谷中の用心棒 萩尾大楽

筑前助広

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阿芙蓉抜け荷始末

阿芙蓉抜け荷始末-1

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 序章 その男、萩尾大楽はぎおだいがく



「よう」

 その浪人ろうにん暖簾のれんくぐると、迷わず一番奥の席に座った。
 江戸、谷中やなか新茶屋町の居酒屋『喜七きしち』である。
 土間席に机が六つ。ただそれだけの小さな店なので、筋骨たくましいその浪人が入って来ると、妙な息苦しさを廉造れんぞうは覚えた。

「いらっしゃい」

 廉造は呟くように言った。
 決して愛想あいそは良くない。元来こんな風で、それでもいいという客だけ来ればいいと思って商売を続けてきたのだ。勿論、そう思わせるだけの料理と酒を出しているという自負はある。

「邪魔するぜ」

 浪人は潮焼けした顔をこちらに向けると、大きな口を広げにぃっと笑んだ。
 よく笑う男だった。それでいて、ひとりでいる時にふと見せる表情には、近寄り難いかげりを漂わせる。その明暗が、この浪人の魅力であると廉造は思っていた。

「廉造さん、達者かい?」
「へぇ、お陰様で」
「そりゃ結構なこった。俺は風邪かぜ気味でね」
「そりゃ難儀で。春とは言え、朝晩はまだまだ冷えますからねぇ」
「気を付けねぇとな。俺たちゃ、いつまでも若くねぇんだからよ」

 浪人は、萩尾大楽はぎおだいがくという。谷中感応寺かんのうじ裏に、萩尾道場という町道場を構えている剣客である。
 流派は萩尾流はぎおりゅうと称しているが、自らの姓を付けているだけに、廉造も最初は胡散臭うさんくささを感じていた。
 そして、廉造の読みは当たっていた。萩尾道場はただの町道場ではなく、腕の確かな門人を用心棒として派遣する事を稼業にしているのだ。
 生国も知れない流れ者が始めた胡乱うろんな稼業に、「持って三か月だろうよ」と、谷中の町衆は高をくくっていたが、今では中々の繁盛はんじょうを見せている。
 故に剣に覚えがある浪人は入門したがるが、腕っぷしだけでなく人柄も見られるので、合格する者は少ないという話だった。

「人品にこだわらなきゃ楽になるんだが、この商売は信用が大事でねぇ。こいつを見極めるのが難しいのなんの」

 と、大楽が嘆いているのを、廉造は何度か板場で聞いた事がある。
 そして大楽は、今ではこの店の用心棒だった。
 年に二両。それで、何かあれば駆け付けるという事になっている。
 二両は安い、もう少し出せる。と廉造は言ったが、大楽はそれでいいと固辞した。喜七は小さい店で、いつも荒れているというわけではない。大楽は数日間、喜七を観察した上で値付けをしたのだと言った。
 確かに、大楽の世話になる事は滅多にない。年に一度か二度、それも酔客を叩き出すというぐらいだった。
 谷中で、萩尾道場の世話になっている店は多かった。まるで場所ショバ代を貰って面倒を見るやくざのようでもあるが、本人は商売だと言っているし谷中界隈ではすこぶる評判が良い。ここ一帯を仕切るやくざの金兵衛きんべえ一家は、大楽を苦々しく思っているようだが、如何いかんせん萩尾道場は百戦錬磨ひゃくせんれんまの用心棒集団。手出しが出来ず、何度かの対立の挙句に手打ちになっている。

熱燗あつかんを、萩尾さんに出してくれ」

 皿を引いてきたりつに声を掛け、廉造は奥の板場に引っ込んだ。
 律はめいである。兄夫婦の一人娘であったが、『お駒風こまかぜ』と呼ばれる安永五年(一七七六年)の流行り病で両親が亡くなると、廉造が養女として引き取ったのだ。今年で十七になる。日に日に美しくなる年頃だった。

婿探むこさがしは、まだ早いだろうな……)

 大人しいが気が利く娘で、客からの評判もいい。独り身の廉造にとって、唯一の家族である。いずれは、兄のものであったこの店を、婿と継いで欲しいとも思っていた。
 廉造は、煮立った鍋のふたを開け、厚揚げと大根を醤油しょうゆと酒、そして生姜しょうがなどで煮込んだものを皿によそった。

