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58話 貴族晩餐
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その日の夜。
ティス町で一番豪華な家にやってきた。ポンちゃんとメイちゃんは留守番だ。
あまり貴族と関わりたくなかったけど……敵対したいわけじゃないので、仕方なくやってきた。
ノックをするとメイドが出迎えてくれた。
中は豪華すぎるわけではなく、程よく貴族の家という雰囲気。
木造は暖かみを感じさせる。
案内された部屋には長いテーブルがあって十人くらい一緒に食事が取れそうだ。
「お待たせしました」
入って来たクーナさんは純白なワンピースに似たドレスを着ていた。
貴族らしいというか、セレナも似合いそうだ。
そういや……セレナってこういう服をまた着たいと思わないのかな? 今度聞いてみよう。
一緒に入って来た中年男性も貴族衣装で、恐らく町長だと思う。
「お初にお目にかかる。ティス町の町長、ヒルゼン・キウラと申す」
「初めまして。屋台【自由の翼】の店主、ノアと申します」
握手を求められたので、握り返した。
苗字がキウラだから、キウラ男爵様となるのか。
「本日はお招きありがとうございます」
「いやいや。トーモロの新しい食べ方をご教授して貰えて、報酬を出したいくらいですぞ」
「いいえ。難しいレシピではありませんので」
男爵の目元が笑う。
それぞれ席に着く。
向かいに座ると思いきや、男爵とクーナさんが向かいに座る。
男爵の隣はセレナで、クーナさんの隣が僕、セレナの隣がミレイちゃん、僕の隣がライラさんだ。
運ばれてきた料理は、どの料理もちゃんとした食材を使っていて、とても美味しい。丁寧な仕込みなのか、一つ一つ雑味はなく、普通の貴族の料理にしては、想像以上に美味しい。
うちの実家は言わずも酷いが、一度だけ参加したパーティの料理もそれ程美味しくはなかった。
あれから下町でご飯を食べて分かったのは、僕が想像しているような貴族の上品な料理にはそう簡単には出会えない。
なのに、ここは素晴らしく美味しい。
「どの素材も美味しくて、料理長の腕も素晴らしいです。こんなに美味しい食事、初めて食べます」
「ほぉ……! その年齢でしっかりと舌が肥えているのか……さすがだ。ノアくん」
もちろん、毎日美味しいものを食べたい僕が見逃すはずもない……!
「屋台を開いていると聞いているが、店主ということは既に成人しているのかな?」
「はい。今年十二となります」
「ふむふむ…………クーナが言っていた通り、逸材であるな」
一瞬、隣からの視線に悪寒を覚える。
あ、あれ…………?
それからは難なく食事が進み、デザートまで美味しくご馳走になった。
「今日は美味しい食事をご馳走様でした」
セレナは空気を読みながら程よく相づちに専念していて、ライラさんとミレイちゃんは緊張しているようで、声は一切発していない。
種族違いとはいえ、貴族と平民では大きな差があるからね。
帰り際、玄関まで出てくれた男爵様とクーナさんが笑顔になる。
「ところでノアくん」
「は、はい」
…………これはまずい気がする。
「この町はどうだったかね?」
「え、えっと、とても素晴らしくて景色もよく、周りには強い魔物は現れない平和な町な印象がありました。町民達の人柄も良く、賑わういい町ですね」
「がーははっ! 中々嬉しいことを言ってくれるな。そこでノアくんに一つ相談があるが…………」
男爵の目がギロリと光る。
「うちの娘と結婚する気がないか? わしから見ても自慢の娘で、まだ十六。十分結婚の範囲内だと思うがどうかね?」
や、やっぱり…………こうならないようにずっと心の中で祈ってたけど…………。
「あ、あはは……ぼ、僕なんかクーナ様に――――」
「私はノア様なら大歓迎だよ!」
いつの間にか「様」呼ばわりするし!?
