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187話

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「コテツ! 王様達を連れて後ろに!」
 
「ワンワン!」
 
 大きな影が謁見の間に広がっていく。
 
 このままでは僕達全員が巻き込まれそうだ。
 
「コテツ! 壁に穴を開けて逃げるよ!」
 
 巨大槌を召喚して壁を叩いて大きな穴を開けた。
 
「みなさん! 急いでこの穴から外に出てください!」
 
「わ、分かった!」
 
 王様を始めとする貴族達が外に逃げ、気絶している勇者くんは兵士が連れて逃げてくれる。
 
 せっかく作った巨大槌を影に向かって投げつけてみた。
 
 そのまま飲み込まれる――――と思いきや、意外にも打撃音と共に影が大きく後ろに倒れ込んだ。
 
 影というよりは影で作られた何かの実態みたいだ。
 
「貴様ラノ所為ダァ…………」
 
 色んな声が被って聞こえる。
 
 影の触手のように伸ばして周囲を滅多打ちにする。衝撃によって、周りの壁や柱が崩れていき、天井が崩れ始めた。
 
 このままでは埋もれてしまいそう……!
 
 急いで僕も大穴から外に逃げ出した。
 
 相当高い天井のはずなのに、崩れ落ちる音が聞こえて中から土煙が溢れ出る。
 
「皆さん! このまま倒れたとは思えません! 急いで逃げてください!」
 
「わ、分かった」
 
「コテツ! 勇者モード!」
 
「ワンワン!!」
 
 光り輝くコテツは勇者モードとなり、白い毛並みに変わる。
 
 王様は逃げながら、それらの一部始終を見つめていた。
 
 崩れた瓦礫の中から周りに大きな衝撃が広がり、瓦礫が飛び散る。
 
 こちらに飛んできた瓦礫を避けながら現れたものをよく観察する。
 
 大きさは四メートルくらいの巨大な影。実体はなさそうな姿だけど、巨大槌で叩けたのを思えば、実体は存在するようだ。
 
 何となく影の姿をした魔物って感じだ。
 
「ワオーン!」
 
 コテツの鳴き声と共に、聖剣から雷魔法が放たれる。
 
 影の魔物に当たると、魔物は痛そうに体を震わせた。
 
 魔物から無数の触手が飛んでくる。
 
「コテツ! 行くよ!」
 
「ワンワン!」
 
 コテツと同時に走り出し、魔物と一気に距離を詰める。
 
 魔物は影を鞭のようにしならせ、僕達を狙って叩き付けた。
 
 それらを交わしながら斬りつけつつ、本体に向かって近づいていく。
 
 僕よりも早く着いたコテツが影に聖剣を差し込んで、体を登っていく。僕も負けじと地上で巨大な体に叢雲ムラクモを差し込んで、体を一周するように走り込んだ。
 
 影だから斬られたところからまたくっつくのかと思ったら、意外にもくっつくことなく開いた切り傷のままだった。
 
 より激しく僕達に目掛けて振り下ろされる触手だが、僕達の速度に追いつけずに地面を叩き込む。
 
 僕は魔物の体をぐるっと回りながら傷を深め、コテツは上下しながら傷を深めていった。
 
「ギャアアアアア!」
 
 影の魔物からまたもや叫び声が聞こえて、上部に闇の魔法が展開された。
 
 このままではまずい――――と思ったその時、離れた上空から闇魔法・・・がとんできて、魔物に直撃して体勢を大きく崩した。
 
「エヴァさん!」
 
「ワタルくん! 加勢するわよ!」
 
 大きな鳥に乗ったエヴァさんがやってきた。エヴァさんの召喚魔法のようだ。
 
「外で王国軍とにらみ合いが続いていて本体は合流できないかも!」
 
「分かりました! この魔物、再生はしないんですけど、ダメージを負ってる感覚はありません!」
 
「となると、魔法しか効かないタイプの魔物かも!」
 
 なるほど……! だから斬っても意味がないのか!
 
「コテツ! 魔法主体で戦うよ!」
 
 といっても、僕は単体で魔法は使えない。
 
 ただし、一つだけ、魔法を使う方法がある。厳密には魔法じゃないけどね。
 
「――――【専属武器防具召喚】。電撃小槌小ミョルニル!」
 
 これは鎧巨人の時に使った【超巨大雷撃槌ミョルニル】の小型バージョンで、槌に雷属性が付与されている槌だ。
 
 通常の武器よりは消費MP魔力が大きいけど、【ペナルティー軽減】のおかげで99%減らせるので、消費MP魔力は抑えられている。それでも使う量は一撃で10くらいだ。三百回は投げられる。
 
 召喚した小槌を投げ込むと、ドーンと鈍い音を響かせて影の魔物に打撃と雷のダメージが与えられる。
 
 斬られた時はなかったけど、今は痛そうに全身を振るわせている。
 
 コテツも聖剣から聖なる雷を放ってダメージを与え続ける。
 
「このまま押し切ったら問題なさそうね。ワタルくん? どうしてここに【イノーマス】がいるの?」
 
「イノーマス? あの魔物のことですか?」
 
「そうよ。あれは魔物の一種でね。破壊を尽くす魔物なの。災害級の魔物ね」
 
 攻撃の手を緩めずに続けながら会話をする。
 
「実は王国の宰相様が黒い水晶を割ったら、あの影の魔物が現れたんです」
 
「黒い水晶……なるほどね」
 
 何か思いつくこともあるのかな?
 
「ワタルくん。【レーダー】で周りに隠れている魔族を探してくれない? そこそこ遠いと思うけど、多分敵だと思うわ」
 
「えっ? 魔族が敵……?」
 
「すべての人族が交戦的ではない。のと同じく、すべての魔族が平和的なわけじゃないの。中には好戦的な魔族もいるわ」
 
「そう……ですね」
 
 どこの部族にもそういうのはあるよね……仕方ないことだ。
 
 戦いを続けながら【レーダー】で周りを見ていると、遠く離れた丘の上から、こちらを観察している赤い点が三人見つかった。
 
「向こうの山に敵影が三人います」
 
「ありがとう。いまから向かっても仕方がないので、逃げられないように見張っててちょうだい」
 
「分かりました!」
 
 イノーマスという影の魔物は僕達の魔法の攻撃によって、どんどん体の大きさが減っていき、元々の大きさから僕よりも小さくなった。
 
「エヴァさん。飲み込まれた宰相様は……」
 
「残念ながら戻れないわ」
 
「…………」
 
「ワタルくんが優しいのは知ってるけど、イノーマスのような災害級魔物を放った人を罰せられるべきだと思うわ」
 
「はい。知ってます。でも……せめて生き永らえて罰を受けてほしかったです。それに、イノーマスのせいで命を落とした者はいないので……」
 
 敵だから斬る。それは分かっているけど、話し合えば絶対に分かってもらえると思う。
 
 お互いに納得した形で、お互いに平和を目指して手を取り合えたらいいのに……。
 
 コテツの聖なる雷の魔法で最後のトドメが刺され、イノーマスは完全に消滅した。
 
「さて、元凶・・を問い詰める番ね」
 
 少し怒ったエヴァさんは敵影がいる方向を向いた。
 
 ――――その時。
 
 僕が見つめていた【レーダー】にとんでもないものが映り始めた。
 
「エヴァさん! 大変です!」
 
 僕の驚くことにただならぬ気配を感じたエヴァさんが身構えて見つめてきた。
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