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三章

第57話 戦後の夜は危険です

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 自由連邦国軍の駐屯地に着くと、グーニルさんともう一人若くてオドオドしている男性が出迎えてくれた。

 グニールさんからは、「貴殿がヘルド様を守ってくださったのか! 貴殿は我々の恩人だ! 今までの非礼を許して欲しい! 此度のヘルド様を助けて頂き感謝申す!」と泣きながら僕の両手を握りブンブン上下させた。

 もう一人若い男性は、ダレン将軍の長男で、ディレンさんと紹介があった。

 ずっとオドオドしていて、戦場との場違い感が凄かった。

 これでも凄い手腕の政治家らしいけどね。

 人は外見では分からないもんだね。


 夜になり、駐屯地で一泊する事になった。

「――――って! また同じ部屋なの!?」

 僕とアイリスが案内された部屋――というより、テントはたった一つだった。

 中にはご丁寧に簡易ベッドまで設置されている。

 うう……屋敷のベッドは大きかったから一緒でも離れて寝れたけど、ここは流石に……。

「アイリス、僕は床――――って、何でいつも平気で着替えるの!」

「ん? 今更気にしても仕方ないでしょう? 変な事言ってないで、早く寝るわよ?」

「う、うう……」

 グレン……そんな憐れむ目で見ないでくれ……。

 僕は『箱』から豚肉を取り出し、グレンにあげると幸せそうに食べてくれた。

 普段はあまり触らせてくれないけど、肉を食べている間だけは自由になでなでさせてくれる。

 意外と肌触りの良い毛並みに、いつも癒される。


 お触り時間が終わり、急いで着替えて自分自身とアイリス、グレンにスキル『クリーン』を掛けた。

 スキル『クリーン』は凄く便利で、今眠っているヘルドさんにもスッキリした状態で眠って貰えている。

 水場が無くて水浴びも出来ない場所だと大活躍するスキルである。

 そして、僕とアイリスは一つしかない狭いベッドに潜りこんだ。

 二人用ベッドらしくて、狭すぎる事はないんだけど…………。

 くっ、アイリスの体温が感じられるくらいには近い。

「あ、あのさ」

「ん?」

 何となく返事すら色っぽいのは止めてほしい。

「で、出来れば……後ろ向いて寝て欲しいんだけど……」

「…………や」

 くっ! アイリスはいつもこっちを向いて寝ているから、こういう場所だとしんどすぎる!

 一々返事に吐息混ぜると、普段女性としてあまり意識してないアイリスが、一段と大人びて見えてしまう。

 寝間着に着替えた彼女の程よく存在を主張しているたわわに、色白肌、普段の強気からのギャップ萌え、何と言ってもずっと上目遣い。

 くっ……ここは耐えねば……。



 ◇



 ◆アイリス◆

 兵士さん達が気を利かせてくれて……というか無言の圧力をかけると一つのテントにしてくれた。

 屋敷でも一つの部屋で眠っていたけど、ベッドが広すぎて、アレクはいつもベッドの端で器用に寝ていた。

 今日のベッドはそうはいかないはず!

 案の定、二人用とは言え、屋敷のベッドみたいな広すぎるベッドではなくて安心した。

 アレクがグレンくんにお肉をあげて、幸せそうになでなでしている……。

 幸せそうな表情を私も遠くから眺めて幸せを感じる。

 でも、あのなでなで……私にも…………。


 今日もそうだ。

 折角の帰り道、おんぶして貰おうかなと思って、弱ったふりをしようとしていたけど、あのヘルドのおっちゃんが先に倒れちゃって…………はぁ、このままトドメを刺してやろうかと本気で悩んだわ。

 お肉時間が終わり、アレクにスキル『クリーン』を掛けて貰い、私達は狭いベッドに入った。

 今日は絶好のチャンス。

 何とかアレクを陥落させたい。

 この前、本で読んだ『男を落とす方法1000選』を試す事にしよう。

 まず、少し小さめな寝間着にして体のラインを見せて、腕や足をしっかり強調しつつ、常に上目遣いにして、返事は全て一言だけ吐息を混ぜる。

 ふふっ、アレクが悶え始めている!

 あともうちょっとね!

 頑張れ私!









 ――――しかし、十分ほどして、アレクは幸せそうに眠ってしまった。
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