「これもな」
「あい」

 律が煮込みと酒が載った盆を抱え、表に出て行く。
 廉造は、焼き場を一瞥いちべつした。弟子の久助きゅうすけさわらを焼いている。

(焼き加減を見誤るなよ……)

 その言葉が口から出そうになったが、廉造は腕を組んで見守る事にした。


 表が騒がしくなったのは、それからしばらく経っての事だった。
 廉造が久助と共に慌てて板場から飛び出ると、若い男が律に絡んでいた。

(またか……)

 ここ最近、律に対し執拗しつように言い寄っている男だ。名を吉蔵よしぞうといい、金兵衛が深川のめかけに産ませた三男坊である。深川で生まれ育ち、去年の暮れに谷中に引き取られたらしい。律とは同じ歳で、一目惚ひとめぼれをしたという話だった。
 相手が相手だけに、どうしていいものか廉造は悩んでいた。大楽に相談するのもいいが、その後に報復があるのではと思うと、容易に決断は出来なかったのだ。自分一人ならどうなってもいいのだが、律に危害が及ぶ事だけはけたい。
 しかし、こうも続くと我慢がまんも限界だった。そもそも廉造は気短きみじか性質たちで、若い頃は喧嘩を繰り返しては、親代わりだった兄を困らせたものだった。

「やめてください」

 吉蔵が、嫌がる律の腕を掴んだ。その時、廉造の中で何かが切れる音がした。
 手が包丁に伸びそうになる。が、それを止めたのは、大楽の一声だった。

「おいおい、そこの若いの」

 猪口ちょこを置いた大楽は、ゆっくりと立ち上がった。そして廉造に向け、さりげなく片目をつむる。心配するな、という事だろうか。

「何でぇ、お前は?」
「おや? 俺を知らねぇのかい」
「てめぇのようなサンピンなんざ知らねぇな」
「そうかい。まぁ俺が誰だっていいやな。だがよ、娘さんが嫌がってるぜ」

 と、大楽は吉蔵の横にどかっと座ると、その肩に手を回した。
 太くたくましい腕だった。それだけで、吉蔵は身体の均衡を崩しかけた。

「やい、この手を離しやがれ」
「お前が娘さんの手を離したらな」
「誰が、お前なんぞに従うかってんだ。俺は金兵衛一家の――」
「あ?」

 野太い声で、大楽が話をさえぎった。思わず、吉蔵は律の腕を離す。律は慌てて奥へ引っ込んだ。

「いいぜ。女にゃ優しくねぇとな」
「てっ……てめぇ、俺が誰だか」
「金兵衛さんの三男坊だろ?」

 そう言って、大楽が一笑した。その凄みに、吉蔵は下を向く。どうやら、すっかり縮み上がっているようだ。

「親や看板の名で戦っちゃ、男はおしめぇだ。男ってもんはな、自分の顔と腕で戦うもんなんだ」

 そこまで言った大楽は、鼻をくんくん鳴らすと、おもむろに吉蔵が首から下げていた守り袋に手を伸ばした。

「お前、こんなものを持ってんのか」
「やめろよ、待て」

 大楽が、乱暴に守り袋をむしる。そしてもう一度ぐと、吉蔵に顔を近付けた。

「こいつぁ、いけねぇよ。子供ガキが手を出していいもんじゃぁねぇな」
「返せよ。今どきこんなもの珍しいもんじゃねぇよ。みんなやってんじゃねぇか」
「黙れ」

 と、大楽が拳骨げんこつを吉蔵の頭に放つ。
 何を持っていたのか、廉造にはわからない。しかし、吉蔵は地蔵のように黙り込んでしまった。

「最近、江戸の市中に出回っていると聞いたが……。さっ、続きは外で話そうや。ここじゃ迷惑になるからな。勿論、この件は親父さんに話すぜ」

 大楽は吉蔵の首根っこを掴むと、無理矢理立たせた。
 肩に手を回して外へ連れ出していく。
 このまま、金兵衛の所へ行くのだろうか。店への報復が心配だが、大楽なら大丈夫だろう、と廉造は思い直す。
 この男は特別なのだ。何せ、谷中界隈では閻羅遮えんらしゃと呼ばれている。谷中で非違ひいを犯せば、たとえ相手が閻魔えんまであっても行く手を遮る男という意味だった。



