上 下
81 / 92

81

しおりを挟む

「さっき食べたのって何のお魚なの?」

「シーチキンの原料はマグロとカツオらしいけど。とりあえずその二種類を調べてみようか。えっと、確かキハダマグロだったかな」

「キハダマグロ」


 青藍は教えてもらった名前を口に出して繰り返しながら、たどたどしい手つきでパソコンのキーボードをたたく。それを後ろから見ていた静人は出てきた画像を指さす。


「あ、これだね。このお魚だよ」

「おー、うん? 大きい?」

「あはは、そうだね。全長サイズで僕よりも大きいはずだよ。大きさには個体差があるからね。確か平均サイズだと青藍ちゃんよりも大きいんじゃないかな」

「身長測ったことないから分からない」


 指さす画像に写ったマグロの大きさに違和感を感じた青藍は首を傾げる。そのあとの静人の説明を聞いた青藍だったが、自分の身長の大きさが分からないからか首を横に振る。


「あとで測ってみるかい? ちなみにキハダマグロの平均は、約150センチメートルらしいね」

「ものづくりの時に必要になるかな?」

「そういえばそういうの一切考えずに作ってたね。でも、長さが分からないと他の人には伝えられないからね。分かる方がいいよ」

「だったらがんばる」

「大丈夫。結構簡単だよ」


 物作りのためと頑張る決意をした青藍に静人は優しく微笑む。それを見た青藍は、胸の前で拳を握り締めて頷く。


「うん、がんばる。カツオって言うのもでかいの?」

「そうだね。画像調べてみようか」


 静人が慣れた様子でキーボードで打ち込むと画像が表示される。


「さっきのよりは小さい気がする。でも、私の知ってるのよりは大きい?」

「そうだね。料理で使う魚は元々切られてるやつか、小さい味とかサバとかだしね。あと、サンマとかかな」

「美味しいのかな?」


 やはり美味しいかどうかが気になるのか首を傾げる青藍に、静人は少し考えこむそぶりを見せてから口を開く。


「僕もそこまで食べたことないけど、カツオのたたきとかは美味しかったよ」

「たたき?」

「まぁ、刺身にする前のカツオの塊の表面を炙って切るだけだけどね。今度作ろうか」

「楽しみにしとく」

「楽しみにしてて」


 新しい料理に目を輝かせる青藍は無表情ながらも楽しみにしているのが分かる。


「他にどんなお魚が海にはいるの?」

「そうだね、どうせだし、一番大きいのを見てみようか」

「大きいの? 天井くらい?」


 青藍は座りながら目線を上にあげて天井を見る。そんな青藍に静人は笑いながらパソコンを青藍に譲る。


「あはは、調べてみようか。えっと、海の魚で最大って調べてみて……。ほら、この魚が一番大きい魚だよ」

「ジンベエザメ? 最大個体の全長は18.8メートル? どのくらいなの?」


 大きさが想像できない青藍は首を傾げて静人に顔を向ける。静人もそれを予想していたのか腕を胸の前で組んで考える。


「うーんとね……、表現が難しいね。あ、この家の天井は大体3メートルだからこの高さが6個分だね」

「ほえー。想像ができない……」

「実物見るのが一番なんだけどね。あ、水族館の画像を見てみようか。多分それだけでも何となくわかると思うし」


 見せたほうが早いと考えた静人は『水族館、ジンベエザメ』で画像検索して大きさが分かりやすいものを探す。

 そんな静人の横で青藍は水族館という単語に目を瞬かせる。

「水族館? 何をするところなの?」

「魚とかを見る場所かな。海にいる魚って僕たちは見ることがなかなかできないだろう?」

「なるほどー? 食べたりしないの?」

「あはは、食べたりはしないかな。泳ぐ姿を見る場所だからね」


 青藍は水族館は魚を食べる場所でないと知ったからか残念そうに肩を落とす。


「食べないの? 美味しいのに」

「美味しいのはみんな分かってると思うよ? あ、これがジンベエザメだね。ここの水族館のは8メートルらしいから、最大のはこの魚がもう一匹いる大きさだね」

「手前にいるのは人だよね? おー、大きいね」


 画像検索が終わった静人が青藍に見えるようにパソコンを指さす。青藍は見せられた画像を興味津々な様子で見てから目をぱちぱちとさせて驚く。


「手前にいるのは人だね。やっぱり大きいね。まぁ、これは食べられる魚じゃないし食卓に並ぶことは無いかな? エイとかナマズとかを料理してもいいね。なかなか買う機会ないし」

「エイ? ナマズ? 調べてみる」

「ナマズは見たことあるかな? 他にもアンコウとか普通の魚っぽくない魚を調べてみようか。マンボウとかも面白いよ」

「エイ、ナマズ、アンコウ、マンボウ」


 青藍はパソコンとキーボードを交互にみながらゆっくりと打ち込む。忘れないようにぶつぶつと呟きながら打ち込む青藍を見ていた静人が口を開く。


「見つけたかい?」

「まずはエイ。おー、魚っぽくない。美味しいの?」

「あはは、味は淡白だけど美味しいよ。可食部も結構大きいから満足できるかもね」

「食べてみたい」

「そうだね。いろいろと必要になるけどみどりさんも巻き込めばいけるかな」


 ちゃんと冷凍したものを用意しないと臭うことを知っている静人はみどりに頼むことを決める。そんな静人の様子に気付いていない青藍は次の魚を調べる。


「次はナマズ。あ、おひげがある」

「特徴的な顔だよね。食べたことは無いけどナマズも味が淡白らしくて揚げ物が美味しいらしいよ」

「揚げ物。唐揚げ? おいしそう」

「これも機会があったら食べてみたいね。ちなみにこれは海の魚じゃなくて川とか湖とかにいる魚だね」


 海の魚ではなくて川の魚であることを思い出した静人は忠告を挟む。


「次はアンコウ。怖い顔。なんかプルプルしてるけど美味しいの?」

「アンコウは鍋とかで食べるのが美味しいらしいよ。これも食べたことないから食べてみたいね」

「食べる。美味しかったらいいな」

「結構有名だから美味しいと思うよ」


 食べたことがないものだからか歯切れが悪い様子の静人に、青藍はキョトンとした顔をした後最後の魚の名前を打ち込む。


「最後はマンボウ? 変な顔。体も変」

「ちなみに味はほとんどしないらしいよ。これも食べたことないかな。調べてみると食べられはするらしいけどね」

「味しないの? むー、だったらいいかな」


 味がしないと聞いた青藍はマンボウのことを諦めることにしたのか、残念そうにしながら首を横に振る。それからもしばらく魚や海にいる食べられる海産物を調べて1日が終わった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定 2024.6月下旬コミックス1巻刊行 2024.1月下旬4巻刊行 2023.12.19 コミカライズ連載スタート 2023.9月下旬三巻刊行 2023.3月30日二巻刊行 2022.11月30日一巻刊行 寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。 しかも誰も通らないところに。 あー詰んだ と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。 コメント欄を解放しました。 誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。 書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。 出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。 よろしくお願いいたします。

天使の報い

忍野木しか
ライト文芸
善行には幸福を、悪行には厄災を、人に平等をもたらす天使は、ひっそりと、人に紛れて暮している

【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。 遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら 自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に スカウトされて異世界召喚に応じる。 その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に 第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に かまい倒されながら癒し子任務をする話。 時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。 初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。 2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。

看取り人

織部
ライト文芸
 宗介は、末期癌患者が最後を迎える場所、ホスピスのベッドに横たわり、いずれ訪れるであろう最後の時が来るのを待っていた。 後悔はない。そして訪れる人もいない。そんな中、彼が唯一の心残りは心の底で今も疼く若かりし頃の思い出、そして最愛の人のこと。  そんな時、彼の元に1人の少年が訪れる。 「僕は、看取り人です。貴方と最後の時を過ごすために参りました」  これは看取り人と宗介の最後の数時間の語らいの話し

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

「さらら」~茶房物語~

NKS
ライト文芸
茶房「茶螺々(さらら)」。八十島駅前商店街にある古民家風のお店で、お茶を楽しみながらくつろぐ事を目的とし隠れ家的喫茶店。さららの店主榛名(はるな)と、そこに集まる客達の人間模様。様々なお茶のプチうんちくも盛りだくさん。心に一杯のお茶をいかがですか?

ドラッグジャック

葵田
ライト文芸
学校の裏サイトである噂が広まっていた。それは「欲しい薬を何でも手に入れてくれる」というもの。鈴華はその謎の人物と会う。だが、そこへ現れたのは超絶な美少年又は美少女。相手はコードネームを〝ユキ〟と名乗った。噂は本当だったが、ただし売る薬は合法のみ。そんな裏社会に生きるユキだが、自身も心に闇を抱えていた。果たしてユキたちの辿り着く道は――!?

ろくでなしでいいんです

桃青
ライト文芸
ニートの主人公が彼氏にプロポーズされ、どうやって引きこもりから抜け出すか、努力し、模索し始めます。家族と彼氏の狭い世界ながら、そこから自分なりの答えを導き出す物語。ささやかな話です。朝にアップロードします。

処理中です...