上 下
52 / 85
連載

167話

しおりを挟む
 帝国を出発して、次に着いたのは、大陸中央のアルフヘイム国に近いエデンソ王国だ。

 帝都や聖都とは違って、シェーン街の雰囲気があるエデンソ王国の王都は個人的にとても好きだ。

 ユートピア号を王都壁面にくっつけて橋で王都を囲う城壁に降り立つと、兵士さん達が迎えに来てくれた。

「提督から連絡を受けています。皆さまが着いたら案内するようにとのことで、こちらにどうぞ」

 兵士長と名乗った方の後ろについて行く。

 もちろん、百匹を超えるスライム達も後を追う。

 王都民のみなさんが珍しがって僕達を見つめる中、大通りを通り過ぎて建物が一切ない丘がある場所に辿り着いた。

 お城からは少し遠い。それにしても王都内にこのような丘があるなんて珍しいと思う。

 敷地に入ると、すぐに広い敷地内の平屋で工事が進んでいてマテオ提督が指揮を執っていた。

「提督。ワタル様をお連れしました」

「ワタル様。いらっしゃいませ。急いで工事を進めております。みなさんが過ごす家はこちらになります。案内しましょう」

 ひと際大きな屋敷に案内を受けて入った。

 どうやら、ここは【ぽよんぽよんリラックス】の従業員が住む部屋兼オーナーである僕の別荘とのことだ。

「マテオさん? こんな立派な建物を貸していいんですか?」

「貸すなんてとんでもない。この建物はこれからワタル様の所有物・・・でございます」

「ええええ!?」

「【ぽよんぽよんリラックス】がこれから我が国にもたらす効果は言うまでもありません。特に帝都や聖都と距離が離れている分、周辺諸国から多くの観光客が来るのは確定事項でございます。ワタル様に爵位をお渡ししたいのですが、断れると思い、こちらの王家代々伝わる別荘と敷地をお渡しします」

「ええええ!? それはもっとダメですよ!」

「ふふっ。王様の命令なのです。それくらい【ぽよんぽよんリラックス】を楽しみに、しかも感謝しているのです。ですからこれからくれぐれも別荘として大切にしてくださると嬉しいです」

「そ、そんな……あ、ありがとうございます…………」

 ここが僕の別荘になったってことは、【ぽよんぽよんリラックス】をここから撤去できなくする上に、休暇地としてここを利用できるってことは、エデンソ王国との関係性も深くなるというものだ。

 セレティアさんとはまた違う思惑が伝わってくる。

 マテオさんは、ニヤリと「ワタル様。言わなくても分かると思いますが、エデンソ王国をこれからもよろしくお願いします」を、視線だけで僕に伝えてくれた。

 お店の概要などセレナさんとの打ち合わせに入ったので、僕はエレナちゃんとスライム達と広い丘で遊び始めた。

「あ~! ワタル!」

「うん?」

「ワタルがうちの町に来た時さ。コテツくんに骨を投げていたでしょう?」

 そう言われてみれば、あの骨を見つけた時にそんなことをしていたね。

「こんなの作ってみたんだけど、どう?」

 そう言いながら前に出してくれたのは、丈夫そうな木材に噛みやすく中心部に布が巻かれていた。

「凄い! これってエレナちゃんが作ったの?」

「うん! コテツくんが欲しがりそうだったから!」

 投げ棒を見たコテツは興奮して「ワンワン!」とその場ではしゃぎ始めた。

 最近旅とか戦いばかりで、コテツとあまり遊んであげれなかったから、丁度良いかも知れない。

「コテツも凄く嬉しそう!」

「えへへ~コテツくん~行くよ~?」

「ワフッ!」

 エレナちゃんが丘に向かって投げ棒を投げると、コテツと共に周りのスライム達も一斉に飛び出した。

 中でもエレナちゃんを守ってくれる猫スライムが特別に目立っていた。

 涼しい風が吹く丘にコテツの楽しそうな鳴き声と、スライム達のぽよんぽよんの音が鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。