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第36話 報酬の使い道

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 王城から帰る馬車の中。

「アルマくん? やっぱりこっちは返そうよ……私、何もしていないのにこんな凄い報酬を貰うなんてできないよ……」

 溜息を吐きながら、両手で大事に抱きかかえて小さな袋を眺めるシャリー。

 馬車の中で袋の中身を確認したシャリーは、ずっと溜息を吐いている。

「シャリーもちゃんと働いてくれたと思うよ。それに奴隷商ん時の報酬だって有耶無耶になっているじゃん」

「え!? あれはしっかり奴隷達の権利を貰えたじゃない」

「いやいや。あれは俺が勝ち取ったものであって、シャリーの分ではないでしょう。シャリーは貰っていないのだから、小さい袋じゃ足りないんじゃない?」

「足りなくないよ! 寧ろこっちをアルマくんが貰うべきだよ!」

 それが心から溢れて来た言葉なのは簡単に分かる。

 俺が知っている美女という人はわがままな人が多いイメージなのだが、シャリーに限っては全くその気がない。

 まぁ妹弟にモフモフしたいという欲望は丸出しにしているけどな。

 多分だけど小袋の中身一個で一分モフモフと交換してあげるよと言ったら、丸投げにしてモフモフを取るに違いない。

「まあ、俺からの謝礼だと思ってくれていいよ。いつもお世話になったし、今回も色んな出来事もシャリーがいなかったら、俺一人だったら絶対に無理だったんだから、気にせずに堂々と貰ってくれ」

「うん…………」

「ちなみに、こういうのはあれだけど、それをどう使おうがシャリーの自由なんだから、負担になるのならどこかに寄付なんかしたらいいんじゃないか?」

「寄付か~最初は私もそうしようかなと思ったんだけど…………」

「思ったんだけど?」

 意外だ。

 名案だわ! って食いつくと思っていたのに、違ったみたい。

「アルマくんを見て、寄付するよりも自分の意志で使った方がいいなと思ったの」

 どこか憧れがあるように、彼女は真っすぐ俺の目を見つめた。

 彼女の目には深い信念が感じられる。

 決して寄付を否定するつもりはない。でも俺は手元にお金があるなら、それを使って目の前の人を助けたい。ただ救うだけじゃなくて、これからの生活をも考えてね。

 レストランを開くのにも資金がかなり必要だったりする。

 元奴隷達が開く予定のレストラン『スザク』は、冒険者ギルドの全面的なバックアップの元で開く事が決定している。

 でもそれは言い換えれば、冒険者ギルドに属してしまうという事。

 ギルドマスターも受付嬢のミールさんも良い人なのは知っている。でも組織というのは時に自分達の意志を通す事が難しくて組織の波に呑まれてしまう可能性がある。

 せっかく大量の金貨を報酬として頂けたので、冒険者ギルドから借りた額を全て返済に充てようと思う。

 俺達を乗せた場所は、冒険者ギルドの前に止まってくれた。

 執事さんに感謝の挨拶を残して、俺とシャリーは冒険者ギルドの中に入った。

 入るとすぐに、何人もの冒険者達の視線が俺達に向く。

 一連の出来事は既に広まってしまったようで、冒険者達から白目で見られるのは仕方がないな。

「ミールさん」

「いらっしゃいませ。アルマくん。シャリーちゃん」

「ギルドマスターに相談があるのですけど」

「分かったわ。ちょっと待ってね」

 最近は普通の事になってきたけど、こうしてギルドマスターにいつでも会えるのは珍しい事だよな……。

 ミールさんの案内を受けてギルドマスターの執務室にやってきた。

「ギルドマスター。わざわざ時間を割いてくださりありがとうございます」

「王都を救ってくれた英雄の頼みとあらば、これくらい容易いことさ」

「英雄ではないんですけど……全部ベルハルト様と、彼を会わせてくださったギルドマスターのおかげですよ」

 それを聞いたギルドマスターが大きな声で笑う。

「がーはははっ! その全てを指示したのは他でもアルマくんだからな。それで、要件があって来たのだろう?」

「はい。こちらを」

 王様から頂いた報酬の金貨が入った大きめな袋をギルドマスターの前に置く。

 中を確認したギルドマスターの顔が少し曇った。

「これは?」

「レストラン『スザク』で借りたお金です」

「…………アルマくん」

「ギルドマスター。あのお店に冒険者ギルドが優位に立つのは避けたいんです」

「だが…………」

 渋っているギルドマスターに交渉を続ける。

「お二人のことは信頼しています。でもそれはお二人だけであり、俺は冒険者全員を認めているわけではありません。なんなら試験の時のような輩もいるくらいですから。だから、冒険者ギルドとはあくまで仕事上の相手として関わってもらいたいんです。上下関係が続いてしまってはまた禍根かこんを残し兼ねませんから」

「…………分かった。あのレストランのオーナーはアルマくんだ。君がそう判断したのなら俺達がとやかく言うのは違うだろう。ただ、これからも冒険者としての依頼で手助けはしていくつもりだ」



「ええ。それでは引き続きよろしくお願いします。彼らも助かると思います――――いずれ俺がいなくなっても――――」



「分かった。ではこちらの金貨からレストランに掛かった額から残った額は直接レストランに入れる事にするぞ」

「ありがとうございます」

 やっぱりギルドマスターは話が早くて助かる。

 ふと、隣のシャリーが複雑そうな表情を浮かべているのが気にはなったが、いずれ彼女とも別れが来るだろうから、これ以上彼女との距離を縮める事は避けた方が良さそうだと思った。
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