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最終話
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暗い世界の中、僕は一人ぼっちで輝き続けていた。
でも誰もいない世界で、ただただ立ち尽くすことしかできなくて……それでも僕には暗闇を見上げることしかできなかった。
――――一人は嫌だ……。
そう思うと、僕の葉に小さな光が宿り始めた。
小さな……虫? ホタルというエルフの里にいるという精霊に最も近い存在だ。
ホタル達は僕の周りを飛び回って楽しく遊んでいたのに、葉っぱから離れ始めた。
――――い、行かないで! ぼ、僕を……一人に……しないで……。
そのとき、どこからか優しい気配がした。
どこからか優しい手の温もりが伝わってくる。
「君は一人じゃないよ」
そんな声が聞こえた気がした。
そして僕の体には多くの温もりが感じられた。
「ん…………あ……れ……?」
目を開けると、リーゼが頬を緩めて僕を見下ろしていた。
「リ……ゼ?」
「おはよう。ハウ」
「おはよう……? もう夕方だよ?」
空がすっかり暗くなりかけていたから。
「ふふっ」
「リーゼ……くすぐったいよ」
「えへへ~」
何故か嬉しそうに笑うリーゼ。
えっと……今の状況を考えると……。
「ぬあっ~!? リ、リーゼ? 足痛くない?」
「大丈夫だよ?」
「そ、そっか……あはは……」
「ふふっ」
いたずらっぽく笑うリーゼ。困ったことに起き上がろうとすると頭を押されて起き上がれない。
そのとき、遠くから何やらとんでもなく恐ろしい気配がする。
「り~ぜ~ちゃ~ん~?」
「ひい!?」
ひょっこりと顔を出したのは、いつものオリアナさんだ。
「やっぱり起きてるじゃない」
「あはは……」
「リーゼちゃん?」
「い、今起きたばかりだよ! ね? ハウ?」
笑顔の圧力が……!
「は、はい。今起きたばかりですよ」
「まったく……待ってる人達も多いんだから、起きたらちゃんと連れて来てねって言ったのに……まあ、仕方ないわね」
「あれ? あっ! そういえば! あれはどうなりました!?」
「大丈夫よ。みんな助かったわ。全部ハウくんが頑張ってくれたおかげよ。ありがとう」
オリアナさんの言葉にホットして、何だかまた体から力が抜けた。
「そういえばコワさんはどうなりましたか?」
「彼は……残念ながら見つかったときには……」
「そう……でしたか……」
「あの黒い水晶……きっと口封じね。相手も思い当たるけれど……それを私が言うのは違うわね。それよりも、ハウくんに会わせないといけない人がいるわ。立てる?」
「はい。もう大丈夫です。リーゼもありがとうね」
「うん! またいつでも膝枕してあげる~」
「あはは……」
どうやら弓を放ってから夕方になるまで気を失っていたみたいだ。元々魔力が空だったし、あの弓を撃ったときもギリギリだったのかもな。
オリアナさんをリーゼと一緒に並んで追いかける。
街はすっかり祭りの雰囲気で、笑い声が響き渡っていた。
僕達はそんな中を歩き、やってきたのは――――庭園だった。
おじさんに弓も返さないといけないのでちょうどよかった。
中に入ると、たくさんの光が飛び回っていて、暗い中で上空から差す月の光と相まって、とても幻想的な美しい光景が広がっていた。
「綺麗……」
「うん……すごく綺麗だね……」
幻想的な中を歩き進み、いつものテラスのところにやってきた。
そこではイマイルおじさんとリアタさん、ジェネシスさんが美味しそうな食事を食べながら、幻想的な光景を堪能していた。
「おじさん!」
「ハウくん……! ありがとう。君のおかげでソレイユ街は助かったよ」
「いえ! これも皆さんが力を貸してくれたおかげです! ジェネシスさんも短剣を貸してくださりありがとうございます!」
「こちらこそありがとう。君がいなければ、ソレイユ街は今頃跡形も残らなかっただろう……冒険者を代表して一番厄介なドクロを倒してくれてありがとう。このお礼は必ずする」
「い、いえ! 僕も守りたい人のためでしたからお礼だなんて……」
「君が手にしたその短剣も弓も……誰でも使えるものではないんだ。精霊に愛された『精霊の申し子』にしか扱うことはできない」
「そうだったんですね……」
「ああ。今までたった一人しか扱うことができなかった。だからその短剣も弓も今は君のためにあるものだ」
「僕のため……?」
一体それはどういう意味なんだろう……?
そのとき、オリアナさんが僕の肩に手を乗せて、笑顔で僕と向き合ってくれた。
「ハウくん。一つ聞いていいかな?」
「オリアナさん? どうしたんですか?」
「ハウくんは……君を置いて冒険に出ていた両親の事を……恨んでない?」
「父さんと母さん…………はい。最初は……少しは恨んでいました。僕よりも大切なものがあるんだって……でもいつもオリアナさんやリアタさんに……リーゼが一緒にいてくれたから……本当に最初だけで、いつも両親は大切なことがあるからと出かけていました。だから僕もいつか父さん達が何を見ていたのかを見に行きたいんです」
「ふふっ。ハウくんももうこんなに大きくなったのね……」
オリアナさんは懐かしむように僕の頭を優しく撫でてくれた。
「どうしてハウくんの両親が亡くなったのか。ちゃんと話したことがなかったね」
「オリアナさん……」
両親のことをオリアナさん達に聞いたことがある。そのときは教えてもらえなかった。
ただ……大勢の人を救い、命を落としたとだけ教えてもらえた。
「君の両親はね……『精霊の申し子』だったの。両親というか、母の方だね」
「母さんが!?」
「ええ。ソフィアちゃんは……世界で唯一の『精霊の申し子』だった。その短剣も弓も扱えるのはエルフではなくソフィアちゃんだけ。だから彼女は世界を守るために旅を続けていたんだ」
「母さんが……そんな……」
「二十二年前。滅びた王国『ユグラシア』。あの王国が滅びた理由は――――今日ここで起きた『亡者の絶望』が発動されたからよ。あれが発動するとドクロが消えるまでアンデッドが生まれ続けて多くの人を襲い続けるの。ユグラシア王国も滅びるそのときまで戦い続けたけど……ドクロを倒すことはできなかった。そこで唯一倒すことができたのは、当時世界で唯一の『精霊の申し子』……ハウくんの……おばあちゃんなの」
「僕のおばあちゃん……」
「ハウくんのおばあちゃんはエルフでね。とても有名な方だったのよ? 誰よりも平和を愛し、多くの者を救っていたわ。そんな彼女が……命を懸けてドクロを倒してくれて、あの一件は決着がついた……けれど、我々にはあまりにも多くの被害があったの。ハウくんのおばあちゃん……エルフ族のイスメラルダ様を失ったこともね」
その名前に聞き覚えがある。
昔……母さんが読んでくれた絵本に書かれていたエルフ族のお姫様の名前だ。
彼女は生まれながら類い稀な才能を持ち、優しい性格で多くの人を救ったとされる。
僕も大好きな英雄の物語だ。
「彼女が命を懸けてでも守りたかったもの……それが生まれたばかりの娘だったの。ハウくん……君の母、ソフィアちゃんよ」
「母さんが……エスメラルダ様の娘だったなんて……」
「ふふっ。エスメラルダ様は女神様に愛された人族との架け橋となるため……というのは実は表向きなんだけど、その当時人族の最高の英雄が彼女を口説き落としてね。二人の間にソフィアちゃんが生まれたの。でもね……エスメラルダ様が亡くなったあの日に全てが変わってしまったの。ソフィアちゃんの父は、彼女を守るために……過保護になってしまった。それでもソフィアちゃんは自分の力に気付き、世界を守るために――――冒険者になったの」
「母さん……いつも言ってました。冒険者になって嬉しいって。僕みたいな多くの子供達を守ることができて、いつも嬉しそうに……話してくれてました……」
あの頃は少しだけ……嫉妬していたかも知れない。僕の知らないところで母さんが……でもそれがすごく誇らしかった。
「ソフィアちゃんは……あの悲劇を起こさないようにある組織を追い続けていたのよ。ハウくんを連れていると危険が及ぶからソレイユ街に残していたのはそういう理由なの。話が少しそれてしまったけど……二年前。またあの悪夢のような出来事が起きてしまった。それによって一つの街が滅んでしまったの。ソフィアちゃんは……あの惨劇がまた起きないようにと、『亡者の絶望』に立ち向かった。そのおかげで被害はそれ以上広がることはなく、多くの者の命が救われたの。でも……彼女は……力尽きてしまい命を落としてしまったんだ。ハウくんの父さんと一緒にね」
「父さん……母さん……」
涙が溢れる。
母さんは……きっと僕を守るために……命を懸けてでもあの絶望に立ち向かったんだ。
父さんと母さんがそんなことをしているとは思わず……僕は……。
「ハウくん。君のおかげでソレイユ街は救われて、多くの人が助けられた。私は……ソフィアちゃんから君を託された者として、とても誇りに思う。でも……それは今日で終わり。私のわがままで……君の本当の居場所を奪うわけにはいかないから」
「僕の……本当の居場所……ですか?」
「ええ。さあ、こちらにおいで」
オリアナさんは僕の手を引いて――――イマイルおじさんの前に立った。
「オリアナさん……」
「イマイル様。私のわがままで……本当にごめんなさい」
「そんなことは……一番悪いのは……」
「仕方ないことです。イマイル様も誰よりも苦悩して悩んだからだと思いますから」
おじさんとオリアナさんは何を……?
「ねえ。ハウくん。ここはね……『ソフィアの庭園』という名前なの。ここは……イマイル様は大切な一人娘……ソフィアさんに贈るために作られた庭園なの」
オリアナさんは僕の背中を押しておじさんに一歩近付いた。
「ハウくん。イマイル様は……貴方のおじいさんよ。ソフィアちゃんの……お父さんなの」
「僕の……おじいさん……?」
おじさんの目にも大きな涙が浮かんで、地面に膝をついた。
「ハウくん……すまないことをした……わしはソフィアが冒険者になることを反対して……彼女を勘当してしまった……それがああいう結果になろうとは思いもしなかった……もしわしがしっかり向き合ってソフィアの力になっていたら、こんなにも後悔することにはならなかったはずだ……本当に……すまない」
「違いますっ……それは……多分……違いますっ! おじさんは……母さんが大事だからこそ……おばあちゃんが残した母さんを……守ろうと……」
「ハウくん……」
「父さんも母さんも……一度だっておじいちゃんとおばあちゃんを悪く言ったことはありません……むしろ、酷いことをしてしまったと後悔しているって言ってました……僕にはそれが何なのかわからなかったんですけど……二人はおじさんを……おじいちゃんを嫌いになんてなってません! 怒ってもないです! だから……」
「ハウくん……!」
イマイルおじさん――――おじいちゃんは僕を抱きしめてくれた。
大きな体が僕を包み込むと、どこか母さんの匂いがして懐かしく思う。
「ありがとう……ハウくん……君に会えて本当に良かった……」
「僕もです……おじいちゃん……!」
もう会うこともできないと思っていた肉親に会えるとは思わなかったから……こうしておじいちゃんに会えて本当に嬉しい。
その日、僕とおじいちゃんは、母さんと父さんの想い出に涙が尽きるまで流し続けた。
翌日。
僕達はレストラン『エルドラド』にやってきた。
街は昨日の勢いのまま今日も祭りをするみたい。
今日のエルドラドは貸し切りになっていた。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐにリュートさんが出迎えてくれた。
そのとき、おじいちゃんが一足前に出て、リュートさんの肩に手を掛けた。
「リュートくん……オリアナさんのおかげで、わしのことを孫に言えるようになったのじゃ」
「それは本当ですか……!? オリアナさん……」
するとオリアナさんも笑顔で頷く。
