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 静人が車の助手席にかなでを乗せて着いたときには二人の姿が見える。車の特徴を伝えていたからか二人も静人達に気づいたらしく手をあげながら向かってくる。



「お、来たか! 悪いな運転頼んで」

「いえ、大丈夫ですよ。運転は好きですし、いつも運転するのは僕なので慣れてますから」



 二人を車に乗せて運転しながら談笑する静人とグラに不思議そうな顔をしたかなでも加わる。



「だって、私が運転するとなぜか皆が顔を引きつらせるんだもの」

「なんでも何も……、歩道に寄せるときに電柱にぶつかるんじゃないかってぐらい寄せるからですよ。あれホントに怖いんですからね?」

「あはは……、ぶつからないギリギリで走らせることが出来ているのは運転が上手い証拠だと思うんだけどね。なんでか怖いんだよね」

「もう、しず君は何回も乗ってるんだから慣れてよ」

「私は免許証持ってるから大丈夫。かなでちゃんに運転させるなら自分でやる。前乗ったときにそう決めた」

「あれ、俺だけかよ。免許持ってないの……」

「店長は取らなくてもいいですよ。むしろ取らないでください」

「なんでさ……」



 自分だけ持っていないということに疎外感を覚えたグラの免許を取ろうかという考えにタイミングを被せるように凪が否定する。そんな凪に口を尖らせ目と口でグラが抗議する。そんな二人に顔を前だけに固定して運転している静人がからかうような口調で口をはさむ。



「運転は私に任せてくださいってことでしょう。良かったですね」

「いや、絶対違うだろ。なんか別のこと考えてるだろ。しかも失礼な感じのこと」

「別に免許取ったら遠くにいる人に迷惑かけそうだな、なんて思ってませんよ?」

「いや、それもう思ってますって言ってるようなもんじゃん……」

「ま、いいじゃないですか。店長が行きたいところには私が連れて行ってあげますって。今日は静人さんにお願いしましたが」

「私にお願いしてくれてもいいのよ?」

「……。私が運転しますので」

「ぶーぶー」



 かなでは自分も運転したいのか自分のことを売り込んできたが、何かを思い出し体を一瞬震わせた凪によって却下されていた。納得いかないのかかなでは抗議していたがすぐに飽きたのか別の話に切り替わっていく。



「そういえば何だけどわたぬき商会のトップの顔写真って見つけれた? ネットを探し回ったんだけど見つからなくて」

「あー、俺たちも探したけど見つからなかったよ。普通はありそうなもんだけどな。代表代理の顔写真はあったけどな。なんかうちのトップは恥ずかしがり屋なので写真は嫌がるんですよって言ってる記事ならあったぜ?」

「うーん。それってもしかして……」

「わたぬき商会ってここで合ってるかな?」



 グラの話を聞いたかなでが何か言おうと口を開いたタイミングでわたぬき商会に着いた。場所がここであっているのか分からない静人は首を傾げつつグラのほうを見る。グラが静人の言葉に頷くのを見て駐車場に車をとめるとみんなで外に出る。



「やっぱ寒いな外は……!」

「まだ冬ですからね。そういえば店長はここに何を買いに来たんですか?」

「まだ決めてねえけど。酒とか?」



 店内を歩きながら買うものを決めていないと言って考えこむグラだったが、家の酒を切らしていたことを思い出し思わずといった様子で口に出す。酒と聞いて凪は昔のことを思い出したのかグラをにらみつける。



「もしかしてまたお酒とつまみだけの生活とか送ってないですよね?」

「お、送ってないぜ? ちゃんと規則正しく野菜を多めに……」

「ならいいですけど。今度家にお邪魔しますからね」

「お、おう。……野菜買っとかなきゃ」

「かなでちゃんたちも同じ感じ?」



 グラは凪の視線に口を少し震わせながら動揺を隠すように早口でまくし立てる。目を合わせずうなだれるグラから凪はかなでに視線を変える。



「同じかな。これから先はここの食材でもみじちゃん達に食べさせてあげたいから。もしも質が悪いようだったら変えるけど」

「結構評判良いみたいですし大丈夫だと思いますけどね」

「だと良いけどね。凪さんは何を買うの?」

「私はいろいろと見てから考えます。正直今欲しいって思ってるものないですし。晩御飯もまだ決まってないですから」

「まぁ、そうだよな。子供がいるわけでもないし。でもどうせなら桔梗たちに何か買っていこうと思ってるんだけどどうよ?」

「何を買うつもりですか? 一応僕たちは遊び道具を買おうかなと思ってるんですけど」

「いや、決めてなかったけど。遊び道具か……。トランプとかか?」

「そうですね。あとは料理の本とかですかね」

「チェス、将棋、リバーシ……。あと麻雀とかか? 小説とかも買っておくか?」

「麻雀は難しそうだけど。全部買おうか。小説でいいのって何かあったかな?」

「文字も覚えなきゃだし、最初は絵本でいいんじゃないかしら?」

「あれ、桔梗たちって文字読めないのか?」

「そういえば話してなかったですね。桔梗ちゃんと青藍ちゃんは大体読めるけどもみじちゃんは読めないらしいです。でもこの前話したときにはある程度読めるようになってましたからすぐに漢字も読めるようになりそうですけどね」

「それこそ料理の本とかでも読み仮名がふってあれば読めるみたいだし、言葉の意味さえ覚えればすぐに読めるようになるんじゃないかな。読み方が分からなくても物語の雰囲気で意味を理解することもあるし。一番いいのは分からない言葉を辞書で調べることなんだろうけどね」

