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4.幽霊がいっぱい
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しおりを挟む神保町のオフィスに戻り、誰もいない部屋に明かりをつけた。
湖南は青白い顔のまま、自席のオフィスチェアに腰を落とした。
溜め込んでいた息を吐き出しながら、奮発して買ったエディターズバッグを膝の上で抱える。
それをお守りのように抱きしめ、視線はデスクの上に集中させた。
だって、そうしていないと――
「視えてるのかしら? 視えてるわよねぇ――」
聞いたことのないか細い女の声。ひそひそと耳をつくざわめき。「きゃははっ」夜のオフィスになぜか響き渡る、子供の甲高い笑い声。
「何にも見えてませんからねー」
小さくつぶやいた湖南の目の前で突然、デスクがガタガタと揺れた。
ハッとして目を泳がせ……がっつりポルターガイストの主と目を合わせてしまった。
「え」
三白眼の若い着物姿の男が無表情で湖南のデスクを揺らしていた。思わずぽかんと見つめあってしまう。ポ、ポルターガイストって、そういうもんなの――?
「や、やめてよ」
思わずむきになってデスクを抑えると、すっとその男は消えた。
その行方を探そうと編集部全体を見てしまい、柱の影や机の下や天井や、あちこちから湖南を見つめている幽霊達の姿を目に入れてしまった。
ふいに頭上の蛍光灯がチカチカと点滅する。と、壁のスイッチを連打しているさっきの三白眼の男の姿があった。
やれやれ、と肩をすくめた湖南は視線をデスクの上に戻そうとして、ひっと息を吞んだ。
湖南の真横にあるファイルラックと、そのラックと壁の狭間。
そこに、逆さまに吊り下げられた女が血走った両目でこちらを見ていた。
そんなとこ、人が入る隙間なんかない――。
女の青藍色の唇がカッと吊り上がるように開いた。
『何見てんのよ』
「だってこれ……目を逸らしたら絶対襲ってくるパターンですよね」
震える声で言い返すと、はぁとたっぷりのため息が帰ってきた。
『襲う? ここから出られたら、こんな狭いとこに居ないわよっ!』
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