 江戸編


 第一章 敵は十万石



 一


 千里楼せんりろう
 仰々ぎょうぎょうしい文字で墨書ぼくしょされた看板が、春雨に濡れていた。
 浅草の今戸町にある料理茶屋。中々に格式がありそうな店構えだ。
 大楽が雨粒を弾くように傘を閉じ、身を屈めて門を潜った時、遠くで暮れ六つ(午後六時)を告げるかねが鳴った。約束の刻限には、何とか間に合ったようだ。

「いらっしゃいまし」

 大楽を出迎えたのは、四十路よそじになろうかという女だった。色白で着物越しでもわかるふくよかな体型が、男を誘う色香をかもしている。
 恐らく、この店の女将おかみであろうと大楽は思った。身体に纏わせている風格、存在感が違う。それは、ただの雇われ女中では得られないものだ。

「萩尾大楽という。人と待ち合わせをしているのだが」

 すると、女の眼が一瞬だけ強い光を帯び、すぐに取り繕うように笑顔へと変わった。

「ようこそおいでなさいました、萩尾様」

 それにしても、声色にまでつやっぽさが溢れている。良い女だと思うが、大楽はこういう年上の後家にだまされ、手痛い目にあった事があった。江戸へ出てすぐの事。もう十三年も前の話だ。

「ご家老さんは来ているかい?」
「ええ、既にお待ちでございますよ」
「おっと、待たせちまったか。時間通りのはずだったがなぁ」

 その言葉に女将は微笑ほほえんだだけで何も答えず、付いて来るように促した。
 渡り廊下で繋がった、奥の離れ。部屋の前には、若い武士が二人控えていた。女将が目配せすると、武士は頷く。そして、「お越しになられました」と、女将がふすま越しに告げた。
 襖が開く。まばゆい光に、大楽は目を細めた。
 男がいた。一人で酒を飲んでいたようだ。護衛が二人、男の背後に座している。彼らの分のぜんは無かった。

「おお、来られたか」

 男は立ち上がると、大楽を奥へ迎え入れた。

「さぁ、座ってくだされ」

 そう促され、大楽は男の対面の席に座った。酒肴しゅこうの膳は準備されている。
 男の歳は五十に一つか二つ足したぐらいか。小太りで色白。それでいて、狡猾こうかつそうな目をしている。一見して鷹揚おうようと見えるのは、そう演じているからだろう。典型的な詐欺師さぎしの顔だ。

「突然お呼びたてして申し訳ございませんね。私は斯摩しま藩江戸家老の権藤次郎兵衛ごんどうじろうべえと申します」

 権藤と名乗った男の言葉に、大楽は思わず、顔を歪めていた。
 斯摩藩。それは、十三年前にてた故郷の名前だった。

「あなたとは初対面だが、私は父上も叔父上おじうえも、そして御舎弟も存じて――」
卑怯ひきょうだな」

 大楽は権藤の言葉を遮ると、唾棄だきするように言い放った。

「とんだ卑怯野郎だぜ」

 二度言った。護衛の二人が血相を変えたが、権藤は笑ってそれを止めた。

「やめなさい、お前たち。この方がどなたか知っているのか。あの萩尾一族の嫡男ちゃくなんだった御方だよ。藩主家御一門筆頭のね。しかも、その血脈には神君家康しんくんいえやす公の血が、松平信康まつだいらのぶやす公を通じて入っている。本来なら、私もお前たちも仰ぎ見なければならないお方だぞ」
「古い話を持ち出しやがって」

 萩尾家の当主の一人が、小笠原忠真おがさわらただざね庶子しょしを妻に迎えている。忠真の母・登久とくは、信康の娘であった。それから一度として途絶える事なく、大楽に繋がっている。
 大楽は溜息をくと、権藤を睨みつけた。

「仕事の話じゃねえのかよ」
「まぁ」

 仕事の話。そうした名目で呼び出されたのだ。しかも、呼び出した時の名乗りは、羽州久保田藩うしゅうくぼたはんだったのだ。
 不意打ちだった。そして、それにまんまと引っ掛かった自分にも腹立たしくなる。

「いや、大変申し訳ない。うそでもかねば、あなたは来てくれないと思いましてな」
「当たり前だ。こちとら商売で忙しい身なんだぜ」

 用心棒としての腕を売る萩尾道場の客は三十を下らない。毎日様々な問題が起こり、時には刀を抜く事もある。こんなところで油を売っている暇などないのだ。

「それに、くにとは縁を切った」

 権藤は頷き口を開く。

「その辺りのご事情は、承知しております。ですが、あなたにとって悪い話ではありませんよ」
「どう悪くないんだ?」
「あなたの出方次第では、ぜにになります」

 権藤が銚子ちょうしを差し出す。大楽は権藤を見据えたまま、自分の銚子を手に取って猪口に酒を満たした。

「上納金、いやというものを納めなければいけないのでしょう?」
「よく調べていやがる」

 萩尾道場は、一見して町道場であるが、その実は用心棒という堅気かたぎではない商売だ。
 故に首領おかしらと呼ばれる土地ところの顔役に、上納金アガリとして稼ぎの一部を納めなければならず、その額は中々きついものがある。

「まぁ、聞くだけだぜ」
「流石は商売人だ。谷中ではだと聞きました。裏でも名が知れている。確か、閻羅遮でしたかな? あなたの渾名あだなは」

 谷中界隈で非違を犯せば、閻魔にさえ歯向かい、行く手を遮る。そうした意味で、閻羅遮と呼ばれていた。名付けたのは、今となっては誰だかわからない。気が付けばそう呼ばれていたのだ。

くにを出た事で、あなたの運も開けたのかも知れませんね」

 権藤がいやしい笑みを浮かべた。皮肉だろう、と大楽は思わず舌打ちをする。心底不快な男だ。

「ご用件は、御舎弟殿の事なのですが」
主計かずえか」

 権藤が頷いて、猪口を口に運んだ。

「兄弟仲はどうなのですか?」
「異母弟。それに、十三年も会っていない」
「もう他人というわけですか」

 大楽は返事はしなかった。
 兄弟仲が悪いとは思わなかった。昔は、よく遊んだ記憶もある。しかし、主計の母は父の後添いで、藩主・渋川堯春しぶかわたかはるの妹だからか気位が高く、先妻の子である大楽に対して辛く当たっていた。それが兄弟の間でしこりになっているのは確かだった。
 そんな主計とは、斯摩を出奔しゅっぽんして以来は会っていない。主計が自分をどう思っているのか、想像もできない。恨んでいるのか? 感謝しているのか? それさえも。
 黙り込む大楽に、権藤が大仰なまでに心配ぶる表情を浮かべ、口を開いた。

「国元で無茶をしたそうでして、脱藩したのですよ。なんでも藩内のうみを出そうと動かれたようですが、それが何とも性急なものでして」
「昔から生真面目きまじめで融通の利かない男だった」
「ええ。それでいて、前途有望な若者でもあります。それだけに、ここでつまずいてもらっては困るのです」

 大楽は煙草たばこぼんを引き寄せ、懐から煙管きせるを取り出した。大坂の煙管きせる職人・堺屋儀平さかいやぎへいが手掛けた、木目が揃った高級品である。
 大楽が煙管きせるに限らず、物に拘るようになったのは、三十を越えてからだった。それ以前は、食うだけで精一杯だった。

「ですが、失敗する事も大事です。躓き、倒れる。そして、立ち上がる。それを繰り返す事で、人は成長する。失敗から学ぶのは、若者の特権ですからね」

 そんな権藤の言葉に大楽は、返事とばかりに煙を吐いた。
 権藤がかすかに眉をひそめる。煙草の煙が苦手なのだろう。そして口を開く。

「主計殿が江戸に向かっているという報告がありました。そこで、主計殿が万が一にもあなたに助けを求めても、断っていただきたい」
「何故? 俺たちは腐っても兄弟だぜ?」
「もしあなたが手を差し伸べれば、主計殿の為にならない。きっとこれからも、あなたを頼るようになるでしょう。そんな事では、一門衆筆頭は務まりません」
「なるほどね」
「あと、もう一つ」
「注文が多いな」
「もし、主計殿があなたにを渡した時、それを私まで届けてくれないでしょうか」

 権藤の表情は変わらない。じっと大楽を見つめている。

「要領を得んな。とは何だ?」
「それは、私もわかりません。だが、既にあなたの手にあるかもしれませんし、これから入るかもしれない、です」
「それが手に入れば、しらせろって事か」
「悪いようにはいたしません」

 主計がそれを奪って逃げたという事だろうか。しかし、大楽はその予想を口に出さなかった。

「いくらなら、そのを買ってくれるんだい?」
「百両です」
「二百両だね」
「百五十両」

 大楽は、肩をすくめて頷いた。

「そんなに大事なものなのか?」
「いずれわかるはずですよ」
「そんな代物を主計なんぞに盗まれるとは、斯摩藩の軟弱なんじゃくぶりが知れるぜ」
「これは、手厳しい」

 と、権藤は恥ずかしそうに笑んだ。が、その目の奥は笑っていない。

「そもそも、萩尾家は政事まつりごとに関わらない。それが藩法はんぽうじゃなかったのか」

 渋川氏の一門衆筆頭である萩尾家は、早良さわらぐんに十七村八千石という大領を有している事を引き換えに、政事に介入してはならないという法度はっとがある。萩尾家が発言を許されるのは、御家が存亡の危機にひんした時だけだ。

「ふむ。そうなのですがねぇ」

 権藤が、腕を組んで首を振った。

「藩政に関わらぬ事か」
「それも、あなたがこの件に関わればわかる事です」

 大楽は、煙管きせる雁首がんくびを叩いて、煙草盆に灰を落とした。
 主計は藩の膿を出そうとしているのに、目の前の権藤はそれを助けるなと言う。
 政争の臭いがする。
 大楽には権藤がどんな男かわからないが、江戸家老をしているのだ。首席家老・宍戸川多聞ししどがわたもんの派閥に属しているに違いない。
 それと敵対しているということは、主計は宍戸川と争っているのだろう。
 宍戸川は、長く藩政を牛耳ぎゅうじっている怪物である。大楽が出奔する前も、この男は首席家老の座に君臨していた。

(やるじゃねぇか)

 主計は、控え目で弱気な男だった。生真面目な所はあるが、昔はよく泣いていた。そんな男が宍戸川に噛みつく。見上げた根性ではないか。

「大楽殿。それで、私はあなたの答えが聞きたいのですが」
「俺はくにを棄てた身だぜ」
「ですが萩尾姓を名乗っている」
「他に適当な姓が思いつかないだけさ。それに今更戻れるはずがねぇ」
「出奔の罪は既に許されているはずです。まぁ、あなたは帰参してきませんが」

 大楽は無言で、猪口に手を伸ばした。流石は、有名な料理茶屋。甘露かんろな酒だ。料理も旨そうだが、はしに手を伸ばす気は起きない。

「あなたに家督かとくを譲らせてもいいと、私どもは考えております。主計殿ではこの先不安ですしね」
「興味はないな」
「何なら、御妻女を主計殿と離縁させ、大楽殿に再嫁さいかさせてもいいのではと私は思うのですよ。あなたの婚約者だったのでしょう?」

 権藤がほくそ笑む。
 大楽は、一瞬で血がくのを覚えた。怒り。何とか、抑える。かつての自分なら、殴り倒していただろう。それをしない分別は、三十を越して身に付けた。
 夫婦めおとになるはずだった女。縫子ぬいこ。久々に、その名前を思い出した。
 三歳年下で、主計には二歳年上になる。身分ある家柄で、心を通わせていた。家同士だけでなく、二人の間でも将来を誓い合っていた。しかし、自分は縫子を捨てて出奔した。主計と結ばれたと聞いたのは、江戸に出て暫く経っての事だった。

「……権藤さんよ。今更、飼い犬に戻る気はないね」
「ほう。あなたは武士を犬と言いますか」
「そうだな。そして、飼い犬でいる事を辞めた俺は野良犬。いや、稼業柄、番犬か」

 すると、権藤は膝を叩いて笑った。だが、それが心からのものかはわからない。

かく、俺はくにも、家族も棄てた。だから、弟が何を言っても請け合うつもりはない」
「その答えが聞けて安堵あんどいたしました。それが、御身の為です」

 大楽が肩を竦めて立ち上がると、権藤がくすりと笑った。

「噂通りですね」
「何が?」
「あなたは優しい男だと聞きました。十三年前の出奔も、弟に家督を譲る為なのでしょう? その方が萩尾家は安泰だと。だが今回は、そんな気遣いは無用でお願いしますよ」
「脅しかい?」
「いいえ、お願いです」


「おい」

 店を出ようとすると、声を掛けられた。
 振り向くと、長身で気難しそうな男が立っていた。憲法黒茶けんぽうくろちゃ羽織はおりと細縞の袴を、折り目正しく着こなしている。

「お前は」

 大楽は、それ以上の言葉が出なかった。
 乃美忠之助のみただのすけ。いや、今は乃美のみ蔵主くろうずか。
 目つきが悪く、硬い表情は如何いかにも神経質そうであり、事実そうである。着物には、しわの一つもない。
 乃美は、かつて藩校・修明館しゅうめいかんで共に学び、悪い事も含め共に遊んだ友だった。藩校の首席にもなった切れ者で、高い家格を利用して順調に出世していると、風のうわさで聞いた事がある。
 彼の他にも数名の武士がいた。乃美以外、知らない顔だ。江戸詰めの藩士なのだろう。
 乃美とは話をしたいと思ったが、それを躊躇ためらわせる雰囲気が彼らにはあった。
 おそらく、権藤の護衛。すると、乃美は宍戸川の派閥に加わったという事か。
 残念だと思う反面、仕方ないとも思う。今の斯摩藩は宍戸川とその一党のものなのだ。

(またな)

 心中で呟いた大楽は、乃美を一瞥して外に出た。
 まだ、雨が降っている。細かい雨だ。大楽はこれぐらいならばと、傘を差さずに帰る事にした。
 夜道を歩きながら、大楽は強い後悔を覚えた。
 十三年前。一人の男を斬って、斯摩藩を出奔した。後にその罪は許されたが、帰参せずに浪人になった。

(もう俺には関係ない)

 そう思うのは、あの時に全てを棄てたからだ。地位も、くにも、家族も、女も。
 自分が出奔する事で、主計が家督を継げた。そうなる事も狙った。それが萩尾家の為に、最もい選択だと考えたからでもある。主計が縫子と夫婦になったのには驚いたが、自分よりは主計の方が縫子に相応しい。

(なのに、馬鹿野郎め……)

 主計が窮地に立たされている。そんな事など聞きたくはなかった。聞けば、気になってしまう。
 甘い。大楽は自嘲じちょうした。全てを棄てたと思っても、口ほどに心はかわいていないという事か。
 それと同時に、権藤への腹立たしさも湧き上がっていた。
 主計の苦境を伝えて、何を狙っているのか。きっと、目的は他にもある。主計の依頼を断れという忠告以外にも、何かがあるはずだ。
 権藤の背後にいる、宍戸川の顔も浮かんだ。もう長い間、会っていない。だが、今でもはっきりと思い出される、あの男の顔。声。
 かつて憧れたひとをあの男が奪った。縫子ではない。無足組むそくぐみという下級藩士の娘。遠くで見ているだけの存在であったが、初めて惚れた女だった。それが宍戸川に見初みそめられ、妾となってしまった。
 その宍戸川は、またしてもこの俺から大事なものを奪おうというのか。
 忘れていた憎悪が燃え上がるのを、したたかに覚えた。


 尾行。それを感じたのは、下谷坂本町しもやさかもとちょうすじを歩いている時だった。
 仕事柄、敵は多かった。用心棒をしていると、荒事が多い。そこから遺恨を持たれるのだ。
 命を狙われた事も一度や二度ではない。勿論、同業者からも襲われる事もあった。今の萩尾道場は、名声に見合っただけの敵も得ている。

(さて、どうしたものかな)

 権藤の差し向けたものだろうか。
 大楽は尾行の気配を感じながら、筋を逸れて要伝寺ようでんじの方へ曲がった。この辺りは百姓地が広がり、人家はまばらである。
 一度叩いておくか。それが出来るだけの自信はある。
 萩尾流と名乗っているが、それは名のある剣術を修めていないだけだ。
 剣は、叔父の萩尾紹海はぎおしょうかいに教わった。
 叔父は何故なぜ僧形そうぎょうであったが、達人と呼んでもいいほどの使い手であった。一年の大半を旅で費やし、残りの僅かな時間で大楽に剣を授けてくれた。厳しいが優しい叔父だった。
 継室に気を使って自分を冷遇した父よりも、叔父の方に父性を感じていたほどだ。本当の父親なのかもしれない、と思ってしまう事もしばしばあった。
 その叔父は、大楽が十七の時に姿を消した。父も消息が掴めず、旅の最中に行先を涅槃ねはんに変えたのだろう、という事になっている。
 その叔父が大楽に残したものは、萩尾流の秘奥・幻耀げんようと、月山堯顕がっさんたかあきらという二尺四寸、幅広浅反りの剛直な実戦刀だけだった。

(やるか)

 大楽は、意を決して振り向いた。
 だが、そこに追跡者の姿は無い。姿こそ無いが、気配は確実にある。きっと、相手は闇で働く事を生業なりわいにした玄人くろうとだ。そこらの人間が出来る芸当ではない。

