に比べれば、口喧しい勝の方がマシである。
「それで何かわかったか?」
武寛が訊いた。
「ええ、色々と。まずはその報告をしてよろしいでしょうか?」
武寛が頷く。すると、薮田が「入れ」と外に向かって声を掛けた。
そこには縛めを受けた坊主が、転がり込んで来た。
「あんたは」
紅子は、その男に見覚えがあった。
「天岳院才慶。慈光宗の宰相と呼ぶべき存在で、智仙の義弟。逃げ出したところを捕らえました」
薮田は立ち上がり、転がった才慶を引き起こして座らせた。身体に殴られたような傷がある。
「金山御坊は、主戦派と恭順派がおりまして。主戦派の頭がは元尾張藩士の願妙院永観、恭順派が、これなる才慶」
「随分と詳しいな」
「御庭番は、ずっと慈光宗を内偵をしておりましたから。途中、逸撰隊の皆さんに邪魔されそうになりましたが」
薮田が、紅子に目を向ける。言い返そうとする先に、甚蔵が鼻を鳴らした。
「内偵をしていたんだから、この事態を避けれたら良かったのに。まぁ逸撰隊は、ちゃんと羅刹道を壊滅しましたけどね」
「加瀬」
勝に窘められたが、甚蔵は弥十郎を見据えたままだ。対面に座る弥十郎も甚蔵を見返している。だが、紅子は自分の選んだ伍長が期待通りに動いてくれた事に嬉しかった。
「全く、お前たちは」
鬼頭が頭を抱える。自分の事を完全に棚に置いていて、それはそれで面白い。
武寛が咳払いをして、話を戻した。
「それで、恭順派の才慶がこの場にいるという事は……」
「主戦派が勝利したのでしょう。永観の下には、馬庭念流の隋門院信浄や佐賀藩砲術師範だった証道院快空がおります。そして、彼らの周りには血に飢える浪人たち。主戦派が勝つのも無理はありません。そうだな」
才慶が力なく頷く。
「それで才慶とやら、金山御坊の様子はどうだ?」
武寛が才慶を見据えた。
「意気軒高にして、愚かにも迎え撃つ気でおります。ご公儀を仏敵呼ばわりして」
「なるほど。降伏勧告は聞きそうか?」
それには、ゆっくりと首を振った。
「今、残っている者は、信心が強い者ばかり。拙僧のような現実を見る者は、既に逃げ出しております」
「左様か。ならば……」
どうやら武寛の腹は、力攻めで決まったらしい。それならそれで、存分に暴れられる。
「しかし、正面の防備は堅く、山の斜面は険しゅうございますぞ」
鬼頭が地図を指さして言った。正面から攻めるにしても、大手門と呼ぶべき寺門は石垣造りで時間は掛かりそうだ。
「では一向二裏と行きましょう」
弥十郎だった。立ち上がり、地図に軍勢の駒を置いていく。
「まず一千で正面を攻め立てます。当然、防御に敵は主力を差し向けるでしょう。その間に、東西の間道から山へ入り、背後に回って挟撃するのです。そして混乱に乗じ、門を開ける」
「その間道というのは?」
武寛が訊いた。
「この才慶が逃げ出した道と、我々がこの日の為に調べ上げたものが」
「それで別動隊を率いるのは」
「当然、御庭番と逸撰隊でしょう。しかし、我々は十五に満たない少勢。十名ばかり剣術に長けた者を貸していただければ」
「面白い」
紅子は思わず呟いていた。
「まるで水滸伝の呼保義と玉麒麟のようじゃない?」
「ご同意いただいて何より」
弥十郎はそう言うと座った。
「本隊に対応する敵主力の側面を襲い、山に本隊を招き入れる。それでいいな?」
武寛が確認するように言い、薮田が頷いた。
それから細かい話を詰めた。勝が色々と作戦の穴を指摘している。こういう時に、勝という男は役立つ。
「攻撃は明朝。以上、散会」
武寛の号令で軍議が終わり、紅子は本堂を出た。
「義姉上」
振り返ると、紅子の代わりに倉地家を継いだ妹婿の助之丞が立っていた。
まだ二十歳を幾つか越えたばかりの好青年だ。笑顔が眩しく、その外面に紅子の妹は惚れている。しかし残念な事に、御庭番として経験を積めば、人相も変わってくるだろう。
「ああ、助さんかい」
「弥十郎殿に聞きました。見事、義兄上の仇を討たれたとか」
「まぁね」
流石は御庭番だ。耳が敏い。
「では、家に戻ってきてくださいますか?」
思わぬ一言だった。倉知家に戻るとは考えもしなかった。
しかし、伝十郎が死んだ今、実家に戻るのは筋かもしれない。
「弥十郎に、明智姓から旧姓に戻せって言われたかい?」
「まさか。弥十郎殿は左様な事は申しませぬ」
「どうだか」
