上 下
4 / 87
起 『Sランクの少年は、国から追放されました。』

第4話 少しの犠牲は仕方ないから

しおりを挟む
----------

 作戦遂行から数日が経過した。

「前回の作戦は失敗したけど……本当の在り処が分かったよ、場所は【王側近室】の中らしいわ。何故地下室に無かったのかは分からないけど、ここにあるのは確実よ」

 彼女の説明によれば前回の失敗は仕方がなかった。そもそも地下室に神本がなかった。僕の魔法が解けなくても、どちらにしろ作戦は失敗していたことになる。

「でも前回の失敗から、城の付近の警備が……。だから、今回は透明魔法すら使えないかもしれない」

 逆に透明魔法を使うべきでは……と思ったが、それは違うみたいだ。この魔法は先に言った通り、体力をとてつもなく消耗する。警備が強くなるのなら、その警備の中に”透明魔法を見破る者”もいるかもしれない。もしそれが居たら、体力を消耗するだけ消耗して、消耗し切った頃に殺されるだけ……らしい。

 なら……地下室ごとワープさせたように【王側近室】ごとワープさせたらいいと考えたが、その部屋がどこにあってどれくらい大きいのかも分からない。

「だから今回は……強行突破で行くよ」とレッドさん。強行突破……嫌な予感しかしない。

「作戦は……トートの火炎魔法と、クリムの剣術で真正面から突入しよう。そして、残りの3人で本を探そう。実物の形も見た目を覚えているよね?」
 予想通り、自分の中では嫌な部類に入る作戦。

「なんで……しないといけないんですか」
 僕は、うっかり口に出してしまった。自分の中では正論のつもりだった。神本を探すだけの作業ならまだしも、この作戦なら人を殺す可能性だってある。

「まだ分かってないよね。私たちは、被害者。Sランクというだけで国に殺されかけた……被害者。この国……これからの世界を救うには、今動かないといけない……」

「少しの犠牲は……仕方ないから」

 涙ぐみながら、彼女はそう声を発した。

「とにかく……作戦は1週間後! 王さんがちょうど城にいない日!」

----------

「お前は何も分かってないな」
クリムさんが話しかけてきた。

「俺も見た目は15歳で止まっているかもしれないが、人生経験はお前より上だ。アイツ……レッドもそうだ」
 彼はそのまま話し続ける。

「お前が来る前からずっと……『この世界に生まれなければよかった』と言っていた。お前が来てから……あえて言わなくなったようだが、レッド本人が1番辛いんだ……」

 僕は何も言い返せず、ただその話を聞いていた。

「これ以上、被害者を増やすわけにはいかない。俺たちの手で【S】とか【G】の……お前の幼馴染みたいな奴らを救おう……。俺たちの手で……」

 ドンのことを思い出した。そうだ、彼は僕の目の前でモンスターに喰われた……。それもこの国の王に。嫌な記憶が甦ってくる。

 でも、今の僕は独りじゃない。この仲間がいれば、何にだって立ち向かっていける気がする。

----------

 作戦までの1週間。僕はとにかく魔法の勉強をした。火炎魔法も透明魔法も創造魔法も完璧ではない。

それでも少しずつ、上達はしていく。

火炎魔法は、トートさん程ではないが、小さな炎なら操ることが出来るようになっていた。

透明魔法は、前回より3分ほど長く透明になることが出来る。隠密行動にはもってこいの実力はあるはず。

創造魔法は……正直まだまだ。レッドさんには及ばない。しかし、想像した物をそのまま作り出すことが出来るようになった。あくまで”偽物”だけれとも。

剣術は……クリムさんのお陰。とても感謝しています。

----------

「エストくん、行ける?」

 レッドさんに肩をポンポンと叩かれた。
本人が1番辛いって……この前クリムさんに言われたばかりだ。

 ならば、僕の答えはただひとつ。

「はい……行きます」

 クリムさんが続けて話す。

「そして俺たちはな……なんてったってSランクだ。ちょっとやそっとの魔法じゃかすり傷程度だ。絶対に生きて……帰るぞ」

 今回の作戦は、トートさんが指揮をするようだ。彼女は説明を始めた。

「全員で真正面から強行突破は……流石に危険だったから……、今回は3つの班に分かれるよ! 私とエストくんで真正面から突入! クリムとレッドで上空から城を攻撃しつつ突入! リーゼは……遠くからテレパシーで伝達してね! 無理だったら、私たちと合流!」