「そう……だったんですね……こんな嬉しいことはありません……我々を許してくださり本当にありがとうございます」
「いえ。私こそ……わがままでハウくんの肉親に近付かないようにしていてごめんなさい……ハウくんのことを思えば、お二人のことをしっかり伝えるべきでしたから……」
「オリアナさん!? 肉親って……おじいちゃんだけじゃなく……」
すると、リュートさんが僕の前に来て膝を崩して目の高さを合わせてくれた。
「ハウくん……一応、初めましてになるのかな……俺はリュート……リュート・オルドレアス。君の父、ミハイル・オルドレアスの兄なんだ」
「お父さんのお兄ちゃん!? それって……僕の……叔父さん?」
「ああ。そうなんだ」
嬉しそうな笑顔を浮かべたリュートさんは僕を優しく抱きしめてくれた。
どこか……あの日の父さんと似た匂いがした。
まさか母さんだけでなく、父さんの親族にも会うことができるなんて思ってなくて、昨日あれだけ泣いたのに、今日もまたたくさん泣いてしまった。
それから僕達はリュート叔父さんが作ってくれた美味しい料理を堪能して楽しい時間を過ごした。
どうして叔父さんがここにいるのかを教えてもらった。
実は父さんはある国の貴族だけど、敵国であるおじいちゃんの娘である母さんと駆け落ちしてしまったそう。
だから父さんも実家から勘当させることになったけど、後から『亡者の絶望』を知って大きく後悔することになったそう。
父さんが大好きだった叔父さんは、父さんが過ごしていたソレイユ街に来て、普段から趣味でやっていた料理屋を営むことにして、偶然にもおじいちゃんに出会って意見交換をするようになったみたい。
ちなみに、叔父さんが作ってくれたスペシャルケーキは……母さんが考案したケーキだったみたい。
母さんが僕の十歳の誕生日に作ろうとしてくれてたみたい。
こうして僕はあっという間におじいちゃんにも叔父さんとも出会うことができて、幸せな日々を送ることになった。
おじいちゃんの屋敷に住むという話が出たけど、僕としては宿屋の手伝いもあるから変わらない日々を送りたいと願い出て、今では毎日のお昼におじいちゃんとリーゼと一緒にご飯を食べるようになった。
そんな幸せな日々を送れるようになり、僕も鍛錬を忘れずに日々を過ごすようにしている。
母さんのように、いつか自分の力が必要になったとき、みんなを救える立派な英雄になれるように。
だから僕は今日もソレイユ街とソフィアの庭園に――――そよ風を吹かし続けている。
――【あとがき】――
ここまで『そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~』を読んで頂きありがとうございます。
最終話は一気に読んでいただきたいのもあり、大量の文字数になってしまいました。
以前にも話した通り、この作品はファンタジーカップの受賞を目指して考えていた作品でしたが……残念なことにボーダーラインを越えることができず、去年と同じ結果になってしまいました。
少し不完全燃焼で終わることにはなりましたが、いつかこの作品をもう少し紡げるときが来たら、また書いてみたいなと思います。
途中、伸び悩んで一度は削除しようと考えましたが、多くの方々が楽しみにしてくださっているのを知り、ここまで紡ぐことができて本当に嬉しく思います。
これからも皆様に感動できる物語を紡げるように日々頑張ってまいります。
もしよろしければ、御峰の別の作品も読んで頂けたら幸いです。中でも処女作でもある『被虐待児の最強転生して優しい家族に囲まれ』という作品は別サイトになってしまいますが、多くの方が感動したとコメントをいただいております。
そちらは80万文字の大ボリュームですので、ぜひ読んでみてください!
それでは、また別の作品で会いましょう~!
