62 / 102
三章
第61話 要塞都市ですか?
しおりを挟む
ヘルドさんから『要塞都市ゲビルグ』攻略を手伝って欲しいと言われ、僕は少し考えさせてくださいと返答した。
本来ならヘルドさんの頼みともあれば、直ぐに承諾するつもりだった。
そのつもり……だったんだけど…………。
ヘルドさんが言う王国の三つの切り札の最後の一つ。
――――「そいつは、賢者の末裔。ヴァイク・ハイリンス魔導士だ」。
その言葉に僕は人知れぬ不安と怒りに支配されてしまった。
ヘルドさんも僕の表情を直ぐに読み切ったみたいで、僕が「少し……考えさせて……ください」と言うと、静かに頷いて返してくれた。
僕は現在、テラスで風に当たりながら町を眺めている。
隣にはアイリスが心配そうに見つめていた。
「ヴァイク・ハイリンス魔導士…………教えて?」
「…………」
数十分。
時が流れたはずなのに、僕には全く認識出来ないくらいには追い詰められていた。
それでもじーっと待ってくれるアイリスのおかげで、少しは決心が付いた。
「その人は……僕の…………お父様だよ」
「おとう……さま……だったのね……」
「…………良い思い出なんて何一つない……お父様からは、ずっと、勉強勉強と言われ続けたよ……十歳の時、ギフトの日に……僕は追放されて……凄い剣幕で怒られて……失望したと言われて…………」
気づけば僕の頬に涙が流れていた。
「僕は言われた通りに……頑張ったのに……どうして神様はお父様を満足させてくれるギフトを授けてくださらなかったのかと……考えた時もあったよ。でも…………毎日勉強ばかりにしか目を向けられなくて、こんな家は嫌だ――って思って……追放されて……ヴァレン町に辿り着いた時には、逆に安心出来たんだ」
アイリスが静かに後ろから抱きしめてくれた。
温かいアイリスの体温が肌を通じて、僕の心も抱いてくれているかのような温かさだった。
「今の、僕の……僕の居場所を奪わせたりはしない…………何れはお父様とも決着を付けなくてはならないと思っていたから。今回が良い機会かも知れない…………」
僕は自分の胸を優しく包んでいるアイリスの手を握った。
「必ず守って見せる……ありがとう。アイリス」
こうして、僕とお父様の戦いが始まろうとしていた。
◇
ヘルドさんは返答を聞くと、僕の肩に手を上げ「お前自身の力を信じろ」と言い残し、戦争の準備の為、帰っていった。
それから数日後、ディレンさんの兵士達と共に、僕とアイリスはシーマくん達に見守れる中、馬車に乗り込み、次の戦場に向かった。
今回も念のため、シグマくんとタロに防衛を頼んでおり、アイリスにもいつでも帰れるようにしている。
馬車の中ではグレンとリラ、リルのおかげで、それほど辛い旅ではなく、癒しがある旅になった。
リラとリルはグレンと違って、いつでもなでなでさせてくれるからとても助かった。
勿論、お腹が空いた時に、豚肉をあげないと怒るけどね。
数日馬車に揺られ到着したのは、先日戦争した場所から更に西にある山が横断している場所だった。
山の中央には『要塞都市ゲビルグ』が構えており、その門は固く閉まっていた。
城壁の上には数多い兵士達がこちらを向いて見つめていて、物々しい雰囲気が伝わっている。
「アレク、あれが『要塞都市ゲビルグ』だ」
「……はい、あのまま戦っても攻める側がひたすらに不利ですね」
「ああ、その通りだ」
山脈を超えないと王国には入れない。
その山脈を通る道は、『要塞都市ゲビルグ』が建設される事で完全に塞がれた。
更に攻める側が不利になるような設計になっている。
『要塞都市ゲビルグ』が高台に作られている為、攻める側……つまり、攻める側からの侵攻が自然と下から坂を上がらなくてはならない。
それは戦争中、最も大きな効果を齎すだろう。
城壁の上からの魔法や弓矢で対処するだけで、防衛が簡単に出来るのだから。
何度か挑戦してみるも惨敗を喫して、領土まで奪われる程だったから連邦国も手を焼いている要塞との事だ。
しかし、不思議と今回の戦いで王国軍にも余裕がないように見える。
「それもそうだろう。誰かさんが大型破壊兵器『ヴァレンシア』をぶっ壊したからな。前線の兵士達はあれの存在を知っている者も多い。絶対防壁の異名がある『要塞都市ゲビルグ』と『大型破壊兵器ヴァレンシア』のうち、片方が陥落されたんだ。次は……ここ『要塞都市ゲビルグ』が陥落されてもおかしくないと思っている兵士達も多いだろうよ」
なるほど……。
方法は分からなくでも、陥落された事実はあるからね。
向こうの兵士達の顔に不安があるのは、そういう事で間違いないだろう。
「さて、アレク。明日はお前の力を借りるぞ?」
「ええ、任せといてください…………あ、それとお願いが一つあります」
僕は真剣な表情でヘルドさんを見つめた。
「もし、ヴァイク・ハイリンスが出て来た時は――――僕に任せてください」
ヘルドさんは不敵な笑みで「分かった」と話した。
本来ならヘルドさんの頼みともあれば、直ぐに承諾するつもりだった。
そのつもり……だったんだけど…………。
ヘルドさんが言う王国の三つの切り札の最後の一つ。
――――「そいつは、賢者の末裔。ヴァイク・ハイリンス魔導士だ」。
その言葉に僕は人知れぬ不安と怒りに支配されてしまった。
ヘルドさんも僕の表情を直ぐに読み切ったみたいで、僕が「少し……考えさせて……ください」と言うと、静かに頷いて返してくれた。
僕は現在、テラスで風に当たりながら町を眺めている。
隣にはアイリスが心配そうに見つめていた。
「ヴァイク・ハイリンス魔導士…………教えて?」
「…………」
数十分。
時が流れたはずなのに、僕には全く認識出来ないくらいには追い詰められていた。
それでもじーっと待ってくれるアイリスのおかげで、少しは決心が付いた。
「その人は……僕の…………お父様だよ」
「おとう……さま……だったのね……」
「…………良い思い出なんて何一つない……お父様からは、ずっと、勉強勉強と言われ続けたよ……十歳の時、ギフトの日に……僕は追放されて……凄い剣幕で怒られて……失望したと言われて…………」
気づけば僕の頬に涙が流れていた。
「僕は言われた通りに……頑張ったのに……どうして神様はお父様を満足させてくれるギフトを授けてくださらなかったのかと……考えた時もあったよ。でも…………毎日勉強ばかりにしか目を向けられなくて、こんな家は嫌だ――って思って……追放されて……ヴァレン町に辿り着いた時には、逆に安心出来たんだ」
アイリスが静かに後ろから抱きしめてくれた。
温かいアイリスの体温が肌を通じて、僕の心も抱いてくれているかのような温かさだった。
「今の、僕の……僕の居場所を奪わせたりはしない…………何れはお父様とも決着を付けなくてはならないと思っていたから。今回が良い機会かも知れない…………」
僕は自分の胸を優しく包んでいるアイリスの手を握った。
「必ず守って見せる……ありがとう。アイリス」
こうして、僕とお父様の戦いが始まろうとしていた。
◇
ヘルドさんは返答を聞くと、僕の肩に手を上げ「お前自身の力を信じろ」と言い残し、戦争の準備の為、帰っていった。
それから数日後、ディレンさんの兵士達と共に、僕とアイリスはシーマくん達に見守れる中、馬車に乗り込み、次の戦場に向かった。
今回も念のため、シグマくんとタロに防衛を頼んでおり、アイリスにもいつでも帰れるようにしている。
馬車の中ではグレンとリラ、リルのおかげで、それほど辛い旅ではなく、癒しがある旅になった。
リラとリルはグレンと違って、いつでもなでなでさせてくれるからとても助かった。
勿論、お腹が空いた時に、豚肉をあげないと怒るけどね。
数日馬車に揺られ到着したのは、先日戦争した場所から更に西にある山が横断している場所だった。
山の中央には『要塞都市ゲビルグ』が構えており、その門は固く閉まっていた。
城壁の上には数多い兵士達がこちらを向いて見つめていて、物々しい雰囲気が伝わっている。
「アレク、あれが『要塞都市ゲビルグ』だ」
「……はい、あのまま戦っても攻める側がひたすらに不利ですね」
「ああ、その通りだ」
山脈を超えないと王国には入れない。
その山脈を通る道は、『要塞都市ゲビルグ』が建設される事で完全に塞がれた。
更に攻める側が不利になるような設計になっている。
『要塞都市ゲビルグ』が高台に作られている為、攻める側……つまり、攻める側からの侵攻が自然と下から坂を上がらなくてはならない。
それは戦争中、最も大きな効果を齎すだろう。
城壁の上からの魔法や弓矢で対処するだけで、防衛が簡単に出来るのだから。
何度か挑戦してみるも惨敗を喫して、領土まで奪われる程だったから連邦国も手を焼いている要塞との事だ。
しかし、不思議と今回の戦いで王国軍にも余裕がないように見える。
「それもそうだろう。誰かさんが大型破壊兵器『ヴァレンシア』をぶっ壊したからな。前線の兵士達はあれの存在を知っている者も多い。絶対防壁の異名がある『要塞都市ゲビルグ』と『大型破壊兵器ヴァレンシア』のうち、片方が陥落されたんだ。次は……ここ『要塞都市ゲビルグ』が陥落されてもおかしくないと思っている兵士達も多いだろうよ」
なるほど……。
方法は分からなくでも、陥落された事実はあるからね。
向こうの兵士達の顔に不安があるのは、そういう事で間違いないだろう。
「さて、アレク。明日はお前の力を借りるぞ?」
「ええ、任せといてください…………あ、それとお願いが一つあります」
僕は真剣な表情でヘルドさんを見つめた。
「もし、ヴァイク・ハイリンスが出て来た時は――――僕に任せてください」
ヘルドさんは不敵な笑みで「分かった」と話した。
11
お気に入りに追加
614
あなたにおすすめの小説
赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜
桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。
彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。
それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。
世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる!
※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*)
良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^
------------------------------------------------------
※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。
表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。
(私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)
蒼穹(そうきゅう)の約束
星 陽月
ライト文芸
会社の上司と不倫をつづける紀子は、田嶋正吉という太平洋戦争に従軍した経験を持つ老人と公園で出会う。
その正吉とベンチで会話を交わす紀子。
そして、その正吉とまた公園で会うことを約束をして別れた。
だが、別れてすぐに、正吉は胸を抑えて倒れてしまった。
紀子も同乗した救急車の中で息をひきとってしまった正吉。
その正吉は、何故か紀子に憑依してしまったのだった。
正吉が紀子に憑依した理由とはいったい何なのか。
遠き日の約束とは……。
紀子のことが好きな谷口と、オカマのカオルを巻き込んで巻き起こるハートフル・ヒューマン・ドラマ!
元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~
大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。
魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。
しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。
満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。
魔族領に戻っても命を狙われるだけ。
そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。
日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?
夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。
しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。
ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。
次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。
アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。
彼らの珍道中はどうなるのやら……。
*小説家になろうでも投稿しております。
*タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
見習い陰陽師の高校生活
風間義介
ファンタジー
二十一世紀、『科学万能』が謳われる時代。
現役高校生である土御門護は、非科学的として存在を否定される妖怪や怨霊に立ち向かう術を持つ、見習い陰陽師である。
二年生への進級を控えた春休みに、幼馴染の風森月美に夢で誘われた護は、出雲へとむかう。
「神の国」と呼ばれたかの地で、護は自分の信条を曲げて立ち向かわなければならない事件に遭遇する。
果たして、その事件の全貌と黒幕の目的は?護は無事に事件を解決できるのか?!
※表紙絵作者 もけもけこけこ様
※「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアップ+」にも掲載しております
※「カクヨム」にて『第2回ファミ通文庫大賞』最終選考対象作品となりました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる