上 下
22 / 102
一章

第21話 戦いですか?

しおりを挟む
「あんた、名前くらい名乗ったらどう?」

 アイリスちゃんが僕を刺した人に向って話した。

「ふむ、そいつが生きていた事に免じて、死んでゆく貴様らに最後の餞別として教えてあげよう」

 自信満々に話しているけど、この殺気、とんでもなく強い事くらい分かる。

「俺は暗殺ギルド『ロキ』の幹部の一人、ディランという」

 暗殺ギルド『ロキ』?

 聞いた事ないギルド名だった。

「そのディランさんは余程、勝つ自信があるんだろうね」

 アイリスちゃんの言葉に、ディランの口元が緩んだ。

「貴様らを殺そうと思えば、既に殺している」

 きっと、ハッタリではないだろう。

 戦う前から、既に僕とアイリスちゃんの冷や汗は凄い事になっている。

 それだけ、目の前の彼が強い事を肌で感じていた。

「さあ、選べ。苦しんで死ぬか、泣き叫びながら死ぬか」

 それ一緒じゃねぇかよ!

 選べないから!


「確かにあんたは強い、でも最初から私一人で護衛をしていることを不思議とは思わないわけ?」

「ふっ、貴様のような隙だらけの素人に何が出来る」

 確かに、アイリスちゃんが戦う所なんて見た事ない。

 彼女は大きく息を吸って吐くと、ディランを指差した。

「あんたなんかにアレクを殺させたりはしないわ!」

 う~ん、よく考えると、それは僕が言うべき台詞なんじゃ……。

「解放! 魔女ノ衣!」

 アイリスちゃんから禍々しい黒い光が漏れだした。

 解放? 魔女ノ衣??

 それを見ていたディランの表情に一切の余裕がなくなった

「成程、貴様、魔女家系だったのか」

 黒い光が終わり、禍々しい衣装がうねうねと動いていた。

 見た目通り、生きている衣装、な感じだ。


「へぇ、あんた、意外と物知りなのね」

「くっくっくっ、これはとんだ偶然だな、あの時・・・殺しそびれたガキが、貴様だったとは」

「!? あんた……まさか!!」

「くっくっくっ、魔女ノ森を滅ぼしたのは他でもない、我々『ロキ』だ」

 魔女ノ森? 滅ぼした?

 よく分からないけれど、アイリスちゃんに関わっているのだけは理解出来た。

「あんただけは……絶対許さない。ここで成敗してくれる!」

「くっくっ、幾ら魔女といえ、ガキ如きに――」

 アイリスちゃんとディランがぶつかり合った。


 アイリスちゃんの衣装は影の触手のように、幾つにも分かれてディランを襲った。

 ディランは両手に短剣より長めの二振りの剣を持っていた。

 アイリスちゃんの影の触手をディランが素早く斬り跳ね返している。

 たった数秒で、僕に聞こえる音は数十回にも及ぶ、ぶつかり音だった。

 僕が息を飲む間に、二人の戦いはますます激しくなった。


 アイリスちゃんが攻め勝っているように見えていたが、影の触手の隙間にディランの剣戟が差し込まれた。

 それを読んでいた彼女もまた、剣戟を振り払った。


 二人が距離を取り、一瞬の静寂に戻った。


「ガキだと思っていれば、中々やるな」

「あんたこそ……幹部というだけの事はあるわ」


 見た雰囲気だと、アイリスちゃんの方が有利に見える。

 しかし、表情に余裕があるのは、向こうディランの方だ。

 流石に戦いの場数の差はどうしようもないのだろう。


「アイリス、大丈夫?」

「え、ええ、でも、あいつ……やっぱり強いわ」

「うん。見てる感じ、スキル無しであんなに強いからね」

「そうね、私もまだ本気ではないけど、向こうもそうだとすると……ちょっと危ないかも知れないわ」

「ねえ、アイリスちゃん。ここは――――――――」

 僕は思っていた作戦をアイリスちゃんに伝えた。

「――分かったわ。それで行きましょう」

 決してディランから目を離さず、睨みながら聞いていたアイリスちゃんが頷いて返してくれた。



「くっくっ、ガキの悪知恵は決まったかな? では本番と行こうぜ!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

赤毛のアンナ 〜極光の巫女〜

桐乃 藍
ファンタジー
幼馴染の神代アンナと共に異世界に飛ばされた成瀬ユウキ。 彼が命の危機に陥る度に発動する[先読みの力]。 それは、終焉の巫女にしか使えないと伝えられる世界最強の力の一つだった。 世界の終わりとされる約束の日までに世界を救うため、ユウキとアンナの冒険が今、始まる! ※2020年8月17日に完結しました(*´꒳`*) 良かったら、お気に入り登録や感想を下さいませ^ ^ ------------------------------------------------------ ※各章毎に1枚以上挿絵を用意しています(★マーク)。 表紙も含めたイラストは全てinstagramで知り合ったyuki.yukineko様に依頼し、描いて頂いています。 (私のプロフィール欄のURLより、yuki.yukineko 様のインスタに飛べます。綺麗で素敵なイラストが沢山あるので、そちらの方もご覧になって下さい)

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

アルゴノートのおんがえし

朝食ダンゴ
ファンタジー
『完結済!』【続編製作中!】  『アルゴノート』  そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、半世紀以上前のことである。  元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称である。  彼らを侵略戦争の尖兵として登用したロードルシアは、その勢力を急速に拡大。  二度に渡る大侵略を経て、ロードルシアは大陸に覇を唱える一大帝国となった。  かつて英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が持つ価値は、いつしか劣化の一途辿ることになる。  時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。  アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。 『アルゴノート』の少年セスは、ひょんなことから貴族令嬢シルキィの護衛任務を引き受けることに。  典型的な貴族の例に漏れず大のアルゴノート嫌いであるシルキィはセスを邪険に扱うが、そんな彼女をセスは命懸けで守る決意をする。  シルキィのメイド、ティアを伴い帝都を目指す一行は、その道中で国家を巻き込んだ陰謀に巻き込まれてしまう。  セスとシルキィに秘められた過去。  歴史の闇に葬られた亡国の怨恨。  容赦なく襲いかかる戦火。  ーー苦難に立ち向かえ。生きることは、戦いだ。  それぞれの運命が絡み合う本格派ファンタジー開幕。  苦難のなかには生きる人にこそ読んで頂きたい一作。  ○表紙イラスト:119 様  ※本作は他サイトにも投稿しております。

猫カフェを異世界で開くことにした

茜カナコ
ファンタジー
猫カフェを異世界で開くことにしたシンジ。猫様達のため、今日も奮闘中です。

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助
ファンタジー
 清水悠里は先輩に苛められ会社を辞めてしまう。異世界生活研修所の広告を見て10日間の研修に参加したが、女子率が高くテンションが上がっていた所、異世界に連れて行かれてしまう。現地実習する普通の研修生のつもりだったが事故で帰れなくなり、北欧神話の中の人に巻き込まれて強くなっていく。ただ無事に帰りたいだけなのだが。

元四天王は貧乏令嬢の使用人 ~冤罪で国から追放された魔王軍四天王。貧乏貴族の令嬢に拾われ、使用人として働きます~

大豆茶
ファンタジー
『魔族』と『人間族』の国で二分された世界。 魔族を統べる王である魔王直属の配下である『魔王軍四天王』の一人である主人公アースは、ある事情から配下を持たずに活動しいていた。 しかし、そんなアースを疎ましく思った他の四天王から、魔王の死を切っ掛けに罪を被せられ殺されかけてしまう。 満身創痍のアースを救ったのは、人間族である辺境の地の貧乏貴族令嬢エレミア・リーフェルニアだった。 魔族領に戻っても命を狙われるだけ。 そう判断したアースは、身分を隠しリーフェルニア家で使用人として働くことに。 日々を過ごす中、アースの活躍と共にリーフェルニア領は目まぐるしい発展を遂げていくこととなる。

異世界転生した、くま

くま
ファンタジー
異世界転生した、オタクの番外編です!

処理中です...