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 一週間のお泊り会は終わりを告げ、いつもの日常に戻った静人達は、夕方になるのを待って前のようにもみじ達と一緒に料理を囲む。


「というわけで、村の名前は『かんなぎ村』で世界の名前は『パレット』で決定ね?」

「分かったのだ。というかホントに今更なのだ」

「分かった。別に不満は無いからそれでいい」

「かんなぎ村とパレット。うん、覚えた!」


 途中かなでが決めた村と世界の名前をもみじ達に提案すると、特に否定意見も出ずに教えられた単語を覚えようとしていた。そんなみんなの様子を見つつかなでは少し不安そうに問いかける。


「このままで大丈夫?」

「うん!」

「ならよかったわ」


 否定されないで済んでほっとした様子で息を吐くかなでの後ろから、静人が笑顔で両手に携えた料理を見せる。


「さてと、今日は村と世界の名前が決まったということでパーティーかな?」

「パーティー! ケーキ?」

「もちろん、ケーキもあるよ。お肉もお魚もあるからね」

「お魚! 早く食べよう」


 魚があると聞いた青藍は素早く座ると静人の持つ荷物をのぞき込む。その中でも魚のことを凝視する青藍に桔梗は呆れた様子で隣に座る。


「ホントに青藍は魚が好きなのだ……。お肉も食べるのだ?」

「もちろん、たくさん食べる。お魚も好きだけど、お肉も大好きだから」

「確かに今まで出されたものは全部食べておったのだ。野菜も食べるのだぞ?」

「なんでも食べるよ? 美味しければ、お兄さんたちが出してくれるのはどれも美味しいから何でも食べられる」


 本心から言っているのが分かったからか静人は嬉しそうに微笑む。


「それは良かったよ。これからもたくさん食べていいからね」

「うん。たくさん食べる。……だから、早く食べたい」

「あはは、そうだね。今から用意するから待っててね」


 催促してくる青藍に笑みを向けて料理を取り出す。いつの間にか持ってきていた布巾でかなでがテーブルをふき終えると静人のほうを向いて親指を立てる。


「しず君。テーブルの上拭き終わったからもう並べていっていいよ」

「分かった、ありがとね。あ、かなで、これ持って行ってもらってもいいかな?」


 静人はかなでの言葉に頷いて料理を並べていき、少し量が多く感じたのか途中からかなでにも手伝ってもらう。


「いいわよ! それじゃあ、これ持って行くわね。他に手伝えることある?」

「うーん。今のところは大丈夫だよ。これで最後だしね、ありがとね」

「そう? それなら良かったわ。どういたしまして」


 手伝ってもらったことにお礼を言いつつ料理を並べ終えたタイミングにみどりが現れる。


「お、みんな揃っとるんやね。いい匂いもしとるし」

「あ、みどりちゃん! みどりちゃんも食べる?」

「お、ええの? ええんやったら食べさせてもらいたいわぁ」


 いきなり出てきたみどりにもはや驚くこともせずにかなでは食卓に誘う。みどりは嬉しそうに頷くと、静人も柔らかい笑みを浮かべて頷く。


「もちろんいいですよ。食べられないものがないと良いんですけど」

「大丈夫やで。うちに食べられないものないし。もみじ達もそうやろ?」


 静人の言葉にみどりは笑いながら肩をすくめる。


「うん! 何でも食べられるよ!」

「わしもなんでも食べられるのだ。好き嫌いも特にないのだ」

「私もそう。でも、お魚が一番好き」


 順番に答えていくもみじ達だったが、青藍はどこまでもぶれることなく断言する。


「青藍はどこまで魚が好きなのだ? そんなに食べてたら飽きがきそうなのだ」

「大丈夫、三食お魚でもいいくらい」

「わしらが飽きるからやめて欲しいのだ。あ、これ美味しいのだ」

「あ、この味……。なんだろう。落ち着く味がする」


 桔梗は首を横に振りつつ何気なく取った野菜を口に放り込み、そのあと何度も同じものを食べる。食べ続ける桔梗の姿を見て気になったのか、もみじも同じものを皿に取って食べるとふぅっと息を吐く。


「ほうれん草のお浸しだね。ごま油と醤油かけただけだけど」

「この貝のお吸い物も美味しいのだ」

「結構桔梗ちゃんって薄めの味のほうが好きなの?」

「うむ? たしかに、そうかもしれないのだ。あまり気にしたことなかったのだ」


 かなでの言葉で気付いたのか桔梗は少し考えた後ゆっくり頷く。


「昔から桔梗は味が薄いものを好んで食べとった気がするなぁ。今でもそうなんやねぇ」

「味が薄いものを食べるとなんかほっとした気分になるのだ」

「あ、それはなんとなくわかるかも。私もほっとしたい時とかは温かいお味噌汁とか飲むときあるもの」

「おー、お姉ちゃんもそうなのだ? わしとしては今日みたいのもたまには食べたいのだ」


 桔梗はかなでも同じようなことをしてると聞いて嬉しそうに声をあげたあと、お吸い物に口をつけてすする。

 かなでもその意見には賛成なのか腕を組んで悩むそぶりを見せつつも頷いて見せた。


「そうね。濃ゆいものばかり食べるのもね。たまにはこういうのもいいわよね。青藍ちゃん、焼き魚だけどどう?」

「とても美味しい。毎日これでもいいくらい」

「ふふ、そう? それならよかった」


 青藍は綺麗に骨を取り除き……、ということもなく骨ごと食べてるらしく、焼き魚が入っていた皿には骨一つ残っていなかった。


「あー、確かにこういうのもいいわぁ。食事をとってほっとすることなんてあまりないしなぁ。だいたい会食とかでいろいろとめんどいし、仕事中に食べるのは早く食べてしまうから余裕がないし」

「あはは、食事位はゆっくりとったほうがいいですよ。体を壊すことは無くても精神的につらくなることはあるでしょうから」

「そやなぁ、今度からは余裕を持って食べてみることにするわ」


 みどりは小さく出来たらと付け加えつつ静人の言葉に同意する。


「むふー、今日もお腹いっぱい。お魚食べれて満足」

「それは良かった。あ、そうだ世界の名前と村の名前は決まったんだけど、みどりさんの提案でもみじちゃん達のことも名付けようってことになったんだけど、何かいい案は無いかな?」

「私たちのこと?」


 何を決めるのかが理解できないのか、もみじは首を傾げて自分を指さす。


「そやね。決めといたほうが説明も楽やしな。うちらと似たようなうんぬんかんぬん、みたいな言い方をするより決めとった方が楽やろ?」

「うーん、なんかよく分からないけど楽なら決めたほうがいいよね! でも、何か候補はあるの?」

「それが今のとこ、かなでさんの言った『ケモミミ巫女』しかないのよな。まぁ、うちらはケモ耳やないし却下しようと思っとるんやけど」


 みどりはあまりこの名称に決まってほしくないのか、微妙な顔でかなでからの提案を伝えていると、もみじは首を傾げて目をぱちぱちとさせる。


「ケモミミって何?」

「え、あー、そのまんまの意味やよ。うちやったらタヌキやし、青藍やったら猫の耳。もみじは狐やし、桔梗は犬、みたいな獣の耳のことやな」

「獣の耳? 私たちは普通の耳だよ?」

「最初は単純に巫女やったんやけど、うちらにしかない特徴のことを考えたら獣になれることしか思いつかんでな? それで、ケモミミ巫女て話になったんや」

「へー、ケモミミかー。うーん、こんな感じ?」


 青藍はなんとなくイメージが出来たからかすぐに耳を頭の上にはやす。


「お、そうそうそんな感じや」

「青藍ちゃん可愛いわ! 撫でてもいいかしら?」

「え? いいけど……?」

「それじゃあ撫でるわね!」


 少し困惑した様子の青藍だったが、そこまで気にしなくていいと思ったのか頭を突き出す。かなでがそんな青藍の頭を嬉しそうに撫でていると、不満そうに頬を膨らませたもみじがかなでの胸に飛び込んでくる。


「あー! 青藍ちゃんだけずるい! 私も私も!」

「あー、特にお願いすることもなくかなでさんの願いが叶ったみたいやな」

「そうですね。かなでが嬉しそうでよかったです。撫でられている側も喜んでいるみたいですし」


 撫でているかなでも、撫でられてるもみじ達も嬉しそうにしているのを確認した静人は柔らかく微笑む。そんな静人の横でみどりはかなでを少し呆れたまなざしで見つめる。


「せやねぇ。かなでさんはホンマにケモミミが好きなんやねぇ」

「あはは、ケモミミも好きなんでしょうけど。かなでのことですし、いつもとは違う触れ合いができることを喜んでいる気がします」

「そうなん? ケモミミ好きってわけやないん?」


 静人の言葉が意外だったのかみどりは驚いた様子で静人の方に振り向く。


「別に嫌いってわけじゃないでしょうけどね。青藍ちゃんにはいつも抱き着いたりする機会がないですから、この機会にって感じでしょうか。二人に囲まれて随分と嬉しそうですし」

「そやね。って、名前の話覚えとるんやろか」


 静人はかなでの顔を見てあいまいに笑って首を横に振る。


「あー、あの顔は覚えていない顔ですね。まぁ、今日の所は案を聞いてもらえただけでも良かったと思うことにしましょう。みどりさんは混ざらないんですか? 昨日撫でるほうになら参戦しようかと言っていた気がしましたが」

「そやねぇ。もう、今日はこのまま話進まんで終わりそうやし行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃい」


 みどりは静人の言葉に笑って頷き、かなでともみじ達が戯れているところに向かって行く。その後ろ姿を見送った静人は食べ終えた食器を静かに片づけ始める。


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