上 下
82 / 87
連載

197話

しおりを挟む
 エリアナさんの美味しい朝食を食べてから、僕はエヴァさんのところにやってきた。
 
「ワタルくん。いらっしゃい」
 
 最近また忙しくなったようで、あまり眠れていないのか、目の下に少し隈が出来ている。
 
「エヴァさん。セレナさんから各町の開店の準備が全部整ったということです」
 
「あら、もうそんなに進んだのね。それはとてもありがたいわ」
 
 ここ一か月。
 
 スライム達が大きく増えたのには、支店拡張がまた一つ大きな原因でもある。
 
 各国の首都に支店を出してから、シェーン街や隣のベン街の【ぽよんぽよんリラックス】があまりにも人気すぎて、全町で支店を出すことが決定。それをセレナさんが進めてくれたのだ。
 
 セレナさんは今はマネージャーと呼ばれていて、全店舗の店長や従業員、その他を全て管理してくれている。
 
「では今日はいろんな町を回って開店させますね~」
 
「ええ。よろしく頼むわね」
 
 エヴァさんに挨拶をして部屋を出ようとしたとき、彼女が「ワタルくん!」と僕を呼んだ。
 
「はい?」
 
「――――いつもありがとう」
 
 エヴァさんって……どこまでも魔族のために毎日頑張っていて、こうして感謝もしてくれる。彼女が魔族の王様で本当に良かったと思う。
 
「こちらこそですよ~。では行ってきます!」
 
 すぐにユートピア号に乗り込み、魔族領を回ることになった。
 
 最初に向かうのはベン街。
 
 ここには支店がすでにあるけど、スライム達や従業員の皆さんに直接会っておくためだ。
 
 次に向かったのはパス街。
 
 ここはケガをしたジェシカさんを助けたときに訪れた街だ。
 
 支店の場所はエヴァさんが全土で用意してくれて、街の中心部である広場の一番立地のいいところをもらえた。
 
 これは魔族全体の意志だから気を使わなくてもいいと言われた。
 
 セレナさんと一緒に顔を出して、開店まで見守る。
 
 すぐに開店すると、事前予約を取っていた住民達が嬉しそうな笑みを浮かべて来店してくれた。
 
 研修もあったからか、スムーズに進んでるのを見届けて、僕達はまた次の街を目指した。
 
 次にやってきたのは、お隣の鬼人族の里。
 
 新しい鬼人族の王様が出迎えてくれるくらいには、鬼人族にとって【ぽよんぽよんリラックス】は大きいみたい。
 
 皆さん嬉しそうに支店を見上げていた。
 
 鬼人族の里は、資材などの枯渇により、建物はほとんどが平屋だったのに、今や周りに成長した樹木があって、それを伐採して立派な家が建ち始めている。
 
 もちろん、魔王国としても破格の援助をしているので、以前訪れたときよりも大きく発展していた。
 
 その中でも、鬼人族の皆さんが一番力を入れて作ってくれた建物が、広場を半分とも囲んでいる半円の建物。
 
 ここは、まだ決まっていなかったのに、皆さんが作った【ぽよんぽよんリラックス】の支店だ。
 
 むしろ……全店舗の中で一番大きいんじゃないかな?
 
 ただ、大きいからといって、ここを最優先したわけではないので、まだ建物全部を埋めるくらい従業員が多いわけではない。これからゆっくり増やしていく予定だ。スライム達もね。
 
 鬼人族の里の開店と同時に真っ先に王様達が来店してくれて、他にも多くの皆さんが来店してくれた。
 
 ここも問題なさそうだね。
 
 次に向かうのはグライン街。
 
 久しぶりにリオくんに会うことができて嬉しい。
 
 リオくんの幼馴染のシアラちゃんとも会えて嬉しかったけど、実はシアラちゃんは、これから【ぽよんぽよんリラックス】で働いてくれるようだ。
 
 いたずらっぽく笑いながら「これからワタルくんをオーナーって呼ばないといけないわね~」と言っていたけど、僕としては普通に呼んで欲しい。
 
 相変わらず、エレナちゃんはリオくんと僕がくっつかないように見張っていた。
 
 それから魔族領のいろんな町を周りながら、最終的に魔都エラングシアにやってきた。
 
 魔都でも一番立地がいいところに支店を出させてもらった。
 
 
 
 帰る前にエヴァさんの頼みで城を訪れると、一人の若い男性が出迎えてくれた。
 
「初めまして、ワタル様。私はビルシスと言います」
 
「初めまして、ワタルです」
 
 挨拶をすぐに、彼はその場で――――土下座をした。
 
「ビルシスさん!?」
 
「ワタル様。この度は大変申し訳ございませんでした。一族を代表して、謝罪させてください」
 
「え、えっと、ごめんなさい。心当たりがまったくありません!」
 
 衣装からして、魔族の中でも高貴な身分の方に見えるし、彼に合わせて、周りの方達も一斉に土下座をしたので間違いなさそう。
 
 こんな方から謝られることなんてしたつもりはないのに……?
 
「ユルゲンス……という名に聞き覚えはありますでしょうか?」
 
「ユルゲンス……? う~ん。どこかで……それより速く顔を上げてください!」
 
「ユルゲンスというのは、私の苗字でございます。フェアラート王国の王都での戦いで宰相と繋がり、イノーマスを解き放ちました。それは許される行為ではありません。我々一族の命を持って償うべきですが、エヴァ様からせめてワタル様に謝罪してから決めなさいと言われておりました。本日を以って、我々一同、命で償わせていただきます」
 
「っ!? 待ってください! それは……絶対にあってはなりません」
 
「ですが……!」
 
「……だって、悲しいじゃないですか」
 
 ビルシスさんの手を取る。
 
「あの魔物はもういません……被害は出ましたが失われたのは物だけです。呼ぶときに水晶を割った人も……それを裏で指示していた人も……みんな亡くなりました。償いはそれで十分です。ですからビルシスさん達も命を大切に、これから生まれてくる子供達のために使ってください。僕もエヴァさんもできる限り協力しますからね? 命は……一つしかないんですから」
 
「ワタル様っ……」
 
 涙を流すビルシスさん達を見て、彼らのように心優しい魔族達が命を捨てるなんて、絶対にさせたくないと思った。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。