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197話
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エリアナさんの美味しい朝食を食べてから、僕はエヴァさんのところにやってきた。
「ワタルくん。いらっしゃい」
最近また忙しくなったようで、あまり眠れていないのか、目の下に少し隈が出来ている。
「エヴァさん。セレナさんから各町の開店の準備が全部整ったということです」
「あら、もうそんなに進んだのね。それはとてもありがたいわ」
ここ一か月。
スライム達が大きく増えたのには、支店拡張がまた一つ大きな原因でもある。
各国の首都に支店を出してから、シェーン街や隣のベン街の【ぽよんぽよんリラックス】があまりにも人気すぎて、全町で支店を出すことが決定。それをセレナさんが進めてくれたのだ。
セレナさんは今はマネージャーと呼ばれていて、全店舗の店長や従業員、その他を全て管理してくれている。
「では今日はいろんな町を回って開店させますね~」
「ええ。よろしく頼むわね」
エヴァさんに挨拶をして部屋を出ようとしたとき、彼女が「ワタルくん!」と僕を呼んだ。
「はい?」
「――――いつもありがとう」
エヴァさんって……どこまでも魔族のために毎日頑張っていて、こうして感謝もしてくれる。彼女が魔族の王様で本当に良かったと思う。
「こちらこそですよ~。では行ってきます!」
すぐにユートピア号に乗り込み、魔族領を回ることになった。
最初に向かうのはベン街。
ここには支店がすでにあるけど、スライム達や従業員の皆さんに直接会っておくためだ。
次に向かったのはパス街。
ここはケガをしたジェシカさんを助けたときに訪れた街だ。
支店の場所はエヴァさんが全土で用意してくれて、街の中心部である広場の一番立地のいいところをもらえた。
これは魔族全体の意志だから気を使わなくてもいいと言われた。
セレナさんと一緒に顔を出して、開店まで見守る。
すぐに開店すると、事前予約を取っていた住民達が嬉しそうな笑みを浮かべて来店してくれた。
研修もあったからか、スムーズに進んでるのを見届けて、僕達はまた次の街を目指した。
次にやってきたのは、お隣の鬼人族の里。
新しい鬼人族の王様が出迎えてくれるくらいには、鬼人族にとって【ぽよんぽよんリラックス】は大きいみたい。
皆さん嬉しそうに支店を見上げていた。
鬼人族の里は、資材などの枯渇により、建物はほとんどが平屋だったのに、今や周りに成長した樹木があって、それを伐採して立派な家が建ち始めている。
もちろん、魔王国としても破格の援助をしているので、以前訪れたときよりも大きく発展していた。
その中でも、鬼人族の皆さんが一番力を入れて作ってくれた建物が、広場を半分とも囲んでいる半円の建物。
ここは、まだ決まっていなかったのに、皆さんが作った【ぽよんぽよんリラックス】の支店だ。
むしろ……全店舗の中で一番大きいんじゃないかな?
ただ、大きいからといって、ここを最優先したわけではないので、まだ建物全部を埋めるくらい従業員が多いわけではない。これからゆっくり増やしていく予定だ。スライム達もね。
鬼人族の里の開店と同時に真っ先に王様達が来店してくれて、他にも多くの皆さんが来店してくれた。
ここも問題なさそうだね。
次に向かうのはグライン街。
久しぶりにリオくんに会うことができて嬉しい。
リオくんの幼馴染のシアラちゃんとも会えて嬉しかったけど、実はシアラちゃんは、これから【ぽよんぽよんリラックス】で働いてくれるようだ。
いたずらっぽく笑いながら「これからワタルくんをオーナーって呼ばないといけないわね~」と言っていたけど、僕としては普通に呼んで欲しい。
相変わらず、エレナちゃんはリオくんと僕がくっつかないように見張っていた。
それから魔族領のいろんな町を周りながら、最終的に魔都エラングシアにやってきた。
魔都でも一番立地がいいところに支店を出させてもらった。
帰る前にエヴァさんの頼みで城を訪れると、一人の若い男性が出迎えてくれた。
「初めまして、ワタル様。私はビルシスと言います」
「初めまして、ワタルです」
挨拶をすぐに、彼はその場で――――土下座をした。
「ビルシスさん!?」
「ワタル様。この度は大変申し訳ございませんでした。一族を代表して、謝罪させてください」
「え、えっと、ごめんなさい。心当たりがまったくありません!」
衣装からして、魔族の中でも高貴な身分の方に見えるし、彼に合わせて、周りの方達も一斉に土下座をしたので間違いなさそう。
こんな方から謝られることなんてしたつもりはないのに……?
「ユルゲンス……という名に聞き覚えはありますでしょうか?」
「ユルゲンス……? う~ん。どこかで……それより速く顔を上げてください!」
「ユルゲンスというのは、私の苗字でございます。フェアラート王国の王都での戦いで宰相と繋がり、イノーマスを解き放ちました。それは許される行為ではありません。我々一族の命を持って償うべきですが、エヴァ様からせめてワタル様に謝罪してから決めなさいと言われておりました。本日を以って、我々一同、命で償わせていただきます」
「っ!? 待ってください! それは……絶対にあってはなりません」
「ですが……!」
「……だって、悲しいじゃないですか」
ビルシスさんの手を取る。
「あの魔物はもういません……被害は出ましたが失われたのは物だけです。呼ぶときに水晶を割った人も……それを裏で指示していた人も……みんな亡くなりました。償いはそれで十分です。ですからビルシスさん達も命を大切に、これから生まれてくる子供達のために使ってください。僕もエヴァさんもできる限り協力しますからね? 命は……一つしかないんですから」
「ワタル様っ……」
涙を流すビルシスさん達を見て、彼らのように心優しい魔族達が命を捨てるなんて、絶対にさせたくないと思った。
「ワタルくん。いらっしゃい」
最近また忙しくなったようで、あまり眠れていないのか、目の下に少し隈が出来ている。
「エヴァさん。セレナさんから各町の開店の準備が全部整ったということです」
「あら、もうそんなに進んだのね。それはとてもありがたいわ」
ここ一か月。
スライム達が大きく増えたのには、支店拡張がまた一つ大きな原因でもある。
各国の首都に支店を出してから、シェーン街や隣のベン街の【ぽよんぽよんリラックス】があまりにも人気すぎて、全町で支店を出すことが決定。それをセレナさんが進めてくれたのだ。
セレナさんは今はマネージャーと呼ばれていて、全店舗の店長や従業員、その他を全て管理してくれている。
「では今日はいろんな町を回って開店させますね~」
「ええ。よろしく頼むわね」
エヴァさんに挨拶をして部屋を出ようとしたとき、彼女が「ワタルくん!」と僕を呼んだ。
「はい?」
「――――いつもありがとう」
エヴァさんって……どこまでも魔族のために毎日頑張っていて、こうして感謝もしてくれる。彼女が魔族の王様で本当に良かったと思う。
「こちらこそですよ~。では行ってきます!」
すぐにユートピア号に乗り込み、魔族領を回ることになった。
最初に向かうのはベン街。
ここには支店がすでにあるけど、スライム達や従業員の皆さんに直接会っておくためだ。
次に向かったのはパス街。
ここはケガをしたジェシカさんを助けたときに訪れた街だ。
支店の場所はエヴァさんが全土で用意してくれて、街の中心部である広場の一番立地のいいところをもらえた。
これは魔族全体の意志だから気を使わなくてもいいと言われた。
セレナさんと一緒に顔を出して、開店まで見守る。
すぐに開店すると、事前予約を取っていた住民達が嬉しそうな笑みを浮かべて来店してくれた。
研修もあったからか、スムーズに進んでるのを見届けて、僕達はまた次の街を目指した。
次にやってきたのは、お隣の鬼人族の里。
新しい鬼人族の王様が出迎えてくれるくらいには、鬼人族にとって【ぽよんぽよんリラックス】は大きいみたい。
皆さん嬉しそうに支店を見上げていた。
鬼人族の里は、資材などの枯渇により、建物はほとんどが平屋だったのに、今や周りに成長した樹木があって、それを伐採して立派な家が建ち始めている。
もちろん、魔王国としても破格の援助をしているので、以前訪れたときよりも大きく発展していた。
その中でも、鬼人族の皆さんが一番力を入れて作ってくれた建物が、広場を半分とも囲んでいる半円の建物。
ここは、まだ決まっていなかったのに、皆さんが作った【ぽよんぽよんリラックス】の支店だ。
むしろ……全店舗の中で一番大きいんじゃないかな?
ただ、大きいからといって、ここを最優先したわけではないので、まだ建物全部を埋めるくらい従業員が多いわけではない。これからゆっくり増やしていく予定だ。スライム達もね。
鬼人族の里の開店と同時に真っ先に王様達が来店してくれて、他にも多くの皆さんが来店してくれた。
ここも問題なさそうだね。
次に向かうのはグライン街。
久しぶりにリオくんに会うことができて嬉しい。
リオくんの幼馴染のシアラちゃんとも会えて嬉しかったけど、実はシアラちゃんは、これから【ぽよんぽよんリラックス】で働いてくれるようだ。
いたずらっぽく笑いながら「これからワタルくんをオーナーって呼ばないといけないわね~」と言っていたけど、僕としては普通に呼んで欲しい。
相変わらず、エレナちゃんはリオくんと僕がくっつかないように見張っていた。
それから魔族領のいろんな町を周りながら、最終的に魔都エラングシアにやってきた。
魔都でも一番立地がいいところに支店を出させてもらった。
帰る前にエヴァさんの頼みで城を訪れると、一人の若い男性が出迎えてくれた。
「初めまして、ワタル様。私はビルシスと言います」
「初めまして、ワタルです」
挨拶をすぐに、彼はその場で――――土下座をした。
「ビルシスさん!?」
「ワタル様。この度は大変申し訳ございませんでした。一族を代表して、謝罪させてください」
「え、えっと、ごめんなさい。心当たりがまったくありません!」
衣装からして、魔族の中でも高貴な身分の方に見えるし、彼に合わせて、周りの方達も一斉に土下座をしたので間違いなさそう。
こんな方から謝られることなんてしたつもりはないのに……?
「ユルゲンス……という名に聞き覚えはありますでしょうか?」
「ユルゲンス……? う~ん。どこかで……それより速く顔を上げてください!」
「ユルゲンスというのは、私の苗字でございます。フェアラート王国の王都での戦いで宰相と繋がり、イノーマスを解き放ちました。それは許される行為ではありません。我々一族の命を持って償うべきですが、エヴァ様からせめてワタル様に謝罪してから決めなさいと言われておりました。本日を以って、我々一同、命で償わせていただきます」
「っ!? 待ってください! それは……絶対にあってはなりません」
「ですが……!」
「……だって、悲しいじゃないですか」
ビルシスさんの手を取る。
「あの魔物はもういません……被害は出ましたが失われたのは物だけです。呼ぶときに水晶を割った人も……それを裏で指示していた人も……みんな亡くなりました。償いはそれで十分です。ですからビルシスさん達も命を大切に、これから生まれてくる子供達のために使ってください。僕もエヴァさんもできる限り協力しますからね? 命は……一つしかないんですから」
「ワタル様っ……」
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