32 / 92
32
しおりを挟むみどりと出会ってから少し経ったある日遊び道具を買って持っていってみた。トランプやリバーシ、将棋やチェスなども持っていきいつものようにご飯を食べてから並べてみる。もみじ達は初めて見るものに興味津々ではあるようだが壊してしまうのが怖いのか遠目で見るだけで触れようとはしない。
「お兄さんこれなぁに?」
「これはみんなで遊べるように持ってきたんだ。トランプでの遊び方としてはババ抜きが有名だからそれをしてみようか」
「ばばぬき? ババってなぁに?」
「えっと、まず最初に遊び方を教えるね。そしたらババの意味も分かると思うから」
「そうなの? 分かった」
もみじ達に見えるようにトランプを広げて見せて一枚ずつ読み方と遊び方を教えていく。もみじは数字もちゃんと知っていたらしく、トランプのマークを教えるだけで済んだ。ババ抜きは単純なゲームだったからかもみじ達もすぐに覚えることが出来て、もみじもババの意味が分かったからか、うんうん頷きながらババ(ジョーカー)を手にもってジョーカーとにらめっこしている。
「そんなに見つめてどうしたの?」
「うーん? なんか見たことあるような姿だなぁって」
「え!? 見たことあるの!?」
「うん。表情はどっちかというと優しいおじいちゃんって感じだったけど……。こんなに怖い仮面付けてなかったよ?」
「鎌は持ってた?」
「持ってた! 何に使うの? って聞いたら草刈り用の鎌だって言ってたよ? 大きいねって言ったら何も言わないで微笑んでたけど……」
「そ、そう……」
何も言わずにいたのはもみじの態度に和んだからか、もしくはこれ以上の質問は許さないという意味で微笑んだのか。見たことのないもみじ以外の者たちには判断がつかなかった。
「青藍もあったことがあるのだ? わしは会ったことがないのだが」
「えっと、私もない。多分もみじちゃんだけだと思う」
「ちなみにやけどうちもあったことないで? というかあったことがあるって言ったのはもみじちゃんだけやし」
「もみじちゃんはどこで会ったの?」
「えっとね、ここの森の奥に行ったときに見たの! 迷子になっちゃってどうしようって思ってたら家を見つけて、そこにそのおじいさんがいたの」
「見つけた後どうしたのだ?」
「おじいちゃんがしゃがんで草むしりしてたんだけど、腰を痛そうにさすってたから心配になって声をかけたの」
もみじの言葉にどういう表情をすればいいのか分からないといった様子で目を瞑り考え込む静人だったが、他の者たちは興味津々な様子で話の続きを待つ。
「うんうん、それで?」
「おじいちゃんは私の顔を見て少し戸惑ってる感じだったよ。そのあとにいろいろお話してたら家の場所を教えてもらえて、だからお礼に草むしりをして家に帰ったの。それからもう一回おじいちゃんの所にお礼をしに行こうと思って行ったんだけど辿り着けなくて、それからは行ってないよ」
「なるほどね。あんまり無茶なことはしちゃだめよ? そのおじいちゃんがいい人……だったから良かったけどそうじゃなかったら大変なことになってたのよ?」
「ここの世界にいる時点で人かどうかは怪しいけどな。まぁ、これからはそんな危ないことはせんようにな?」
「うん!」
「静人さんはさっきからだんまりやけどどないしたん?」
「いや、なんというか……。僕もここに来たのは迷子になってもみじちゃんと出会ったからだしね。その時に知らない人とは話せませんって言われてたら生きて戻れてたか分からないから……」
「あー……、なるほどなぁ。まぁ、とはいえ危ないことには変わりないんやし。注意位はしてもええんやないかなとは思うけど」
「まぁ、そうだね。危ないことはしないようにねもみじちゃん。あとあの時はありがとう」
「分かった! お兄さんももう迷子になったらだめだよ? えへへ」
「あはは、そうだね。もう迷子にならないように気を付けるね」
「うん! あ、もうそろそろトランプで遊ぼう!」
「そうだね。あとはしてみながら覚えようか。最初の何回かは僕が教えながらやるから分からないことがあったら聞いてね」
「分かった。でも多分大丈夫」
「わしも大丈夫だと思うのだ。……多分」
「桔梗は無理せんで聞いといたほうがええと思うで?」
「なんでなのだ。さすがにこのくらいなら覚えられるのだ」
「私はよく分かんないから聞くね!」
「遠慮なく聞いてね」
覚えるのはトランプのマークだけだったためしっかり覚えていたらしく特に何事もないまま最後まで終わる。とはいえポーカーフェイスができないからか桔梗が基本最後まで残っていた。
「あはー、また桔梗が最後やね」
「なぜなのだ! 納得いかないのだ!」
「鏡見ればわかると思うんやけど……、まぁおもろいからええわ」
「なんなのだ? 鏡を見てもわしの顔が見えるだけなのだ?」
「あはー、せやな。次ババ抜きするときは自分の顔がどんな顔をしてるのか意識してみればええと思うよ」
「う、うむ。分かったのだ」
ニヤニヤした表情のみどりの言葉に納得していない様子だった桔梗だが、周りの反応から何か察したのか特に反論もせずに素直に頷く。
「じゃあもう一回する? 今度はお兄さんも一緒にしよう!」
「そうだね。ババ抜きは大丈夫そうだから僕もしようかな」
「そんならうちは一旦休もうか。人数増えるとすぐ終わってまうし疲れたさかい」
「そうかい? それならお茶でも入れとけばよかったね」
「お茶ぐらいなら自分でも淹れれるさかい任せてといてや」
「一応キャンプ道具しかないけど大丈夫かい?」
「あー、そう言われればそうやな。先にトランプやなくてこっち先に準備した方がよかったんやない?」
「なんだかんだでそこまで不便に思わなかったからね。ちょっと量を多く作れなかったり食材を切るときの場所が無かったりするけど」
「それは十分不便やろ。こんな感じの道具はうちでも扱ってるし今度持ってくるわ。ガスはここの野菜と相殺でよかったんよね?」
静人の説明に呆れた目をしつつため息を吐くみどりだったが、静人はそこまで不便に思ってないのか苦笑するだけだった。そんな二人の会話を見ていた桔梗はみどりの言葉を思い出した。
「そういえば、みどりが言っておった力が強い女はいつ紹介してくれるのだ?」
「今度連れてくるさかい。あ、静人さんらがいる時のほうがええよね?」
「うーん。僕達と一緒にいる時間よりももみじちゃん達のほうが長くいることになるんだし、僕たちのことは気にしなくていいんだよ?」
「そういう訳にもいかぬのだ。わしらからすれば静人達のほうが長く共に過ごした者なのだから、そっちを優先するのは当たり前なのだ」
「桔梗の言うとおり。初めましての人より少しでも長く一緒にいた人たちの方を優先するのは当たり前。私たちより先にいなくなってしまうのは分かっているけど、それだけの理由でおにいさん達に嫌な思いをしてほしくない」
「うん。先にいなくなるのは分かってるけど、だからこそ楽しい気持ちで別れたいって思うから」
「青藍ちゃん、桔梗ちゃん、もみじちゃん……。ありがとう」
「気にしなくていい。私はみんなで一緒に食べるご飯が好きなだけだから」
「あはは、そうか。うん、みんなで一緒に食べるご飯はおいしいからね」
「えへへ、最初に食べたハンバーグはおいしくて涙が出たもんね!」
「うん。美味しかった。今は一人でご飯食べるよりもみんなでご飯食べることが多くなった。正直家に戻るのめんどくさい」
もみじの言葉に頷く青藍は後半の言葉の後にため息をついた。そんな青藍をみどりが不思議そうな顔で見る。
「なんや、いちいち戻っとるん? この世界だとあんまり分かれても意味ないんやし。こっちに引っ越したらどない?」
「まぁ、正直そこまであそこに未練ないから良いけど。荷物持ってくるのに時間かかる」
「それは三人いるんやし大丈夫やろ。そこまで大きな場所やないならすぐ終わる」
「もちろんみどりも手伝うのだ?」
「え、いやええけど。そんなに持ってくるものあるん?」
「大量の本が……」
「やっぱりうち忙しいから手伝えへんかもなぁ」
桔梗の提案にキョトンとした顔で答えたみどりだったが、桔梗の顔と言葉である程度察したのかすぐに手のひらを返す。
「手伝うのだ?」
「わ、分かった。分かったさかいそんな目で見るのやめて」
そんなみどりの肩に手を置いた桔梗がジト目でゆっくりと顔を近づける。みどりは逃げようとしたががっちりとつかまれて逃げられずに慌てて了承していた。
「うむ。助かるのだ。本当に助かるのだ」
「桔梗が言うほど多くない。正直、持ってきても見るようなものは少ないからあっちに保管しててもいいと思う」
「あー、でもさすがに野晒しで保管はあかんやろ? いっそのことうちが預かろか?」
「む、確かにその方がいいかも。よろしくおねがいします」
「分かった。それやったらあとで行くわ。いつ頃がええ?」
「今からでも大丈夫?」
「別にええよ。むしろその方が助かるわ」
「じゃあ。今から行く」
「それだったら今日の所はこれで解散しようか」
「えー! まだお兄さんとトランプしてないよ!」
みどりと青藍の話がまとまったのを見ていた静人の提案にもみじの不満げな声が上がる。それを聞いた静人は頬をかきながらも帰り支度の手をとめる。
「うーん、それじゃあ一回だけしようかな」
「私だけ仲間外れ?」