「うがー、そんなめんどくさいことしてるやついるのかよ?」

「僕の中学の同級生がそんな感じだったね。マンガ一冊読むのに一週間近くかかってたよ。勉強もできる子だったから、勉強の合間に読んでて時間かかったんだろうけど」

「あー、子供のころは勉強嫌いでマンガを読む合間に勉強してたからなー。借りたその日のうちに返してたわ」

「私もテスト前に詰め込むタイプでしたから好きな本ばかり読んでましたね」

「まぁ、調べながら読んでたのはその子ぐらいだったから……。そっちの方が普通なんじゃないかな?」

「私も調べてまでは読んでなかったかも。というか調べるほど難しい言葉とかあったかな」

「子供のころだと間違えたまま覚えてる単語とかあるからなんとも。あ、食品コーナーはここらしいね」



 かなでの疑問にあいまいに答えつつ食品コーナーを目指して進んでいた静人達は、お目当てのコーナーが見つかったからか話を一旦中断して散策し始める。四人で野菜や肉を見ながらいくつか手に取りかごに入れて進んでいると魚が目に入った。



「お、そういえばお魚料理はあんまり作ってなかったかも!」

「確かに魚料理は作ってなかったね。お鍋につみれとかシンプルに焼き魚とかでもいいけど」

「焼き魚は骨があるからねー。うーん、最初は骨がないものを食べてもらって味だけ試してもらう? 無理して食べてもらうようなもんじゃないし」

「普通だったら頑張って食べてもらうんだけど、もみじちゃん達の場合は違うからね」



 静人とかなでの話を聞いていて不思議に思ったのかグラが目を向けて話しかける。



「あー、やっぱりいろいろ違うのか?」

「うん……、食べなくても生きていけるくらいには違うかな。でも、おいしいって思えるらしいし、笑顔で食べてくれるからこれからも用意するつもりだけどね」

「そうよね。笑顔で食べてくれるし。かわいいし、いい子だし、かわいいし」

「なぜかわいいを二回言ったの……? いやかわいいのは分かりましたけど」

「かわいいからしょうがないわよね!」

「頼むからさらったりしないでね?」

「しないわよ! でも、出来れば写真とかは一緒に写りたいわよね」

「そういえば写真はダメなんだっけ?」

「写真は怖いらしいのよね。多分昔話とかでそういう話を聞いたんでしょうけど」

「あー、誰がその話を教えたんだろうな?」

「さぁ? あ、それでさっきは言えなかったけど、ここのトップも同じなのかもって思ってるのよね」

「あー、恥ずかしがり屋じゃなくて怖いから写真に写らないってことか? いやさすがにそれは……」

「ちゃうちゃう、そういうわけやないで? ただ、顔写したくないだけや」

「ほら、この人もこういって……、え、誰?」



 いきなり会話に混ざってきたたれ目の女性に不思議そうな顔で問いかけるグラに、ゆったりとした動きで答える。



「あなたたちが話題にしてたここのトップやよ。桔梗ちゃんは元気?」

「えっと、それを証明とかって出来ますか?」

「証明はでけへんな。うーん。まぁ、桔梗ん所に遊び行くからそん時にでも話しまひょか」

「あー、それじゃあその時に。大体毎日夕方にお邪魔してますので」

「そやの? ほな今日にでも行こかな? 楽しみにしときます。あ、うちの名前はみどりです。よろしく」

「よろしくお願いします。僕の名前は静人です」

「私はかなでです」

「俺の名前はグラだ……です。よろしく、です」

「店長慣れない言葉使おうとするから変な言葉になってますよ。私の名前は凪です、よろしくお願いします」

「うるせえ」

「静人、かなで、グラ、凪。うん覚えたで。それじゃあまた今日の夜な」



 一人ひとり顔を見て名前を覚えるように繰り返したみどりは少しして覚えたのか軽く頷き、最後にまた全員に手を振って立ち去っていった。



「まさかほんとに出会えるとは」

「しず君の勘はやっぱり当たるんだね。でも、なんで話しかけに来たんだろう?」

「分からねえけど、まぁいいじゃねえか。土産話ができたってことで」

「そうだね。喜んでくれるといいけど、あ、今日は魚でいいよね?」

「いきなり話が飛んでびっくりしたけどいいよ。青藍ちゃんとか喜んでくれないかな」

「焼き魚だと骨が嫌だって言いそうだけど」

「出来る限り骨が取りやすいものを買うしかないわね。今の時期って何があったかしら」

「鮭とか? ぎりぎりサンマとか?」

「売ってるかしら? 売ってるわね……」

「売ってるんだね。ここで買っていこうか。時期的にもホントギリギリな気がするんだけど。サンマにしようか」

「美味しいのよね。骨は一緒に取りましょう。私が」

「あ、うん。教えてあげた方が食べやすいからね」

「骨ごと食べたりするんじゃねえの?」

「その可能性もあるわね。まぁ、それならそれで手間がかからなくて助かるわ」

「それじゃあ、今日は帰ろうか」

「おう!」

「買うものは買い終わったし出来れば会いたかった人にも会えたしね」

「……そういえばみどりさんってもみじちゃん達と違って普通に大人の姿だったですね」

「言われてみれば確かに。そこら辺の理由も聞いてみようか」



 言われて思い出したのか自分たちと身長の変わらない姿だったみどりに疑問を覚えた静人だったが、そのことについても今日の夜に聞こうと思いなおし帰る準備を始めた。他のメンバーも特に買うものがないからか頷きついていく。



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