上 下
46 / 62

44話 それぞれの師匠

しおりを挟む
「「「お願いします! 店長!」」」

 ブレインさんが僕に向かって土下座してきた。

「い、いや……そう言われましても…………」

 二度目の野営。

 さすがに僕の力に感づいた彼らは、理由や理屈は分からなくても、僕が美味しい料理を出していることに気付いた様子。

 二日目の焼肉を堪能したブレインさん達は、事前に打ち合わせしていたかのように、自分達を護衛として雇って欲しいと頼んできた。しかも、護衛費用は全てご飯で良いという。

「実は俺達、美味しいものを食べ歩くのが趣味でな! 稼いで余った金は全部美味しいものを食べることに使っているんだ! 店長のご飯は今まで食べたどんな料理よりも美味しかった……! いや、美味しい! それにまだまだ隠している美味しい料理がある気がするんだ! 俺のこの鼻がそう言っている!」

 どんな鼻だよ! ポンちゃんならまだしも、ブレインさんの鼻は普通の人のものでしょうに!

「うちは既に護衛がいるので……」

「!?」

「ほら」

 僕の隣にちょこんと座っていたポンちゃんを抱きかかえて、彼らの前に見せる。

「僕達の守護神ポンちゃんです!」

『ポンデュガールだニャ!』

「飼い犬じゃなかったのか……?」

『誰が飼い犬ニャ!』

 飼い猫と言われなかったから怒ったみたいな言い方すんな!

「うちの仲間です。僕とは会話ができる凄い子なんです」

「へ、へぇ……」

 いや、そんな痛い子見る目やめてよ……?

「ということもあるので、護衛は必要ないので、お客様ならいつでも歓迎しますが、メンバーを増やしたいとかではありませんので……」

 というか、Cランク冒険者となれば、冒険者の中でも上位冒険者として認められる存在だ。

 こんなに凄い戦力が僕達なんかの護衛をしても、世界のためにはならないと思う。

 彼らにはCランク冒険者らしく、色んな依頼をこなして、色んな人のためになってもらいたい。

「ですから僕達なんかの護衛をせず、依頼をこなしてください! 冒険者なんですから!」

「ううっ……わ、分かった…………じゃあ、こうして店を開いていなくても、店外で売ってくれるのはいいのか!?」

 この人達…………付いてくる気だ…………。

「それなら問題ありませんが、うちのメニューは普通より高いですよ?」

「問題ない! Cランク冒険者ともなれば、それなりに収入があるからな! がーはははっ!」

「でもいつか尽きるでしょうし、毎食焼肉食べたら毎日銀貨一枚が消えちゃいますよ?」

「そ、それは…………」

「僕達は逃げも隠れもしませんが、まあ、暫くは東を目指して移動するので、食べたくなったら探してみてください」

「わ、分かった…………ひとまず、次の町までは一緒でもいいんだよな?」

「もちろん構いませんよ」

 そもそも今からダメですとも言えないし、元々屋台というのは、どこでも売れるように作ろうかなと思っていたからな。

 街のみで開くつもりもなかった。

「じゃあ、せっかくだから、次の町に向かう間はミレイちゃんに私が魔法を教えてあげるよ」

「わあ~! 本当にいいんですか?」

「もちろん。これだけ繊細な【自然魔法】を操れる人も中々珍しくて、中々教え甲斐がありそうね」

「店長!」

「ああ。僕は構わないよ。むしろ、魔法を教えてくれるなら大歓迎だ。それなら――――シズルさんには特別メニュー・・・・・・をご馳走しなくちゃいけないな」

「「!?」」

 シズルさんがニヤリと笑う傍で、焦った表情を浮かべたブレインさんとエリナさん。

「せ、セレナちゃん! レンジャーのことなら教えられるけど、狩りの方法とか色々知りたくない?」

「わ~! 知りたいっ~!」

 当然のように目をキラキラさせて視線を向けるセレナとエリナさん。

 焦ったように回りを見回すブレインさん。

「ふっふっ。残念だったわね~おっさんの出番はないわよ~?」

「ぐあああ! おっさんにも少しは優しくしてくれよな!?」

 ぐはっ……アラフォーのおっさん……僕の心も…………。

 ニヤニヤしていたセレナが助け船を送る。

「それならブレインさんは、ノアに剣術を教えてあげたらいいんじゃないかな?」

「「ん?」」

「ほら、ノアだって、元々剣術の方が得意だったし~」

 あ……得意というか、あれは実家の強制…………。

 おっさんのあまりにも眩しい期待の眼差しに抗うことができなかった。

「や、やった~!」

 ブレインさんの嬉しそうな声が森中に響き渡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...