上 下
2 / 33

2話

しおりを挟む
 翌日。
 
 一階の食堂で朝食を食べる。
 
 昨日も結局、仮眠から起きて夕飯を食べては、また眠ってしまって、一日中寝てばかりだった。
 
「ハウ! 仕事手伝って~」
 
「いいよ~」
 
 彼女の目的・・は知っているので断ることなんてせずに追いかける。
 
 宿屋の裏手に出ると、リアタさんが洗濯をしていた。
 
「リアタさん。おはようございます」
 
「おはよう」
 
 オリアナさんの旦那さんであり、リーゼのお父さん。すごく寡黙で、あまり喋らない。いつも無表情でムスッとしていると怒るお客さんもいるみたいだけど、すごく心優しくて、僕を引き取ると決めたのは、他ならぬリアタさんだ。
 
「洗濯物干しは任せてください」
 
「ああ。頼んだ」
 
 リアタさんが洗濯して綺麗になったシーツを、僕とリーゼで両端を持って広げる。
 
「風魔法発動!」
 
 僕の体からふわりと風が吹き出して、シーツがふわっと空を飛び、物干し竿に綺麗に置かれた。
 
 それを何回も繰り返して、後は自然の風に飛ばされないように、洗濯バサミで止めておく。
 
「お父さん! 仕事早く終わったから遊んできていい?」
 
「ああ。お小遣いだ」
 
「わあ! ありがとう!」
 
 これもいつもの流れだ。
 
 僕とリーゼは宿屋から城壁に向かった。
 
「ラインさ~ん! 上がっても~いいですかぁ~?」
 
 城壁の上に立っていた兵士さんがこちらを見て、「いいぞ~!」と返してくれたので、僕とリーゼは速足で階段を上り、城壁に登った。
 
「わあ~! 綺麗~!」
 
 リーゼが嬉しそうに声を上げる。
 
 城壁から見える景色は、どこまでも広い空と、遠くに見える山や森、大きな川なんかも見える。
 
 そして、僕がいつもここに来る一番の目的は、丁度ここから少しだけ離れた場所に見える、綿花の畑だ。
 
 純白の綿が所せましと並んだ畑は、高いところから見ると、絵本でしか見たことがない雪景色のように見える。まあ、実際見た事はないんだけどね。
 
 本当は普通の人はここに登らせてくれないけど、ラインさんは僕の両親の古くからの友人で、こうやって高いところが好きな僕によくしてくれている。
 
「ハウくん。お仕事はどうだ?」
 
「だいぶ慣れました! 魔法も上手く使えるようになったから、ある程度の荷物なら重くないです」
 
「そっか。それは良かった」
 
 十歳に覚醒する才能。誰しもが何かしらの才能を持つ。
 
 才能は強さで上級、中級、下級に分けられているが、下級の中でもとりわけ弱い才能をハズレと呼ぶ。
 
 僕が覚醒させた才能は――――『極小風魔法』。
 
 下級である『風魔法』、中級である『強風魔法』、上級である『暴風魔法』。それらは非常に強力で、魔物を倒す術となるのだが……『極小』という名が付く才能は、ハズレ中の中でもハズレと言われている。
 
 僕ができるのは、とても弱い風を吹き出すことだけ。
 
 例えば、さっき運ばせたシーツを空に飛ばして狙った場所に落とすことは簡単だが、人は持ち上げることはできない。それに鋭い風の刃のようにして魔物を切り裂くこともできない。
 
 だから僕についたあだ名は――――『そよ風のハウ』。
 
 僕が吹かせる風はまるでそよ風のようだと言われる所以だ。
 
 それからはまたリーゼと街を散策した。
 
 少しして、夕方の準備のためにリーゼを一足先に宿屋に見送り、僕はとある場所に向かった。
 
 
 
 扉を入っていくと、すぐに空気が重苦しいものに変わる。
 
 ガヤガヤして建物の中は、左にカウンター、正面に大きな掲示板、左に広く休憩スペースがあって、多くの――――冒険者達が座って作戦を練っていたりしている。
 
 ここは冒険者ギルド。冒険者達が日々仕事を求めてやってくる場所だ。
 
 僕が真っ先に向かうのは、依頼掲示板の隣にあるパーティー募集掲示板。
 
 そこには求めている人材が細かく書かれている。
 
 前衛や後衛、魔法使いなど。どの募集にも僕は当てはまらない。
 
「そよ風くんじゃねぇか! がーはははっ!」
 
 体格のいい男が僕を見下ろしながら、大きな声で笑うと、少し離れている冒険者達も一緒に笑い始める。
 
「コワさん……ど、どうも……」
 
「おい、そよ風。ちょっと暑くてよ~お前の力で風を吹かせてくれ」
 
「あ、あはは……は、はい……風魔法発動」
 
 僕の両手から風がコワさんに当たる。
 
 当然、吹き飛ぶはずもなく、髪や服が少し揺らぐくらいだ。
 
「がはははっ! 涼しいじゃねぇか! さすがだな、無能風魔法使いさんよ!」
 
 また周りから大きな笑い声が聞こえる。
 
 コワさんはそのまま顔を近付けてきて、僕を睨みつける。
 
「おい。雑魚。ここはてめぇみたいなゴミが来る場所じゃねぇ。前も言ったよな? ああん? 舐めてんのか?」
 
「ひい!? ご、ごめんなさい……」
 
「次ここに来たらぶっ飛ばすからな? あいつらのところで一生ポーターやってろ。クズ」
 
 僕は逃げるように急いで冒険者ギルドから走り出した。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

売れない薬はただのゴミ ~伯爵令嬢がつぶれかけのお店を再生します~

薄味メロン
ファンタジー
周囲は、みんな敵。 欠陥品と呼ばれた令嬢が、つぶれかけのお店を立て直す。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

処理中です...