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5.史上最悪のデート③
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雪のように白い馬を見て、グレースは一目で気に入った。
スノウホワイトという名にふさわしい白銀のたてがみをなびかせ、一緒に丘を登ったら――と想像するだけで胸がふくらんだ。
フェイトの馬の黒鹿毛も、しなやかな体躯や黒々とした毛並みの艶に目を惹かれた。
だがグレースの瞳がついスノウホワイトにくぎ付けになっていることに気づき、フェイトは優しく微笑んだ。
「気に入ったか?」
「ええ、とても。こんなにきれいな馬は初めて見たわ」
フェイトは頷き、馬の手綱を横に控えていた執事へ預けると、グレースに手を差し出した。
「では乗ろう」
とっさにその逞しい手を取ってしまったものの、普段男性の手を借りずとも乗れてしまうグレースは、ぎこちなくフェイトの助けを借り、スノウホワイトに横乗りになった。
一段高くなった視界は見晴らしが良い。スノウホワイトはおとなしくグレースの指示を待っている。
グレースの方が早くも馬を走らせたくて、フェイトが丁寧に鞍の点検を終えるのをうずうずしながら待った。
ようやくフェイトが自らの黒鹿毛にまたがると、優しく手綱をゆだねながら、馬を丘の上へと導いた。
さわやかな風が初夏の陽射しで汗ばんだ白い肌を撫で、通り過ぎていく。
どこまでも続く緑の草原は、風が吹くごとに波打つようにさわさわと揺れ動き、グレースの耳や目を楽しませた。
食べ過ぎなければもっと集中できたんだけど……。
お腹が少し苦しくて、せっかくの景色も楽しめないのがもどかしい。
それから二人はあっという間に小高い丘のてっぺんまで上り詰めた。
「とても乗り心地がよかったわ。いいこね」
白銀のたてがみを撫でながら、グレースはスノウホワイトに話しかけた。
スノウホワイトはブルブルと鼻を鳴らして、グレースの手のひらに顔をこすり付ける。
「すっかり仲良しだな。だがスノウホワイト、君はここで留守番だ。グレース嬢、あっちに最高の場所があるんだ」
フェイトに手を引かれ、一番見晴らしの良い場所まで歩くと、眼下に広がる絶景にグレースは息を呑んだ。
街の建物のカラフルとその向こうにどこまでも続く海の青、そして次第にあかね色に変わりゆく空の色の混ざり――。
時を告げる鐘の音が丘の上まで届いた。
「教会の鐘がよく見えますわ」
「ああ。この丘からどう見えるかを計算して設計されたらしいぞ」
目についたものを手当たり次第に伝えると、フェイトが解説をしてくれる。
そのうち何も見つけられなくなると、グレースは海に溶け込む夕日を見つめたまま口を噤んだ。
過去にもこんな風に丘の上に立つことは何度もあったが、今ほど目に焼きつけたいと思うことはなかった。
同じように海の遠くを見つめるフェイトをちらりと盗み見て、グレースは落ち着かない心臓を宥めるように胸に手をあてた。
初対面の男性なのに、こんな風に話が弾むのは初めてだわ。
こうして同じ瞬間を共有して、沈黙に浸るのも不思議と心地よかった。
グレースにとって初めてのことだらけで、このふわふわとした胸の中を何と呼ぶのか、この時はわからなかった。
しばらく景色を楽しんでいると、海からのひんやりした風に煽られ、グレースの亜麻色の髪がなびく。
思わず手で肩を抱くと、横から温かいものがふわりとグレースに掛けられた。
この香り――一日中、彼に近づくたびにほのかに鼻孔をくすぐった香りが、一段と強く感じられた。それで肩にかけられたものがフェイトの上着だと気づいた。
彼ってこんなに大きいの?
フェイトがスマートに着こなしていた上着も、グレースには身体全体をすっぽり覆ってしまえるほどだ。
それにずしりと重く、彼のぬくもりがグレースを温めてくれる。
「ありがとう。とっても温かい……」
まるで抱きしめられているみたい――そう思った途端、柄にもないことを考えた自分が恥ずかしくなり、グレースは彼の上着に顔を埋めた。
どうか夕焼けの紅が頬の赤みをごまかしてくれますように。
必死になって願っていたグレーシーは、フェイトがどんなまなざしで彼女を見つめていたか知らない。
スノウホワイトという名にふさわしい白銀のたてがみをなびかせ、一緒に丘を登ったら――と想像するだけで胸がふくらんだ。
フェイトの馬の黒鹿毛も、しなやかな体躯や黒々とした毛並みの艶に目を惹かれた。
だがグレースの瞳がついスノウホワイトにくぎ付けになっていることに気づき、フェイトは優しく微笑んだ。
「気に入ったか?」
「ええ、とても。こんなにきれいな馬は初めて見たわ」
フェイトは頷き、馬の手綱を横に控えていた執事へ預けると、グレースに手を差し出した。
「では乗ろう」
とっさにその逞しい手を取ってしまったものの、普段男性の手を借りずとも乗れてしまうグレースは、ぎこちなくフェイトの助けを借り、スノウホワイトに横乗りになった。
一段高くなった視界は見晴らしが良い。スノウホワイトはおとなしくグレースの指示を待っている。
グレースの方が早くも馬を走らせたくて、フェイトが丁寧に鞍の点検を終えるのをうずうずしながら待った。
ようやくフェイトが自らの黒鹿毛にまたがると、優しく手綱をゆだねながら、馬を丘の上へと導いた。
さわやかな風が初夏の陽射しで汗ばんだ白い肌を撫で、通り過ぎていく。
どこまでも続く緑の草原は、風が吹くごとに波打つようにさわさわと揺れ動き、グレースの耳や目を楽しませた。
食べ過ぎなければもっと集中できたんだけど……。
お腹が少し苦しくて、せっかくの景色も楽しめないのがもどかしい。
それから二人はあっという間に小高い丘のてっぺんまで上り詰めた。
「とても乗り心地がよかったわ。いいこね」
白銀のたてがみを撫でながら、グレースはスノウホワイトに話しかけた。
スノウホワイトはブルブルと鼻を鳴らして、グレースの手のひらに顔をこすり付ける。
「すっかり仲良しだな。だがスノウホワイト、君はここで留守番だ。グレース嬢、あっちに最高の場所があるんだ」
フェイトに手を引かれ、一番見晴らしの良い場所まで歩くと、眼下に広がる絶景にグレースは息を呑んだ。
街の建物のカラフルとその向こうにどこまでも続く海の青、そして次第にあかね色に変わりゆく空の色の混ざり――。
時を告げる鐘の音が丘の上まで届いた。
「教会の鐘がよく見えますわ」
「ああ。この丘からどう見えるかを計算して設計されたらしいぞ」
目についたものを手当たり次第に伝えると、フェイトが解説をしてくれる。
そのうち何も見つけられなくなると、グレースは海に溶け込む夕日を見つめたまま口を噤んだ。
過去にもこんな風に丘の上に立つことは何度もあったが、今ほど目に焼きつけたいと思うことはなかった。
同じように海の遠くを見つめるフェイトをちらりと盗み見て、グレースは落ち着かない心臓を宥めるように胸に手をあてた。
初対面の男性なのに、こんな風に話が弾むのは初めてだわ。
こうして同じ瞬間を共有して、沈黙に浸るのも不思議と心地よかった。
グレースにとって初めてのことだらけで、このふわふわとした胸の中を何と呼ぶのか、この時はわからなかった。
しばらく景色を楽しんでいると、海からのひんやりした風に煽られ、グレースの亜麻色の髪がなびく。
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それにずしりと重く、彼のぬくもりがグレースを温めてくれる。
「ありがとう。とっても温かい……」
まるで抱きしめられているみたい――そう思った途端、柄にもないことを考えた自分が恥ずかしくなり、グレースは彼の上着に顔を埋めた。
どうか夕焼けの紅が頬の赤みをごまかしてくれますように。
必死になって願っていたグレーシーは、フェイトがどんなまなざしで彼女を見つめていたか知らない。
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