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189話

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 森の中からアルトくんが高く跳び上がり、森を抜けた。
 
 目の前には無数のハイエナたちがいる。
 
 それと同時に離れた城壁の方で大きな爆発音が聞こえた。
 
 どうやら、城壁の前で戦う鬼さんと謎の仮面ベンジャミンさんが出陣した爆風のようだ。
 
 城壁の上からは矢による攻撃と、エヴァさんたちの魔法の攻撃が続いている。
 
 僕たちも自分たちができることをせいいっぱいやらなくちゃ……!
 
 最初のハイエナの群れに突撃する前に、リアムさんが僕たちの隣にきた。
 
『ワタル殿! 【神獣共鳴】を!』
 
「はいっ!」
 
 僕とリアムさんの間に線が繋がる。
 
 するとリアムさんに大きな力が発動し、白い雷を放ち始めた。
 
 リアムさんが先陣を切ってハイエナたちを一掃している間、僕はアルトくん、カミラさん、グレースさんにも【神獣共鳴】を繋いだ。
 
 今までよりもずっと強くなったみんなは、一気に加速してハイエナたちの中を掻き分けていく。
 
「向こうに大きな魔物がいるよ!」
 
 僕が指差した方向には、以前白狐族の里を襲った時の巨大ハイエナよりも大きく、邪悪そうな黒いオーラを灯らせた魔物が佇んでいた。
 
 風貌は顔にたてがみが生えており、ハイエナではなくライオンのようなもので、体は全身四メートル超えてそうなくらい巨大だ。
 
 僕たちに視線を向けた黒いライオンがその場から咆哮を上げる。
 
 グルァアアアアアア!
 
 音圧でハイエナが吹き飛び、こちらの全身を叩き付ける。
 
「くっ……」
 
『これは強いのだ……!』
 
「――――【専属武器防具召喚】。鋼鉄の盾!」
 
 前方に巨大な盾を作って防ぐ。触れていなくても手を伸ばしておけば、消さずに存在を保てる。ただ、その間に他の武器を出したりできないし、片手を伸ばしておかないといけないけど。
 
 咆哮が終わると、次はライオンが盾に体当たりをしてきた。
 
 ゴーンと鈍い音が響いて、僕が作った鋼鉄の盾がべっこりと凹んで形を変えた。
 
「壊れる!」
 
 みんながその場から遠ざかると同時に盾が壊れた。
 
 鋭く赤い眼光が僕たちを睨みつける。
 
 今まで戦ったどんな魔物よりも強い……! あの鎧巨人よりも強い気配がする。
 
 グレースさんとカミラさんが左右に分かれて雷を放つが、ライオンには一切効かない。
 
 エレナちゃんが放った矢が真っ赤な炎に燃え上がり、ライオンに当たると全身に炎が燃え移った。
 
 反対側からはステラさんが放った光の槍がライオンの後ろに直撃する。
 
 ライオンが痛そうに叫ぶと、全身から黒いエネルギー弾を大量に放つ。
 
 空を黒い弾丸が埋め尽くし、一斉にカミラさんたちに向かって放たれた。
 
「アルトくん! 顔にお願い!」
 
『任された!』
 
 加速したアルトくんの背中から慣性を使い高く跳び上がる。これは鎧巨人と戦った時にも使った共同作戦で、僕を高くに飛ばすためだ。
 
「――――超巨大雷撃槌ミョルニル!」
 
 超巨大槌を空から振り下ろす。
 
 ガコーンと鈍い音が響き渡る。
 
「っ!? 効かない!?」
 
『ワタルッ!』
 
 超巨大雷撃槌ミョルニルから手を離して、下で待機してくれたアルトくんの所に戻る。
 
 ――――アルトくんの背中に乗った瞬間。
 
 消えた超巨大槌の向こうから、ライオンが体当たりしてきて僕とアルトくん両方吹き飛ばされた。
 
 当たる直前、叢雲むらくもで剣圧を放って弱めたからダメージはそう多くない。
 
 一本の矢が空高く打ち上がり、キラリと光ってから無数の矢となりライオンに降り注ぐ。
 
 ライオンは全く痛くなさそうだったが、次の瞬間、無数の白い雷がライオンに直撃する。
 
 さっきは効かなかったのに、今度は効いたようで、痛そうに暴れ始めた。
 
「アルトくん……! 大丈夫!?」
 
『大丈夫……直前にワタルが助けてくれなかったら危なかった!』
 
「それはよかった!」
 
『さあ、二戦目だ~!』
 
「うん! 頑張ろう!」
 
 またアルトくんの背中に乗ると、また疾走してくれる。
 
 最初の雷は効かなかったのに、矢が刺さると雷が効く?
 
 原因をじっくり観察する。絶対に秘密があるはずだ。
 
 よくよく見ると――――矢が毛の隙間に刺さっている。
 
 ん? 全身が普通の短い毛というより、長い毛に覆われている?
 
 全身が黒くて気づかなかったけど、普通の毛並みとは違って、長く伸びた毛が体を覆っている。
 
 まさか……!
 
「ワタルく~ん!」
 
 グレースさんが近づいてきて、エレナちゃんが手を振る。
 
「魔物の身体を覆ってる毛が雷を効かなくさせるみたい!」
 
「やっぱり! 僕もそう思ったよ。でも僕の槌はどうして効かなかったんだろう?」
 
「横から見た感じ、槌が魔物に当たるまでに寸止めになってたよ?」
 
 ん? 寸止め……?
 
 エレナちゃんが放った一本の矢が顔面の前で――――弾かれた。
 
「「オーラ!」」
 
 ライオンの体から出ている黒いオーラは毛以外・・・を覆っており、それが鎧になっているんだ。
 
「ステラさんのあの魔法なら毛の中から大打撃を与えられそうだね」
 
「そうだね。ほら、もう準備してくれるよ!」
 
 エレナちゃんが指差した方向では、倒れたふりをするカミラさんの後ろで、魔法を展開しているステラさんが見えた。
 
「よし。僕達はライオンの気を引こう!」
 
「うん!」
 
 エレナちゃんと一緒にライオンに向かった。
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