37 / 62
35話 頑張りの結果
しおりを挟む
「こちらは【松茸香るコッペパン】でございます。おすすめは、開いて中に焼肉を挟んで食べると、とても美味しく召し上がれます」
「おお! やってみるぞ!」
表情が完全に緩くなった子爵が、セレナに言われた通りコッペパンを開いて、中に焼肉を挟んだ。
……なるほど。プルドポークのようにして売るのもありだな。肉の形を整えればハンバーガーみたいにも作れそうだが、ハンバーガーはレシピを買いたい。
「んおおおおお!」
子爵の表情がますます崩れていく。
ふくよかな腹が嬉しさで波を打つ。
目の前の焼肉とパンを全て食べ終わった子爵は、残った焼肉のたれを舐めるほどだ。
貴族としての教養も、周りの目線など気にする事なく。
「も、もっ――――」
子爵が話す前に、セレナがたこ焼きを持った皿を出した。
「こちらはデザートにおすすめの品でございます。その名を――――【フォアグラとキャビア風味を添えてたこ焼き】でございます」
【無限調味料】で、あくまで風味のパウダーを足している。コッペパンに松茸パウダーをまぶしたようにね。
「!? た、食べる!!」
八個のたこ焼きが一瞬で子爵の口に入って皿から消えた。
「も、もっと!」
「申し訳ございません。貴族御用達商品で、仕入れが難しく一品ずつしかお出しできず、再入荷はまたいつになるか分からない状況でございます」
「な、なんだと!」
「ブルグルス子爵様。またのお越しを心待ちにしております」
そう話しながら会計の紙をそっとテーブルに置いた。
子爵は心ここにあらずの放心状態になって、椅子にもたれかかる。
とても堪能してくれたみたいで良かった。
隣にいた執事が会計として銀貨五十枚を取り出す。
すぐに確認したセレナが深々と挨拶をして、子爵は肩を落として帰って行った。
簡単にあきらめてくれて本当に良かった。もし暴れたりしたら、開店すら怪しかったからね。
子爵が帰ってどんよりとした空気の中、セレナが特設テーブルの前で手を優しく叩いた。
「皆様! このまま開店しますので、よろしくお願いします~!」
セレナが機転を利かせてくれて、お客様に笑顔が戻った。
それからすぐに店が始まって、お客様が次々テーブルに着く。
ひっきりなしに届く注文を受けて、たれ焼肉からたこ焼きまで大量に作り続けた。
最初の波が終わって落ち着いた頃に、いつもの子供達がやってきた。
「ミレイちゃん。よろしくね」
「は~い!」
いつものアンケート席に案内すると、いつもと変わらない注文が届く。
せめて俺達がここにいる間くらいは腹いっぱいに食べて欲しくて、もう七日目になるが、よくよく考えると明日から彼らはまたお腹を空かせる生活が始まるだろう。
願わくは、彼らがこの先も健やかに育って欲しいと願いながらも、人の命に責任を持つことの難しさを理解した。
このままシーラー街でお店を開くことだってできる。そう考えると、彼らを置いて去ることに心が少しだけ痛む。
店のオープン時間が終了し、最後のお客様の食事が終わった。
まだまだ居残っているお客様が多く、不思議に思っていると、みなさんが僕に向かって拍手を送り始めた。
「み、皆様?」
「いつも美味しい焼肉をありがとう! 一生の思い出になったよ!」
「俺もだー! こんな美味い飯があると思うと、明日からも頑張って生きていくぜ! またこの街に寄ってくれよな!」
僕に感謝を伝える多くの声が届く。
――――初めてだった。
前世では無能と呼ばれ、毎晩残業続き、作った資料は上司に八つ当たりされる生活。
僕が異世界に転生した理由は何だろうとずっと悩んでいた。
セレナという自分の娘のような女の子を二年間見守って来た。
その間も、僕がやっていることは正しいのかと、ずっと自問自答を繰り返して来た。
それがようやく……自分の生きる理由を見つけた気がした。
「皆様……はいっ! こちらこそ、【自由の翼】を利用してくださりありがとうございました! またいつかシーラー街に来ますので、その時はぜひよろしくお願いいたします!」
こうして、僕達の七日間の初屋台が幕を閉じた。
「おお! やってみるぞ!」
表情が完全に緩くなった子爵が、セレナに言われた通りコッペパンを開いて、中に焼肉を挟んだ。
……なるほど。プルドポークのようにして売るのもありだな。肉の形を整えればハンバーガーみたいにも作れそうだが、ハンバーガーはレシピを買いたい。
「んおおおおお!」
子爵の表情がますます崩れていく。
ふくよかな腹が嬉しさで波を打つ。
目の前の焼肉とパンを全て食べ終わった子爵は、残った焼肉のたれを舐めるほどだ。
貴族としての教養も、周りの目線など気にする事なく。
「も、もっ――――」
子爵が話す前に、セレナがたこ焼きを持った皿を出した。
「こちらはデザートにおすすめの品でございます。その名を――――【フォアグラとキャビア風味を添えてたこ焼き】でございます」
【無限調味料】で、あくまで風味のパウダーを足している。コッペパンに松茸パウダーをまぶしたようにね。
「!? た、食べる!!」
八個のたこ焼きが一瞬で子爵の口に入って皿から消えた。
「も、もっと!」
「申し訳ございません。貴族御用達商品で、仕入れが難しく一品ずつしかお出しできず、再入荷はまたいつになるか分からない状況でございます」
「な、なんだと!」
「ブルグルス子爵様。またのお越しを心待ちにしております」
そう話しながら会計の紙をそっとテーブルに置いた。
子爵は心ここにあらずの放心状態になって、椅子にもたれかかる。
