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しおりを挟むサンドイッチを食べ終えた子供たちはワクワクした顔で後片付けを始める。青藍に静人が言った言葉をみんなに伝えていたからか期待のまなざしで静人のほうを見る。
「片付けが終わったら洋服を着てきたらどうだい? ちょっと準備がしたいから」
「準備? 分かった! 凪お姉ちゃん洋服着たい!」
「あら! それじゃあみんなで一緒に着替えましょうか。家の中に入っても大丈夫かな?」
「大丈夫! この前掃除したから」
「そう? それじゃあみんなでおめかししましょうか」
「そんなことより食べ物……」
「着替え終わったころには準備終わってると思うから」
「むむ、分かったパッと着替えてくる」
「そんなに急がなくていいからね」
静人は洋服に興味がなくすぐに帰ってきそうな青藍の様子に苦笑しながらすぐに準備に取り掛かる。ケーキを取り出してテーブルの真ん中に置き箱で隠して周りに取り皿を用意する。急いで準備をしたからかコップにジュースをいれる時間すらあった。少し待つと洋服を着たもみじ達が現れる。青藍は少し恥ずかしいのか桔梗の裏に隠れながら歩いてくる。
「青藍、かわいいのだから自信を持って前に出るのだ」
「やだ、恥ずかしい。食べ物につられて着たけど後悔してる」
「えー? かわいいよ? あ、私の服どう?」
「かわいいと思うよ。他の服を見たことないからわからないけど」
「自信作だから気に入ってくれると嬉しいんだけど」
「わしは気に入ったのだ。動きやすいし、寒くないのだ」
「おかしい、私は少し寒い。動きやすいけど」
「すかーとだからね、しょうがない」
自信作の洋服を着てもらえてうれしいのか大人三人組はガッツポーズして目に焼き付けるように凝視していた。子供三人はその視線に気付いていないのか三人で盛り上がっている。
「ほら、みんな座って。お待ちかねのデザートだよ」
「でざぁと?」
「甘いお菓子のことだよ」
「甘いの!? 食べる食べる!」
「それじゃあ、開けてごらん」
「うん! 青藍ちゃんも桔梗お姉ちゃんも一緒に開けようよ!」
もみじに急かされた二人は一緒に白い箱を開けると中にはフルーツで彩り鮮やかに飾られたケーキだった。初めて見るケーキを見て目を輝かせる子供三人組は早く食べたいのか目線で静人に訴える。
「はは、分かってるよ。今から切り分けるからちょっと待ってて」
「はやくはやく」
「青藍ちゃん急かしたらダメだよ」
「どんな味なのか楽しみなのだ!」
「でも綺麗だから切り分けちゃうの勿体ない気がする……」
「切り分けないと食べれないよ? もみじちゃんの分は私が食べる?」
「だ、ダメだよ! 私も食べる!」
「あはは、切り分けるから椅子で待っててね?」
「「はーい」」
「うむ」
子供三人の元気な返事を聞きながらケーキを切り分けていく。子供の分は少しだけ大きめに切り分けて渡す。中にもたくさんのフルーツが入ってるのを見てさらに目を輝かせる子供たちはしばらく観察した後思い出したように食べ始める。
「あまい! おいしい!」
「確かに甘いのだ。でも、口の中が甘ったるくならないちょうどいい感じなのだ」
「ホント? よかった。甘さはみんなちょうどいいかな?」
「うん! おいしい!」
「甘いの食べたの初めてだからわかんない」
「あ、そっか。おいしい?」
「うん。おいひい」
「ならよかった」
静人は口いっぱいにケーキを頬張りながら話し出す青藍に安心したように頷く。美味しいと言われて嬉しいのか思わず口角が上がる静人はケーキをもう1ホール机の上に出す。
「わぁ! まだあるの!?」
「そのケーキとはまた違う味だから楽しみにしててね」
「たのしみ。甘い?」
「あー、どうだろう。ぼくたちからすれば甘いけど、さっきのよりかは甘くないかも」
「そうなの?」
「おー、真っ黒だ! 粉がかかってる?」
「これはチョコレートケーキって言う食べ物だよ。甘さ控えめで作ったからさっきのよりかは甘くないからね」
再度注意しながらケーキを切り分けて先ほどと同じように配っていく。切り分けられたケーキを目の前に出されたもみじ達はワクワクした眼でフォークをケーキに通して食べ始める。
「うむ、さっきのよりはこっちのほうが美味しいのだ」
「私はさっきのケーキのほうかな」
「私はどっちも好き!」
桔梗は甘さ控えめ、青藍は甘いほうが好きみたいだ。もみじはどっちも同じくらい好きだからか両方とも美味しそうに食べている。
「他にも種類はたくさんあるからまた持ってくるね。ケーキは特別な日に食べるものだから少し日は開けようかな」
「うむ、たしかに手が込んでるようだしの。ケーキの作り方とかは教えてもらえるのだ?」
「教えてもここだと材料がないよ?」
「材料は確かにどうしようもないのだ。昔の知り合いに頼んでもよいが取引材料がないのだ」
「昔の知り合い?」
「うむ、みどりという名前なのだ」
「……町で働いているのかい?」
「うむ、そこそこ大きい商会だったと思うのだ」
「名前は分かるか?」
「わたぬきなのだ。わたぬき商会という名前だったはずなのだ。もしかしたら今は変わってるかもしれないのだ」
「わたぬき商会? 聞いたことねぇな……。名前が変わってるのかもな」
「うむ、多分変わっておるのだ」
「今度調べてみるか。調べたら案外出るかもしれないしな」
「ありがとうなのだ」
「そこに頼めば食材頼めるの?」
「うむ、頼めるはずなのだ。でも、取引材料があればなのだ」
「お金かな……。ここから何か渡せるものってあるかな」
「何が需要あるのか分からんのだ」
「そういえば、ここって季節はどんな感じなの?」
「外とは違うのだ。基本的にはわしだったりもみじだったりが管理しているのだ」
最初こそ普通に話していた静人だったが、この場所の話になってから急にこそこそと小声で話し出す静人に桔梗も声を小さくして答える。周りの人たちは急に小声で話し始めた静人達を見て首を傾げたが、そこまで気にすることでもないと思ったのか続きを待つ。
「そっか。対価のほうはまた今度考えようか。それと、この二人に正体を教えても大丈夫かい?」
「うむ、任せるのだ。正体は……、うむ、大丈夫なのだ。けど、教えるのは帰るときになのだ」
「おや、また何で?」
「なんとなくめんどくさいことになりそうだからなのだ」
「そ、そうか。分かった」
桔梗の何とも言えない表情を見た静人は言葉に詰まりながら苦笑い気味に頷く。小声での話し合いが終わり周りを見てみると静人と桔梗以外は食べ終わり楽しそうにおしゃべりをしている。かなでが何かの絵をかいてはもみじに見せて、そのあとグラと凪が絵に付け足したり消したりを繰り返している。
「何を描いているんだい?」
「もみじちゃん達の洋服のデザイン! 青藍ちゃんはスカート以外なら何でもいいって言ってたからショートパンツにしようかなって」
「青藍ちゃんは動きやすいのがいいのかい?」
「うん。でも、ひらひらするのはヤダ。なんか気になる」
「えー、かわいいのに」
「もみじが着ればいい」
「私も着るから青藍ちゃんも一緒に着よう?」
「……たまになら」
「わーい! ありがとう!」
「うむ、わしはどういう感じなのだ? スカートなのだ?」
「スカートも作るわ! 足が見えるのよりも少し長めにしたものが合いそうだから、今の青藍ちゃんが着ているものよりは肌の露出が減るわね」
「そうなのだ? わしは別にそこまで露出とかは気にしておらんかったのだが、お姉ちゃんの好きにするのだ」
「任せて! かわいい服にするから!」
「ほどほどでいいのだ」
桔梗はかなでに対して抵抗するのを諦めている様子で首を横に振りながら匙を投げる。もみじはかなでが描き上げていく絵を見てときおり驚いたような声を出しては描き終わるまで楽しそうにしていた。
「今日はこのくらいにして帰ろうか」
「えー、帰るの?」
「僕たちはともかくグラさんたちは明日もいろいろあるだろうし、今日は帰るよ」
「分かったわ」
残念そうにデザインをカバンにしまい後片付けを済ませると、普段の見送りとは違い少し緊張した顔でもみじたちが横一列に並ぶ。
「そ、それじゃあまたね?」
「……またね」
「会う気になったら会うのだ」
「どういう……?」
グラと凪はもみじ達の様子を見て首を傾げたときに、煙が三人の体を包み込むように一瞬で広がるとすぐ後に三匹の獣が現れる。青藍がいたところに猫が、もみじがいたところに狐が、桔梗がいたところに犬が現れそして犬が口を開く。
「わしらの正体はこういうものなのだ。この姿を見てもなお、わしらと付き合えるかゴホッ!」
「かわいい! 桔梗なんだよな? 昔から犬をモフモフしたかったんだよ!」
「なんか違和感があると思ったら、こういうことだったのね。別に私は気にしないわよ? こんなにかわいい子たちですし。そちらから縁を切らない限りは付き合います」
「そうか、そうか……。グラ、離れてくれなのだ」
「もう少しだけ撫でさせてくれ!」
「桔梗ちゃんに嫌われますよ?」
「そ、それは困る……。分かった、離れる」
犬に変わった桔梗が意を決した声で話しているときに、別人になったようなグラが物理的に突っ込み最後まで言わせてもらえなかった桔梗だが、受け入れてもらえたことが嬉しいのかそのことに腹を立てずに顔を俯かせる。いつまでも離れない縁に呆れた声を出すときにはさっきまでと変わらぬ声に戻っていた。
「行ったのだ……。……すまんのだ、少しの間だけ一人にしてほしいのだ」
「分かった。あんまり遠くには行かないように」
「分かっておるのだ。先に風呂に入っておるのだ」
「早く帰ってきてね?」
「うむ」
物足りない表情で離れていくグラたちを見送った桔梗は人の姿に戻るともみじ達から離れて一人森の奥に進んでいく。もしかしたら離れていくのではないかという不安があったのだろう。そんな不安が杞憂だったことに安堵した桔梗は嬉しそうにひとり涙をこぼしていた。
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