でも誰もいない世界で、ただただ立ち尽くすことしかできなくて……それでも僕には暗闇を見上げることしかできなかった。
――――一人は嫌だ……。
そう思うと、僕の葉に小さな光が宿り始めた。
小さな……虫? ホタルというエルフの里にいるという精霊に最も近い存在だ。
ホタル達は僕の周りを飛び回って楽しく遊んでいたのに、葉っぱから離れ始めた。
――――い、行かないで! ぼ、僕を……一人に……しないで……。
そのとき、どこからか優しい気配がした。
どこからか優しい手の温もりが伝わってくる。
「君は一人じゃないよ」
そんな声が聞こえた気がした。
そして僕の体には多くの温もりが感じられた。
「ん…………あ……れ……?」
目を開けると、リーゼが頬を緩めて僕を見下ろしていた。
「リ……ゼ?」
「おはよう。ハウ」
「おはよう……? もう夕方だよ?」
空がすっかり暗くなりかけていたから。
「ふふっ」
「リーゼ……くすぐったいよ」
「えへへ~」
何故か嬉しそうに笑うリーゼ。
えっと……今の状況を考えると……。
「ぬあっ~!? リ、リーゼ? 足痛くない?」
「大丈夫だよ?」
「そ、そっか……あはは……」
「ふふっ」
いたずらっぽく笑うリーゼ。困ったことに起き上がろうとすると頭を押されて起き上がれない。
そのとき、遠くから何やらとんでもなく恐ろしい気配がする。
「り~ぜ~ちゃ~ん~?」
「ひい!?」
ひょっこりと顔を出したのは、いつものオリアナさんだ。
「やっぱり起きてるじゃない」
「あはは……」
「リーゼちゃん?」
「い、今起きたばかりだよ! ね? ハウ?」
笑顔の圧力が……!
「は、はい。今起きたばかりですよ」
「まったく……待ってる人達も多いんだから、起きたらちゃんと連れて来てねって言ったのに……まあ、仕方ないわね」
「あれ? あっ! そういえば! あれはどうなりました!?」
「大丈夫よ。みんな助かったわ。全部ハウくんが頑張ってくれたおかげよ。ありがとう」
オリアナさんの言葉にホットして、何だかまた体から力が抜けた。
「そういえばコワさんはどうなりましたか?」
「彼は……残念ながら見つかったときには……」
「そう……でしたか……」
「あの黒い水晶……きっと口封じね。相手も思い当たるけれど……それを私が言うのは違うわね。それよりも、ハウくんに会わせないといけない人がいるわ。立てる?」
「はい。もう大丈夫です。リーゼもありがとうね」
「うん! またいつでも膝枕してあげる~」
「あはは……」
どうやら弓を放ってから夕方になるまで気を失っていたみたいだ。元々魔力が空だったし、あの弓を撃ったときもギリギリだったのかもな。
オリアナさんをリーゼと一緒に並んで追いかける。
街はすっかり祭りの雰囲気で、笑い声が響き渡っていた。
僕達はそんな中を歩き、やってきたのは――――庭園だった。
おじさんに弓も返さないといけないのでちょうどよかった。
中に入ると、たくさんの光が飛び回っていて、暗い中で上空から差す月の光と相まって、とても幻想的な美しい光景が広がっていた。
「綺麗……」
「うん……すごく綺麗だね……」
幻想的な中を歩き進み、いつものテラスのところにやってきた。
そこではイマイルおじさんとリアタさん、ジェネシスさんが美味しそうな食事を食べながら、幻想的な光景を堪能していた。
「おじさん!」
「ハウくん……! ありがとう。君のおかげでソレイユ街は助かったよ」
「いえ! これも皆さんが力を貸してくれたおかげです! ジェネシスさんも短剣を貸してくださりありがとうございます!」
「こちらこそありがとう。君がいなければ、ソレイユ街は今頃跡形も残らなかっただろう……冒険者を代表して一番厄介なドクロを倒してくれてありがとう。このお礼は必ずする」
「い、いえ! 僕も守りたい人のためでしたからお礼だなんて……」
「君が手にしたその短剣も弓も……誰でも使えるものではないんだ。精霊に愛された『精霊の申し子』にしか扱うことはできない」
「そうだったんですね……」
「ああ。今までたった一人しか扱うことができなかった。だからその短剣も弓も今は君のためにあるものだ」
「僕のため……?」
一体それはどういう意味なんだろう……?
そのとき、オリアナさんが僕の肩に手を乗せて、笑顔で僕と向き合ってくれた。
「ハウくん。一つ聞いていいかな?」
「オリアナさん? どうしたんですか?」
「ハウくんは……君を置いて冒険に出ていた両親の事を……恨んでない?」
「父さんと母さん…………はい。最初は……少しは恨んでいました。僕よりも大切なものがあるんだって……でもいつもオリアナさんやリアタさんに……リーゼが一緒にいてくれたから……本当に最初だけで、いつも両親は大切なことがあるからと出かけていました。だから僕もいつか父さん達が何を見ていたのかを見に行きたいんです」
「ふふっ。ハウくんももうこんなに大きくなったのね……」
オリアナさんは懐かしむように僕の頭を優しく撫でてくれた。
「どうしてハウくんの両親が亡くなったのか。ちゃんと話したことがなかったね」
「オリアナさん……」
両親のことをオリアナさん達に聞いたことがある。そのときは教えてもらえなかった。
ただ……大勢の人を救い、命を落としたとだけ教えてもらえた。
「君の両親はね……『精霊の申し子』だったの。両親というか、母の方だね」
「母さんが!?」
「ええ。ソフィアちゃんは……世界で唯一の『精霊の申し子』だった。その短剣も弓も扱えるのはエルフではなくソフィアちゃんだけ。だから彼女は世界を守るために旅を続けていたんだ」
「母さんが……そんな……」
「二十二年前。滅びた王国『ユグラシア』。あの王国が滅びた理由は――――今日ここで起きた『亡者の絶望』が発動されたからよ。あれが発動するとドクロが消えるまでアンデッドが生まれ続けて多くの人を襲い続けるの。ユグラシア王国も滅びるそのときまで戦い続けたけど……ドクロを倒すことはできなかった。そこで唯一倒すことができたのは、当時世界で唯一の『精霊の申し子』……ハウくんの……おばあちゃんなの」
「僕のおばあちゃん……」
「ハウくんのおばあちゃんはエルフでね。とても有名な方だったのよ? 誰よりも平和を愛し、多くの者を救っていたわ。そんな彼女が……命を懸けてドクロを倒してくれて、あの一件は決着がついた……けれど、我々にはあまりにも多くの被害があったの。ハウくんのおばあちゃん……エルフ族のイスメラルダ様を失ったこともね」
その名前に聞き覚えがある。
昔……母さんが読んでくれた絵本に書かれていたエルフ族のお姫様の名前だ。
彼女は生まれながら類い稀な才能を持ち、優しい性格で多くの人を救ったとされる。
僕も大好きな英雄の物語だ。
「彼女が命を懸けてでも守りたかったもの……それが生まれたばかりの娘だったの。ハウくん……君の母、ソフィアちゃんよ」
「母さんが……エスメラルダ様の娘だったなんて……」
「ふふっ。エスメラルダ様は女神様に愛された人族との架け橋となるため……というのは実は表向きなんだけど、その当時人族の最高の英雄が彼女を口説き落としてね。二人の間にソフィアちゃんが生まれたの。でもね……エスメラルダ様が亡くなったあの日に全てが変わってしまったの。ソフィアちゃんの父は、彼女を守るために……過保護になってしまった。それでもソフィアちゃんは自分の力に気付き、世界を守るために――――冒険者になったの」
「母さん……いつも言ってました。冒険者になって嬉しいって。僕みたいな多くの子供達を守ることができて、いつも嬉しそうに……話してくれてました……」
あの頃は少しだけ……嫉妬していたかも知れない。僕の知らないところで母さんが……でもそれがすごく誇らしかった。
「ソフィアちゃんは……あの悲劇を起こさないようにある組織を追い続けていたのよ。ハウくんを連れていると危険が及ぶからソレイユ街に残していたのはそういう理由なの。話が少しそれてしまったけど……二年前。またあの悪夢のような出来事が起きてしまった。それによって一つの街が滅んでしまったの。ソフィアちゃんは……あの惨劇がまた起きないようにと、『亡者の絶望』に立ち向かった。そのおかげで被害はそれ以上広がることはなく、多くの者の命が救われたの。でも……彼女は……力尽きてしまい命を落としてしまったんだ。ハウくんの父さんと一緒にね」