「行くよ、みんな」とレッドさんが意を決した声で僕らに言う。多少の犠牲は仕方ない。多少の犠牲は仕方ない。多少なら、いい。多少なら。

----------

 ワープ魔法で、城の近くの森まで来た。
 ここからはトートさんと2人で行動することになる。
 彼女は火炎魔法の使い手。その威力は絶大。本人によると「屋敷ひとつを消すくらいの炎を出せる」らしい。実際に使ったことはないみたいだが。

「じゃあ、行こうか! ちゃんとフードで顔を隠してね!」

 言われた通りに僕はフードを深く被り、クリムさんから直々に貰った剣を持った。極力、この剣を使わないように行動したい。甘えと言われるのは分かっているが、15歳で人を殺せというのはほぼ無理だと思っている。猫でも犬でも殺せと言われたら断る。

「誰だ!」
 すぐに兵士に見つかってしまった。にフードを深く被っている上、片方は剣を持っている。どう見ても、不審者だろう。

 もう、戻れない。

 僕は目を瞑る。そして大きく息を吸い、大きく息を吐く。

 目を開くと、既にトートさんが兵士を倒していた。周りの兵士は全身に火が燃え広がっている。

「何やってんの? 早く中入ろうよ!」
 彼女は早すぎる……。行動に移すのも、相手を倒すのも。



「助けてくれぇ……!」
「頼むか……ら……!」
 兵士の悶える声が、城の門の前で響き渡っていた。

----------

「おい、悲鳴が聞こえたぞ」
「例の地下室を消し飛ばしたヤツらか?」
「分からない。とりあえず、急いで準備を……うわっ」
「おい、大丈……ぐはっ……」

 辺り一面に、黒い液体が広がる。血だ。兵士は即死で、誰にどのように刺されたのかも把握していない。

「城って広いから、ここが何階か分からないわ……君たちもそう思わない?」

 雲とは正反対の色。城の中の一室の床が……黒く染ってゆく。剣を持つある人間は、容赦なく人を殺しながら進んでゆく。抵抗されたから殺した訳でもない、人がいたから殺した。

 こいつに、人間の心などない。

----------
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫婦転生-九十歳爺ちゃん、先に転生した妻を探して異世界放浪、若い肉体を手に入れて、最強槍使いが無双する-

安東門々
ファンタジー
一色善右衛門(九十三歳)十八年前に妻のリヱ子に先立たれ、そして、今日大好きな家族に見守られ息をひきとろうとしていた。 彼には願いがあった。 もし、生まれ変わることができれば、もう一度妻と一緒に暮らしたいと。 その願いは聞き届けられ、無事に生まれ変わることに成功した。 しかし、生まれ変わる直後、神は妙なことを善右衛門に持ちかけた。 「お主の妻は、手違いにより別の世界へと生まれ変わってしまった」 驚いた彼に対し、神はある提案をする。 「もし、もう一度一緒になりたいのならば、急ぎそなたも異世界へと向かってくれないだろうか?」 その言葉に善右衛門は力強く頷くのであった。 生まれ変わった善右衛門は、子どもとしてではなく、落盤事故で命を亡くした青年の体を借りることになり、急ぎ妻を探したが、誰が妻なのかわからない。 しかも、善右衛門が知っている世界とは違い、モンスターや魔人が存在し、人々を襲っていた。 そんな中、森を彷徨っていると旅の商人の一行が襲われているのを発見する。商隊はモンスターの脅威に太刀打ちできなかった。 一人の少女が必死に抵抗するも破られそうになっている。 しかし、善右衛門は手元に落ちていた木の棒を握り少女の前に立つ。 「援護頼めるか?」 「え?」 表紙絵 @concon777 きゃらこん/CaraCorn 様 ※ えっと、性的描写とか得意ではないので、あれですが、ぶっちゃけあまり出てきません笑 表紙と一話目のノリでは、絶対進みませんが、何卒ご理解していただけると幸です(*´ω`*) ※重要※ 誤って作品を削除してしまいました……涙 急いで、公開した箇所まで投稿いたしましたが……。 本当に、申し訳ございません。 以後気をつけます涙

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...