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しおりを挟む咎めるような声で詰問する桔梗の声にバツが悪そうな顔で出てくる二人組は、静人達の知っている二人組だった。
「凪さん、グラ。どうして?」
「その、ごめんなさい! かなでちゃんに用事があって家に来たんだけど、二人が夜遅くに大量の荷物を持って出かけるのを見て声をかけづらくて、ついてきちゃった」
「あー悪い。凪と一緒に洋服を持ってきたんだけど。その、声をかけづらくてな」
凪とグラはちらっと桔梗たちを見て罪悪感が増したのか肩を落として謝罪を続ける。二人の謝罪を聞いて、どう声をかけようか悩む二人に代わり桔梗が話しかける。
「なるほどの、もしやお姉ちゃんたちの知り合いなのだ?」
「えっと、うん。あとで渡そうと思ってたんだけど……」
「なんなのだ? 服?」
桔梗は渡された袋の中に入った丁寧にたたまれた洋服を見て怪訝そうな顔になる。
「服よ。私がそこにいる二人に頼んで作ってもらったの。見た目は私が考えたんだよ?」
「ほう、これは全員分?」
「もちろん! 一人ひとり似合う服を考えたんだからね」
「ふむ、そうなのか」
納得した顔の桔梗は嬉しそうに洋服を受け取った後、凪たちのほうを見てハッとした顔をする。わざとらしくこほんと軽くせきをした後洋服をもみじ達に渡して凪たちに向かい合う。桔梗の後ろで隠れているもみじはつんつんと桔梗の背中をつつく。
「うむ? なんなのだ?」
「あの人達悪い匂いしないよ? だから、早くご飯食べよう?」
「たしかに悪い匂いはしないし、お腹空いたからご飯食べたい」
「おぬしら……、いや、まぁ良いのだ。そこの者たちも来るのだ」
「え!? いいの!?」
「いいのか?」
もみじ達の言葉に呆れた声で首を横に振る桔梗だったが、ちらりと一度凪たちのほうを見て軽くため息をつくと手招きする。桔梗の提案に驚いた顔をする凪たちに微笑んで見せる桔梗は、もみじ達の方に振り向き目が合ったかと思うともみじと青藍が頷く。
「うむ、もみじ達もいいと言っているのでな。大丈夫なのだ」
「ありがとな!」
「ありがとう。あ、どうせなら今日渡した洋服を着た姿が見てみたいんですけどダメですか?」
「む? わしはよいのだ。もみじ達はどうするのだ?」
「着てみたい!」
「うーん。私だけ着ないのはあれだし私も着る」
青藍は少し悩んだ様子だったが周りが着る気満々なのを見て、ため息をつきながら了承するように頷く。罪悪感からか表情がぎこちなかった凪は了承されたのを見て嬉しそうにガッツポーズする。
「おにいさん、お腹空いた……」
「あ、ごめんごめん。いつものようにお願いしてもいいかな?」
静人は凪とグラをちらっと見た後に青藍のほうを見てお願いすると、青藍も言いたいことが分かったのか少し悩むそぶりを見せた後軽く頷き、いつものように森の中に入っていく。凪は青藍が向かったほうを見て慌てて止めようとしたが、他の人たちが何も言わずついていくのを見て黙ってついていくことにした。グラも最初は止めようとしていたが同じように黙ってついてくる。少ししたら急に視界が変わりいつものようにもみじの家が見えてきた。
「あれ、急に見えてきた。さっきまで何もなかったですよね」
「んぁ? ホントだな」
「まぁ、どうでもいいですね。そんなことよりもみじちゃん達のお着換えのほうが大事です」
「凪さん。その前にご飯食べてさせてあげてもいい? もみじちゃん達いつもご飯は私たちと一緒に食べてるから」
「そうなの? それじゃあ私たちはどうしようかしら、あ、洋服を着てもらおうかしら」
「え!? いや、お披露目はみんな一緒にしましょうよ!」
「着方が分からないかもしれないでしょ? あ、ちなみに今日のご飯は何? 汚れるもの?」
「今日はちょっと簡単にサンドイッチにしようかと思ってるんだけど」
「さんどいっち? なにそれ?」
「簡単に作れる料理よ。パンで挟むだけだし、下準備も終わらせたものを持ってきたから」
食パンが何枚か切り分けられて置いてあり挟む具材を並べていく。市販のハムやレタス、ツナマヨや卵を炒めたもの、肉そぼろや照り焼きチキンなどの具材を並べていくと不思議そうな顔でもみじがかなでを見る。
「お姉さん、こんなにたくさんどうするの?」
「パンで挟むのよ。あ、最初に手を洗おうか」
「うん!」
静人はもみじと青藍がかなでと一緒に手を洗ってサンドイッチを作ってる間にこそこそと箱をしまう。誰にも気づかれないように箱を隠した静人は何食わぬ顔でかなでの所に向かう。
「あ、もみじちゃん達も一緒に手伝うんなら、洋服を着てもらうのは無理だねぇ……」
「洋服はご飯食べたら着る! えっと……」
「あら、そう? あ、私のことは凪って呼んでね? お姉さんでもいいわよ?」
「うーん。それじゃあ凪お姉さんって呼ぶ! よろしくね凪お姉さん!」
「よろしくね、もみじちゃん」
「私は凪姉って呼ぶけどいい?」
「もちろんいいわよ! よろしくね。あなたのお名前を聞いていいかしら?」
「私の名前は青藍。よろしく」
「ええ、改めてよろしく。青藍ちゃん」
仲良くお話をしている凪だったが、グラは話に入りずらいのか話に入らずに近くで見守っているだけだった。そんなグラに桔梗が近づいていく。
「お主はまだ気にかけておるのか?」
「え?」
「静人達に内緒で追いかけてわしらのことを知ったことを」
「……ああ、そうだな。俺だったら怒りそうだからな」
「そうなのだ? わしからは何も言えんが、一つだけ言えるとしたら、もう誰も気にしておらんのだから気にせずに話したほうが良いと思うのだ」
「……いいのか?」
「いいのだ」
グラは不安そうな顔で呟いたが、桔梗はそんなグラに安心させるような笑みで大きく頷いて見せる。そんな桔梗を見て吹っ切れた顔で笑顔を見せながら桔梗の頭を乱暴に撫でる。
「うむ!? なぜ撫でるのだ!?」
「あんたと仲良くなりたいなと思ってな」
「そ、そうなのだ? うむ、よろしくなのだ。わしのことは桔梗と呼ぶのだ」
「分かった。よろしく。桔梗。俺のことはグラでいい」
「うむ、よろしくなのだグラ」
「呼び捨て……、まぁいいか。桔梗は年下って感じがしねえし」
「うむ? どうかしたのだ?」
「なんでもない」
グラは桔梗に呼び捨てにされたことで少し悩んだが、そこまで違和感を感じなかったからか何も言わずに受け入れる。頭を撫でられ宇賀ママの桔梗は不思議そうな顔でグラの顔を見上げるが、首を横にふるグラにそれ以上は何も言わずに黙ってもみじ達のほうを見ることにした。
「あ、桔梗お姉ちゃん! さんどいっち作ったの! 食べて食べて! グラお姉ちゃんにもあげる!」
「うむ、ありがとうなのだ」
「あー、ありがとう。美味しそうだな!」
「自信作! たくさん食べてね!」
胸を張ってサンドイッチを渡してくるもみじにお礼を言って、受け取ると桔梗とグラは美味しそうに頬張る。美味しそうに食べる桔梗たちを見て嬉しそうに目を輝かせて、次のサンドイッチを持ってきたもみじに二人は顔を見合わせて笑いあう。
「もみじは食べなくていいのか?」
「あ! 自分の分食べるの忘れてた!」
「せっかく作ったのだ、みんなで食べるのだ」
「桔梗お姉ちゃんたちもあっちで一緒に食べよう?」
「うむ。一緒に食べるのだ。グラも来るのだ」
「ああ、ありがとな」
もみじに誘われた桔梗たちは笑顔で頷くと一緒に静人達の所に向かう。そこでは青藍が口いっぱいにサンドイッチを頬張り目を輝かせて次々とサンドイッチを新しく作る姿が見えた。そんな青藍を見て苦笑いを浮かべながら焚火で静人が何かを焼いているのを目ざとく見つける。
「何を焼いてるの?」
「おや、もみじちゃん。ちゃんと渡せたかい?」
「うん! 二人ともおいしいって言ってくれたよ!」
「そうか、良かったね。……さてともう出来たかな」
「これなーに?」
「これはホットサンドって言って、まぁ表面を焼いたサンドイッチだよ」
「美味しいの?」
「美味しいよ。食べてみるかい?」
「いいの!? 食べたい!」
ホットサンドを切り分けて皿に盛りつけるととろりとチーズが溶けて出てくる。とろりと出てきたチーズを見て、慌てて口に運んだもみじは思ったよりも熱かったからか口をハフハフさせながら食べ進める。
「熱いけど美味しい! 舌やけどしそうだったけど」
「慌てて食べるからだよ」
「あ、青藍ちゃん! 青藍ちゃんも一緒の食べる?」
「私の分あるの?」
「あ、半分に切り分けてあるから残りのあげる!」
「ありがとう。ふーふー」
もみじから渡されたサンドイッチを受け取った青藍は触った時点で熱いのが分かったのか、冷まそうと息を吹きかけながらちびちびと食べていく。
「うん。おいしい。でも熱すぎる」
「チーズが熱いからね。舌やけどしないようにね? はい、お水。今日はちょっと少なめに作ったんだけどまだお腹に余裕はあるかい?」
「ありがとうおにいさん。いつもよりは少ないと思ってたけど、何かあるの?」
「ご飯を食べ終えてからのお楽しみ」
「むむ、楽しみにしとく」
ホットサンドを食べてから舌を出してしかめっ面をする青藍に静人は笑いながら冷たい水を渡す。水を渡しながら伝えられたことに首を傾げながらも頷く青藍は、続く静人の言葉に口を尖らせた後ワクワクした眼で受け取った水を飲む。
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