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182話

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 屋敷を眺める。

 周囲を囲う鉄棒が並んだ塀から奥が見える。

 のどかな庭が広がっていて、綺麗に手入れもされているが、人がいる気配がしない。

 【レーダー】を使ってみると、屋敷の大きさに比べて中にいる人の数が少ない。

 ただエントランスにたくさんの人が集まっている。

 王都の中の人達の【レーダー】で表示されている色は、中立の黄色だ。

 なのにエントランスに集まっている人達は赤色だ。

 警備員だとしても黄色のはずなのに、赤色なのは…………王国軍だからかな?

「ワフッ」

「コテツ?」

 コテツは僕の靴に頭を押しつけてアピールしてくる。

「ワフッ」

 付いてきてと言わんばかりに歩き出すコテツに付いていく。

 屋敷の塀を回るように歩いて、ぐるっと表から裏に回った。

 裏口と思われるところをコテツが押して開いた。

 どうやらカギがかかってなかったようで、簡単に開いた。

 ここ……勝手に入っていいのかな?

 コテツの後を追いかけて敷地内に入り、そのまま屋敷の裏口に入っていった。



 中に入ると、従業員達が働く場所らしく、バックヤード感がある。

 閑散とした雰囲気の中、厨房と思われる場所近くに来ると、一人の黄色い点が通りかかった。

 僕の足音を聞いたからか、向かっていた方向からこちらに向かってくる。

 廊下で鉢合わせになったのは、メイド服を着た若い女性だった。

「あら? 屋敷にどうして子供が……? それに犬?」

「こんにちは」

「え、えっと……ど、どなたでしょう?」

 当然警戒される。

「初めまして。僕はワタルで、この子はコテツです」

「…………?」

「教会でベルド様が心配だって聞いて、後ろの入口が空いてたから入ってしまいました」

 彼女の表情が悲しげに変わる。

「教会の子だったのね。ごめんね? ベルド様は…………もう会いない……かも……」

 僕と視線の高さを合わせた彼女は、目に大きな涙を浮かべてそう話した。

 エリアナさんが用意してくれたハンカチで、女性の涙を拭いてあげる。

「ベルド様は病気なんですか?」

「ううん……もうここにいないんだ」

 【レーダー】に映る強い人は丸ではなくひし形に表示される。

 屋敷内にはひし形は見えないし、厨房以外に人は見かけない。

「ベルド様はどこにいるんですか?」

「もう王都にはいないんだ……」

「そうなんですね……ベルド様に会いたかったんですけど、残念です」

 彼女は手を伸ばして僕の頭を優しく撫でてくれた。

「ご飯食べていく?」

「いいんですか?」

「もちろん! せっかく来てくれたんだし」

 彼女はシアラと名乗り、僕を連れて厨房に入った。

 出された食事は温かいパンと野菜たっぷりのスープ、コロコロステーキまで出してくれた。

 厨房で料理をする料理人さん達もみんな優しくて、コテツのご飯まで作ってくれた。

 昼食をご馳走になった頃、大量に作った料理を配膳車に乗せるのが見えた。

「僕も手伝います~」

「ありがとう。ワタルくん」

 シアラさんと一緒に配膳車を引いて向かうのは、エントランスだった。

 入ってすぐに「ぎゃははは!」って大きな笑い声が響く。

 とても嫌な感じがする。

 少し強張った表情で配膳車を持って行くと、エントランスにソファーを雑に並べて、酒を飲んでぐうたらとしている兵士達が十人もいた。

 昼間からお酒なんて……。

「お、お待たせしました。昼食でございます」

「お~きたきた~飯だぞ~」

「ひひひひ~ベルド様の屋敷がいいね~」

 僕もシアラさんを手伝ってご飯を一緒に運ぶ。

 子供だからか誰も気にすら止めない。

 その時、一人の男性がシアラさんの足をわざとひっかけた。

「ああっ!」

 倒れるシアラさんにケガがないように、僕が下敷きになる。

「わ、ワタルくん。大丈夫?」

「大丈夫です。それよりケガはありませんか?」

「うん。私は大丈夫」

「ぎゃーはははは! どんくせーメイドだな!」

 兵士達が大笑いでシアラさんを見下ろした。

 ぐっと我慢しながら、シアラさんとその場を後にした。
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