とても堪能してくれたみたいで良かった。
隣にいた執事が会計として銀貨五十枚を取り出す。
すぐに確認したセレナが深々と挨拶をして、子爵は肩を落として帰って行った。
簡単にあきらめてくれて本当に良かった。もし暴れたりしたら、開店すら怪しかったからね。
子爵が帰ってどんよりとした空気の中、セレナが特設テーブルの前で手を優しく叩いた。
「皆様! このまま開店しますので、よろしくお願いします~!」
セレナが機転を利かせてくれて、お客様に笑顔が戻った。
それからすぐに店が始まって、お客様が次々テーブルに着く。
ひっきりなしに届く注文を受けて、たれ焼肉からたこ焼きまで大量に作り続けた。
最初の波が終わって落ち着いた頃に、いつもの子供達がやってきた。
「ミレイちゃん。よろしくね」
「は~い!」
いつものアンケート席に案内すると、いつもと変わらない注文が届く。
せめて俺達がここにいる間くらいは腹いっぱいに食べて欲しくて、もう七日目になるが、よくよく考えると明日から彼らはまたお腹を空かせる生活が始まるだろう。
願わくは、彼らがこの先も健やかに育って欲しいと願いながらも、人の命に責任を持つことの難しさを理解した。
このままシーラー街でお店を開くことだってできる。そう考えると、彼らを置いて去ることに心が少しだけ痛む。
店のオープン時間が終了し、最後のお客様の食事が終わった。
まだまだ居残っているお客様が多く、不思議に思っていると、みなさんが僕に向かって拍手を送り始めた。
「み、皆様?」
「いつも美味しい焼肉をありがとう! 一生の思い出になったよ!」
「俺もだー! こんな美味い飯があると思うと、明日からも頑張って生きていくぜ! またこの街に寄ってくれよな!」
僕に感謝を伝える多くの声が届く。
――――初めてだった。
前世では無能と呼ばれ、毎晩残業続き、作った資料は上司に八つ当たりされる生活。
僕が異世界に転生した理由は何だろうとずっと悩んでいた。
セレナという自分の娘のような女の子を二年間見守って来た。
その間も、僕がやっていることは正しいのかと、ずっと自問自答を繰り返して来た。
それがようやく……自分の生きる理由を見つけた気がした。
「皆様……はいっ! こちらこそ、【自由の翼】を利用してくださりありがとうございました! またいつかシーラー街に来ますので、その時はぜひよろしくお願いいたします!」
こうして、僕達の七日間の初屋台が幕を閉じた。
14
お気に入りに追加
737
あなたにおすすめの小説
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない
当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。
だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。
「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」
こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!!
───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。
「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」
そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。
ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。
彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。
一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。
※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~
うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」
探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。
探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼!
単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。
そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。
小さな彼女には秘密があった。
彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。
魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。
そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。
たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。
実は彼女は人間ではなく――その正体は。
チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる