59 / 92
59
しおりを挟む調べ物をしていた青藍が匂いに誘われて現れる。
「お腹空いた……」
「青藍が来たのだ。調べ物はもういいのだ?」
「調べ物はまだ終わってないけど、この匂いの中するのは辛い」
「それは分かるのだ」
「今日はもみじちゃんとしず君が作るから私たちは待ってるだけなのよね」
「おねえちゃんは手伝わないの?」
料理を手伝わないでくつろいでいるかなでに青藍は不思議そうな顔で首を傾げる。
「しず君を手伝うのよりも今日は桔梗ちゃんとお話ししたかったからね。あ、お茶は急須に入ってるからね」
「熱いから気を付けるのだ」
「しばらく置いておけば大丈夫。この姿になってから猫舌になった気がする」
「そうなのだ? 猫の姿に引っ張られてるのかもしれんのだ。でも、わしは犬に引っ張られてる気がせんのだ」
「そう? 桔梗は見てて犬っぽいよ?」
「それはどういう意味なのだ?」
「桔梗ちゃんはかわいいってことね!」
「いや、それはどうなのだ?」
「それで考えるともみじは狐っぽいことってするのかな?」
「その前に狐っぽいところが分からないのだ」
「狐ってどんな印象かしら」
「うーん、あ、狐火?」
「確かに火を出せるのだ。そういえばわしには出せんし青藍も出せないのだ?」
「うん。でも、狐火って本当の狐は出せないよね?」
「それはそうね。あら、そう考えるとあんまり関係ないのかしら」
「私はこの姿になってから夜になってもよく見えるようになったよ。でもそのくらいかな。お昼寝は前もしてたからこの姿になってからってわけじゃないし」
「うーむ、わしは鼻が利くようになったくらいなのだ。あ、あと早く走れるようになって体力も多くなったのだ」
桔梗は自分の足の速さに自信があるからか胸を張って答える。かなではそんな桔梗に納得したように頷く。
「そういえばいろんなところに行くって言ってたわね。そういえば車に乗ってきたのよね。あれよりかも速く走れる?」
「さすがに無理と言いたいところなのだが……、たぶん行けるのだ。でも、さすがにその速度で走ったら体力が持たないのだ」
「早く走れるだけでもすごいわ。青藍ちゃんはそういうのは無いの?」
「うーん。試したことないからわからないけどもしかしたら前よりかも体は軽く感じるから少しは変わってるかも」
「あー、確かに普通に生活してたら人から逸脱した行動とらないわよね」
「うん。でも、なんとなくできるって実感というか予感はあるから多分普通にできる」
「そう考えるとやっぱり多少は影響されてるみたいなのだ。もみじは置いといてみどりのタヌキはどうなのだ?」
「さすがに私も会ったのがまだ数回だから分からないわね。タヌキの習性で言ったら大きな音が苦手とかかしら?」
「おー、確かみどりは大きな音が苦手だったのだ。大きな音が聞こえると体が硬直するって言ってたのだ」
「でも、まぁそれは人でも似たようなことは起こるから分からないわね。ちなみにいのししは調べてもあまりわからないのよね」
「うーん、それなら結局あんまりわからないね」
「まぁ、調べる必要もないしいいんじゃ?」
そんな会話をしてるかなで達に静人が不思議そうな顔で近づいてくる。
「何を調べる必要がないんだい?」
「お姉ちゃんたちなんのお話してるの?」
「あ、ご飯できたの?」
「うん。できたよ! えへへー、良い感じにできたと思う!」
「ホントだ。美味しそう」
「美味しそうなのだ。あ、それと調べる必要がないのはわしらの体が動物に引っ張られてる気がするという話のことなのだ」
「私は夜でも目がしっかり見えて、桔梗は鼻が利くみたいな話だったから他の人もそうなのかなって。でも、別に体に害があるみたいなことは聞かないし」
「なるほどね。たしかにみんな動物の特徴を持ってるね。体に害があるわけじゃないなら特に調べる必要ないのかな」
「うむ、この体になってから病気になったこともないのだ。怪我はしたことあるからその点は心配なのだ」
「え、怪我したことあるの?」
青藍は怪我したことがあるという話を聞いてことなかったからか驚いた様子で桔梗を見る。そんな青藍に対して少し恥ずかしそうに桔梗がその時の状況を伝える。
「うむ、夢中で走ってるときに目の前にあった木に気が付かなくて突進したことがあるのだ」
「なんでまたそんなことに」
「走れるのが楽しくて無我夢中で走ってたのだ」
「あ、なるほど。桔梗だからね」
何かに納得したのか頷く青藍にジト目で桔梗が見つめる。
「なんか馬鹿にされた気がするのだ」
「気のせい。その時の怪我って治ったの?」
「……まぁいいのだ。怪我は治ったのだ。正直そこまで大きな怪我ではなかったのだ。だから意外に早く治ったのだ」
「治りも早いのかな?」
「だからって怪我することはしないでね? 青藍ちゃん」
「分かってる。心配しなくても大丈夫だよ。おねえちゃん」
「ならいいけど。ってそのことはまた後にしましょ。せっかくのオムライスが冷めちゃうわ」
「そうだね。冷めたら美味しさが半減しちゃうから早く食べようか」
「食べる。お腹空いた」
「そうなのだ。わしもお腹空いたのだ」
「えへへー、自信作だから期待しててね!」
「うむ、期待してるのだ。というかいつも作るのも美味しいのだ」
「えへへーありがとう。あ、ケチャップも作ってみたんだよ!」
「ケチャップって作れるの!? いつも市販の物を使ってるのに」
「あはは、調べてみたら意外に作れそうだったからね。もみじちゃんと一緒に作ってみたんだ」
「ほえー、作れるものなのね。あ、おいしい」
感心した様子で出来上がったケチャップを救うかなではおもむろに口に運ぶ。市販のとはまた違う味わいだがそれでもおいしく感じたかなでが美味しと告げると静人ともみじはほっと胸をなでおろす。
「それならよかった。それじゃあケチャップじゃなくてオムライスを食べようか。いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
「おいしい。久しぶりに食べた気がする」
「そうなのだ? わしは食べた覚えがないのだ」
「桔梗がいないときに食べたから当然。そういえば焼き芋も一緒に食べてなかった気がする」
「ハッ……! そうなのだ。わしだけこの中で焼き芋を食べてないのだ」
「そうだったかな? それだったらお泊り会が終わって、あっちに戻った後にあっちで作ろうか」
「むむ、こっちでは作らないのだ?」
「いろいろとめんどくさいことになるかもしれないし。出来ればもみじちゃん達のときみたいに外で作りたいからね。こっちだと煙が見えると騒ぎになるかもしれないから」
「そうなのだ? それならしょうがないのだ。あっちに行った時の楽しみに取っておくのだ」
「そうなんだ。楽しみにしててね」
「うむ、なのだ」
オムライスを食べながら焼き芋をみんなで出来るのが嬉しいのか桔梗は笑顔で頷く。そんな桔梗を優しい表情で見守りつつみんなで食事を楽しんだ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。
トロ猫
ファンタジー
2024.7月下旬5巻刊行予定
2024.6月下旬コミックス1巻刊行
2024.1月下旬4巻刊行
2023.12.19 コミカライズ連載スタート
2023.9月下旬三巻刊行
2023.3月30日二巻刊行
2022.11月30日一巻刊行
寺崎美里亜は転生するが、5ヶ月で教会の前に捨てられる。
しかも誰も通らないところに。
あー詰んだ
と思っていたら後に宿屋を営む夫婦に拾われ大好きなお菓子や食べ物のために奮闘する話。
コメント欄を解放しました。
誤字脱字のコメントも受け付けておりますが、必要箇所の修正後コメントは非表示とさせていただきます。また、ストーリーや今後の展開に迫る質問等は返信を控えさせていただきます。
書籍の誤字脱字につきましては近況ボードの『書籍の誤字脱字はここに』にてお願いいたします。
出版社との規約に触れる質問等も基本お答えできない内容が多いですので、ノーコメントまたは非表示にさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
フレンドコード▼陰キャなゲーマーだけど、リア充したい
さくら/黒桜
ライト文芸
高校デビューしたら趣味のあう友人を作りたい。ところが新型ウイルス騒ぎで新生活をぶち壊しにされた、拗らせ陰キャのゲームオタク・圭太。
念願かなってゲーム友だちはできたものの、通学電車でしか会わず、名前もクラスも知らない。
なぜかクラスで一番の人気者・滝沢が絡んできたり、取り巻きにねたまれたり、ネッ友の女子に気に入られたり。この世界は理不尽だらけ。
乗り切るために必要なのは――本物の「フレンド」。
令和のマスク社会で生きる高校生たちの、フィルターがかった友情と恋。
※別サイトにある同タイトル作とは展開が異なる改稿版です。
※恋愛話は異性愛・同性愛ごちゃまぜ。青春ラブコメ風味。
※表紙をまんが同人誌版に変更しました。ついでにタイトルも同人誌とあわせました!
~喫茶ポポの日常~
yu-kie
ライト文芸
祖父の残した喫茶店を継いだ孫の美奈。喫茶ポポは祖父の友人が所有する土地と店舗を借りている。その息子はボディーガードを職業にし、ひょんな事から喫茶店の空き部屋に住みはじめたのでした。
春樹の存在がトラブルを引き寄せてしまうが…基本ほのぼの?物語。
一旦完結とします。番外編書けたらと考え中です。
Trigger
猫蕎麦
ライト文芸
表題作Triggerを先頭に、ちょっとした短編を書いていきます。
(※英語版は素人のもので大量に間違いがあると思われますがご了承ください。それと、日本語版と英語版では少し表現が変わってます。しかし基本は英語を訳しているので、日本語だと不自然な表現が多いです。ご了承ください。)
ーTriggerー
ちょっとヤバい能力を持つ少年のある朝のお話。
英語版と日本語版あります。
ーPlan Aー
病室で目覚めた主人公ジェレットは一切の記憶を失っていた……!
英語版(途中まで)と日本語版あります。
─Contrail─
いつもの朝。スクールバスが崖から転落し、ニーナだけが生き残った。だが落ちた先は、血塗られた家だった。
伏線もあるので、じっくり読んでみるとより面白いかもです!感想やアドバイスください。
闇のなかのジプシー
関谷俊博
児童書・童話
柊は人形みたいな子だった。
喋らない。表情がない。感情を出さない。こういう子を無口系というらしいが、柊のそれは徹底したもので、笑顔はおろか頬をピクリと動かすのさえ見たことがない。そんな柊とペアを組むことになったのだから、僕は困惑した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる