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第三章 雨の波瀬川

最終回 雨の波瀬川②

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 首筋から鳩尾の辺りまで断たれた孤月が、仰向けに斃れていた。

「何故、跳ばぬ」

 孤月の最期の言葉が、耳から離れなかった。崩れ落ちる刹那、そう言い残したのだ。やはり、孤月は待っていた。父に雪辱を果たそうと、落鳳の破り方を編み出していたのだろう。しかし、勝負は皮肉な結果になってしまった。
 清記は、孤月の足元に転がっている握り拳ほどの石に目をやった。この石を踏み、孤月は体勢を崩した。もしこの石が無ければ、この場で斃れていたのは自分だったはずだ。
 強敵だった。秋雨に打ち付けられているのに、大量の汗が噴き出している。

「先生」

 芒の中から、男達が飛び出してきた。七名。孤月の骸の傍に駆け寄る。風体はまちまちで、武家風もいれば渡世人風、行商の恰好をしている者もいた。

「貴様、よくも」

 孤月の弟子だろうか。廉平の報告では、孤月に手下がいるという報告はなかった。

「尋常な立ち合いだった。剣客同士の」
「知っている。先生は剣客として亡くなられた。それはいい」

 渡世人風の男が言った。存在感と言い、立ち振る舞いという、この渡世人が指図役のようだ。

「では、いいだろう」

 清記は立ち上がって立ち去ろうとすると、

「いかせんよ」

 と、男達が闘気を漲らせてこちらを睨みつけた。

「念真流。貴様の首には大金が掛かっているのだからな」

 七人が一斉に抜く。清記は嘆息し、扶桑正宗に手をやった。

「刺客か」
「お前さんと同業みたいなものさ」

 全身に受けた傷の痛みが激しかった。扶桑正宗も重く感じる。相手は孤月に教えを受けた玄人。

「待ちな」

 清記の背後から、聞き覚えがある声が聞こえた。振り向くと、そこに東馬が立っていた。

「誰だ、てめぇ」

 渡世人が訊いた。

「奥寺東馬というもんさ」
「関係ねぇ奴はすっこんでろ」
「そうはいかんよ。清記は俺の友達でね」

 そう言うと、東馬が清記に目を向けた。

「無事なようだな」
「ええ。しかし東馬殿が、どうして?」
「散歩だよ。剣客狩りの下手人探しを含めてな。そしたら雨が降り出して、俺は駆け足で帰っている所に、囲まれていたお前を見掛けたってわけだ。それより、こいつらは?」
「破落戸ですよ。突然襲われましたので」
「破落戸ね。しかし、随分と斬り刻まれたものだね」

 東馬は清記の肩を一つ叩くと、清記の身体を後ろに押しやって一歩前に出た。

「そこで見てろ。志月を救ってくれた借りを返してやる」
「しかし」
「黙れよ。借りを返させろ」

 東馬が腰の一刀を抜き払い、その切っ先を七人の始末屋に向けた。

「覚悟しろよ、破落戸共。俺は剣の天才だぜ」

〔第三章 了〕
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