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186話

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「初めまして。フェアラート王国の王様。僕はワタルといいます」

「……我がフェアラート王国の王である」

 帝王様とか教皇様のような覇気は感じない。

 それにこちらに対して敵対しているオーラも伝わってこない。

「本日ここまで来たのは、魔族を代表して――――平和条約を結びたくて来ました」

「平和条約か…………魔族というのは、平和を求めているのに土足で入って来るのか?」

「そんなことはありません。もしそうだとしたら、城門は既に壊していると思います」

「…………」

 小さく溜息を吐いた王様は、じっと僕を見下ろす。

「それで、我が国に求めるものはなんだ?」

「帝国や神聖国との交渉の場に入っていただきたいんです」

「それはできぬ」

「理由を聞かせていただけませんか?」

 すると、貴族の中から、一人のふくよかな男性が前に出た。

「他国に跪いたらすぐに国土が奪われ属国にされる! 許されるはずがないっ!」

 何かを焦ったような口ぶりだ。

「世界は平和を目指して動いています。帝国も、神聖国も、エデンソ王国も、魔族も手を取り合っていくことが決まっています。確かに最初は武力的なものがあったかもしれません。ですが、あくまでこちらに向かってきたフェアラート王国軍と勇者を退けただけです」

「勇者様が魔族を滅ぼすのは義務だっ!」

「そんなことはありません。それに…………皆さんが思っているような『魔王』は、魔族の王様のことではありません。古の勇者様が戦った相手は魔族ではなかく――――人族です」

「嘘をつくな!」

 ふくよかな貴族だけでなく、周りの貴族や王様の顔にも難色が見える。

 古の勇者様がずっと戦っていた『魔王』というのは、魔族の王のことではなく、あくまで加護『魔王』を持つ者だ。

 勇者くんのように加護『勇者』を持って生まれた人族。それに相対するように生まれるのが――――いや、勇者が相対して生まれる原因となるのが、加護『魔王』だ。

 ガイア様曰く、世界に加護『魔王』を持つ人が転生するからこそ、加護『勇者』を持つ人が転生する。それが世界の仕組みだ。

 古の勇者様は加護『魔王』を持つ者を滅ぼすのではなく、何らかの方法で二度と転生できなくさせた。そこにはネメシス様の力が関わっていると言っていた。

 そこを何とか捻じ曲げることができて、世界に加護『勇者』を持つ勇者くんが誕生した。

 だからその魔王こそ僕らしいけど、僕の加護に『魔王』は存在しない。やはり、世界に『魔王』という加護は存在できないと思われる。

「世界にもう『魔王』はいません。確かに魔族の王様はいますし、魔王と名乗っておりますが、魔王様は心優しい方なんです。魔族の未来を考えて悩みながらも生きる道を模索し続けた立派な王様なんです! フェアラート王様と同じように!」

 王様の目が大きく見開く。

「ふざけるな! 魔族との戦いで我が国がどれだけ潤ったと思うんだ! 今までは貧乏で命を落とす民も多かったぞ!」

 また声を荒げるふくよかな貴族。王様の前でここまで話せるってことは高い地位の人だね。

「その贅は全て貴族が取り上げ、今でも国民は苦しんでいるではないですか?」

「我々が魔族から守ってやってるんだ! 当然の権利だ!」

「僕は貴族でも王族でもありません。ですが、魔王様を隣で見てきました。自分よりも魔族の未来のことを思って、自分の全てを捧げて魔族のために生きています。神聖国も帝国もそう見えます。貴族は平民を虐げる存在ではなく、守る存在です。フェアラート王国の国民は誰しも笑っていませんでした。それが貴族がやるべきことだとは思えません!」

「貴様のような子供に何が分かる!」

「子供でも分かります! だって――――みんな辛そうにしているんです! 笑ってるのは貴方一人なんです!」

「こ、このっ! 平民の分際でっ!」

 発言だけで、彼が普段から国民をどう思っているのかは明白だ。

 フェアラート王国が最後まで平和に参加できないのは、こういう貴族がいるからだと察せる。

「宰相。そこまでしなさい」

「陛下!?」

「我が国も変革を迎える時が来たということだ」

「で、ですが!」

「勇者殿は破れ、聖剣は奪われてしまい、大地の聖女様は我が国を去った。魔族との戦争を名目に受けていた支援も完全に止まっている。このままではいずれ我が国は滅びるだろう」

「くっ…………」

 これでようやく王様との話し合いもできそうだ。

「王様。絶対にフェアラート王国に悪いようにはしません。フェアラート王国の国民を最優先に平和条約を提示しますから、ぜひ平和条約の会議に参加してください」

「……ああ。我が国に選択肢はもうないようだ。ここまでたどり着いた其方の勝ちだ。国民のことをよろしく頼む」

 意外というか、もっと国民をないがしろにする王様だと思っていた。なのに、実際は違う。ちゃんと国民を大切に思ってくれる王様でよかった。

「…………また我が国は隣国に蝕まれるだけの弱小国へ逆戻りだ!」

 宰相は大きな声を上げながら、懐から何かを取り出して、地面に叩き付けた。

「全て貴様らが悪いんだ……! そうだ! 俺は悪くない! 貴様らが選んだ道だからな! ギャハハハ! 全員! 滅ん――――」

 叩き付けた禍々しい水晶が割れて、中から溢れてでた黒い何かに宰相ごと飲み込まれた。



――――――
【報告】
 この度、書籍化に伴い、色々設定が変更になっておりまして、
 元々設定として、作品に【章設定】がなかったのですが、書籍化変更により【連載】という【章設定】が強制されたようです。
 いつもと変わらない方法で投稿していましたが、それが割り込み投稿になっていたようで色々ご迷惑をおかけしました。
 この場を借りまして、教えていただいた読者様、本当にありがとうございました。
 まだまだ続きますので温かく見守っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
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