(面倒な事になりそうだ)

 大楽は腰に帯びた月山堯顕の重みを意識し、再び歩き出した。


 二


 翌朝、居間でネギが入っただけの雑炊ぞうすいすすっていると、大楽は人の気配を感じた。
 道場と母屋おもやを繋ぐ廊下。そこをこちらに歩いてくる。
 大楽は丼碗どんぶりわんを置き、刀架とうかの方へと腰をずらした。
 一人。足音に迷いも、警戒もない。真っ直ぐこちらに向かってくる辺り、物取りには思えない。ならば、門人か刺客か。

「味噌か……よい香りだな」

 案の定、現れたのは門人の寺坂源兵衛てらさかげんべえだった。皺が深い顔に微笑を浮かべ、向かいに腰を下ろす。大楽は緊張を解いて、再び丼碗を手に取った。

「どうした? やけに警戒してたようだが」
挨拶あいさつの一つぐらい入れたらどうなんだ」
「おいおい。ここはわしにとって家みたいなもんじゃないか」
「ふん、親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らねぇのか」

 寺坂は萩尾道場の師範代であり、帳簿ちょうぼや交渉など、裏方の仕事を取り仕切っている男だ。胡麻塩頭ごましおあたまをした五十路いそじで、この稼業で最も信頼できる相棒である。勿論、無外流の腕前も確かだ。
 谷中に道場を開き、それを用心棒屋として始めたのも、寺坂の助言があったからだ。
 剣も使えるし、算盤仕事にも長けている。訊いても寺坂は話したがらないが、恐らくどこかの家中で、役方でもしていたのだろう。人間もさばけていて、付き合うにも苦にはならない。

「しかし、飯炊きの女ぐらい雇ったらどうなんだ。銭が無いわけじゃねぇんだろに」

 寺坂は、雑炊が入った土鍋を一瞥して言った。

「俺は一人がいいんだよ。あれこれされるのは好きではないし、息が詰まっちまう」
「じゃ、嫁さんは?」
「もっと御免だ」
「お前さん、それでよく俺と五年近く住んでたな」
「ずっと息苦しかったさ」

 寺坂が返事もせずに、急須に手を伸ばした。
 大楽が寺坂と出会ったのは、江戸へ出てすぐの事だ。
 とある口入屋で、同じ仕事ヤマを踏んだ。かなりの危険を伴ったもので、殺されそうになった寺坂を助けたのが縁で組むようになり、程なく寺坂の棲家に大楽が転がり込んだ。この男は江戸へ出て以降の大楽と苦楽を共にした唯一の男である。
 この男と出会わなければ、今の自分はなかったであろうし、用心棒を派遣する商売もする事はなかったと、大楽は思う。
 用心棒の多くが一人働きだが、組んだ方が安全であるのは勿論、失敗も少なくなる。そして何より、多くの仕事もこなせるのだ。
 寺坂と二人で組んでいた時のそうした経験から立ち上げたのが、この萩尾道場だった。

「昨日はどうだったんだ? 千里楼で話をしたんだろ。確か東北の何とかっていう藩の江戸家老と」
「ああ」

 と応えてから、大楽は湯のみに手を伸ばした。

められた」
「嵌められただと? どういう事だ」

 寺坂の声色が一変した。大楽の言い方が悪かったのか、本気に捉えたようだ。敵が多い稼業をしている以上、こうした物言いも冗談じょうだんにならない。
 だが、大楽は敢えて否定はしなかった。

「斯摩の奴だったんだよ。千里楼に俺を呼び出した野郎は」

 寺坂が上目遣うわめづかいで、大楽を一瞥した。一瞬、鋭い光が帯びたような気がした。

「斯摩ねぇ」

 寺坂は、大楽の過去を知る数少ない一人だった。
 出会って五年目の夜、仕事で大きなヘマをした時、大楽は酔いに任せて言ってしまったのだ。もっとも寺坂は、それに対して何も言う事はなかったが。

