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12.グレースの初恋
しおりを挟む蔵書室の古びた書棚の前で、グレースは騎士道の物語を手に取り、薄い翠色の瞳を和ませた。
小窓から差し込む柔らかい光がグレースを照らしている。
「フェイト様……」
甘い砂糖菓子を転がすようにそっと彼の名を口にした。
案外、気さくで思いやりがあって、グレースのおしゃべりに真剣に耳を傾けてくれた。
グレースは詰めていた息をそっと吐き出した。
名前を口にしただけなのに、こんなに苦しくなることってある?
婚約者の選別だのしきたりだの、堅苦しい侯爵家との縁談なんて煩わしいとしか思えなかったのに、それを体現したかのようなフェイトにはすっかり心を奪われてしまっている。
彼の横に立つには、それにふさわしい人間でなくてはならないこともよくわかった。
それでも、あの冷徹な瞳が優しく見つめるのなら、その瞳に映るのは自分でありたい。
そんなわがままな願いが頭から離れなかった。
いくら鈍いグレースでもこれは認めるしかなった。
「私、フェイト様のことが好きになってしまったんだわ。それも、すごく」
グレースが初めての恋を自覚したこの日。
シーフォードの使者から正式な婚約の申し出が届けられた。
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