「父さん……母さん……」
涙が溢れる。
母さんは……きっと僕を守るために……命を懸けてでもあの絶望に立ち向かったんだ。
父さんと母さんがそんなことをしているとは思わず……僕は……。
「ハウくん。君のおかげでソレイユ街は救われて、多くの人が助けられた。私は……ソフィアちゃんから君を託された者として、とても誇りに思う。でも……それは今日で終わり。私のわがままで……君の本当の居場所を奪うわけにはいかないから」
「僕の……本当の居場所……ですか?」
「ええ。さあ、こちらにおいで」
オリアナさんは僕の手を引いて――――イマイルおじさんの前に立った。
「オリアナさん……」
「イマイル様。私のわがままで……本当にごめんなさい」
「そんなことは……一番悪いのは……」
「仕方ないことです。イマイル様も誰よりも苦悩して悩んだからだと思いますから」
おじさんとオリアナさんは何を……?
「ねえ。ハウくん。ここはね……『ソフィアの庭園』という名前なの。ここは……イマイル様は大切な一人娘……ソフィアさんに贈るために作られた庭園なの」
オリアナさんは僕の背中を押しておじさんに一歩近付いた。
「ハウくん。イマイル様は……貴方のおじいさんよ。ソフィアちゃんの……お父さんなの」
「僕の……おじいさん……?」
おじさんの目にも大きな涙が浮かんで、地面に膝をついた。
「ハウくん……すまないことをした……わしはソフィアが冒険者になることを反対して……彼女を勘当してしまった……それがああいう結果になろうとは思いもしなかった……もしわしがしっかり向き合ってソフィアの力になっていたら、こんなにも後悔することにはならなかったはずだ……本当に……すまない」
「違いますっ……それは……多分……違いますっ! おじさんは……母さんが大事だからこそ……おばあちゃんが残した母さんを……守ろうと……」
「ハウくん……」
「父さんも母さんも……一度だっておじいちゃんとおばあちゃんを悪く言ったことはありません……むしろ、酷いことをしてしまったと後悔しているって言ってました……僕にはそれが何なのかわからなかったんですけど……二人はおじさんを……おじいちゃんを嫌いになんてなってません! 怒ってもないです! だから……」
「ハウくん……!」
イマイルおじさん――――おじいちゃんは僕を抱きしめてくれた。
大きな体が僕を包み込むと、どこか母さんの匂いがして懐かしく思う。
「ありがとう……ハウくん……君に会えて本当に良かった……」
「僕もです……おじいちゃん……!」
もう会うこともできないと思っていた肉親に会えるとは思わなかったから……こうしておじいちゃんに会えて本当に嬉しい。
その日、僕とおじいちゃんは、母さんと父さんの想い出に涙が尽きるまで流し続けた。
翌日。
僕達はレストラン『エルドラド』にやってきた。
街は昨日の勢いのまま今日も祭りをするみたい。
今日のエルドラドは貸し切りになっていた。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐにリュートさんが出迎えてくれた。
そのとき、おじいちゃんが一足前に出て、リュートさんの肩に手を掛けた。
「リュートくん……オリアナさんのおかげで、わしのことを孫に言えるようになったのじゃ」
「それは本当ですか……!? オリアナさん……」
するとオリアナさんも笑顔で頷く。
「そう……だったんですね……こんな嬉しいことはありません……我々を許してくださり本当にありがとうございます」
「いえ。私こそ……わがままでハウくんの肉親に近付かないようにしていてごめんなさい……ハウくんのことを思えば、お二人のことをしっかり伝えるべきでしたから……」
「オリアナさん!? 肉親って……おじいちゃんだけじゃなく……」
すると、リュートさんが僕の前に来て膝を崩して目の高さを合わせてくれた。
「ハウくん……一応、初めましてになるのかな……俺はリュート……リュート・オルドレアス。君の父、ミハイル・オルドレアスの兄なんだ」
「お父さんのお兄ちゃん!? それって……僕の……叔父さん?」
「ああ。そうなんだ」
嬉しそうな笑顔を浮かべたリュートさんは僕を優しく抱きしめてくれた。
どこか……あの日の父さんと似た匂いがした。
まさか母さんだけでなく、父さんの親族にも会うことができるなんて思ってなくて、昨日あれだけ泣いたのに、今日もまたたくさん泣いてしまった。
それから僕達はリュート叔父さんが作ってくれた美味しい料理を堪能して楽しい時間を過ごした。
どうして叔父さんがここにいるのかを教えてもらった。
実は父さんはある国の貴族だけど、敵国であるおじいちゃんの娘である母さんと駆け落ちしてしまったそう。
だから父さんも実家から勘当させることになったけど、後から『亡者の絶望』を知って大きく後悔することになったそう。
父さんが大好きだった叔父さんは、父さんが過ごしていたソレイユ街に来て、普段から趣味でやっていた料理屋を営むことにして、偶然にもおじいちゃんに出会って意見交換をするようになったみたい。
ちなみに、叔父さんが作ってくれたスペシャルケーキは……母さんが考案したケーキだったみたい。
母さんが僕の十歳の誕生日に作ろうとしてくれてたみたい。
こうして僕はあっという間におじいちゃんにも叔父さんとも出会うことができて、幸せな日々を送ることになった。
おじいちゃんの屋敷に住むという話が出たけど、僕としては宿屋の手伝いもあるから変わらない日々を送りたいと願い出て、今では毎日のお昼におじいちゃんとリーゼと一緒にご飯を食べるようになった。
そんな幸せな日々を送れるようになり、僕も鍛錬を忘れずに日々を過ごすようにしている。
母さんのように、いつか自分の力が必要になったとき、みんなを救える立派な英雄になれるように。
だから僕は今日もソレイユ街とソフィアの庭園に――――そよ風を吹かし続けている。
――【あとがき】――
ここまで『そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~』を読んで頂きありがとうございます。
最終話は一気に読んでいただきたいのもあり、大量の文字数になってしまいました。
以前にも話した通り、この作品はファンタジーカップの受賞を目指して考えていた作品でしたが……残念なことにボーダーラインを越えることができず、去年と同じ結果になってしまいました。
少し不完全燃焼で終わることにはなりましたが、いつかこの作品をもう少し紡げるときが来たら、また書いてみたいなと思います。
途中、伸び悩んで一度は削除しようと考えましたが、多くの方々が楽しみにしてくださっているのを知り、ここまで紡ぐことができて本当に嬉しく思います。
これからも皆様に感動できる物語を紡げるように日々頑張ってまいります。
もしよろしければ、御峰の別の作品も読んで頂けたら幸いです。中でも処女作でもある『被虐待児の最強転生して優しい家族に囲まれ』という作品は別サイトになってしまいますが、多くの方が感動したとコメントをいただいております。
そちらは80万文字の大ボリュームですので、ぜひ読んでみてください!
それでは、また別の作品で会いましょう~!
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優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
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最終話までお疲れ様です‼️受賞は残念でしたね😢😢😢一旦はゆっくりとお休みくださいまた新しい作品が思い付くまでの期間は体調回復に当てて作品内容が決まったらまた投稿してくださいね‼️応援してますね✊‼️
最後まで追ってくださりありがとうございます!また良いを携えてまいります!
ん~、何かリーゼがいちいちウザく感じるなぁ。
待ってましたよ‼️体調には気をつけてね‼️投稿活動してください‼️
ありがとうございます!!!