弥十郎に対して、紅子が含むところがない。伝十郎が亡くなり、弁之助が幼少である今、後を継ぐのは弥十郎であるべきだ。むしろ、弁之助を我が子のように養育してくれる弥十郎に感謝すらしている。
「ただ、家の者は、皆お帰りをお待ちしています」
「ふふ。どうかね。でも、全部終われば線香ぐらいは上げに行くさ」
「義姉上」
「それより、明日は気張りな。死ぬんじゃないよ」
紅子は片手を挙げ、踵を返した。
すぐに頭を切り替えた。これから隊士に明日の事を伝えなければならない。
(何人が生き残るか)
出来れば一人も死なせたくないと、紅子は思った。
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
また、星を見ていた。
何かあれば、星を見る。それは癖のようなものだ。
父に従って修行していた時に、よく眺めていた。
「死ねば、星に還る」
父はよくそう言っていた。
人は星を背負って生まれ、死ねば星に還ると。
父は星に還った。祖父も星に還った。そして、伝十郎も。自分もいずれは星に還る。
(天微星……)
父からそう言われた事がある。
あれは十七の時、父の命令で二天一流の剣客と立ち合った時だ。
真伝夢想流は、夢想権之助が宮本武蔵を倒す為だけに編み出した杖術。修行の総仕上げとして、立ち合いを行ったのだ。
負ければ、男の妻になる。そうした条件の試合。勝ったのは紅子だった。相手の木剣を躱し続け、最後に眉間を突き殺したのだ。
力量を考えれば、殺さずともよかった。しかし、負ければ妻になる事への拒否反応が、男を殺してしまった。
「お前は天微の星を背負っておるな」
父は眉一つ動かさずに、紅子にそう告げた。
その理由を訊くと、「自らの強さを持て余している。身中に巣食う九匹の龍を抑えられず、それがいずれお前も周りも苦しめる」と言われた。
天微星は、九紋龍史進の星だ。激情と強さに突き動かされ、自らだけでなく周囲の人間も振り回した男だ。自分にはお似合いだと、今になって思う。
(あたしは、このままでいいのか)
羅刹道に復讐する為に、逸撰隊に入った。羅刹道は壊滅させたが、黒幕の慈光宗がまだ残っている。
これが終われば、逸撰隊を去るべきだろう。勝と甚蔵がいれば、逸撰隊は組織らしい組織でいられる。何かと問題を起こす自分は、組織という駕籠の中にいるべきではない。
「眠れないのか?」
振り返ると、甚蔵が立っていた。
「まぁ、明日が山場だ。仕方ねえが」
「明日は何人が生き残るかと考えたら、中々ね」
「案外優しいんだな」
「『案外』は余計だよ」
隊士に作戦を伝えた時、皆が興奮した。「逸撰隊らしい役目」だの「御庭番と競争」だのと景気のいい事を言っていたが、生還が難しい事ぐらい皆はわかっている。正面の攻撃が成功しなければ、犬死するのだ。隊士たちはそれを理解していてもなお、考えないようにしている。それは痛いほど伝わっていた。
「復讐が終わったら、どうするんだ?」
甚蔵が訊いた。
「それはあんたにも言えるね」
「まぁな」
「あんたは仲間の仇討ちの為に、逸撰隊に来たんだろ?」
甚蔵は何も答えなかった。ただ、足元の石を蹴飛ばした。
「終わったからって、火盗改に帰るほど俺は薄情じゃねぇよ。それに、もう戻れねぇほど友が出来ちまった」
「友か」
「勿論、お前もそうだ」
紅子は、返事をせずにもう一度星を見上げた。
「明楽、辞めるなよ」
「何故?」
「お前のような悲しい想いをする者を出さないように。これからも、世の中を悪を取り締まろう。逸撰隊には、その力があるんだ」
紅子は頷いていた。声にはださなかったが、頷いていた。そうしてしまった自分が不思議で、驚いていた。
「そして、全部終われば、会ってやれよ」
「誰に?」
「倅だよ、お前の」
「どうして?」
「一つのけじめってやつさ。お前は、明日全てを終わらせて、生き直すんだ」
何を気障な事を言ってやがる。皮肉の一つでも言ってやろうと思ったが、甚蔵は既に宿へ向けて歩き出していた。
一足遅れて、数名の男たちが入ってきた。小袖に野袴、そして打裂羽織。全身を暗い色でまとめた武士だ。紅子は顔を顰めた。御庭番衆だった。
その中には、紅子の義弟である明楽弥十郎、そして妹婿になった倉地助之丞の姿もあった。
「遅うございましたな」
鬼頭がすかさず言う。この男にしてみれば、逸撰隊も御庭番も目障りな存在なのだろう。
「申し訳ございません。何せ、敵方を探っておりまして」