その時、後ろからセレナの視線を感じる。何を言いたいかくらいわかる。
「男爵様。僕には旅の目的があります。もちろん、目的のためだけの旅ではありませんが、ずっと歩き続けることになります。それが終わるまで、どこかに留まるつもりはないんです」
「ふむ。そういう事情があるなら仕方ないが……それなら婚約だけでも」
「旅の道はいつ命を落としてもおかしくありません。それでクーナ様の人生に闇を落としたくはありません……」
「ふむ……ということじゃ。クーナや」
「は、はい……そういう事情があるならとても残念です」
「うちのメンバーの一人が北の地から【風渡り】で運ばれてきた者がいまして、いずれ北の大地に入ることになります」
「北の大地……それは大変な旅路じゃな」
「はい。今は力を溜めながら、ゆっくりではありますが、北の地を目指してまいります」
「ああ。健闘を祈る」
また男爵様と握手を交わして、クーナさんにも挨拶して外に出た。
帰り道、ライラさんとミレイちゃんは「生きた心地がしなかったよ~」と緩んでいた。
「ノア……?」
「うん?」
「…………残りたかったら――」
「僕は残らないよ」
「…………」
「誰から何を言われても僕は――――――」
「え? なんて?」
「――――何でもない~」
「えっ!? ちょ、ちょっと! ノア! 教えてよ!」
「や~だ」
「そんな~!」
逃げていく僕を「教えてよ~ねえ~」と焦っているセレナに笑顔がこぼれた。
僕がいるべき場所は――――。
ティス町で一番豪華な家にやってきた。ポンちゃんとメイちゃんは留守番だ。
あまり貴族と関わりたくなかったけど……敵対したいわけじゃないので、仕方なくやってきた。
ノックをするとメイドが出迎えてくれた。
中は豪華すぎるわけではなく、程よく貴族の家という雰囲気。
木造は暖かみを感じさせる。
案内された部屋には長いテーブルがあって十人くらい一緒に食事が取れそうだ。
「お待たせしました」
入って来たクーナさんは純白なワンピースに似たドレスを着ていた。
貴族らしいというか、セレナも似合いそうだ。
そういや……セレナってこういう服をまた着たいと思わないのかな? 今度聞いてみよう。
一緒に入って来た中年男性も貴族衣装で、恐らく町長だと思う。
「お初にお目にかかる。ティス町の町長、ヒルゼン・キウラと申す」
「初めまして。屋台【自由の翼】の店主、ノアと申します」
握手を求められたので、握り返した。
苗字がキウラだから、キウラ男爵様となるのか。
「本日はお招きありがとうございます」
「いやいや。トーモロの新しい食べ方をご教授して貰えて、報酬を出したいくらいですぞ」
「いいえ。難しいレシピではありませんので」
男爵の目元が笑う。
それぞれ席に着く。
向かいに座ると思いきや、男爵とクーナさんが向かいに座る。
男爵の隣はセレナで、クーナさんの隣が僕、セレナの隣がミレイちゃん、僕の隣がライラさんだ。
運ばれてきた料理は、どの料理もちゃんとした食材を使っていて、とても美味しい。丁寧な仕込みなのか、一つ一つ雑味はなく、普通の貴族の料理にしては、想像以上に美味しい。
うちの実家は言わずも酷いが、一度だけ参加したパーティの料理もそれ程美味しくはなかった。
あれから下町でご飯を食べて分かったのは、僕が想像しているような貴族の上品な料理にはそう簡単には出会えない。
なのに、ここは素晴らしく美味しい。
「どの素材も美味しくて、料理長の腕も素晴らしいです。こんなに美味しい食事、初めて食べます」
「ほぉ……! その年齢でしっかりと舌が肥えているのか……さすがだ。ノアくん」
もちろん、毎日美味しいものを食べたい僕が見逃すはずもない……!
「屋台を開いていると聞いているが、店主ということは既に成人しているのかな?」
「はい。今年十二となります」
「ふむふむ…………クーナが言っていた通り、逸材であるな」
一瞬、隣からの視線に悪寒を覚える。
あ、あれ…………?
それからは難なく食事が進み、デザートまで美味しくご馳走になった。
「今日は美味しい食事をご馳走様でした」
セレナは空気を読みながら程よく相づちに専念していて、ライラさんとミレイちゃんは緊張しているようで、声は一切発していない。
種族違いとはいえ、貴族と平民では大きな差があるからね。
帰り際、玄関まで出てくれた男爵様とクーナさんが笑顔になる。
「ところでノアくん」
「は、はい」
…………これはまずい気がする。
「この町はどうだったかね?」
「え、えっと、とても素晴らしくて景色もよく、周りには強い魔物は現れない平和な町な印象がありました。町民達の人柄も良く、賑わういい町ですね」
「がーははっ! 中々嬉しいことを言ってくれるな。そこでノアくんに一つ相談があるが…………」
男爵の目がギロリと光る。
「うちの娘と結婚する気がないか? わしから見ても自慢の娘で、まだ十六。十分結婚の範囲内だと思うがどうかね?」
や、やっぱり…………こうならないようにずっと心の中で祈ってたけど…………。
「あ、あはは……ぼ、僕なんかクーナ様に――――」
「私はノア様なら大歓迎だよ!」
いつの間にか「様」呼ばわりするし!?
その時、後ろからセレナの視線を感じる。何を言いたいかくらいわかる。
「男爵様。僕には旅の目的があります。もちろん、目的のためだけの旅ではありませんが、ずっと歩き続けることになります。それが終わるまで、どこかに留まるつもりはないんです」
「ふむ。そういう事情があるなら仕方ないが……それなら婚約だけでも」
「旅の道はいつ命を落としてもおかしくありません。それでクーナ様の人生に闇を落としたくはありません……」
「ふむ……ということじゃ。クーナや」
「は、はい……そういう事情があるならとても残念です」
「うちのメンバーの一人が北の地から【風渡り】で運ばれてきた者がいまして、いずれ北の大地に入ることになります」
「北の大地……それは大変な旅路じゃな」
「はい。今は力を溜めながら、ゆっくりではありますが、北の地を目指してまいります」
「ああ。健闘を祈る」
また男爵様と握手を交わして、クーナさんにも挨拶して外に出た。
帰り道、ライラさんとミレイちゃんは「生きた心地がしなかったよ~」と緩んでいた。
「ノア……?」
「うん?」
「…………残りたかったら――」
「僕は残らないよ」
「…………」
「誰から何を言われても僕は――――――」
「え? なんて?」
「――――何でもない~」
「えっ!? ちょ、ちょっと! ノア! 教えてよ!」
「や~だ」
「そんな~!」
逃げていく僕を「教えてよ~ねえ~」と焦っているセレナに笑顔がこぼれた。
僕がいるべき場所は――――。
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