「そうかい。そりゃ災難だったな。で、久し振りに同胞に会った気分はどうだ?」
「旧交を温めあったように見えるか?」

 大楽がそう言うと寺坂は肩を竦め、音を立てて茶をすすった。
 深刻に捉えているのかどうか、その表情からは読めない。

「で、何の用だったんだ?」
「……国元でな、俺の弟がやらかしたらしい」
「お役目の失敗か? それとも個人的な問題か?」
「わからん。ただ、助けを請われても、一切関わるなと。それと、弟に何かを渡されたら、それを譲れとさ」
「何だいそりゃ」
「協力次第では、俺に萩尾家の家督を与えるらしい」
「ほう。いい話じゃないか。浪人稼業とはおさらば出来る」
「俺は好きで出奔した男だぜ。それに仕事がある」
「しけた道場じゃねぇか。藩主家に連なる一門の家督とは比べられんよ」
「酷い言いようだな。だが今更、飼い犬に戻る気はねぇな」
「野良犬の生活がいいのか? 明日の餌も知れぬ身だぜ。上納金アガリも年々上がって厳しいもんがあるし。飼い犬になりゃ、少なくともえる事はない」
「餓えても、俺は自分の意志で生きたいんだよ。それに、気に入らないのさ。脅しのような言い方にね」

 権藤の陰湿な薄ら笑みが、大楽の脳裏によみがえった。それだけで、無性に腹が立つ。

「じゃ、助けるんだな」
「迷っている」
「弟さんを助けてやれよ」

 寺坂がそう言うが、大楽が助けたいのは、何も主計だけではない。将来を誓い合いながらも、勝手に反故ほごにした縫子への贖罪しょくざいもある。
 それでも、大楽は腹をくくれずにいた。その理由は、怯懦きょうだだった。
 権藤の忠告を無視する。それは、即ち宍戸川に敵対するというのと同意で、ひいては斯摩藩と一戦を交えるという事だった。
 敵は十万石。戦う覚悟が、自分にはあるのか? 今の生活を、そして命を捨てられるのか?
 自らに問うと、素直に首を縦に振る事が出来ないでいる。

「まぁ、いいさ。だが儂は兎も角として、門人が面倒に巻き込まれるのは御免だぞ」
「わかっている。それより、あの件はどうなった?」

 大楽は、もう一つの懸案けんあんに話を変えた。

「お前さんの指示通り、金兵衛一家に探りを入れている」

 あの件とは、吉蔵が持っていた守り袋の中身――阿芙蓉あふよう(アヘン)の事だ。
 阿芙蓉は耶蘇やそ(キリスト教)と並ぶ、重大な御禁制である。
 薬用で使われるのが殆どであるが、吸煙すると倦怠感けんたいかんに襲われ、常軌を逸した錯乱状態に陥る恐れがあるからというのが理由だった。
 禁制にするべきだと訴えたのは、かの大岡忠相おおおかただすけであり、八代将軍・吉宗よしむねがその進言を受け入れ、国内の生産を幕府直轄のみとし、唐土もろこしからの輸入も固く禁じた。
 それ以降、阿芙蓉禁令は踏襲されているが、裏では阿芙蓉の密売買が横行していた。当然幕府も無策ではなく、各地に隠密を派遣し厳しい取り締まりを行ってはいるものの、その利が莫大なだけにいたちごっこの状況が続いている。
 その阿芙蓉を、金兵衛一家の吉蔵が持っていた。
 この件については、金兵衛におきゅうを据えてもらったが、大楽にはこれで終わるとは思えなかった。最近では、江戸市中で広まっているらしいが、谷中への流入だけは何とか阻止したいと考えている。
 そんな大楽の心中を知る寺坂が口を開く。

「それと、谷中の十手持ちにはそれとなく伝えた」
「他言無用と念は押したかい?」
「勿論。谷中の首領おかしらの耳に入れば面倒だ」

 寺坂は、大楽同様に谷中では顔が広い。特に岡っ引きなどの、役人に近い方面とは顔が利くのだ。

「ありがとよ。阿芙蓉を見張る目は多い方がいい」
「しかし、道を断たなければ意味が無いぞ」
「まぁね。吉蔵は深川で買ったと言うが、俺は信じられん」
「萩尾、谷中を大事に思う気持ちは結構だが、阿芙蓉云々は用心棒がやる事ではないと思うがね」
「あんなものが出回れば、うちも困るだろ」
「困るが役人の仕事だろ? そんな事より、お前は弟さんの事に集中しろ」

 寺坂はそう言って立ち上がり、居間を出て行った。自分の部屋へ行くのだろう。
 寺坂には五畳の一間を与えている。そこで、帳簿などの算盤仕事を行うのだ。そうした面倒事の一切を、大楽は寺坂に任せていた。


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