6 / 35
2.眞木耀司という男
5
しおりを挟む
ガラステーブルの盤面を見つめながら、湖南は今の話を反芻した。
つまり、ヒトは脳が許可したものしか見ていないということ?
そして幽霊は許可されていないから普通見えない。
ということは、幽霊は存在しているということになる。
にわかに信じられる話ではなかった。
「初歩的な質問ですけど、幽霊を見ることが可能なら、幽霊も光を発しているのでしょうか」
「存在するならな」
「え、信じてらっしゃるんじゃ」
今までの話は幽霊がいるという前提だったのではなかったのか。
それに幽霊が見える薬を開発したとも言っていたはずだが。
「あくまで仮説だ。僕の目で確認しない限り僕は幽霊の存在は肯定しない」
「では幽霊が見える薬というのは」
「脳の防御機能を一時的に弱める薬を開発した」
「そ、そんなものつくれるんですか」
「理論上はな。普通の科学者にはまず無理だろうが僕ならできる。ああ、聞きたいなら教えてあげよう。実は配合バランスが重要だ。特にセロトニンは入れすぎると精神に異常をきたす可能性もある、さらには」
「あ、大丈夫です」
湖南は両手を前に出して眞木の講釈を止めた。
これ以上聞いていたら、頭がおかしくなりそうだ。
大体、僕ならできるって小学生ですかあなたは。
言うだけなら簡単だ。
膨らんだ期待はしゅんと萎んだ。やっぱり早めに退散しよう。
湖南はすっかり冷めきってしまった紅茶を一気に飲み干した。
「それで、その薬はどこにあるんです?」
退散するきっかけを探りながら、一応聞いてみる。例えあったとしても、そんな危険な薬飲めるわけないが。
眞木は軽く首を傾けながら、じっと湖南を見つめた。そんなものはないと分かっていても、ごくりと唾を飲み込み次の言葉を待ってしまう。眞木には不思議な引力のようなものがあった。
眞木は長く骨張った人差し指をピストルの形に変え、その銃口をゆっくりと湖南の方に向けた。
凛々しく整った唇が開く。
「今キミが飲んだその紅茶――」
「はい?」
まさか。嫌な予感が湖南を襲う。
何度か瞬きを繰り返し、眞木を見つめ返した。
眞木の口角がくっきりと上がった。
「喜べ。キミが第一被験者だ。
5分で効果が表れるはずだ」
そんな、まるで宝くじが当選したみたいな言い方して。
湖南は勢いよく立ち上がった。
「ひ、ひどい! 勝手にこんなこと……傷害で訴えますよ!」
「はは、キミはしないよ」
「します!」
「考えてみろ。もしこれで幽霊が見えたら大スクープだ。部署異動の希望も聞いてもらえるかもしれない」
湖南はすとんと腰を下ろした。聞き取れた単語を慎重に反芻する。
「スクープ? 異動? なぜそれを」
「見たままを言ったまでだ。オカルトに興味もない、髪の先から爪の先まで洒落こんでいるオカルト雑誌の編集者の思考を」
湖南はラベンダー色に塗られた爪の先を隠すように握りしめた。
この人どこまで本気で――。
「どうする? 解毒剤ならあるが」
「げ、解毒……ってことはやっぱり毒なんじゃないですかぁっ!」
完全に眞木のペースに乗せられていた。
くやしいが、眞木のいう通りこれで本当に幽霊が見えるなら大スクープだ。手柄を立てれば異動の道筋も見えてくる。
「わかりました、やりますよ! そのかわり成功したらうちで独占させてくださいよ?」
「約束しよう」
紅茶のおかわりを勧められたが、それは丁重に断った。
つまり、ヒトは脳が許可したものしか見ていないということ?
そして幽霊は許可されていないから普通見えない。
ということは、幽霊は存在しているということになる。
にわかに信じられる話ではなかった。
「初歩的な質問ですけど、幽霊を見ることが可能なら、幽霊も光を発しているのでしょうか」
「存在するならな」
「え、信じてらっしゃるんじゃ」
今までの話は幽霊がいるという前提だったのではなかったのか。
それに幽霊が見える薬を開発したとも言っていたはずだが。
「あくまで仮説だ。僕の目で確認しない限り僕は幽霊の存在は肯定しない」
「では幽霊が見える薬というのは」
「脳の防御機能を一時的に弱める薬を開発した」
「そ、そんなものつくれるんですか」
「理論上はな。普通の科学者にはまず無理だろうが僕ならできる。ああ、聞きたいなら教えてあげよう。実は配合バランスが重要だ。特にセロトニンは入れすぎると精神に異常をきたす可能性もある、さらには」
「あ、大丈夫です」
湖南は両手を前に出して眞木の講釈を止めた。
これ以上聞いていたら、頭がおかしくなりそうだ。
大体、僕ならできるって小学生ですかあなたは。
言うだけなら簡単だ。
膨らんだ期待はしゅんと萎んだ。やっぱり早めに退散しよう。
湖南はすっかり冷めきってしまった紅茶を一気に飲み干した。
「それで、その薬はどこにあるんです?」
退散するきっかけを探りながら、一応聞いてみる。例えあったとしても、そんな危険な薬飲めるわけないが。
眞木は軽く首を傾けながら、じっと湖南を見つめた。そんなものはないと分かっていても、ごくりと唾を飲み込み次の言葉を待ってしまう。眞木には不思議な引力のようなものがあった。
眞木は長く骨張った人差し指をピストルの形に変え、その銃口をゆっくりと湖南の方に向けた。
凛々しく整った唇が開く。
「今キミが飲んだその紅茶――」
「はい?」
まさか。嫌な予感が湖南を襲う。
何度か瞬きを繰り返し、眞木を見つめ返した。
眞木の口角がくっきりと上がった。
「喜べ。キミが第一被験者だ。
5分で効果が表れるはずだ」
そんな、まるで宝くじが当選したみたいな言い方して。
湖南は勢いよく立ち上がった。
「ひ、ひどい! 勝手にこんなこと……傷害で訴えますよ!」
「はは、キミはしないよ」
「します!」
「考えてみろ。もしこれで幽霊が見えたら大スクープだ。部署異動の希望も聞いてもらえるかもしれない」
湖南はすとんと腰を下ろした。聞き取れた単語を慎重に反芻する。
「スクープ? 異動? なぜそれを」
「見たままを言ったまでだ。オカルトに興味もない、髪の先から爪の先まで洒落こんでいるオカルト雑誌の編集者の思考を」
湖南はラベンダー色に塗られた爪の先を隠すように握りしめた。
この人どこまで本気で――。
「どうする? 解毒剤ならあるが」
「げ、解毒……ってことはやっぱり毒なんじゃないですかぁっ!」
完全に眞木のペースに乗せられていた。
くやしいが、眞木のいう通りこれで本当に幽霊が見えるなら大スクープだ。手柄を立てれば異動の道筋も見えてくる。
「わかりました、やりますよ! そのかわり成功したらうちで独占させてくださいよ?」
「約束しよう」
紅茶のおかわりを勧められたが、それは丁重に断った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蠍の舌─アル・ギーラ─
希彗まゆ
ミステリー
……三十九。三十八、三十七
結珂の通う高校で、人が殺された。
もしかしたら、自分の大事な友だちが関わっているかもしれない。
調べていくうちに、やがて結珂は哀しい真実を知ることになる──。
双子の因縁の物語。
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
濡れ衣の商人
鷹栖 透
ミステリー
25歳、若手商社マン田中の平穏な日常は、突然の横領容疑で暗転する。身に覚えのない濡れ衣、会社からの疑いの目、そして迫り来る不安。真犯人を探す孤独な戦いが、ここから始まる。
親友、上司、同僚…身近な人物が次々と容疑者として浮かび上がる中、田中は疑惑の迷宮へと足を踏み入れる。巧妙に仕組まれた罠、隠蔽された真実、そして信頼と裏切りの連鎖。それぞれの alibi の裏に隠された秘密とは?
緻密に描かれた人間関係、複雑に絡み合う動機、そして衝撃の真相。田中の執念深い調査は、やがて事件の核心へと迫っていく。全ての謎が解き明かされる時、あなたは想像を絶する結末に言葉を失うだろう。一気読み必至の本格ミステリー、ここに開幕!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる