迷探偵湖南ちゃん

迷井花

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2.眞木耀司という男

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 ガラステーブルの盤面を見つめながら、湖南は今の話を反芻した。
 つまり、ヒトは脳が許可したものしか見ていないということ?
 そして幽霊は許可されていないから普通見えない。
 ということは、幽霊は存在しているということになる。
 にわかに信じられる話ではなかった。

「初歩的な質問ですけど、幽霊を見ることが可能なら、幽霊も光を発しているのでしょうか」
「存在するならな」
「え、信じてらっしゃるんじゃ」

 今までの話は幽霊がいるという前提だったのではなかったのか。
 それに幽霊が見える薬を開発したとも言っていたはずだが。

「あくまで仮説だ。僕の目で確認しない限り僕は幽霊の存在は肯定しない」
「では幽霊が見える薬というのは」
「脳の防御機能を一時的に弱める薬を開発した」
「そ、そんなものつくれるんですか」
「理論上はな。普通の科学者にはまず無理だろうが僕ならできる。ああ、聞きたいなら教えてあげよう。実は配合バランスが重要だ。特にセロトニンは入れすぎると精神に異常をきたす可能性もある、さらには」
「あ、大丈夫です」

 湖南は両手を前に出して眞木の講釈を止めた。
 これ以上聞いていたら、頭がおかしくなりそうだ。
 大体、僕ならできるって小学生ですかあなたは。
 言うだけなら簡単だ。
 
 膨らんだ期待はしゅんと萎んだ。やっぱり早めに退散しよう。
 湖南はすっかり冷めきってしまった紅茶を一気に飲み干した。

「それで、その薬はどこにあるんです?」

 退散するきっかけを探りながら、一応聞いてみる。例えあったとしても、そんな危険な薬飲めるわけないが。

 眞木は軽く首を傾けながら、じっと湖南を見つめた。そんなものはないと分かっていても、ごくりと唾を飲み込み次の言葉を待ってしまう。眞木には不思議な引力のようなものがあった。

 眞木は長く骨張った人差し指をピストルの形に変え、その銃口をゆっくりと湖南の方に向けた。
 凛々しく整った唇が開く。

「今キミが飲んだその紅茶――」

「はい?」

 まさか。嫌な予感が湖南を襲う。
 何度か瞬きを繰り返し、眞木を見つめ返した。
 眞木の口角がくっきりと上がった。

「喜べ。キミが第一被験者だ。
 5分で効果が表れるはずだ」

 そんな、まるで宝くじが当選したみたいな言い方して。

 湖南は勢いよく立ち上がった。

「ひ、ひどい! 勝手にこんなこと……傷害で訴えますよ!」
「はは、キミはしないよ」
「します!」
「考えてみろ。もしこれで幽霊が見えたら大スクープだ。部署異動の希望も聞いてもらえるかもしれない」

 湖南はすとんと腰を下ろした。聞き取れた単語を慎重に反芻する。
 
「スクープ? 異動? なぜそれを」

「見たままを言ったまでだ。オカルトに興味もない、髪の先から爪の先まで洒落こんでいるオカルト雑誌の編集者の思考を」

 湖南はラベンダー色に塗られた爪の先を隠すように握りしめた。
 この人どこまで本気で――。

「どうする? 解毒剤ならあるが」

「げ、解毒……ってことはやっぱり毒なんじゃないですかぁっ!」

 完全に眞木のペースに乗せられていた。

 くやしいが、眞木のいう通りこれで本当に幽霊が見えるなら大スクープだ。手柄を立てれば異動の道筋も見えてくる。
 
「わかりました、やりますよ! そのかわり成功したらうちで独占させてくださいよ?」

「約束しよう」

 紅茶のおかわりを勧められたが、それは丁重に断った。
 
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