そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。

文字の大きさ
上 下
32 / 33

32話

しおりを挟む
 空になった魔力はすぐには回復しない。
 
 ドクロのことは心配だけど、今はイマイルおじさんに言われた通り、一緒に庭園に入った。
 
「ハウ!」
 
 すぐにリーゼが抱き着いた。
 
「どこかケガしてない?」
 
「ありがとう。でも大丈夫。魔力が空になっちゃっただけなんだ」
 
「そっか……」
 
「でもまだなんだ。まだ……終わってない。まだ僕にもできることがあるかも知れないから、おじさんと一緒に庭園に来たんだ」
 
 おじさんを見つめると、大きく頷いてくれた。
 
「こちらにおいで」
 
 おじさんは庭園中央にある、いつも僕達が食事をするテラス席に向かった。
 
「この庭園には……隠された秘密が一つだけあるんだ。この下に……大切なものが眠っている」
 
 どこか酷く悲しそうに話すおじさんは、懐かしむようにテーブルを優しく撫でた。
 
 いつも一緒にここで食事をとっていたはずなのに、どうしてなのだろう?
 
「風の女神シルフィス様。貴方が与えてくださった至宝を今一度、我々にお貸しください」
 
 祈りを上げるおじさんの体から、淡い緑色のオーラが立ち上ると、僕達が立っているテラス全体が光り始めた。
 
 ゴゴゴと音を立ててテーブルがゆっくり地中に下がっていく。
 
 真下に何があるのか全然見えないくらい暗い中――――何かが上がってきた。
 
 僕達の前に姿を現したそれは――――一本の弓だった。
 
「弓……?」
 
 僕が知っているような大弓とは違って、小弓と呼べるくらい小さいけど、不思議な力を感じる。
 
「「「「きゅぴっ~!」」」」
 
 モモ達が弓の周りを飛び回る。
 
「おじさん……? これは?」
 
「これは……風神弓フィアシル。世界に数本しかない伝説の武器なんだ。これを……ぜひハウくんに使ってもらいたのだよ」
 
「え~!? こ、こんな大事なものをですか!?」
 
 すると、おじさんはどうしてか目に大きな涙を浮かべた。
 
「この弓は……元々ある女性のためにエルフ族から受け取ったものなんだ。でもこの弓が力を発揮することは一度もなかった。きっと、彼女もハウくんに使ってもらいたいと願っているよ。さあ、触れてみてごらん」
 
 言われた通り左手を伸ばすと、眩い光が放たれる。
 
 光はとても温かくてどこか懐かしいとさえ思える光だった。
 
 手に持った弓から凄まじい力が伝わってくる。けれど、僕自身がこの弓をちゃんと使えないことは伝わってくる。
 
 それでも……モモ達やおじさん、リーゼ……みんなが僕に力を貸してくれたように、弓もまた僕に力を貸してくれるのが伝わってくる。
 
「おじさん。ありがとうございます。最後のドクロ……必ず倒してきます!」
 
「ああ。よろしく頼む。全てが終わったらまたみんなで美味しいご飯を食べに行こう」
 
「はい!」
 
 弓を持ってテラスを降りて、ふとリーゼを見ると、とても心配そうに僕を見つめていた。
 
「リーゼ。一緒にくる?」
 
 リーゼは僕の問いにすぐ笑顔を浮かべた。
 
「うん! 一緒に行く!」
 
 僕はリーゼと一緒に庭園を出た。
 
 
 
 リーゼと一緒に広い場所を目掛けて走る。
 
 近くだと、いつもリーゼと一緒に休んでる公園があるから、そこを目指した。
 
 僕としてはリーゼには安全な場所で待っていて欲しかった。でも……きっとリーゼも待つだけは嫌だと思ったから。
 
 両親がいつも冒険に出掛けて僕は一人残されていた。その間もオリアナさん達の家で過ごしていたけど、でも……ずっと寂しかった。どうして父さんと母さんは僕を残していつも外に出るのかと。
 
 だから待つだけは嫌になった。少しでも彼らが歩いた世界を見たかったから。
 
 リーゼに僕と同じ気持ちを味わってほしくはない。不安で自分が知らないところで大事な人が亡くなる不安。だから僕はリーゼと一緒に向かった。
 
 やがて公園に着いた僕達は、周りに人がいないことを確認する。
 
「誰もいないね」
 
「うん。これなら大丈夫そうだ」
 
 僕は左手に持っていた小弓を持ち上げる。
 
「風神弓フィアシル……シルフィス様。僕に力を貸してください。みんなを……大事な人達を守りたいんです」
 
 小弓から優しい風が周りに広がる。
 
 ――――そよ風。
 
 体を包み優しい風は、シルフィス様が僕達を優しく撫でてくれるような、そんな安心感を覚えた。
 
「ハウ」
 
「うん?」
 
 リーゼは顔を近付けてきて、僕のおでこに自分のおでこを合わせた。
 
「きっと大丈夫。ハウの願いはきっと女神様にも届いているよ」
 
 眼を瞑り、祈りを捧げるリーゼから僕に優しい力が伝わってきた。
 
「リーゼ……ありがとう。リーゼの力も一緒に乗せてあのドクロを倒すよ」
 
「うん」
 
 ゆっくり目を開けたリーゼは、ニコッととびっきりの笑顔を見せてくれた。
 
 僕もそれに笑顔になった。
 
「絶対にみんなを守る。シルフィス様。モモ達。リーゼ。ありがとう……!」
 
 僕は右手に持っていた短剣を小弓にセットし、遥か空の上から感じるドクロの気配がする方で弓を構えた。
 
「いっけぇえええええええ!」
 
 短剣を矢の代わりに空に向かって放つと、美しい光が広がりながら空高く飛んでいく。
 
 僕とリーゼの周りにも短剣を放った反動で凄まじい風が吹き荒れ、周りの植物達が倒れこんだ。
 
 
 
 
 
 アンデッドの大軍に襲われ激闘が続いていたソレイユ街。
 
 多くの人が必死に戦っているさなか、空に一筋の光が立ち上る。
 
 恐怖に震える多くの住民達が祈りを上げる中、空を飛ぶ光はやがて空を切り裂いた。
 
 ソレイユ街の上空から聞こえた六度目の轟音が鳴り響く。
 
 それがどういう音か知っている者は少ない。
 
 だが、それから起きた奇跡に多くの人が希望を感じた。
 
 空から降り注ぐ無数の光の粒。
 
 ソレイユ街全域に降り注いだ光は、アンデッドとの戦いで負傷していた戦士達の傷をたちまち治し、アンデッド達の動きを遅くさせる。
 
 さらに今まで倒しても倒しても復活を繰り返していたアンデッドはもう復活しなくなった。
 
 その機を逃さないようにジェネシスの号令と共に、冒険者達が壊された門を飛び越えて外を埋め尽くすアンデッドを倒し続ける。
 
 動きが遅くなったアンデッドに後れを取る冒険者などいなく、城壁からまた強烈な魔法が放たれるようになり、アンデッドの大軍を殲滅していった。
 
 未曾有の大危機であったソレイユ街は、空を翔ける光の一筋のおかげで平和を取り戻した。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...