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181話
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教会の中には僕とそう変わらない年齢の子供が数十人いて、少し大きい少年少女も複数いた。
「こんばんは。僕はワタルっていいます」
「初めまして。私はシスターフルーネです」
シスターの呼び方は魔族と変わらないみたいだ。
「シスターフルーネさん。街が凄く静かなんですけど、何かあったんですか?」
「えっと……実は外に魔族がやってきて、戦いになってしまったの」
「魔族!?」
「でも大丈夫よ。この街には勇者ルイ様がいらっしゃるから、守ってくださるわ」
彼女の表情からして、勇者を知っているようだ。明るい表情じゃないからね。
子供達の表情もあまり明るくはないが、コテツのおかげか、少し和らげた。
「昔はおじいちゃんがいたのに……」
後ろの子供がボソッとおじいちゃんと話した。
「おじいちゃん?」
「うん。街を守ってくれたおにいちゃんがいたの」
子供の一人が教えてくれた。
街を守るという文言から、英傑と呼ばれている方なのかも。年齢は七十歳を超えたっていうし。
「そのおじいちゃん……亡くなってしまったの?」
「違うよ! おじいちゃんは亡くなってないもん……」
シスターフルーネさんが女の子の頭を優しく撫でた。
「ベルド様はきっと大丈夫よ。だから女神様に祈りながら待とう?」
「うん……」
女の子は女神様像の前で両手を握りしめ、祈りを上げる。
「ワタルくんも疲れたでしょう。お腹は空いてない?」
「大丈夫です。非常食を食べたので」
「そうか。今日はゆっくり休んでいいからね」
「ありがとうございます」
外もすっかり暗くなったので、今日は教会に泊まることにした。
◇
次の日。
教会の朝は早くて、みんな起きて裏手にある井戸で顔を洗う。
すぐに井戸水を汲んで中に運び始めた。
僕も水汲みと運びを手伝う。
「ワタルくんすごい~! 力持ちだね!」
何だかデジャヴというか、エレナちゃんに似たことを言われたのを思い出した。
「コテツくんもすご~い!」
コテツも器用に水が入った桶を背中に乗せて運ぶ。
水運びを何往復もして、掃除を手伝ったりした。
そのまま教会を出ようとしたけど、朝食は食べてから行けと言われて、ご馳走になることに。
食事は簡素なパンとスープ、生野菜って感じだ。
聖都や帝都、王都を見てきた僕としては、育ち盛りの彼らが腹いっぱいに食べれない現状に少しだけ心が辛い。
そう思うと、異世界に来て最初に出会ったのがエレナちゃん達なのは、非常に運が良かったかも。
「ワタルくん? もう出ちゃうの?」
食事が終わると、昨日の女の子が声をかけてきた。
「うん。昨日はゆっくり眠ったからね」
「そっか……」
残念そうにする女の子に思わず手を伸ばして頭を撫でてあげた。
「えへへ~」
「そういえば、昨日言っていたおじいちゃんの家って分かる?」
「バルド様? 知ってるよ~?」
「案内してもらうことはできる?」
「うん!」
シスターに遊びに行くと言って出てきた女の子。
魔族が攻めてきたけど、昨夜に戦いを行っているので、明るい時間は戦いがない風を装っている。
夜とは違って、多くの住民達が歩いていた。
ただ、戦い中ということもあり、王都の門は堅く閉められている。
大通りを歩いて女の子に連れていってもらったのは、ひときわ大きな屋敷だった。
「ここがベルド様の屋敷だよ~」
「そっか。ありがとう!」
「えへへ~ワタルくん? また教会に遊びに来てね?」
「うん! また行くよ!」
「待ってるからね!」
帰っていく女の子は何度も振り返って手を振ってくれた。
「こんばんは。僕はワタルっていいます」
「初めまして。私はシスターフルーネです」
シスターの呼び方は魔族と変わらないみたいだ。
「シスターフルーネさん。街が凄く静かなんですけど、何かあったんですか?」
「えっと……実は外に魔族がやってきて、戦いになってしまったの」
「魔族!?」
「でも大丈夫よ。この街には勇者ルイ様がいらっしゃるから、守ってくださるわ」
彼女の表情からして、勇者を知っているようだ。明るい表情じゃないからね。
子供達の表情もあまり明るくはないが、コテツのおかげか、少し和らげた。
「昔はおじいちゃんがいたのに……」
後ろの子供がボソッとおじいちゃんと話した。
「おじいちゃん?」
「うん。街を守ってくれたおにいちゃんがいたの」
子供の一人が教えてくれた。
街を守るという文言から、英傑と呼ばれている方なのかも。年齢は七十歳を超えたっていうし。
「そのおじいちゃん……亡くなってしまったの?」
「違うよ! おじいちゃんは亡くなってないもん……」
シスターフルーネさんが女の子の頭を優しく撫でた。
「ベルド様はきっと大丈夫よ。だから女神様に祈りながら待とう?」
「うん……」
女の子は女神様像の前で両手を握りしめ、祈りを上げる。
「ワタルくんも疲れたでしょう。お腹は空いてない?」
「大丈夫です。非常食を食べたので」
「そうか。今日はゆっくり休んでいいからね」
「ありがとうございます」
外もすっかり暗くなったので、今日は教会に泊まることにした。
◇
次の日。
教会の朝は早くて、みんな起きて裏手にある井戸で顔を洗う。
すぐに井戸水を汲んで中に運び始めた。
僕も水汲みと運びを手伝う。
「ワタルくんすごい~! 力持ちだね!」
何だかデジャヴというか、エレナちゃんに似たことを言われたのを思い出した。
「コテツくんもすご~い!」
コテツも器用に水が入った桶を背中に乗せて運ぶ。
水運びを何往復もして、掃除を手伝ったりした。
そのまま教会を出ようとしたけど、朝食は食べてから行けと言われて、ご馳走になることに。
食事は簡素なパンとスープ、生野菜って感じだ。
聖都や帝都、王都を見てきた僕としては、育ち盛りの彼らが腹いっぱいに食べれない現状に少しだけ心が辛い。
そう思うと、異世界に来て最初に出会ったのがエレナちゃん達なのは、非常に運が良かったかも。
「ワタルくん? もう出ちゃうの?」
食事が終わると、昨日の女の子が声をかけてきた。
「うん。昨日はゆっくり眠ったからね」
「そっか……」
残念そうにする女の子に思わず手を伸ばして頭を撫でてあげた。
「えへへ~」
「そういえば、昨日言っていたおじいちゃんの家って分かる?」
「バルド様? 知ってるよ~?」
「案内してもらうことはできる?」
「うん!」
シスターに遊びに行くと言って出てきた女の子。
魔族が攻めてきたけど、昨夜に戦いを行っているので、明るい時間は戦いがない風を装っている。
夜とは違って、多くの住民達が歩いていた。
ただ、戦い中ということもあり、王都の門は堅く閉められている。
大通りを歩いて女の子に連れていってもらったのは、ひときわ大きな屋敷だった。
「ここがベルド様の屋敷だよ~」
「そっか。ありがとう!」
「えへへ~ワタルくん? また教会に遊びに来てね?」
「うん! また行くよ!」
「待ってるからね!」
帰っていく女の子は何度も振り返って手を振ってくれた。
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