そう言ったのは、御庭番筆頭の薮田愎馬だった。
四十そこそこのこの男は、三十代で筆頭に任じられた優秀な隠密である。紅子も何度か組んだ事があるが、この男は常に冷静で、判断に誤りはない。
その愎馬が、紅子を見て冷笑を浮かべた。その時、隣りの勝が紅子の袖を掴む。黙っていろという合図だろう。今思えば、御庭番に比べれば、口喧しい勝の方がマシである。
「それで何かわかったか?」
武寛が訊いた。
「ええ、色々と。まずはその報告をしてよろしいでしょうか?」
武寛が頷く。すると、薮田が「入れ」と外に向かって声を掛けた。
そこには縛めを受けた坊主が、転がり込んで来た。
「あんたは」
紅子は、その男に見覚えがあった。
「天岳院才慶。慈光宗の宰相と呼ぶべき存在で、智仙の義弟。逃げ出したところを捕らえました」
薮田は立ち上がり、転がった才慶を引き起こして座らせた。身体に殴られたような傷がある。
「金山御坊は、主戦派と恭順派がおりまして。主戦派の頭がは元尾張藩士の願妙院永観、恭順派が、これなる才慶」
「随分と詳しいな」
「御庭番は、ずっと慈光宗を内偵をしておりましたから。途中、逸撰隊の皆さんに邪魔されそうになりましたが」
薮田が、紅子に目を向ける。言い返そうとする先に、甚蔵が鼻を鳴らした。
「内偵をしていたんだから、この事態を避けれたら良かったのに。まぁ逸撰隊は、ちゃんと羅刹道を壊滅しましたけどね」
「加瀬」
勝に窘められたが、甚蔵は弥十郎を見据えたままだ。対面に座る弥十郎も甚蔵を見返している。だが、紅子は自分の選んだ伍長が期待通りに動いてくれた事に嬉しかった。
「全く、お前たちは」
鬼頭が頭を抱える。自分の事を完全に棚に置いていて、それはそれで面白い。
武寛が咳払いをして、話を戻した。
「それで、恭順派の才慶がこの場にいるという事は……」
「主戦派が勝利したのでしょう。永観の下には、馬庭念流の隋門院信浄や佐賀藩砲術師範だった証道院快空がおります。そして、彼らの周りには血に飢える浪人たち。主戦派が勝つのも無理はありません。そうだな」
才慶が力なく頷く。
「それで才慶とやら、金山御坊の様子はどうだ?」
武寛が才慶を見据えた。
「意気軒高にして、愚かにも迎え撃つ気でおります。ご公儀を仏敵呼ばわりして」
「なるほど。降伏勧告は聞きそうか?」
それには、ゆっくりと首を振った。
「今、残っている者は、信心が強い者ばかり。拙僧のような現実を見る者は、既に逃げ出しております」
「左様か。ならば……」
どうやら武寛の腹は、力攻めで決まったらしい。それならそれで、存分に暴れられる。
「しかし、正面の防備は堅く、山の斜面は険しゅうございますぞ」
鬼頭が地図を指さして言った。正面から攻めるにしても、大手門と呼ぶべき寺門は石垣造りで時間は掛かりそうだ。
「では一向二裏と行きましょう」
弥十郎だった。立ち上がり、地図に軍勢の駒を置いていく。
「まず一千で正面を攻め立てます。当然、防御に敵は主力を差し向けるでしょう。その間に、東西の間道から山へ入り、背後に回って挟撃するのです。そして混乱に乗じ、門を開ける」
「その間道というのは?」
武寛が訊いた。
「この才慶が逃げ出した道と、我々がこの日の為に調べ上げたものが」
「それで別動隊を率いるのは」
「当然、御庭番と逸撰隊でしょう。しかし、我々は十五に満たない少勢。十名ばかり剣術に長けた者を貸していただければ」
「面白い」
紅子は思わず呟いていた。
「まるで水滸伝の呼保義と玉麒麟のようじゃない?」
「ご同意いただいて何より」
弥十郎はそう言うと座った。
「本隊に対応する敵主力の側面を襲い、山に本隊を招き入れる。それでいいな?」
武寛が確認するように言い、薮田が頷いた。
それから細かい話を詰めた。勝が色々と作戦の穴を指摘している。こういう時に、勝という男は役立つ。
「攻撃は明朝。以上、散会」
武寛の号令で軍議が終わり、紅子は本堂を出た。
「義姉上」
振り返ると、紅子の代わりに倉地家を継いだ妹婿の助之丞が立っていた。
まだ二十歳を幾つか越えたばかりの好青年だ。笑顔が眩しく、その外面に紅子の妹は惚れている。しかし残念な事に、御庭番として経験を積めば、人相も変わってくるだろう。
「ああ、助さんかい」
「弥十郎殿に聞きました。見事、義兄上の仇を討たれたとか」
「まぁね」
流石は御庭番だ。耳が敏い。
「では、家に戻ってきてくださいますか?」
思わぬ一言だった。倉知家に戻るとは考えもしなかった。
しかし、伝十郎が死んだ今、実家に戻るのは筋かもしれない。
「弥十郎に、明智姓から旧姓に戻せって言われたかい?」
「まさか。弥十郎殿は左様な事は申しませぬ」
「どうだか」
弥十郎に対して、紅子が含むところがない。伝十郎が亡くなり、弁之助が幼少である今、後を継ぐのは弥十郎であるべきだ。むしろ、弁之助を我が子のように養育してくれる弥十郎に感謝すらしている。
「ただ、家の者は、皆お帰りをお待ちしています」
「ふふ。どうかね。でも、全部終われば線香ぐらいは上げに行くさ」
「義姉上」
「それより、明日は気張りな。死ぬんじゃないよ」
紅子は片手を挙げ、踵を返した。
すぐに頭を切り替えた。これから隊士に明日の事を伝えなければならない。
(何人が生き残るか)
出来れば一人も死なせたくないと、紅子は思った。
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
また、星を見ていた。
何かあれば、星を見る。それは癖のようなものだ。
父に従って修行していた時に、よく眺めていた。
「死ねば、星に還る」
父はよくそう言っていた。
人は星を背負って生まれ、死ねば星に還ると。
父は星に還った。祖父も星に還った。そして、伝十郎も。自分もいずれは星に還る。
(天微星……)
父からそう言われた事がある。
あれは十七の時、父の命令で二天一流の剣客と立ち合った時だ。
真伝夢想流は、夢想権之助が宮本武蔵を倒す為だけに編み出した杖術。修行の総仕上げとして、立ち合いを行ったのだ。
負ければ、男の妻になる。そうした条件の試合。勝ったのは紅子だった。相手の木剣を躱し続け、最後に眉間を突き殺したのだ。
力量を考えれば、殺さずともよかった。しかし、負ければ妻になる事への拒否反応が、男を殺してしまった。
「お前は天微の星を背負っておるな」
父は眉一つ動かさずに、紅子にそう告げた。
その理由を訊くと、「自らの強さを持て余している。身中に巣食う九匹の龍を抑えられず、それがいずれお前も周りも苦しめる」と言われた。
天微星は、九紋龍史進の星だ。激情と強さに突き動かされ、自らだけでなく周囲の人間も振り回した男だ。自分にはお似合いだと、今になって思う。
(あたしは、このままでいいのか)
羅刹道に復讐する為に、逸撰隊に入った。羅刹道は壊滅させたが、黒幕の慈光宗がまだ残っている。
これが終われば、逸撰隊を去るべきだろう。勝と甚蔵がいれば、逸撰隊は組織らしい組織でいられる。何かと問題を起こす自分は、組織という駕籠の中にいるべきではない。
「眠れないのか?」
振り返ると、甚蔵が立っていた。
「まぁ、明日が山場だ。仕方ねえが」
「明日は何人が生き残るかと考えたら、中々ね」
「案外優しいんだな」
「『案外』は余計だよ」
隊士に作戦を伝えた時、皆が興奮した。「逸撰隊らしい役目」だの「御庭番と競争」だのと景気のいい事を言っていたが、生還が難しい事ぐらい皆はわかっている。正面の攻撃が成功しなければ、犬死するのだ。隊士たちはそれを理解していてもなお、考えないようにしている。それは痛いほど伝わっていた。
「復讐が終わったら、どうするんだ?」
甚蔵が訊いた。
「それはあんたにも言えるね」
「まぁな」
「あんたは仲間の仇討ちの為に、逸撰隊に来たんだろ?」
甚蔵は何も答えなかった。ただ、足元の石を蹴飛ばした。
「終わったからって、火盗改に帰るほど俺は薄情じゃねぇよ。それに、もう戻れねぇほど友が出来ちまった」
「友か」
「勿論、お前もそうだ」
紅子は、返事をせずにもう一度星を見上げた。
「明楽、辞めるなよ」
「何故?」
「お前のような悲しい想いをする者を出さないように。これからも、世の中を悪を取り締まろう。逸撰隊には、その力があるんだ」
紅子は頷いていた。声にはださなかったが、頷いていた。そうしてしまった自分が不思議で、驚いていた。
「そして、全部終われば、会ってやれよ」
「誰に?」
「倅だよ、お前の」
「どうして?」
「一つのけじめってやつさ。お前は、明日全てを終わらせて、生き直すんだ」
何を気障な事を言ってやがる。皮肉の一つでも言ってやろうと思ったが、甚蔵は既に宿へ向けて歩き出していた。
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