「あ、仲間外れはダメだよね。うー、お兄さん、明日もトランプしてもいい?」
「もちろん。このトランプはもみじちゃん達にプレゼントしたものだから自由にしていいんだよ」
「そうなの!? ありがとうお兄さん!」
「ついでにババ抜き以外の遊び方が書いてある本も買ってきたさかいそれもよんでな。結構いろんな遊び方ができるんやで」
「ありがとうみどりちゃん! 覚えたら一緒に遊ぼうね!」
「うちもそこまで詳しくないから遊ぶときは教えてな?」
「うん! 任せて!」
「それじゃあ、僕たちは帰るね。また明日」
「明日も来るから明日も一緒に遊びましょうね」
「うん。お姉さんも一緒! また明日!」
結局青藍の寂しそうな顔を見たもみじが我慢したことで遊ぶのはまた次回となったのだった。二人が帰るのを見送った後すぐに青藍とみどりは行動して、二人よりかは多いほうがいいともみじと桔梗もついていくことにした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
潮騒の前奏曲(プレリュード)
岡本海堡
ライト文芸
ピアノコンクールで敗退した波間響は失意から音楽が聴こえなくなってしまう。体調を崩し病院に搬送された響は目覚めた夜、院内の音楽室でチェロを弾く少女、潮崎美海と出会う。聴こえないはずの音楽なのにチェロの音色が聴こえたことから少女に興味を持ちお見舞いにいくことにする。海の見える公園で再会すると、少女は水平線を見つめながらこう響に尋ねた。「ジャクリーヌ・デュ・プレって知ってる?」。 夭逝した天才チェリストに憧れた少女もデュ・プレと同じ多発性硬化症に侵され入院していた。彼女の最期の願い事とは?
潮騒の聴こえる街、横須賀で繰り広げられる、音楽に人生を捧げた少年と少女の青春物語。
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
~喫茶ポポの日常~
yu-kie
ライト文芸
祖父の残した喫茶店を継いだ孫の美奈。喫茶ポポは祖父の友人が所有する土地と店舗を借りている。その息子はボディーガードを職業にし、ひょんな事から喫茶店の空き部屋に住みはじめたのでした。
春樹の存在がトラブルを引き寄せてしまうが…基本ほのぼの?物語。
一旦完結とします。番外編書けたらと考え中です。
ソロキャンパー俺、今日もS級ダンジョンでのんびり配信。〜地上がパニックになってることを、俺だけが知らない〜
相上和音
ファンタジー
ダンジョン。
そこは常に死と隣り合わせの過酷な世界。
強力な魔物が跋扈し、地形、植物、環境、その全てが侵入者を排除しようと襲いかかってくる。
ひとたび足を踏み入れたなら、命の保証はどこにもない。
肉体より先に精神が壊れ、仮に命が無事でも五体満足でいられる者は、ほんのごく少数だ。
ーーそのはずなのだが。
「今日も一日、元気にソロキャンプしていきたいと思いま〜す」
前人未到のS級ダンジョン深部で、のんびりソロキャンプ配信をする男がいる。
男の名はジロー。
「え、待って。S級ダンジョンで四十階層突破したの、世界初じゃない?」
「学会発表クラスの情報がサラッと出てきやがった。これだからこの人の配信はやめられない」
「なんでこの人、いつも一方的に配信するだけでコメント見ないの!?」
「え? 三ツ首を狩ったってこと? ソロで? A級パーティでも、出くわしたら即撤退のバケモンなのに……」
「なんなんこの人」
ジローが配信をするたびに、世界中が大慌て。
なのになぜか本人にはその自覚がないようで……。
彼は一体何者なのか?
世界中の有力ギルドが、彼を仲間に引き入れようと躍起になっているが、その争奪戦の行方は……。
闇のなかのジプシー
関谷俊博
児童書・童話
柊は人形みたいな子だった。
喋らない。表情がない。感情を出さない。こういう子を無口系というらしいが、柊のそれは徹底したもので、笑顔はおろか頬をピクリと動かすのさえ見たことがない。そんな柊とペアを組むことになったのだから、僕は困惑した。
ドラッグジャック
葵田
ライト文芸
学校の裏サイトである噂が広まっていた。それは「欲しい薬を何でも手に入れてくれる」というもの。鈴華はその謎の人物と会う。だが、そこへ現れたのは超絶な美少年又は美少女。相手はコードネームを〝ユキ〟と名乗った。噂は本当だったが、ただし売る薬は合法のみ。そんな裏社会に生きるユキだが、自身も心に闇を抱えていた。果たしてユキたちの辿り着く道は――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる