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転章
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友次郎は、城後村の全員を集めて、すぐに逃げるように命じた。
目指す場所は、上州新田郡の金山御坊だ。逃げるなら、そこ以外は考えられなかった。
大杉に続いて、仙右衛門までも捕縛されてしまったのだ。しかも、捕らえていた加瀬も奪還されてしまっている。
大杉は、自分との友情を守った。城後村について口を割らず、偽の拠点を相手に伝えた。しかし、仙右衛門は違う。あの男は、必ず口を割る。
友次郎は百姓たちと、ばらばらに村を出た。固まって移動すると、怪しまれてしまう。
山を幾つか越え、金山御坊に辿り着いた。しかし、待っていたのは予想外の対応だった。
「城後村の者は、御坊に入る事は許されぬ」
〔あのお方〕の傍近く仕える坊官が、山に入る堅固な寺門の前で言った。
「何故でございましょうか?」
「そこまで聞いておりませぬ。ただ、ご門主は『ならぬ』と申されております」
その時、友次郎は全てを悟った。
〔あのお方〕、いや智仙は、全ての責任を羅刹道に擦り付けるつもりなのだ。
なんだ、そうか。いや、わかっていたさ。単なる汚れ役だったのだ。慈光宗の闇を背負い、幕府の目を逸らす為の羅刹道。気が付けば、友次郎は笑いだしていた。
「そりゃそうでしょう。私が御坊にいれば、羅刹道と慈光宗との関りが疑われますからね」
あくまでも、慈光宗と羅刹道は別の存在。それを貫かねば、天下を獲れぬと思っているのだ。
「汚い仕事は羅刹道に押し付けておいて、阿弥陀などなんだのとよく言うものだな」
「貴様、阿弥陀様を愚弄する気か?」
「愚弄しているのは、智仙の方だろう」
友次郎は頭髪を掴むと、地面に叩きつけた。剃髪した禿頭が露わになる。友次郎の総髪は、鬘だったのだ。
「大杉もこんな奴の為に死んだと思うと憐れでならん」
「何て事を言うのだ」
しかし、友次郎がひと睨みすると、坊官は黙り込んだ。
「屑が」
友次郎は吐き捨てて、踵を返した。
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
金山御坊を出た。友次郎は山の麓の空き地に全員を集め、羅刹道の解散を命じた。その上で、最後に一矢報いたい者だけは残れと言うと、二十余名の男衆だけが残った。女子供は去ったが、ただ一人野枝だけがいた。
「お前も行け。いても戦えまい」
「いえ。わたくしもついて参ります」
冷たく抑揚の無い声だが、揺るぎようのない太い芯があった。
「もう男を見送るのは嫌でございます」
「……」
「それに、飯炊きが一人くらい必要でございましょう」
「わかった」
友次郎はおもむろに立ち上がり、残った者たちの顔を眺めた。
「これより城後村に帰る。そして、一人でも多く逸撰隊を斬る。恐らく待っているのは死だろう。しかし、破壊は羅刹天が望んでおられる事だ。古河友次郎は、耶馬行羅として羅刹道と共に滅びる。お前たちも、付き合ってくれ」
全員が頷き、立ち上がる。
やっと、糞のような三十七年の人生を終えられる。地獄では、大杉が首を長くして待ってる事だろう。
目指す場所は、上州新田郡の金山御坊だ。逃げるなら、そこ以外は考えられなかった。
大杉に続いて、仙右衛門までも捕縛されてしまったのだ。しかも、捕らえていた加瀬も奪還されてしまっている。
大杉は、自分との友情を守った。城後村について口を割らず、偽の拠点を相手に伝えた。しかし、仙右衛門は違う。あの男は、必ず口を割る。
友次郎は百姓たちと、ばらばらに村を出た。固まって移動すると、怪しまれてしまう。
山を幾つか越え、金山御坊に辿り着いた。しかし、待っていたのは予想外の対応だった。
「城後村の者は、御坊に入る事は許されぬ」
〔あのお方〕の傍近く仕える坊官が、山に入る堅固な寺門の前で言った。
「何故でございましょうか?」
「そこまで聞いておりませぬ。ただ、ご門主は『ならぬ』と申されております」
その時、友次郎は全てを悟った。
〔あのお方〕、いや智仙は、全ての責任を羅刹道に擦り付けるつもりなのだ。
なんだ、そうか。いや、わかっていたさ。単なる汚れ役だったのだ。慈光宗の闇を背負い、幕府の目を逸らす為の羅刹道。気が付けば、友次郎は笑いだしていた。
「そりゃそうでしょう。私が御坊にいれば、羅刹道と慈光宗との関りが疑われますからね」
あくまでも、慈光宗と羅刹道は別の存在。それを貫かねば、天下を獲れぬと思っているのだ。
「汚い仕事は羅刹道に押し付けておいて、阿弥陀などなんだのとよく言うものだな」
「貴様、阿弥陀様を愚弄する気か?」
「愚弄しているのは、智仙の方だろう」
友次郎は頭髪を掴むと、地面に叩きつけた。剃髪した禿頭が露わになる。友次郎の総髪は、鬘だったのだ。
「大杉もこんな奴の為に死んだと思うと憐れでならん」
「何て事を言うのだ」
しかし、友次郎がひと睨みすると、坊官は黙り込んだ。
「屑が」
友次郎は吐き捨てて、踵を返した。
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
金山御坊を出た。友次郎は山の麓の空き地に全員を集め、羅刹道の解散を命じた。その上で、最後に一矢報いたい者だけは残れと言うと、二十余名の男衆だけが残った。女子供は去ったが、ただ一人野枝だけがいた。
「お前も行け。いても戦えまい」
「いえ。わたくしもついて参ります」
冷たく抑揚の無い声だが、揺るぎようのない太い芯があった。
「もう男を見送るのは嫌でございます」
「……」
「それに、飯炊きが一人くらい必要でございましょう」
「わかった」
友次郎はおもむろに立ち上がり、残った者たちの顔を眺めた。
「これより城後村に帰る。そして、一人でも多く逸撰隊を斬る。恐らく待っているのは死だろう。しかし、破壊は羅刹天が望んでおられる事だ。古河友次郎は、耶馬行羅として羅刹道と共に滅びる。お前たちも、付き合ってくれ」
全員が頷き、立ち上がる。
やっと、糞のような三十七年の人生を終えられる。地獄では、大杉が首を長くして待ってる事だろう。
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