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しおりを挟むもみじ達の家から帰った後手には今日持っていった紙袋が残っている。
「今日洋服渡すつもりだったんだけど……、まさか、他の女の子が見つかるなんて」
「なんで渡さないのかと思ってたんだけど、桔梗ちゃんがいたからかい?」
「だってもみじちゃん達だけがもらって、自分だけがもらえないなんて嫌じゃない。私ならいやよ。さっき連絡しといたから多分来るんじゃないかしら」
「ん? 誰が……」
静人がかなでの言葉に疑問を覚えて首を傾げたときに、家の中にチャイムの音が鳴り響く。
「おや、こんな時間に……?」
「あ、もう来たみたいね」
更に疑問が増えて困惑した様子の静人を置いて、誰が来たのかが分かっているかなでが玄関に向かう。玄関を開けるとそこには紙袋を両手に抱えた凪の姿があった。
「やっほー。呼ばれたから来ましたよ。なんとなく作った洋服も持ってきたよ」
「よ、洋服のことは教えてなかったのに。まぁいいのかな。いらっしゃいませ、凪さん」
「うんうん。それで、なにかあったの。いきなり、呼ぶなんて。新しい女の子が出てきてその子にも洋服を着せたいとかそういう話?」
「なんで、何も言ってないのに分かるんですか……? 変なのとかしかけてないですよね?」
何回も事実を当てられて引きつった顔をしたかなでは周りをきょろきょろとせわしなく見回る。見回った後悪戯気な笑顔で凪のことを見つめる。
「なんとなく顔見たらそう思ったのよ、全くもう。というか私に連絡するってことは洋服のことでしょうし。聞いた話だともみじちゃん達は洋服をもらっても、もっと欲しいとか言わない気がするし。それだったら、新しく人が増えてその人のために洋服をあげたいみたいな話かなって」
「それなら、まぁ。そこまでを連絡貰った時に考え付いたんですか?」
「まぁね、違くても、新しい洋服は必要になるだろうし。まぁ、そんな話はいいのよ! それで、洋服は持ってきたけどサイズとかはどうなの?」
「あ、サイズは少し大きめです。サイズは完璧に測ってはないですけどだいたいならわかります。あとはこれに書いときましたので」
「あら、またデザインが可愛いわね。いつまでに?」
「早ければ早いほどいいですけど、そこまで無理はしないでください」
「分かったわ。今日のとこは帰るわね! ばいばい!」
渡された紙を見てテンションが上がった凪は、簡単に必要なことを聞き出すとかなでの忠告を軽く聞き流しながら、手早く荷物をまとめ颯爽と帰っていった。
「ちゃんと聞いてたのかな……? なんか明日にでも持ってきそうな雰囲気だったんだけど」
「おや、もう帰ったのかい?」
「ええ、あ、これ追加の洋服ね」
「え? もう持ってきたのかい?」
「もう……? あ、違うわよ。これはもみじちゃん達の分の追加ね。桔梗ちゃんの分は今頼んだわ」
「あ、そうなんだ。さっき連絡してから新しく作ったにしては早すぎるって思ってたよ」
納得した顔で頷く静人に少し困った顔で微笑むかなで。そんなかなでを見て不思議そうな顔で静人がのぞき込む。
「どうかしたのかい?」
「いや、凪さんなんだけど。もしかしたら明日持ってくるかもしれないって思って」
「明日? さすがにそれは無理なんじゃないかな? デザインは今渡したんだろう?」
「そうなんだけど、デザイン渡してからテンション高かったから、このまま徹夜しそうな雰囲気で」
「え……、一人暮らしだっけ?」
「ええ。でも、まぁ、やるときはやるね」
「あー、一応急がなくてもいいって連絡を入れてみたらどうだろう」
「そうね。連絡を入れてみる。うん。送ったけど見てくれるかしら……」
「寝ているだけの可能性もあるし……。とりあえずいいんじゃないかな」
「うん。とりあえずお風呂入ってくるわね」
「いってらっしゃい。洋服は僕が持っていくよ。この前のと同じ場所でいいよね?」
「ええ。お願いね。私はお風呂だー!」
元気にお風呂場に突っ込んでいくかなでに苦笑いで見送る静人は、縁が持ってきた洋服を持ってリビングに戻る。
「そういえば、巫女服はどうやって作ったのだろうか……」
「今度聞いてみればいいんじゃない?」
「おっと、かなで、お風呂からもう上がったのかい?」
「いやー、着替え持っていくのを忘れてたの思い出して」
「取りに来たのかい? そそっかしいなーまったくもう」
「あはは、それじゃあ、今度こそお風呂行ってくるね」
「はいはい」
呆れた様子の静人に乾いた笑い声をかけて、かなでは今度こそ着替えを片手にお風呂場に向かう。そんなかなでを見送りながら静人はかなでの言葉を思い出す。
「確かに、悩むよりも聞いた方が早いかな。さてと、日記は風呂の後でいいとして、僕も着替えの準備はしとかないと。あとは調べ物でもしとこうかな」
かなでが風呂から上がるまで暇だったのか、ノートとペンを横に置いてパソコンで調べ物を始める。その中でもみじ達の家でも使えそうなものを調べる。
「そういえば、かまどがあるっていう話だったしかまどのことも調べないと……」
もみじの家にかまどがあることを思い出した静人は、かまどの使い方を調べる。余計な知識が多くかまどの使い方だけを書いてあるのは少なかったが、無事に見つけられノートに書き写していく。
「あとは実戦で頑張るしかないか……というか、かまどは米を炊く場所なのか。お米用意しないと。ううん、料理ができる場所は作ろうかな……。フライパンとかおいて調理できる場所は昔はなかったのかな……?」
更に調べていくと、昔はフライパンのように間接的に焼く料理は少なく、直接焼く料理が多いのが分かった。フライパンを置く場所どころかフライパンを使う料理が少ないのだ。
「これは……、しょうがない。作ろうかな。とはいえどう作ればいいのやら」
静人は調べたことを見てうなだれながらも料理できる場は作らないといけない。それなら作るしかないと思い至り、調理場をどのようにするかを考えながらノートに書いていく。
「そんなに夢中になって何を書いているの?」
「おや? 今度こそ上がったのかな?」
「うん。おまたせ。それで何を書いてるの?」
「もみじちゃん達のところは、かまどがあるらしいんだけど。調理場がないのではと思ってね。どうせなら作ろうかと思って」
「かまどはお米を炊く場所だし、焼く場所を作りたいってこと?」
「うん。とはいえ、まだどういう風にするかは決めてないんだけどね」
「そうね、どこに作るのかも大事だし。作っていいかも聞いてないんだから、もみじちゃん達に聞いてからにしましょう? ほら、しず君もお風呂入ってきて。もう寝る時間だし」
「そうだね、聞いてからでも遅くないか。それじゃあ、お風呂に行ってくるよ」
静人はかなでの言葉に自分が急ぎすぎているのに気が付いたのか、落ち着いて風呂場に向かった。かなではその後ろ姿を困り顔でため息をつきながら見つめる。
「まったくもう。作るのそんなに好きなのかしら。初めて知ったわ」
ため息をつきながらも少し嬉しそうに呟く。久しぶりに生き生きしている静人を見て微笑むかなでは、静人のベッドで静人が来るのを待ちながらドライヤーで髪を乾かす。
「あ、そういえばもみじちゃん達はお風呂上りに髪はどうしているのかしら……。タオルとかあるのかしら?」
自分の手の平にあるドライヤーとタオルを見て考え込む。そのあとで空いた聞いてみようと心に誓うのだった。
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